無事に大社跡を抜け、現在竜車に乗っている。
クルガさんのナルガ装備をはじめとして、食料に水に土産に……と、割とかなりの大荷物なのだが、この荷物の大半をクルガさんが運んだと言うのだから驚きだ。
下山の道はかなり険しかったはずなのだが、軽々としていたあたりは流石だろう。
『ムキュ〜!』
「不思議な感じだな。里の外って、水没林までしか行ったこと無かったもんな」
いや、
ミツネも新鮮なのか、しきりにスンスンと鼻を鳴らしている。見えない分、匂いで感じているのだろう。
「そう言えば、何故ナルガ装備じゃなくてマガド装備なんです?」
「正装……だな………」
曰く、しまき装備でもいいのかもしれないのだそうだが、古龍の装備をそう易々とおおきな街で着る訳にも行かないそうだ。まあそれと、しまき装備よりも好みなのだとかなんとか。
「まあ……アトラ……友人は、普通に古龍の装備を……着ているが……」
「なるほど?ちなみにどんな人なんですか?」
「変わった……奴だ。重弩使いでな……」
ものすごく強く、的確に獲物を撃ち抜く、重弩使いのハンターだそうだ。
支援役としてだけでなく、単独での戦力としても強大なのだそうだ。
「モンスター好きだからな……ミツネを見れば、喜ぶだろう、な」
『キュッ?』
「まあ、会ってみれば分かるってところですか。ユクモ村からドンドルマまで、かなりかかるんですよね?」
「飛行船でも、無ければ、数日かかる……」
「なら、緊急で里に戻る時もかかりそうですね」
「まあな……手段は、あるにはある、が」
▼▼▼
ガタンガタンと竜車が揺れる。しばらく少々荒れた道を行きながら、途中途中で開けた場所で休憩をとりつつ進んでいく。
すると、段々と小川が増えてきた。そのためか、ミツネがちょっといつもより元気だ。
休憩の最中、竜車に腰掛けながら、小川で魚を追いかけるミツネを眺める。
ここまでの道のりで、特にこれと言ったモンスターに出会うことは無かった。
メラルーやらジャギィには出会ったが、ミツネが泡を軽く吹きかけるだけで逃げて行った。
いつの間にかクルガさんはナルガ装備に着替えていた。「動きにくい」との事で、現地に着いてから着替えるとかなんとか。最初からその方が良かったんじゃないだろうか。
「そろそろ……渓流だ。モンスターも……増える。気をつけろ。そろそろ、行くぞ」
「分かりました。おーい、ミツネ、行くぞー」
『キュ!』
小川から、魚をくわえて飛び出してくる。やたらでっかい魚だ。これは、黄金魚なんじゃ?
「……土産にするか」
「魚箱に入れておきますね」
『キュ?』
ミツネから受けとり、魚などを入れる箱があるので、そこに黄金魚を入れる。道中採れたはじけイワシやサシミウオが入ってるだけなのだが。
アプトノスの状態も大丈夫だと確認し、進み出す。
それから数分は何事もなく進んだ。
問題は、少々開けた場所に出た時に起こった。
『……キュ?』
「どうしたんだ、ミツネ?」
干したはじけイワシを食んでいたミツネが突然食べるのを止め、警戒しだした。
クルガさんも何か感じ取ったのか、竜車を止め、ヒドゥンアックスを手に取った。
「少々、見てくる……」
「分かりました」『キュイッ』
念の為俺も、狐刀カカルクモナキに手をかけ、周囲を警戒する。
耳をすませば、ガサ、ガサ……と茂みが鳴っているのが分かる。
丁度、俺達が来た方向、つまり背後から音がしている。
ゆっくり、ゆっくりと現れたそのモンスターは、黒緑の体色をしていた。
顎には突起物が生えており、口からは涎を垂れ流している。
「アイツは……!」
ゴーヤ、オクラ、暴食、健啖の悪魔、貪食の王。様々な呼ばれ方をするみんなのトラウマ。
────『恐暴竜』イビルジョー。金獅子や爆鱗竜などと並ぶ、超危険生物。
竜車を引くアプトノスを狙って来たのだろう。まあ確かに、アプトノスの肉は美味い。
しかし、それはそれとしてアプトノスを食われては困る。というか、多分ついでに俺達も食われかねん。
「ミツネ、アプトノスを守っててくれ」
『キュ!』
「時間稼ぎはする。クルガさんが来るまで持たせるぞ」
イビルジョーが叫ぶ。不快感を催すような咆哮に耳を塞ぎそうになるが、御守りのお陰だろうか、何とか耐える。
動き出す前に、だ。抜刀と共に全力で斬り掛かる。
イビルジョーは前脚が小さい。だから、すっ転ばせることさえ出来れば大きな隙になる。
ならば、それを狙わない手は無い。
後脚に攻撃が当たる。そのまま追撃をしようとしたものの、器用にも噛み付こうとしてくるのが見えたので後退しながら斬る。無理はしない。
距離を離せば、イビルジョーは酸を吐きかけてくる。狙いは竜車だ、不味い。
……と、思えば、酸のブレスは水のブレスによって弾かれる。少しの溜めの後、前方に扇形に吐き出される海竜種特有の攻撃だ。
『キュ!!』
「よくやった、ミツネ!」
とはいえ、あまり持久戦に持ち込むのはよろしくない。腹が減りすぎたイビルジョーは、どうしようもなく強く、そして凶暴になってしまう。
さて、どうしたものか……と思ったところに、丁度クルガさんが戻ってきた。
「今、来た!」
クルガさんのヒドゥンアックス……いや、[闇夜剣斧【弦月】]だったか。スラッシュアックスが炸裂する。
毒ビンが仕込まれた刃が、イビルジョーの頭に叩き込まれる。
イビルジョーの毒耐性はさておき、それでも強烈な一撃とともに異物が入るというのは気持ち悪い。イビルジョーが怯む。
「逃走したい、が……」
「さすがに、逃げ切れそうに無いですね」
「仕方が無い……討つ。支援を、頼む」
「分かりました」
ガションガションと鳴りながら、スラッシュアックスが斧の形へと変わる。
クルガさんは真正面から徐々に背後に回り込みながら、竜車から注意を逸らす。
俺は尾の方へと回り込みながら、尻尾の切断を試みる。
勿論、イビルジョーもやられっぱなしな訳でなく、尾を振り回したりタックルしたり噛み付いたりと、反撃を試みてくる。
一撃一撃があまりにも重いので、必ず回避。当たればひとたまりもないだろうから。
しばらく攻撃と回避を続ける。だいぶイビルジョーに傷が付いてきたものの、弱る様子はない。逆にこちらは、少しずつ消耗している。……クルガさんに疲労の様子が見えないのは無視しよう。
「……拉致が、あかないな」
『キュゥ…』
「コイツ、体力が高すぎやしませんかね」
本当に、異常なまでに疲れる様子が見えない。イビルジョーと言えば、あまりにも多い捕食頻度が特徴だ。
疲れやすく、すぐ元気になるとでも言おうか。だというのに、かれこれ三十分近く戦って一切捕食していないのに、めちゃくちゃ元気だ。
このままでは、ジリ貧である。
龍ブレスの動作が見えた。が、疲労からか少々反応が遅れた。このままでは、死────
「ちょいと避けぇや、火傷すんで!」
そんな声が聞こえた。途端、イビルジョーの頭へと弾丸が撃ち込まれ、怯む。
その隙に俺は何とか離脱した。翔蟲様々である。なんとかミツネがいる位置まで退く。
「避けたな?ええな?んーじゃあ……焼き尽くす!」
声の主がトリガーを引く。発射された弾丸は、強力なエネルギーを纏っていた。
炸裂。イビルジョーのいる位置を的確に捉え、巨大な球状の爆発を引き起こす。それはまるで、かの
爆発がおさまる頃には、イビルジョーは倒れていた。それどころか、周囲の木々は炭になっていたし、地面も干上がっている。
「うわぁ……」
そんな声が漏れた。
とにかく、弾丸の主の方を見る。そこには、黄金の銃を携えた男がいた。装備は見慣れないが、知識を総動員して、あれがテオ・テスカトルの装備だということは理解した。デザインはゲームとかなり違うが。
「なんかやばそーな気配したから来たけど、大丈夫やったか?!」
「大丈夫だ……だが、助かった……」
「そいつは良かった!いっやー、もういっその事迎えに行こう思って来てみたら恐暴竜やで?!ビビるやん?!」
どうも、クルガさんは親しい様子である。もしや。
「えっと……この人は?」
「ああ、こいつが、アトラだ……」
「どもどもー!ウチが龍歴院所属、ヘビィ使いのアトラさんや!キミがクルガが言っとったバルクくんやな?」
「あっ、はい。俺がバルクです。こっちはオトモのミツネです」
『キュ』
足元からミツネが見上げている。その様子を見たアトラさんの目が輝いている。
「聞いた通りタマミツネがオトモなんやな?!かっわええなぁ〜!ヒレと尻尾大きいな?目も傷あるけど……」
「ちょっと、昔色々あって……片目は完全に見えなくて、もう片方も極端に視力が低いんです。その代わり、他の感覚が鋭いみたいなんですけどね」
「ほうほうほうほう……なんかどっかで聞いた特徴やけど、それ以上に可愛ええからヨシ!!」
『ムキューー?!』
「へぶっ」
勢いよくアトラさんがミツネに抱きつこうとする。が、びっくりしたミツネが泡を吹きかけたので、滑ってアトラさんがすっ転ぶ。
「アトラ……はしゃぎ、過ぎだ」
「あー、すまんすまん。やっぱ可愛ええって正義やん?」
「それより、早く……村へ……」
「真面目やなぁ。ま、イビルジョーの報告もいるしな。ええで、ほな行こか!」
イビルジョーの死体も運ぶこととなり、ミツネの泡で滑らせて持っていくこととなった。
アプトノスには申し訳ないが、後でしっかりと美味しい飼葉をあげるので許して欲しい。
そして、クルガさんとアトラさんの手によって襲いかかってきたナルガクルガなどを撃退しながら、やっとの事でユクモ村へとたどり着いた。
閲覧ありがとうございます!( ˇωˇ )