商業ギルド“ノー・オータム”は、オリジナル要素・設定を大いに含みます。
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ミズガルズ〈奥地〉、シュヴェルトライテ公女領。
商業ギルド:ノー・オータム、その本拠地──“シュヴェルトライテ城”。
「……あ~」
古色蒼然とした城内から溢れる、気の抜けた女性の声。
「あ~あ~」
苛立ちにこめかみを抑える声の主を前に、招集を受けたギルド構成員たちは、謹直な直立姿勢を保つしかない。
普段は温厚かつ人格者として振る舞う商人の
何より、噂によると彼女はリアルにおいてメガコーポレーションと太いパイプを持つとされ、彼女の決して低くはない沸点を超えたバカは、全員何かしらの形で社会的地位を追われているとか、いないとか。
彼女たちのギルドが拠点とするシュヴェルトライテ城。
ミズガルズ奥地の丘陵地帯に
この公女領内、城下をすべて見渡せる都市の中枢──そこを、ユグドラシルの四大商業ギルドに名を連ねる組織は占拠、というと
城の城主である元戦乙女の公女・シュヴェルトライテとの
一金貨で賄われる安物食品から億クラスの超高級食材、誰でも泊まれる格安宿からギルド拠点用高級建築オーダーメイドに至るまで、かの組織の息がかかって久しい。「運営が用意するのよりも、数段マシな商品を」というキャッチコピーを掲げ、かの商業ギルドはDMMO-RPGユグドラシル内において、相応の地位を占めるにいたっている。
「っ、あ~、も~、まったく~、なにがどうなって、こうなってるわけ~?」
貴族が住まうにふさわしい
デスクに行儀悪く組んだハイヒールの足を乗せて、報告書類を隅々まで目を通した女性が、大きく盛大に舌打ちした。
「ッ、『第九開拓都市、壊滅』とかさぁ。
いったい、なにを、どうトチったら、そういうことになるのよ!? 事後処理するこっちの身にもなれってんだ!!」
「申し訳ございません、お嬢」
「ああ?」
「いえ、失礼しました、ボス。此度の一件で、かなりの損失を
お嬢、あるいはボスと呼ばれる女性プレイヤーは、これまた中世ヨーロッパの雰囲気が一切感じられぬ装いであった。
切れ上がった眼に縁どられる、オパールのごとき色彩の瞳。東洋系の整った顔立ちにかかるのは、ビン底を思わせる大きなメガネ。腰の下まで伸びるパウダーピンクの髪は艶やかで、上質な絹糸の束を想起させてならない。起伏に富んだ女体美を覆うのは、
「ったく、大損だぞ大損。あ~、あそこを運営するのに、私らがどんだけの額をつっこんだと思ってんのよ~!」
物怖じすることなく折り目正しい態度で謝罪する幹部メンバー、第九都市随一の酒場を経営していた都市顔役の
大樹を思わせるごつい見た目に反して、柔和で誠実で物腰の柔らかい紳士然とした──あるいは任侠映画のごとき鋼のような口調で謝罪を重ねる。
「申し訳ございません、お嬢」
「てめえ……はぁ──まぁ、過ぎたことをグチってもしゃあない」
溜息を吐く
「で。アンタらはそのモンスターの群れに、成す術もなくしてやられたってわけね?」
「はい、お嬢、いえ、ボス。まったく突然のことで、初動が遅れてしまい」
「
お嬢は
「このまま事を静観していたら、うちのギルドの名に──看板に傷がつく。早急に手をまわすぞ」
デスクにあるアンティークじみた黒電話を肩に引っ掛け、関係各所へ指示を飛ばす。
「情報部、各開拓都市や同盟領地、全支部所設置ポイント、協力協定を結んでいるギルド:ワールド・サーチャーズに連絡! モンスターへの警戒レベルを
受話器を乱暴に置いた。
その後、ギルド長室のシャンデリアの下に、現在までに明らかになっているミズガルズの地図を全投影。まるでプラネタリウムのような光点と光線の顕現に、室内にいる数人が感嘆の息をつくが、お嬢は頬杖をついて地図を
はじまりの街である樹界都市・アスクエムブラが下方にあり、そこから円を描くようにして、ゲーム初期に第一から第六までの開拓都市は築かれた。
後年、ミズガルズ〈奥地〉に発見、あるいはイベントで発生した「王の領地」や「隠れ里」が点在し、さらにそこから樹海の〈最奥〉──世界の中心に
しかしながら、長いユグドラシルの歴史の中で、イベントやレイドボス、さらには無限湧きするモンスターの巣窟に行きあい、このミズガルズだけでも三つの都市──第五開拓都市と第八開拓都市、そしてフローズニル王領が壊滅、一時破棄され、その後なんとか奪還して再建にこぎつけた過去がある。
今回の事件でミズガルズの歴史上四つ目の都市を失ったというわけであるが、お嬢は釈然としない情報を率直に言葉に変えた。
「その、謎のモンスター……カテゴリ表記が“
「ええ、お嬢。その通りです。しかもあの時、どういうわけだか〈
「なに?」
「実は、肉塊の群れの中に、先日何者かの襲撃を受けたというギルド連中、うちと大口の取引があった団体、その
「おいおいおい。つーことは、なにか? まさか、一連の事件がぜんぶ繋がってるとか言わないでしょうね?」
彼女はそう言ったが、大男は該当するプレイヤーをファイリングした名簿を取り出してよこした。
コンソールを通じて受け取ったそれは、確かにここ数ヶ月で謎の襲撃を受けて壊滅したという報せを受けたギルド、その構成員たちである。
彼らが視認できただけで50人程度……商業ギルドである彼等だからこそ、それだけの顔見知りを、化け物の群れの中から特定できたわけだ。
幼いころからお嬢の身辺に侍る目の前の人物が、虚偽の情報を伝える理由がない。しかし、お嬢は眉を
「……プレイヤーがB級ホラー映画よろしく、蘇生に失敗して、ゾンビにでもなったってか?」
「わかりかねます、お嬢」と即応する大男。
「──それが事実だとしてもさ、いったいどういう理屈よ?
その少年剣士とやら。プレイヤーを、いや、プレイヤーの残骸を、肉人形にして
だが、プレイヤーのアバターを強奪したという可能性は、まずもってありえない。プレイヤーのアバター情報はプレイヤー個人の所有するところにある。ゲームの仕様で操ったり操られたり……精神系魔法による幻術や死霊系魔法による死体使役はあっても、魔法やスキルの効果が永続するなど、普通に考えればありえない。戦闘が終われば自動的に効果は消滅するだけ。アバター強奪などという事態が許されるなれば、運営へのクレームが殺到するだろう。しかし現在まで、そのような報告例はない。そもそも、襲撃を受けた連中というのも、なんだかんだで蘇生復活自体はできているのだ。ちょうど、第九都市でやられたノー・オータムの構成員ら──目の前の木こり男がそうであるように。
お嬢が疑わしげに書類をめくると、第九開拓都市で、壊滅の現場に居合わせたプレイヤーたちの証言が
頭が痛いことこの上ないというように、
「……リアルでもくそ忙しい時に、こんな
「ゲーム内であろうと姿勢を悪くすると体に
「てめえ、もうわざとだろ、それ。……まぁいい。拠点大型内装用データと拠点NPC動作パッケージ、
予定変更と姿勢矯正を余儀なくされ、大いに機嫌を損ねるお嬢。
事情説明だけでもいろいろと難儀しそうな案件を、幹部らと共に鬼のようなスピードで片付けた、直後であった。
新たな一報を告げる黒電話が、けたたましくコールベルを打ち鳴らした。
「ううううるっさい! なに? いま忙し、──はあぁ!? だ、第十一に、“襲撃”?! ガチで言ってんの、それ!!」
椅子から転げかけながら立ち上がるお嬢。
届けられた一報に対し、幹部たちの声でざわつく室内。
お嬢はそれには構わず、「とにかく徹底的に抗戦し、情報を可能な限り集めろ!」と簡潔に明確に指示を出し終えて、受話器を置いた。
お嬢は拳を痛いほど握り込む。
「……うちの傭兵警備システムが、ぬかれてる? 嘘でしょ? ここ数年完璧に機能してたっしょ? 先代の頃から試行錯誤かさねて、あのクソ駄目ヘイト管理を調整できるように、やっとの思いで構築したのに?」
大量の傭兵NPCを利用することが大前提の警備システムを生み出したことで、敵性プレイヤーの集団やモンスターの無限湧きの類も、ほぼ100%検知できるようになった。
都市攻防において重要な初動──敵の襲撃をいち早く感知・迎撃する手段を、先代や仲間たちと共に築き上げた。
いったい全体、何が起こっているのか理解しかねるノー・オータムの長、であったが。
「いかがしますか、お嬢?」
「あ~クソがああああ、マジでウゼエえええええ!」
必要なことは「対応」ひとつきりである。
お嬢はヒールの踵を大理石の床が割れんばかりに打ちつけた。チャイナドレスの裾を
「第十一にカチコミ行くぞぉ! この落とし前、課金拳で絶対につけてやるっ!! てめえらぁ、さっさと戦闘準備ッ!!!」
ビン底メガネの奥にある瞳が、憤激の色に染まったようにみえた。
即座に承知の声を奏でる
・
「おい、煉獄さんは大丈夫なの、弟?」
「わかんねえ、なんだ、あのモンスター? なんでカテゴリ欄がバグってんの?」
「……いったい、下ではなにが?」
煉獄に逃げろと言われたモモンガたちは、もちろん逃げてなどいなかった。
プレイヤーたちがバリケードを築く
「つかモモンガさん。危ないから魔法を飛ばすのは控えてくださいよ。今ミズガルズのプレイヤー、この都市の住人に見つかったら、ガチでやばいっすから」
「いやすいません、つい」
「いんや、ナイス判断だったよ、モモンガさん。あのままだと、さすがの煉獄さんも危なかった。弟の狙撃だと、こっちの位置がモロバレするところだったし」
「お、俺だって、数キロ離れたところからやれば、位置バレなんてしねぇし!」
「はいはい言ってろ言ってろ」
「二人とも、静かにっ」
三人は
「いざとなったらモモンガさんの〈
「──使いようが、ないですしね」
〈記憶操作〉の魔法は、このユグドラシルにおける精神系魔法のひとつだ。
その効果はずばり、ユグドラシルプレイヤーの記憶を操作する……ことまではできないが、相手対象(一人~四人)が認識している
ちなみに、〈
無論、精神系対策を取ったプレイヤー相手だと抵抗され、大幅なレベルダウンは見込めないが、対策ができてないモンスター──Lv.90以上だと大抵は対策されるが──だと、最大で1/2、つまり50%ダウンまでできるのだ。それほどの効能ゆえ、この魔法は精神系魔法を極めた魔法職でなければ取得要件を満たせないため、死霊系魔法に特化したモモンガは取得できていない。
それでも、相手の認識を書き換え狂わせるというだけでも、この魔法はなかなかに便利な代物だと言えた。
「かといって、また仮面をつけても、いま都市を抜けるのは」
「難しいよね。……どこもかしこも大騒ぎだ。ミズガルズの〈最奥〉、世界樹の深奥に迫るための
都市が、ありえざる速度と深度で“襲撃”され、西門の区画エリア一帯が、主戦場と化している。
さらに、戦域は拡大の一途をたどっていた。
空を飛ぶ
それになにより、
「このまま、煉獄さんを見捨てていくというのは、ちょっと気がひけますからね」
モモンガの主張にペロロンチーノもぶくぶく茶釜も同意の首肯を落とす。
三人の見つめる先で、炎を思わせる剣士が、緑と黒の羽織を纏う不気味な少年に斬り込んだ。
※注意※
〈記憶操作〉の魔法の記述については、D&Dを参考にしております。エンリに使った際も、ガチで記憶を操作できる魔法のように扱っていましたし。
なお、その上位魔法である〈完全記憶操作〉については、原作のオバロには登場しておりません(効果はD&D参考です)ので、あしからず。