『銀翼の凶星』。古来より伝えられていた、災厄の象徴。
銀の
ある時、遺群嶺に現れたその龍は、
そして、人には長く、龍には短い生に幕を下ろした
─────ただし、人として。異質な記憶を付け加えられて。
─────────
意識がはっきりしたというか、物心が付いたのは多分3歳の後半くらいだったと思う。その時から、だいたいのことは思い出していた。
俺の名前は、バルク。カムラの里の住民で、現在11歳。モンスターはモンスターでも、ポケットな方ならばとっくに旅立っている年齢だ。
ただ、俺は普通の人とは違う。いやちょっと引くのはやめて、傷つく。
別に自信過剰という訳では……あっいや否定しきれないなこれ。それは置いておいて、何が言いたいかと言うと、俺は元々バルファルクだったのだ。
『天彗龍』バルファルク。聞いたことくらいはあるだろうか?MHXXより登場した、遺群嶺を主な生息地……休息地?にする古龍。
俺はかつて、とあるハンターによって狩られた天彗龍だった。死闘を繰り広げた末、
そしてここまで聞いて察したと思われるが、どういう訳か異世界の男の記憶も持っている。とは言っても、大半がサブカルチャー知識だ。
どうして持っているかは分からないが、朧気ながら、死後になんかやばそーな龍……全身逆鱗の真っ黒いデカい奴?のシルエットを見たのは覚えている。知っている筈だが思い出せないので、追及するのは一旦やめている。
ただ、そのおかげで比較的大人しく暮らせている。バルファルクそのままの精神状態だと、多分かなりやばかった。そこに男の記憶を加える事で、いい感じに中和されているのだろう。
今ではのんびりと、里で暮らしている。
里の暮らしは最高だ。俺の両親は仕事の関係でギルデカランという遠い街に居るのだが、たまに手紙が来る。
それに、豪快な里長に、美人なヒノエ・ミノト姉妹、兄のような優しいイオリと楽しいオトモ達に、明るいウツシ教官、それから教官の(愛)弟子であるハンター・クルガ。他にも沢山の里の人達がいるから、寂しくはない。
俺は、里の南にある家で暮らしている。随分前にクルガさんが拾ってきたというちっちゃい泡狐竜のミツネを飼いながら、日々手伝いをしたりしながら生活している。
「ミツネー、ご飯だぞー」
玄関に置いた桶の中から、キュイキュイと鳴くミツネが飛びかかってくる。
飛沫を散らしながら飛びかかってくるミツネを抱きとめると、スリスリと頬擦りされる。
「こーらこら、落ち着け落ち着け」
『キュッ!』
「今日はクルガさん達が遠征から帰ってきてさ、お土産にドンドルマグロ貰っちゃったから、豪華だぞ!」
『キュイ!』
片手に持ったままだったドンドルマグロとドス大食いマグロ、何匹かのサシミウオを置く。重かった。すごく重かった。
ミツネを床(というか土間)におろし、肩を回すとゴキッと鳴った。やっぱり重かった。せめて、家まで運んでもらうべきだった……。
「刺身包丁、刺身包丁……どこにしまったっけか」
『キュイーキュッ!』
「そこの戸棚か。ありがとうな」
トタタッとミツネが棚の前へと行く。そこには確かに、前回バクレツアロワナを(と知らずに)さばいた(ら大爆発を起こした)時に使った刺身包丁が仕舞われていた。
加工屋のおじさんに作ってもらった包丁で、なんとすっごく丈夫だ。氷結晶イチゴがカッチカチのまま割れる。すごい。
そういえば片手剣に「包丁」なんてもんがあったなーと思いつつ、俺は魚をさばきはじめた。
▼▼▼
「ご馳走様」『ムキュッ』
最終的に出来た海鮮丼を平らげて、残った刺身を冷蔵庫(とは言っても、氷結晶などを利用した昭和くらいの冷蔵庫に近いものだ。)に突っ込む。
量は多いが、俺もミツネも割と食べるし、それでも多そうならクルガさんとこに持っていこう。
早めの夕食も終え、やることがなくなってしまった。鍛錬は朝方だし、たまにある夕方の手伝いも今日はない。
仕方がない。こういう時は、モンスター図鑑でも読もう。里長にもらったものだ。ちなみに、文字は読めるし書ける。
ちゃぶ台を引っ張ってきて、本を開く。相変わらず物凄くデカいが、ドンドルマグロとドス大食いマグロに比べれば軽い。
ぱっと開けば、『天狗獣ビシュテンゴ』のページだった。
「このデカデカ柿っての、美味しそうだよな」
『ムキュ?』
「ただ、腐りやすいみたいなんだよな……直接大社跡に行くしかないのか……?」
でも、勝手に里から出ると怒られるしなぁ。どうしようか。
そう考えていると、玄関の戸がコンコンとノックされた。こんな時間に誰だろうか?
ガラガラと戸を開けてみると、そこにはウツシ教官とクルガさんがいた。
「やあ!こんな時間にすまないね」
「ど、どうも?どうしたんです?」
「不審な影……見てないか、バルク」
「不審な影?」
クルガさんの説明では言葉足らずなので、教官が補足説明をしてくれた。
なんでも、数日前から里の近くに見たこともないモンスターが現れたらしい。
曰く、そのシルエットはマガイマガドでもリオレウスでもなく、ましてやイブシマキヒコやナルハタタヒメ、オオナズチなどでも無かったそうだ。
寄ってきたミツネを抱えながら、首をかしげる。
「一番近いのは……アンジャナフだそうだ。動きとしては、オサイズチが近い。それから、刃を研ぐような音も聞こえたって話だよ。何か知らないかな?」
「刃を研ぐような……音?」
待て待て待て待て!その特徴に合致するモンスターは奴だけじゃないか!
MHX初登場、古代林の深層シメジが大好きという説もある獣竜種。大剣のごとき尾を自在に振るう斬竜。
「……ディノバルド?」
ただ、ディノバルドが出現するのはベルナ村近くの古代林。カムラの里からはかなり遠い。ぶっちゃけ
つい口に出してしまったのだが、クルガさんに肩をガシッと掴まれる。
「……知っている……のか」
「えっあ、あっはい」
「話せ……」
「は、はい。斬竜ディノバルド、獣竜種。火を扱うモンスターです。体躯の半分以上をしめる大剣のような尾が特徴的で、牙を用いて定期的に研ぐため、生息地では刃を研ぐような音が響く……らしいです」
図鑑を持ってきて、ディノバルドの項を開く。そこには、だいたい俺が言ったことと同じことが書かれている。
「ふむ……確かに、特徴は合致するね。それにしても、よく覚えていたね?」
「大剣を使うモンスターって感じで、カッコイイで……けっほけほ!」
『キュッ』
『ディノバルドカッコイイ』と言おうとしたら、ミツネが小さな泡を飛ばしてきた。妬いてるのだろうか?かわいい。
「あーあー、タマミツネもカッコイイしカワイイから落ち着けって」
「ふふ……それで、バルク……お前は、見たのか」
「いや、少なくとも俺は見てないですね。ミツネも見てないもんな」
『キュ!』
それはともかく、実際に1週間ほどを遡って思い出しても、ディノバルドのような影を見た覚えはない。見たモンスターにしても、ここにいるミツネと、近辺に暮らしているクルルヤックくらいだ。
「ふーむ。ありがとう。きちんと戸締りをしておくんだよ?」
「はーい」
2人が去って行った。今日はちゃんと戸締りして寝よう。
▼▼▼
────その夜。俺は轟音で目を覚ました。
まるで金属音が混じったような咆哮。大きな剣で空を斬るような音が、聞こえた。
何かと思って窓から覗けば、少し遠くの家屋を襲っているモンスターが見えた。
「ディノバルド……!」
確か、あの家の人達は今はバルバレに出かけているから留守のはずだ。それだけは幸いだろう。
とにかく、一番近いのは俺のいるこの家。
飛び起きたミツネを抱き抱え、念の為用意していた避難袋にモンスター図鑑を突っ込んで肩にかける。
そして、戸を開けようとした瞬間、窓から何かが飛んできた。
マグマのようなもの。ディノバルドのブレスだ。あれは確か……爆発する!
「ッ!」
戸を蹴破り、外へ転がり出たところで爆発音。間一髪だが、家が炎上している。
家が炎上したのはまだいい。大問題なのは、ディノバルドがどう見ても俺達の方を睨みつけているところだ。
里には警鐘が鳴り響いており、すぐにでも教官やクルガさん、他にも里のハンターが来るだろう。ただ、完全に俺を狙っている状況はダメだ。広場まで持ち込んでしまうと、鑪の建物が爆発する。
「絶体絶命ってやつ、か?」
そう呟く刹那、ディノバルドが飛び上がる。アクロバティックな奴だ。
真横に飛び出すことでこれは回避。なんとか無傷。そのまま尾をぶん回してきたが、しゃがんでギリギリ。
「っぶね!」
袋の中から煙玉を取り出して投げつける。その場からサッサと動けば、小柄な俺たちのことは見失ったのだろう。
この隙に、逃げよう。抜き足差し足で、ゆっくりと距離を離す。
6mほど離れたところで、小石を蹴飛ばしてしまう。その瞬間ディノバルドは改めて気がついたのか、ブレスが飛んできた。
全速力で離れる。だが、爆発の方がはやく吹っ飛ばされて地面に叩きつけられる。
「いっ……!」
ディノバルドが尾を研いでいる。逃げようにも、衝撃ですぐに体が動かない。
ここで、終わるのか?そんなのは嫌だ。でも、体が動かない。
するりと、腕の間からミツネが飛び出す。泡を纏って、ディノバルドの背後に回り込む。
『キュイーーーーッ!』
「みっ、ミツネ!」
小さいながらも叫び、ディノバルドの気を引く。俺の事を逃がそうとしているのか?それにしても、無謀すぎる!
ミツネは小さな泡を使いつつ、滑るようにディノバルドの攻撃を回避している。
俺は逃げなければならない。ミツネが必死で引き付けているのだ。
そうこうしている間に、とうとうディノバルドの攻撃がミツネに当たった。
およそ目の位置に攻撃をくらう。致命傷では無いと言えど、それでもあまりにも大怪我だ。
吹き飛ばされたミツネを受け止める。右目がとくに酷い。早く手当しなければ。
ただ、どうしよう。またディノバルドは尾を振り上げてきている。立ち上がったところで間に合わな───
「──金剛、連斧……!」
ナルガクルガ装備に身を包んだクルガさんが、ヒドゥンアックスを構えてディノバルドへと向かった。
突然の、しかも赤熱した状態の尾への攻撃により自慢の尾を切り飛ばされたディノバルドは怯える。
「広場へ逃げろ。早く!」
「あ、ああ!」
珍しく言い切るクルガさんの言葉に驚きつつも、ミツネを抱えて広場へと走る。
なんとか広場から避難所へと連れられ、ミツネも俺も手当を施される。
ディノバルドが討伐されたという報せが入ったのは、翌日の朝のことだった。
▼▼▼
「……右目はもう、ダメにゃ。左目は見えているけど、視力は極端に落ちていますにゃ。でも、命に別状はないにゃ」
「ありがとう、ございます……」
医師アイルーの診断結果を受けて、落ち込み半分、安心半分。
ミツネは驚く程に冷静で、手当を施されてちょっと元気になったのか、ゆっくりと擦り寄ってきた。
「……ごめんな。俺のために」
『キュ?』
いつもの通りに首をかしげるミツネ。俺に、昔のような……いや、ハンターのような力があれば。あのディノバルドを倒せずとも、もっと時間を稼げたはずだ。
今でも確かに、ハンターをめざしてはいる。だが、それだけじゃ足りない。
なら、もっとたくさん、鍛えなければ───
───これが、俺が本格的にハンターを目指すことになったきっかけだった。
なずっちゃんのほうはネタを絞り出してるとこなのでもうちょいお待ちください……( ˇωˇ )