名無し――転生の魔女
赤星紀利――霊超類の魔法少女
001
某県某市。
某月某日、某時頃。
流石に某過ぎたか。
季節は冬から春へと移ろうとしている頃、時間帯は白昼と言っていいくらいには明るい。
都会と言うには建物が低く、田舎と言うには人も建物も盛んな街中でのこと。
都会でなきにしても不自然なほどに人通りのない国道の中央で、二人の少女は戦争をしていた。
まごうことなく戦争である。喧嘩でも争いでも戦いでもなく、それは戦争だ。
「霊超類の魔法少女――
腰あたりまで伸びた赤髪を三つ編み一本に束ねた魔法少女が、ファイティングポーズを向ける。
「天聖の魔女の弟子、転生の魔女――名はとうに捨てていますわ」
対して、金髪を三つ編み二本に束ねた魔女が、気怠げに左手を鉄砲の形にして、向ける。
魔女の名乗りを聞き、魔法少女はせせら笑う。
「魔女如きが、魔法少女に敵うと思っているのか?」
「ウフフ。あなたこそ、オレ様に勝てるとお思いで?」
本来車両が川のように流れているはずの大地で、戦争は始まった。
先に動いたのは魔法少女。両拳に橙色の炎を灯しながら、魔女に駆け寄り殴りかかる。応戦するように魔女は左手の照準を合わせる。
瞬く間もなく魔法少女は魔女の懐に潜り込み、鳩尾に燃える拳をねじ込んだ。
「萌え死ね! ――嫉妬の枝槍!」
情け容赦一切なし。炎は魔女に燃え移り、槍という実体を持って魔女を八つ刺しにした。
見るまでもなく、訊くまでもなく、即死だった。心臓を貫いたとかいうレヴェルではない。脳も心臓も肺も胃も腸も膣も子宮も、何もかもを貫き、毛細血管の一本も残さず焼き尽くした。
「けっ。んだよ、やっぱ大したことねえな」
残った灰を、虫の死骸でも眺めるような目で見る魔法少女。そこに人を殺したという感傷は微塵も見られなかった。
――しかし。
「その程度でオレ様が終わるわけないでしょう?」
突然に。亡骸たる灰とは一切関係の無い位置に魔女は現れた。
「所詮は、死に遅れのはぐれ魔法少女ですわね」
傷一つなく復活――転生した魔女は、変わらず鉄砲の形の指先を向ける。。
「知っていまして? オレ様、転生の魔女ですのよ?」
魔女は『オレ様』なんて、外見にも口調にも似つかわしく無い一人称で語りかける。魔法少女は目つきを変え、その表情を、驚愕と怒りに染めた。
「テメェ、まさか不死か!」
「もちろん違いますわ。確かに死の魔法使いは不老不死を確立し、一般普及を計画していますが、オレ様はいま間違いなく死亡しましたの」
「死ね! 死ね! 死ね! ――憤怒の木刀!!」
魔法少女の手に握られたのは、二本の赤い炎の棒。大気を歪ませるほどの熱を放つ木刀で撲殺せんと振り回す。
「ウフフフ。速いし重たいですが、しかし単調になりましたね?」
一振り一振りが爆音を轟かせる攻撃。だが、当たらない。
「うるせぇ! 死んでたまるか! 私は死ぬわけにはいかないんだ!」
「魔法少女の年齢制限は十五歳。先月に誕生日を迎え、貴女は十六歳になりましたわよね?」
「ざけんな! 私が何をした!」
「十六歳になった。貴女が殺されるに十分な理由ですわ」
魔女の指先から、不可視の何かが数十、数百と放たれた。
さながら銃弾。さながら砲撃。魔法少女は難なく躱すが、アスファルトを粉砕し爆散する衝撃が背後から連続した。
「意味わかんねぇんだよ! そのクソみてぇな法律も! それに従うテメェも!」
「意味なんてありませんわ。そのためのオレ様ですもの。死になさい。――
突き出た魔女の右腕を、木刀は千切り飛ばした。
好機と、攻撃のペースを早める魔法少女だったが故に意識の外だった。
まるで魔女。まるで悪女。
「あ……、」
その不可視の弾丸は、千切られた右腕から放たれた。
「来世でまた逢ったら、仲良くしてくださいませ」
魔法少女の胸から下を木っ端微塵に砕骨粉身し、魔女の頭部をも打ち抜き、粉砕した。
残された魔女の肉体と、魔法少女の頭を担ぎ、私は戦場を後にした。
002
むかしむかしあるところに、三人、魔法使いと、魔女と、魔法少女がいました。
三人はとっても仲が良く、寝食を共にし、そして三人一緒に戦っていました。
敵は、魔王。何百人といる魔族を率いる魔王は、人類絶滅を掲げ、人間を襲っていた。
魔族は一人一人が人類絶滅に直結する実力の持ち主で、人類は彼女ら三人に身を委ねる他無かったのです。
魔法使いは賢かった。戦力にならない軍隊を魔法で操り、四人の魔族と魔王を捕らえた。
魔女は上手かった。自前の魔道具で七人の魔族と魔王を配下にした。
魔法少女は強かった。魔力と武力の限りを尽くし、八十人の魔族と魔王を殺した。
魔王を殺し、魔族の攻撃を収めた三人だったが、しかし。
最初は魔法少女だった。
十五歳の誕生日を迎えたその日、魔法少女は人類を裏切り、人類の国を三つ滅ぼした。
次は魔女だった。
三十歳の誕生日を迎えたその日、行方を晦まし、四人の魔族と共に姿を表した。
その次は魔法使い。
百歳の誕生日を迎えたその日、人類絶滅を促す研究を始めた。
人類は魔法使いを容赦無く射殺し、彼女たちを魔族と認定した。
003
「……相変わらず、割りに合わない仕事ですわね」
「あ、起きた。生きてる?」
「オレ様、二度も死にましたわ」
「うん。見てたから知ってる」
ところ移って、保健室。しかしここは学校では無い。二極化するなら都会に類される街に紛れ込んだ、校舎型集合住宅。
ここには普通な人間は居らず、住民は魔法使い、魔女、魔法少女――総称、魔導士。年齢制限を過ぎた、非人間にして魔族、即刻処理対象となった者達ばかり。(まあ、例外ももちろんいるのだけど)
「あの子はいつ生まれる?」
「……そうですわね。肉体を作り直すわけですし、材料をちゃんと用意すれば、今日中には」
ベッドの上で目を覚ました転生の魔女は、体を起こし、私をキッと睨みつけた。
「今日の相手はオレ様なら死なないと貴女は言ったではありませんか! なのに、なのに!」
さっきまで殺し合いをしていたとは思えない弱々しい力で、私の肩を揺さぶる魔女。
「し、仕方ないでしょ。相手が魔法少女だとは思わなかったんだから」
「はぁ? 彼女の顔は事前に確認していたのでしょう?」
「顔だけね! 顔だけ!」
「顔だけ見れば性別と年齢くらい判るものでしょう!? ……貴女それでも魔法使いですか?」
魔法使いは、言うなれば研究職だ。全員が全員と言うわけでも無いし、肉体派や戦闘趣味もいないわけでも無いが、その多くは研究を生業としている。観察眼なんて本業でなくとも持っていて当然のものだ。
「悪かったねごめんなさいね! これでも二世紀以上生きてる生き遅れ魔法使いですよ!」
そう。ここに住む魔法使いは、最低でも百年生きている者ばかり。中には数千年生きる者も。まだせいぜい二百と数年しか生きていない私なんて魔法使いなら若輩も若輩なのだが、多くの魔法少女達からしたら私は娘と母親どころか先祖と子孫くらいの歳の差がある。
「年増が……」
「んな!? 私と大して変わらないでしょうが!」
「貴女オレ様を年増と言いたいんですの!?」
「……魔女で二百近くは十分年増では?」
「……言われてみれば、確かに。……オレ様ももうそんな年なのですね」
年寄り同士の年増非難でドップリ凹む二百歳児が二人いた。……というか、まあ私たちのことなんだけど。
「二百歳にもなって一人称オレ様って、なんかかっこいいね」
「ぶっ殺しま……、ん? それは褒めてるんですの?」
「そりゃもちろん」
「それなら、まぁ、素直に礼を言ってあげないでもありませんわ」
「素直になりきれてないよー」
第一話、おわり。