エリートトレーナー、再起する   作:ガッチャ!マン

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第四話 自分をエリートだと過信している少年が第一の師を得るまで

 カロスポケモンリーグにて頂点の座まで輝いたポケモントレーナー、カルム。フレア団から世界を救った功績から、カロスでは年間の有名人好感度ランキングの年少の部で、ぶっちぎりのトップに輝いたほどの人物である。

 ……であるが、遠く離れたガラル地方ではあまり関係のないことである。

 

「ワンパチ……カムカメ……あとタンドンか。カロスにいないポケモンはこれだけか?」

 

 ガラル地方の中西部に位置している鉱山、ガラル鉱山。カルムはそこにポケモンを捕獲しに訪れていた。

 地方が変われば当然、そこに住まうポケモンも変わってくる。カルムはカロスで見たことのないポケモンを中心に捕獲し、調査を進めていた。

 

「こいつの身体はどうなってるんだ? 下に車輪が付いているな……身体は石炭か? 岩タイプ……炎タイプにも似た感じがするな……。買った図鑑にはなんて書いてあったか……?」

 

 カルムは周囲の警戒をゲッコウガに任せ、新しく捕まえたタンドンの調査に没頭していた。岩の塊のようにも見えるタンドンだが、あまり大きくないので重量もそこまでではない。カルムは地面に座り込み、膝にタンドンを乗せて身体を触っていた。

 

「そこのあなた」

 

「……進化先はセキタンザン。岩タイプと炎タイプ……やっぱりか。キョダイマックスできる……? ダイマックスはまだ良く分からないな。メガシンカのエネルギーを、巨大化に回してるようなものなのか……? 時間制限がある……でも、力はそこまで向上しているようには思えないが……」

 

「そこのあなた、聞こえてないのですか?」

 

「水タイプを受けると暴走して動きが早くなる個体もいる……なるほどね。ゲッコウガ、お前の水手裏剣を手加減して当ててやれば、面白いことが出来るかもな……」

 

「コウガ」

 

「そこのあなた! この僕の言葉が聞こえないのですか!」

 

 タンドンの身体に夢中になっていたカルムは、怒鳴り声を受けてようやく気付いた。カルムの視線の先に、紫色の服を着た少年が立っていた。

 

「ようやく気が付きましたか。僕はあなたではなく、あなたの背後にある願い星に用があるのですよ。そこをどいて頂きたいのですがね……」

 

「それは失礼。ちょっとポケモンの調査に夢中になっていてね」

 

 カルムはタンドンをボール……捕まえる際に使用したクイックボールの中へと戻しながら立ち上がった。

 

「そのようなどんくさいポケモンを調べてどうするのですか? もっとスマートなポケモンを調査した方が良いですよ」

 

「…………チッ」

 

 少年の言葉に著しく気分を損なったカルムは、ゲッコウガに手で合図をした。ここで手に入るポケモンは全て捕まえた。ガラル鉱山ではタンドンを、鉱山に入る前の道路ではカムカメやワンパチ、ニャース等。特にこの地方でしか見られない鋼タイプのニャースは希少なポケモンだ。普通はノーマルタイプのポケモンなのだが、ガラルでは鋼、聞いた話ではアローラでは悪タイプらしい、環境に適応する力が高いのだろうか……?

 

「ちょっと待ってください」

 

「……何か用事でも?」

 

「この僕に舌打ちしましたね? 見逃すとでも思いましたか?」

 

「あ?」

 

 なにを言い出すんだこいつは、とカルムは方眉を吊り上げた。目の前の少年がタンドンを馬鹿にする言動をしたのを聞き、確かにカルムは舌打ちをした。しかし、それだけにとどめて穏便に立ち去ろうとしたではないか。お前の方がどんくさいぞ間抜け、とでも、カルムは言いたいところだったのだが。

 

「ローズ委員長に推薦されたこのエリートトレーナー、ビートに対して! とんでもない不敬ですよ。謝罪しなさい」

 

「うるさいぞ、ド素人が」

 

「な……何を無礼な! 委員長に推薦された僕にそんな口を利くとは、よほど痛い目に会いたいようですね!」

 

「ならバトルするか?」

 

 カルムはタンドンの入ったクイックボールを構えた。カロスチャンピオンにまで上り詰めた彼の手持ちポケモンなら、目の前の少年を一蹴できるだろう。しかし、それでは面白くないし、むしろ不公平さすら感じる。少年、ビートが馬鹿にしたこのタンドンで勝ってこそだろう。

 

「来いよ。2vs2だ」

 

「望むところです。行きなさい! ユニラン! ミブリム!」

 

「カムカメ、タンドン。行ってこい」

 

 ビートがエスパータイプのポケモンを繰り出すのと同時に、カルムもポケモンを二体繰り出した。どちらもカロス地方では見かけたことのないポケモン、水タイプのカムカメと岩タイプのタンドンだ。

 カロス地方チャンピオンにして、バトルシャトーでグランデュークの爵位まで上り詰めた天才少年カルム。その彼の、ガラル地方で初めてのポケモンバトルが幕を開けた。

 

 

 

「カムカメ、なみのり」

 

 最初に動いたのは、カルムの水タイプポケモン、カムカメだった。味方を含めた周囲全てを巻き込む水技、なみのりを放つ。そのなみのりは、エスパータイプであるビートのポケモン以上に、味方である岩タイプのタンドンに大きなダメージを与えた。

 

「タイプ相性をご存じでないのですか? あなたのカムカメの攻撃で、そのすっとろそうなタンドンは重傷のようですが?」

 

「これで良い。タンドン、いわなだれだ!」

 

 カムカメのなみのりを受けたタンドンは、明らかに様子が変わっていた。岩タイプの多くがそうであるようにタンドンも鈍重そうで、ビートのミブリムより速く動けるようには見えなかった。しかし、水タイプの技を受けたことで全身から蒸気を噴き上げ、燃え盛る石炭のように赤くなっていた。

 

「そんな馬鹿な! 僕のミブリムより速く動けるわけがない!」

 

「そうとは限らない。タンドンの特性は『蒸気機関』だ。水タイプの技で速くなるのさ」

 

 タンドンは恐ろしく速い動きで、大量の岩をビートのエスパーポケモン二体の上に投げつけた。怒涛の勢いで襲い掛かった岩の群れは、ユニランを打ち倒し、ミブリムに大ダメージを与える。かろうじて倒れずに済んだミブリムも、岩の勢いに圧されてひるみ、全く動けずにいた。

 

「タンドン、もう一度いわなだれを」

 

 カムカメのなみのりとタンドンのいわなだれで弱っていたミブリムは、再度のいわなだれを耐えることが出来なかった。ビートのミブリムは全身に岩の塊を受けて倒れ込み、ビートのポケモンは全て先頭不能になった。

 カルムのガラルでの初対戦は、相手を完封するパーフェクトゲームに終わった。

 

「どんくさくてすっとろいポケモンに、何もできずに負けた気分はどうだ?」

 

「ぼ……僕のポケモンを追い込むどころか打ち負かすなんて……やるじゃないですか」

 

「それはどうも」

 

 ビートの様子はバトル前の自信に満ち溢れた態度からは一転していた。うつむいて地面を眺め、肩は小刻みに震えている。少しやりすぎたか? とカルムが少し心配したほどだ。

 

「ここまでやるとは立派ですよ。あなたほどのトレーナーなら、僕の師匠になってもらっても良いかもしれませんね」

 

「ん? 今、何って言った?」

 

「僕があなたに師事すると言ったのです。問題はないはずですが」

 

「ん……? どういうことだ? 少し待ってくれ……」

 

「僕のリーグカードを渡しておきましょう。あなたは自分のカードを持っていないでしょうが、それでも師弟関係に支障は出ないはずです」

 

「ん……ああ……」

 

「僕は明日、ジムチャレンジの開会式に出なければいけません。今日はエンジンシティに泊まってもよろしいでしょうか?」

 

「俺は弟子を取るつもりなんてない。他を当たってくれ」

 

 生意気な少年をポケモンバトルで打ちのめしたら、なぜかその少年が自分に弟子入りしようとしていた。訳が分からないが、それがカルムの目の前に起こった現実である。

 

「俺はこれからスパイクタウンの近くにポケモンの調査に行くつもりなんだ。悪いが、君とエンジンシティに行くつもりはない」

 

「しかたないですね……では、僕の都合がつき次第、こちらから連絡を差し上げます。それで構いませんね?」

 

「だから嫌だって言ってるだろ。お前はなんなんだ一体」

 

「よくぞ聞いてくださいました!」

 

 カルムの発した質問を受けて、ビートは胸を張った。カルムは張り倒したくなったが、その衝動を堪えてビートの言葉を待つ。つい数分前にポケモンバトルで完敗したとは思えないほどのドヤ顔である。

 

「僕は将来的に、ガラル地方のチャンピオンとなります。そうなれば、あなたはその恩人としてガラルの歴史に名を刻むことができるでしょう」

 

「へえ……」

 

「その功績は何十年、何百年と語り継がれることになります。僕とあなたの偉業は、あのリーグ本部の長ワタルや最強のトレーナーレッド、そのライバルグリーンのように伝説となり、世界中から羨望のまなざしを受けることになります」

 

「なるほどね?」

 

「世界最強のエスパー使いビートと、その師……あなた、名前は何と言いましたっけ?」

 

「なあ、帰っていいか?」

 

「ダメです。とにかく、僕の師となることであなたは大成できるでしょう。これは間違いない」

 

「そっかー……」

 

 カルムは踵を返して鉱山を出た。うろちょろとまとわりつくビートを無視して。

 カルムはリザードンの背に乗ってスパイクシティに向かおうとした。しかし、ビートがリザードンの足にしがみつき、よじ登り、大暴れするので、ついに根負けしてエンジンシティに行くことになった。

 開会式はもともとテレビ中継でみるつもりだったが、別行動しているサナやエリに会うのも悪くないな……と無理やり自分を納得させて。

 ビートはまだ、自分の師に望んでいる少年がカロス地方のチャンピオンにまで輝いたトレーナーであることを知らない。カルムもまた、ビートのうちに多大な才能が秘められていることを知らない。そして、この二人の出会いがガラル地方にどのような影響を及ぼすか、まだ二人とも知らないのである。

 

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