魔法少女救済システム(仮名)   作:那由多 ユラ

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私――魔の魔法使い
名無し――転生の魔女
煌綺太陽――核融合の魔法少女
クリムゾン――不倶戴天の魔族

赤星紀利――霊超類の魔法少女
暗黒のファラオ、ニーア――混沌の魔女
ジュリエット・アリエル――聖拳の勇者


第四話

001

 

 

 

「ねえ、ジェーンたん」

 

「やめてとは言いましたが、その呼び方はもっとやめてほしいですわ」

 

「あのチート魔法、硬質チタン製の棒まで触れず消えるのに、足が地面に沈まないのは不思議だと思わない?」

 

「無視ですのね。……しかし、でもその通りですわね」

 

「そして偶然にも、ここにバナナがあります」

 

「……なんでそんなもの持ち歩いてるんですの? この文字通りの緊急事態に」

 

「さらに偶然にも、ここには完全無詠唱で転移魔法を使えるジェーン様がいます」

 

「呼び名、それはそれで気持ち悪いですわ。……オレ様には貴女がなにを考えているのかさっぱりわからないのですが、いったい何を考えてらっしゃいますの?」

 

――!

 

――?

 

――!

 

……。

 

「貴女、ロクな死に方しませんわ」

 

「これから殺される彼ほどじゃないよ」

 

「……ですわね」

 

「じゃ、作戦開始ってことで」

 

――高速念話魔法、解除。

 

「もう加減は一切無しだ! 不倶戴天(オールアンチアーマー)拳型(ガントレットナックル)!!」

 

「既に彼が哀れで仕方ありませんわ」

 

 バナナを片手に敵を哀れむ目を隠さない転生の魔女、名無しの女(ジェーン・ドゥ)

 

「申し訳ありませんが、貴方には哀れに死んでいただきますわ」

 

「小細工は終わりか魔法使い!」

 

 私を相手に、ボクシングのグローブのように大きい必殺の拳を振るうクリムゾン。私が一歩下がれば彼は一歩進み、私が二歩下がれば彼は二歩進む。

 

――彼の足は、私が操っていると言っていい。

 

「いま!」

 

「申し訳ありませんわ!」

 

 足元に転移したバナナを、不倶戴天の魔族、クリムゾンは気づかず踏みつけた。

 

 唯一必殺の光を一切纏っていない足は、果肉を踏みにじり、当然のように滑る。

 

 不倶戴天の魔族は、接触と絶死が同義である人類絶滅の一因が、

 

――尻餅をついた。

 

「ヌァァアアアアアアアアアアアァァァァ!?」

 

 尻に、背に、後頭部に、触れた先から地面を打ち消していき、地面へと沈んでいく。

 

「意識せずとも発動し続けられる魔法は、ある程度冷静でないと解けない。その上、あれだけ何重にも重ねてたんだから、簡単に落下は終わらないはずだよ」

 

「今世紀一番に卑劣な勝利ですわ」

 

「勝てば官軍、死ねば肉塊」

 

「肉塊は酷すぎますわ」

 

「地熱とか地球の核とかで蒸し焼きになるだろうけど、一応、岩石系の魔法で埋めよっか」

 

「鬼畜の所業ですわ!?」

 

「ただの埋葬だよ」

 

「……ものは言いようですわね。しかし地中で生き残られても困るのもまあ事実。溶岩を生み出す魔法を拾いに、一度転生しますわ」

 

「ジェーン姫も十分に鬼畜ですことね」

 

「呼び名も口調も気色悪さ極まりありませんわね。……そういうところは大好きですわ、魔法遣い」

 

「私も好きだよ、転生の魔女」

 

 

 

002

 

 

 

 あたし、核融合の魔法少女。

 

 遅れてやってくるヒーローみたいにジェーンちゃんたちのところに駆けつけて来たんだけど……。

 

「ねえ、なんで二人とも、穴埋めてるの? しかも溶岩で」

 

「お久しぶりですわね、太陽」

 

「おひさー、太陽ちゃん。来て早速で悪いけど、この穴に熱放射お願いしていいかな。岩盤とか諸々焼き尽くす感じで」

 

「いいよー」

 

「今日一番に生き生きしていますわね、貴女。太陽は訳を聞いてから了承しなさい」

 

「はーい。いくよー」

 

「……言葉が通じるのに会話のできない相手って、魔族より面倒ですわ」

 

 なんでか不満そうなジェーンちゃんはとりあえず置いといて、私は全然塞がらない穴に熱を放射する。

 

「ねえ、この穴って魔族と戦うための作戦かなんか?」

 

 ふと気になったから聞いてみた。

 

「いんや、魔族はこの穴の底」

 

「え……」

 

「オレ様達は今絶賛、死体遺棄中ですわ」

 

 ……うわー。

 

「あたしね、いくら相手が魔族でも、それはダメだと思うんだ。人として」

 

「太陽ちゃん、私たちだって定義上は人じゃなくて魔族だよ」

 

「そうじゃなくて、そうじゃなくてー!」

 

「諦めなさいな、太陽。こんなでも頭と口で勝てる相手ではありませんわ」

 

 ……魔法遣いだもんね。このお姉ちゃん。でもっ!

 

「ジェーンちゃんだって共犯なんだよ!?」

 

「貴女の基本戦法、大体火葬じゃありませんか。大差ありませんわよ」

 

「ねえ、二人とも道徳の授業、ちゃんと受けた?」

 

「オレ様達に道徳教育を施したのは、あの混沌の魔女ですわよ?」

 

「……あたしが道徳教えてあげよっか? 自信ないけど、魔法少女の中ならまともな方、のはず」

 

「もう手遅れですわ。混沌の魔女ニーアの教育、通称『混沌フィルター』をもろに浴びた世代であるオレ様達には、ありとあらゆる学問が嫌がらせにしか役立ちませんわ」

 

 ……そうだった。ジェーンちゃん達二百歳世代はそうなんだった。

 

 学校教育が行き届いていない、一世紀前の魔女と魔法使いへの学校教育の模倣を買って出たのが、今の暗黒のファラオ、当時の異名這い寄る混沌(ニャルラトホテプ)こと、混沌の魔女だった。

 

 ……核融合に関する教育はあたしも彼から受けたけど、あの人の授業はこう、他人への迷惑の積極性を掻き立てるんだった。

 

「あたしね、魔族より先にあの人殺すべきだと思うんだ」

 

「あっはっは〜。あの人だって妻子持ってまともになったんだよ、あれでも。いや、まともになったからからこそ妻子を持てたのかな」

 

「まともになってあれなら、やはり即刻死ぬべきですわ」

 

「だよねだよね! これ終わったらあたしちょっと行ってくるよ!」

 

「うーん、太陽ちゃんこの後、(おさ)に報告あるでしょ。それにあの人だって今や善人だよ」

 

うっそー??

 

 

 

003

 

 

 

「……さあ、ついて来たまえよ、善なる魔法少女。魔の魔法使いが、転生の魔女が、核融合の魔法少女が戦っているように、君には君の戦いがある」

 

 混沌の魔女と名乗る、芋ジャージで色黒の怪しげな男は、私に手を差し伸ばしながら言った。

 

「……どういう意味だ」

 

「戦場の魔女が彼女達の戦いを整えるように、私は君の戦いを整えよう。混沌の魔女らしく、その戦場は普通じゃないがね」

 

 私の戦い。私の戦場。

 

「知らねぇんじゃなかったのかよ、私の敵のこと」

 

「知っているであろう子を私は知っている。全魔族の元締、魔王の客室に案内しよう」

 

「ま、魔王だと!?」

 

――魔王。魔族の頂点と噂の、御伽噺の登場人物。私たち魔法少女の最終目標にして人類の天敵。

 

「なぁに、会えば彼女がどんな子なのか、すぐに分かる。きっと仲良くなれるよ」

 

「……マジだかパチだか知らねぇけど、魔王名乗るようなやつと馴れ合うつもりはねぇよ」

 

「普通だね。実に魔法少女らしい。……しかし私は混沌の魔女。いつまで君が普通でいられるかな」

 

 にちゃり、と、触手がぬたうつような異音が聞こえるような笑みを浮かべた暗黒のファラオは……。

 

――今まで戦って来たどの魔族よりも闇深かったし、悍ましかった。

 

 

 

004

 

 

 

「初代魔王、『最強』の名を冠した女、デボラが『原初の魔法少女』との死闘の末に、最後の力を余さず使って生み出した魔族の住まう異世界、名をヘルムート。その原点に位置する城こそ、あれ。通称魔王城だ」

 

 王道RPGでよく見かけるような、薄紫色の空や、腐敗したような穢れた大地。悍ましい建築物に、跋扈する異形の怪物達。

 

 ……そんなイメージとは対極と言っていい美しい青空に、固めて整備された土の地面。煉瓦造りの立ち並んだ建築物に、一部異形は居るものの、見目麗しい住民達。

 

 そんな楽園のような異世界に、混沌の魔女に私は誘拐された。

 

「おいテメェ! 私をなんてとこに連れて来やがってんだよ!」

 

「もっと細かい説明が必要かい? まあともかく、ヘルムート名物のドーナツ盛り合わせでもどうだい? 魔王が毎朝買いに来ると評判だよ」

 

「魔王が朝っぱらからドーナツ買ってんじゃねえよ! 駄目な大人か!」

 

「それくらい平和ってことなんだよ、ここは」

 

 平和。

 

 確かに、ここを表すならそれほど的確な言葉もないだろう。

 動物の耳や尻尾が生えた人型や、中身のない服を着た骸骨、まんま悪魔みたいな翼を背負った美少女。他にもいろいろ異形が出歩いてるけど、それでも、明らかに日本より治安がいい。

 

「ここ、ヘルムートは初代魔王が心から欲していた平穏な暮らしを実現させた、心あるものの楽園なのだヘブンッ!?」

 

 突然現れた何者かに、芋ジャージが殴られた。

 

「あんたさえいなければなクソ野郎!」

 

 フレンチクルーラーにかぶり付きながら語っていた芋ジャージが、明らかに、所謂『魔族』とは対極にして対義語の、シスターの格好をした少女に殴り飛ばされた。

 

「大丈夫?! 無事?! 変なところ触られたりしてない!?」

 

「……絶賛誘拐され放題だよ。テメェ誰だ」

 

 見れば、彼女は首から逆十字架のペンダントをぶら下げ、金髪の髪はパーマがかけられている。彼女はシスターですら、ない。

 

「私? 私はここの孤児院で住み着きで働いてる、聖拳の勇者。ジュリエット・アリエル。魔王の友達とか、まあいろいろやってるよ」

 

「はあ!? 勇者!?」

 

「そう、勇者。昔話で魔法少女とは別で魔王ぶっ殺したり魔族ぶっ殺したりする、あの勇者。私は二代目だけどね」

 

 勇者の存在を、知らない魔法少女はいない。

 

 立てば英雄、座れば賢人。生きる姿は悪の敵。

 

「勇者がなんでこんなところにいるんだよ」

 

「いったたた、ったく。ジュリエットちゃん、口より先に拳が出るのは君の悪い癖だよ?」

 

「安心しなさい。私が殴らなくても誰かが殴るわ」

 

「おい芋ジャージ、テメェこいつに何やったんだよ」

 

「芋ジャージ!? それまさか私のこと!? 君ら揃って私の扱い悪くないかい!?」

 

「黙りなさい、クズ。あんたはウチの子供の教育に悪いから、ここにいて欲しくないの」

 

「……まいったな。ラスボスより先に裏ボスが出てきちゃ駄目だとは思わないのかい?」

 

「裏ボスはあんたよ。卑しい邪神め」

 

「なあ、どうでもいいけど、あんたら迷惑になってるぞ」

 

「「あ。……ごめんなさい」」

 

 なんで私、敵地で敵の住処の迷惑考えてるんだろ。

 

 第四話、おわり。

 

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