暗黒のファラオ、ニーア――混沌の魔女
私――魔の魔法使い
名無し――転生の魔女
クリムゾン――不倶戴天の魔族
煌綺太陽――核融合の魔法少女
001
魔族が、この国に襲撃してきたらしく、私をぶっ殺してくれやがった奴がここを離れた。
敵は少数、主犯の属性は不倶戴天。私が追っている魔族とは別の奴だけど、それでも、奴への手がかりくらいはあるかも知れない。
全盛とは程遠い、生まれ変わり幼くなった肉体を鞭打ちながら、私は保健室らしき部屋から抜け出した。
「……ここは、学校か?」
コンクリートにペンキを塗られただけの、冷たい床を足裏で感じる。窓から外を見ても、土の地面が幾らか続いた先は明らかに堅牢なコンクリートの壁。
身体が幼くなろうとも、それでも私は魔法少女。最低でも核兵器レヴェルの破壊力を持つ魔法少女なら、ここから抜け出すくらい簡単だろう。
「いやいや、そうでも無いのだよ。魔法少女が核兵器だとしても、それでも魔法少女は人間なのだから」
背後から気配を感じるのと、声を掛けられるのは同時のことだった。
「……誰だよ」
「大声を出さないあたり、流石は魔法少女と言ったところか。それとも、私なんて驚異じゃ無いということなのかな」
そいつは、男だった。赤い、所謂芋ジャージと呼ばれる服装の、色黒で黒髪の男。
「私は混沌の魔女――ニーア。暗黒のファラオと呼ばれたりしているけれど、これでも妻と娘をもつ身でね。彼女たちに失望されるような真似はしたくないから、是非警戒を解いて欲しいな」
混沌の魔女……。魔女? この芋ジャージのガングロが?
「魔女、だと?」
「ん? あぁ、男なのに魔女とはこれいかに、とか思っているのかな?」
「いや、そんなのどうでもイイくらい、ダッセェ格好だなって」
「そうだろうとも。なにせ私は暗黒のファラオ。威厳たっぷりの格好なんてしたら、まさしく暗黒のファラオだろう? 敵役だろう?」
どこか必死そうな表情で訴える、芋ジャージ姿のガングロおっさんが目の前にいた。……ダッセェ。
「……娘にでも嫌われたか」
「嫌われるどころか月まで投げられたとも! 君に分かるかい、仕事終わりに仕事着のまま帰ったら、暗黒のファラオどころか、暗黒の甲虫を見たような顔で見られた私の気持ちが!」
「知らねぇよ。そして月まで投げられといて帰ってきてんじゃねぇよ」
「暗黒のファラオは伊達じゃ無いのだよ」
少なくともこいつのメンタルが暗黒の甲虫並みだというのは分かった。
「っと、無駄話はここまでにしよう。今は文字通り緊急事態。人類の危機が手の届くところまで来てるんだ。今ばかりは時間が有限だ」
「だったらその妻だか娘だかのとこにでも行ってろよ」
「流石は魔法少女。私達の心配までしてくれるか」
してない。
――私に他人の暇なんて、している暇はない。
「大切なものと優先すべきものを一致させてはならない。それが私のスタイルでね。身内の危機より、今は君の単独行動の阻止を優先させてもらう」
「……なにが目的だ」
「私のセリフだね。君の目的はなんだい?」
「……」
私の目的――倒すべき、敵。
――親友の仇。
なんでか知らないが、言わなきゃならない、違う。言った方が良い、気がした。
「……百花繚乱の魔族。あいつをぶっ殺すまで、私には寝食の暇もねぇ!」
「百花繚乱……、聞いたことない名だ。だがその名からして決して弱い魔族じゃない」
「あいつより強い魔族はいなかった。……あのクソ魔女以外」
「彼女の場合、相性の問題だけどね。強者が相手の時、彼女達はただの魔女と魔法使いの二人組から、勇者と賢者の最強コンビにすら匹敵する、無敵のコンビになる」
二人組、コンビだと?
「相手は一人だったぞ」
「そりゃ君も一人だったからだろう。今日みたいな規格外でもないと、転生の魔女と魔の魔法使いのコンビは、神相手でも殺しすぎる」
002
「……貴様の理屈は理解した。だが我の理屈は変わらない。人類は絶滅しなければならない! ――
不倶戴天の魔族、クリムゾンは接触厳禁の攻守両立防御魔法を、重ね着するように光を纏う。
「……ちょっと下がってて、ジェーンちゃん」
「何か手がありますのね? ……あとその呼び方はやめてくださいまし」
「手はこれから探す。私の命、よろしくね」
「……了解しましたわ」
「うん。じゃ――
「小賢しい!」
「うん、まあ、だろうねっ!」
飛ぶ斬撃といえば格好いいけれど、所詮は紙で指先を切る程度の、絶対負傷なだけの呪い。屈強な肉体に効かなかったのか、不倶戴天に打ち消されたのか、それがわからないんじゃ意味がなかった。
「口と回避だけの魔法使いが我の前に立ち塞がるな!」
「手と足と腕と指と爪と腿と股と腰と胴と背と肩と首と鼻と目と脳と髪もあるよ失礼な!」
「……とんだ茶番ですわ」
接触イコール即死の拳。
「まだまだあるよ!
魔力を物体で出力する魔法で長さ2mの棒を出し、両端それぞれに魔法を灯す。
「棒術は結構得意な方、なんだけどねぇ!?」
私の攻撃を防ぐように構えられた両腕に触れるごとに、棒が削れるように打ち消される。
「っつ……、」
「おや、少なからず効いているようですわね」
「まあ、概ね予想通り。
「火傷くらい、覚悟すれば我慢は容易い!」
棒は見る見る短くなり、すぐに腕より短くなった。……でもそれ以上に――
「いくらこの程度効いたところで、火傷じゃ簡単には殺せないか」
「魔法少女じゃあるまいし、魔族を簡単に殺せるわけがありませんわ」
「とはいえ、抜け穴があるのは分かった。魔法使いとしての本領発揮どころよ」
003
あたし、核融合の魔法少女。
日本に襲撃してきたっていう魔族を倒してジェーンちゃんたち助けようと思ったのに……。
「邪魔だよ、おじさんたち」
あたしは他の魔族に囲まれていた。
「魔法少女にボスの邪魔をさせるわけにゃいかないんでなぁ!」
「……おじさんたちの相手してる暇ないの。あたしだって忙しいんだよ。核融合の魔法少女――
あたしの魔法少女の服装、スチームパンクって誰かがいったかな。手から足まで生えたパイプに流れるのは蒸気じゃなくて、核融合のためのエネルギーと魔力なんだけど。
「バイバイ、おじさんたち。地獄で逢ったら、今度はちゃんと遊ぼうね」
体内の核融合機関を起動させて、発生した熱エネルギーを魔法で転移させる、あたしの基本戦術。
温度は測定は出来てないけど、理論値は最低でも一億度。
「鉄だって蒸発するんだから、死んじゃうに決まってるのに」
魔族のおじさん、十人ちょっと。灰も残さず死んじゃいました。――っと、報告はこんな感じかな。
「エネルギー転換――魔力。浮遊」
あたしは海外に飛んでいくために習った浮遊魔法で、ジェーンちゃん達の方に向かって飛んでいく。
第三話、おわり。