3月〇×日
吾輩の名前は、
家族構成は母である緑川ルリ子、俺一人、故人父。父親は母へ種付けした後、事故死したらしい。
正直父親の記憶は薄く、ほぼ他人のような存在。冷たい言い方だが、俺にとっての家族はもう母さんのみなので、父さんには申し訳ないが、それぐらいの認識でしかない。
そんな家庭内である俺は高校生で、いつも通りに学校へ行って、バイトをやって、帰宅するのが日常。
今日は月曜日でいつも通りに早く寝たのだが……実は変な夢を見た。その夢の内容が、くっきりと覚えていて、それと妙に現実感があった実に奇妙なものだった。
* * * * *
その内容というのが、上下左右真っ白い空間に立ち尽くす俺。すると何もない場所から急に光が差し込んできた共に女性が現れた。その女性は俺を見ると嬉しそうにでも寂しそうな表情を浮かべた。
「……どちらさま、あなた?」
俺の言葉を聞き入れず、その女性はさっきの表情から一変して微笑みを浮かべながら、バックル型デバイスを差し出してきた。
「丈瑠様。申し訳ありません、ウィズは一緒に行けません」
微笑みが失い、表情に翳りが見受ける寂しそうに眉を顰める女性、ウィズ。
「貴方と一緒に行けないのは、とても寂しく思います。ですが、わたくしは決めたのです。この身を使ってでも貴方の力になると」
ウィズはつま先から燐光が発生しては消えていくというのに、慌てる様子もなく、ただ淡々と俺に伝えている。そして、その燐光は俺の手に集まっていく。
「今度こそ、私は貴方をお救い致します。 もう白野様や皆さんを置いていかないでくださいね」
……いきなりすぎて、ちょっと何を言っているのか分からなかった。
だけど、相応な覚悟を持って俺に告げてきたのは分かった。彼女の差し出したデバイスを俺は受け取ると同時に、差し出したその両腕も燐光となって消えていく。
「ウィズはいつまでも見守っています――そしてあなたと共に戦います」
最後に――――翳りがあった表情から嬉しそうな誇らしい笑みを浮かべて、彼女は消えた。
バックル型デバイスと、燐光が激しく輝いたのと同時に顕れたティールブルーのカード型のデバイス。
俺一人となった空間……だけどさっきまで確かにウィズがいたという証拠は俺の手の中にある。
* * * * *
それが、俺が見た夢だ。
正直気にすることでもないのだが、目覚めたらなんと俺の手元にはその二つのデバイスがあったのだ!
……いや、何このホラー!? 夢だと思って受け取ったらなんでこれがここにあるんだよ!? というかこんなのどうやって使うんだよ!?
しかし、そんなてんやわんやになっていた俺を救ってくれたのが母さんだった。
「猛留! いつまで寝ているの、白野ちゃんが来てるわよ!」
天の助けとも言える母さんの叫びに、慌てて俺は二つのデバイスを置いて、制服に着替え、部屋から出て階段を下りていく。リビングのテーブルの上には母さんと幼馴染こと岸波白野の手によって朝食が並べられていた。
「珍しいわね、猛留。貴方が寝坊だなんて雨が降るかも」
「ほら、折角お母さんが用意してくれたんだから早く食べよう」
母さんと白野の言葉にうなずきと返事をして、俺は用意してもらった朝食を食べた。
その後は白野と一緒に学校で授業を受け、放課後は白野と一緒に春休みをどう満喫するか相談しながら、途中にあった献血をして帰宅した。
4月△日
……日記を書き忘れてしまい、日にちが飛んでしまった。
まぁ理由があるので書けなかったのは仕方ない。
唐突だが、俺と白野は、なんとか保障機関フィニス・カルデアという場所にいる。〇×日から数日後、春休みになって、唐突に俺たちはカルデアという場所に来させられたのだ。
わけわからないだろ? 俺らがなんか霊子ダイブ可能な適性者らしい……ぶっちゃけ訳分からなかったので適当に流していた。それと連日でミーティングとか訓練やらあったらしいが、俺は全部ポイこっとした。
いや、それは流石に拙くないかとは思ったよ?
バイトの時だってそんなことしたこともないし、ミーティングも最後まで参加したほうがいいかなって思ったさ。
でもなぁ……あの、オルガマリー所長だっけか? 勝手に連れてきた組織の筆頭だから正直上手くやれる自信がないわ。しかもヒステリックだし。言い方もきつい。個人的には仲良く出来そうにないな。
白野は真面目にミーティングに参加しているようだ……。しかし、怒涛な展開にも関らず追いつこうとしているのは勿論、度重なるミーティングに参加し続けているから、そろそろ限界かもしれん。後でお菓子を持って行ってやろう。
そんなわけで今日も俺はサボリーマン。娯楽室という名の、テーブルとイス以外何もない寂しい休憩室で俺たちは持ってきた携帯ゲーム機である3DSで遊んでいる。
「しっかし、本当に何もないところだよなぁここ。少しはゲーム機やおもちゃとか用意すればいいのにさ」
「……っくそ。お前、はめ技をするなよ!?」
「ここには、俺みたいにゲームを窘める奴が少ないのかね。 もう同じゲームと相手を何度もするのは飽きたんだけど」
「聞いているのかよ、人の話!」
「そう言いながら、ここ一週間同じゲームを君はカドックとプレイし続けているのだが……」
「だってほかにプレイしてくれる人がいないしなぁ……何よりこいつがいい反応するからつい」
「無視するなっ、それと人のことをおちょくるのもいい加減にしろ!」
「おちょくってないって。ただ揶揄っているんだ」
「一緒だろ!?」
そうそう。こんな場所にきたこんな俺に友人が出来ました。カドックとキリシュタリアって奴ら。
最初はサボリーマンの俺に、説教を込めた陰険っぽく絡んできたカドック。だけど、こいつはこいつなりに人理修復を想って、自分を追い込みまくったせいか余裕がなかったので、少しばかり気分転換させようとゲームを薦めたんだが……予想以上に嵌まり込んだ。今ではカドックは暇があれば俺とゲーム友達になった。
キリシュタリアは……実はここに来て最初に仲良くなった奴だ。
俺のゲームに興味を示したので、「やってみる?」と誘ったら、あとはまあ自然に仲良くなったつもり。現に今だってカドックと俺のプレイを見ているわけだし。
因みに、カドックはキシュタリアにビビっていたようだが今ではすっかり慣れたようだ。
カルデアの一日はこんな感じで過ごした。
4月×日
「あらぁ、貴方が白野ちゃんが云っていた幼馴染君? スカンジナビア・ペペロンチーノよ、よろしく」
「おぉ、まさかのリアルオカマ。初めて見たわ、よろしく」
「初対面でよくそんな堂々と言えるわね、貴方!?」
今更なんだが、ペペロンチーノの云う通りだと思う。しかし驚きのあまりに思わず言ってしまったのは仕方ないだろう。
漫画やゲーム、テレビで見たことはあるんだが、リアルでは初めてなんだからさと言い訳がましくそう言うと、ペペロンチーノは苦笑した。
「全く、面白い子だわ。私を目の前にしてもそんなことが言えるなんて」
「いやぶっちゃけあんたのことをそんなに知らないからなぁ……分かるのは気前のいいオカマだってことだけだ」
「うふふ。それじゃあ貴方は私の建前しか知らないわけね、もし私の中身を知ったらこんな風に接することが出来るかしら」
「あぁぁ……そうなったらまた考えなきゃな。実は男色でしたって云われたら勘違いと惚れさせないようにさせなきゃ」
「オカマ=男色って考えを結びつくのをやめてくれないかしら!? それって差別的よ!?」
「あっ、それは正直言ってすまん、気を付ける」
まぁ、そんな感じで、ペペロンチーノと仲良くなった。彼は意外と取っつきやすかった、カドックとキシュタリアと比べると断然に。
「今度お茶しましょ♪ 白野ちゃんと一緒に」
「あぁ、俺お茶って苦手だからさ、ジュースでもオーケー?」
「お茶と云っても別に格式張ったものじゃないわ。自分の好きなものを持ってきてどうぞ」
お茶会、楽しみだな。
4月■日
「猛留。明日はサボっちゃ駄目だよ」
えー? という俺のぼやきにギロリと睨みつけてくる白野。
あぁうん……ここは下手な言葉を出さないほうが先決だな。
「明日から大事な作戦が開始されるんだって。だから必ず参加させるように、マリー所長だけじゃなくってオフェリアにも云われちゃったんだから」
……どうやら白野にも友達が出来たようで何より。まぁ彼女は基本的にコミュニケーション能力が高いし、問題はないと思っていたけど。
しっかし、明日から作戦開始か……めんどくさいなぁ。
とりあえず今日は白野とおしゃべりして終わったので、今日はこれまでにしておくか。チャオ。
* * * * *
母の日記 4月△日
仕事ばかりと猛留と過ごしていくことで、日記の書き忘れが多かったわ。日数の殆どが書けてないし……ちょっと反省。
仕事が落ち着いたのと、猛留が白野ちゃんとカルデアに出かけたから、久々に描くのだけれど何を掻けばいいのか迷っている。
うん、やっぱりこれかしら。
日記というよりも手紙になるかもだけど、別にいいわよね?
猛留が成長していくうちに、貴方に似てきています。顔立ちは私似だけど、瞳の色と鋭い眼差しに口元は完全にあなたです。
あの子が振り向いた様は思わず貴方を幻見してしまったほど。
……あれから何十年も経ちました。組織が潰えても『俺のような悲劇はもう生み出さない』と旅立った貴方。
貴方はまだ戦い続けていますか――――猛さん?
私は頑固だから今でも待ち続けてますからね、女を嘗めないでよ?