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言うやいなや、煉獄は屋敷の外へ走り出した。彼の
立ちのぼる
「──あれは」
何者かの襲撃と直感できた。
しかし、規模も、目的も、敵の勢力も、一切が不明。
「何かあったんですか、煉獄さん? ……! あれは」
「うそでしょ? 都市の空に、煙? 襲撃されてる?」
「んな馬鹿な! いったいどこのバカが、そんなこと」
煉獄にいち早く追いついたモモンガたち。煉獄と共に客間にいたカラスは、クランの皆を呼びに行ったことで遅れている。
彼ら客人に向けて、煉獄は真っ先に告げた。
「君たちは逃げろ」
「え、いや、でも」
「異形種である君らは、この世界では力を発揮できない。そういう事情があるのだろう?」
煉獄の言った通り。
ミズガルズ……人間の世界では、モモンガたちのような異形種プレイヤーは、本来の能力を発揮しきれない。
なにより、いまの人間種に化けた状態での戦闘力は、大幅に減じられているという事実。
ここで戦闘に巻き込まれるというのは、大いにマズい状況である。
煉獄は振り返って微笑んだ。
「今日は話ができてよかった! モモンガ殿、ペロロン殿、茶釜殿!
また後日、息災で会おう!」
それだけ言い残して、煉獄は翔けだした。
襲撃を受けている都市の西へ。
西門へ近づくほどに、戦闘の気配が濃密になる。
爆音と悲鳴がそこかしこで湧き、剣戟と魔法の奏でる騒音が、大通りに面する市場を満たしていた。
「くそ、なんだってんだ急に!!」
「都市の傭兵システムどうなってんだ?!」
「おいおい、急襲イベントとか、冗談きついぜ!?」
事情を解しているものは一人もいそうになかった。
「なんなんだよ、こいつら!
「探査反応はアンデッドじゃないぞ。反応は、な、なんだこれ? バグか?」
「ふざけてんのか! なんでこいつら全員、血まみれで肉が膨らんでるんだよ!?」
「まったく! スプラッタ趣味なギルドの
「なぁ、あのデカい
「はぁ? いまはそんなこと、くそどうでもいい! とにかく反撃しろ、反撃だ反撃ッ!!」
なんとかバリケードを築いて魔法の連射や遠距離武器を扱う者たちが評するように、襲撃者たちは頭のてっぺんから爪先に至るまでズタズタに引き裂かれた、肉の風船人形といった
煉獄は冷徹な眼で戦場を
「炎の呼吸 壱ノ型
プレイヤーとバリケードの隙間をくぐりぬけ、敵の戦列中央を
一掃される敵の光景に
「炎の呼吸 参ノ型
振り下ろされた燃え
しかし。
(数が多いな!)
煉獄の熱い心胆をも凍えさせるほどに、敵の数は膨大に過ぎた。
技を二つ繰り出しても尚、敵の規模はいや増すばかりに見える。
既に、この市場から西門の区画は化物の軍列で埋め尽くされたような印象を受けたが、おそらくはその通りだろう。
煉獄は化物に食いつかれたプレイヤーの救援に走る。
化物の爪牙にかかりはしたが、まだ生きている者だ。
「大丈夫か? 立てるか?」
「う、うう……う"う"……」
煉獄は、ふと、気づく。
この気配、この異様、この変転に、思い当たるものが、ある。
「お……おい、……まさか」
「うう、う"あ"あ"あ"あ"あ"あ"────ッ!」
プレイヤー
日輪刀で牙と顎による攻撃を防ぐ煉獄だが、肉の膨らみ始めた腕と爪が
迎撃できたのは奇跡とも言えた──どこからか飛んできた魔法によって、敵は“心臓発作でも起こしたように”なり、その動きを
煉獄は、プレイヤーから化物になりかわった男が消滅するのを見つめ、しばし茫然となる。
────日輪刀の一撃を受けた首無しの
「だ、大丈夫ですか、煉獄さん!?」
「ひとりでいかないでくださいよ、もう!!」
煉獄の疾走にようやく追いついたキサツタイ……戦闘時の装備に換装を終えたカラスをはじめ、仲間たちが防御の方陣を組み上げてくれた。他のプレイヤーたちも煉獄を起点にバリケードを広げようと、障害物や盾をもって、キサツタイを援護する。
しかし、煉獄は唐突に、強烈に、不吉な予感を覚えてならない。
そこへ、
「ああ、ようやく見つけましたよ、煉獄さん!」
煉獄が睨み据える先。
その少年は、緑と黒の市松模様の羽織を着て、額には痣、赫灼の色に染まる瞳を潤ませて、意気揚々と手を振りながら語りかけてきた。
「お久しぶりです、煉獄さん! 俺です!
少年は実に気安く煉獄と
キサツタイの隊士らを含むすべてのプレイヤーが応対に困る中で、煉獄だけは
「
その斬って捨てるがごとき
「え、な、何を言ってるんですか、煉獄さん! 俺は」
「君は
断じてありえないと
烈火のごとき視線の熱量は、常人であれば火傷しかねない覇気にあふれているが、自称竈門炭治郎は首を傾げてみせるだけ。
煉獄は断定の声を紡ぎつつ、一歩を前へ。
「君のその気配────柱である俺が、見間違えるはずもない」
柱の鍛え上げた感覚野が、長年の任務で培われた勘が、明確に告げていた。
「──君が、あくまでも竈門少年を自称するのであれば、俺の質問に答えてもらう」
炭治郎と名乗る少年は、
「まずひとつ。
竈門少年、
煉獄は覚えている。
あの無限列車の戦いで、煉獄が最期に少し話をした時、それは朝日に輝いて見えた。
出会った時から彼が両の耳につけていた、札。日光を
自称
「ああ、それならここへ来る途中、うっかり失くしてしまいまして!」
「ふむ……そうか」
本当に、仕草から声音に至るまで、なにもかもが炭治郎そのものに思えたが、煉獄は
「ひとつ。
君の仲間──黄色い少年と
竈門炭治郎と共に、炎柱である煉獄のもとへ、助勢すべく送られてきた、若き隊士たち。
あの二人の姿もどこにも見られない。彼の傍らにも。彼が侍らせる肉腫の化物の中にも。
加えて、彼の応答は、最悪であった。
「ああっ!“その二人”なら、この世界に来てからはぐれてしまって! 今探してるところなんですよ!」
「ほぅ──“その二人”、か」
煉獄の違和感を加速させる結果しか生まない、自称炭治郎。
蝶屋敷でともに修業し、寝食を共にし、兄弟のごとく名を呼んで共闘していた仲間を、あろうことか“その二人”呼ばわり。
もはや確認するのも
「もうひとつ。
君の妹は、どうした?」
あの柱合会議にて、掟破りの“鬼”を連れた剣士・竈門炭治郎の処断が話し合われた。
──鬼にされた妹のために刀を取り、すべての悲しみの連鎖を断ち切ると豪語した、少年。
並の隊士であれば
そんな
そして。
だが、今の炭治郎には、鬼の妹を陽光から守るための背負い箱は、──失われている。
煉獄は
柱合会議において、拘束された状態でありながら、風柱に頭突きを一撃入れるほど、妹を懸命に守ろうとした少年の在り方が、完全に損なわれているという事実。
羽織も日輪刀も、背格好や髪や瞳、額の痣や表情にいたるまですべてが、竈門炭治郎そのものであるというのに、そこだけが、その一点のみが、彼の背中にあったはずの戦うべき理由──守るべき存在が、完全に完璧に抜け落ちていた。
自称竈門炭治郎は答える。
「“それ”も、今探してる
「……」
煉獄の額に青筋が
煉獄は、憤怒の感情によって煮えたぎる
「……自称竈門少年、これが最後の問いだ。
絶対に──、確実に──、答えてもらう」
煉獄は
「────『
モモンガたちと出会った初日に行ったのと、まったく同じ質問。もとい、
「言ってみろッ!」と語気を荒げざるを得ない煉獄。
彼が竈門炭治郎であれば、鬼殺隊の一員であるならば、答えられぬ道理など、ない。
太陽の落ちる方角──西日を背にした炭治郎は、晴れ渡る陽光のように微笑みの相を増す。
「あっはははは。──いやだなぁ、煉獄さん。──そんなこと──」
瞬間、炭治郎の口元が三日月のごとく
「“言えるわけねえだろうが、ば~か”」
自称炭治郎の右目が
鬼舞辻の“鬼”は、牙を剥き出しにして煉獄を
・
同時刻。
ヘルヘイム、氷河城。
「
この城の最上層にして最高階に位置する玉座の上に泰然と座しながら、男は優雅に頬杖をついてほくそ笑む。
白と黒に染まる上質なスーツ。耽美を極めた顔立ち。黒曜石のごとく艶めく髪。人間的感性からかけ離れた、細く鋭い“鬼”の虹彩。
「この異様なる世界に渡り来てより、はや幾月。
男は
「もはや耳にするのも不快の極み。
手始めに、この世界にあるとかいう、
無限城の戦いを経て、鬼殺隊総員による決死戦の果てに、
※注意※
ヘルヘイム氷河城の描写は原作でもほとんど出てきておりません。
そのため、オリジナル要素を大いに含みますので、あしからず。