煉獄杏寿郎と巡るユグドラシル【オバロ×鬼滅】   作:空想病

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第拾壱話  煉獄杏寿郎、“鬼”どもと戦う

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 右目に肉腫を膨らませ、鬼の牙を剥き出しにし、煉獄の訊問を(わら)う炭治郎。

 彼にあるまじき蔑意(べつい)嘲弄(ちょうろう)を面に浮かべ、ゲラゲラゲタゲタと嗤笑(ししょう)する姿に、煉獄杏寿郎は、堪忍袋(かんにんぶくろ)の緒が切れた。

 

「やはり! おまえは! “鬼舞辻(きぶつじ)の鬼”だ!!」

 

 炎柱は白い羽織を(ひるがえ)した。一気呵成(いっきかせい)鯉口(こいくち)を切る。

 鬼との戦いにおいて、仲間が鬼の手に落ちて操られることも珍しくはない。鬼の異能“血鬼術(けっきじゅつ)”によって、精巧に擬態(ぎたい)したり、偽装(ぎそう)(まと)ったりする鬼もいる。この程度の事態で(おく)するものでは、鬼殺隊の柱たりえない。鬼舞辻の鬼でありながら“日光下で活動している”ことは大きな疑問であったが、もはや四の五の言っていられる状況にあらず。

 抜刀は、一刹那。

 

「炎の呼吸 壱ノ型 不知火(しらぬい)

 

 竈門炭治郎を称する鬼の(くび)に、炎の一閃が注がれる間際(まぎわ)

 

「む!?」

 

 処女雪のごとく透明で清廉(せいれん)な「盾」に(はば)まれた。

 煉獄の超速度を見切り、少年を護るべく現れたのは、怜悧(れいり)な眼鏡をかけた、褐色肌の烈女。

 凛とした(かんばせ)。白銀の分厚い鎧甲。青藍に透ける外布(マント)に、秀麗な足甲(ブーツ)。顔下半分を覆う重厚な面覆い(マスク)髑髏(どくろ)意匠(いしょう)を施され、地獄の亡者(もうじゃ)と現世の美女が混淆(こんこう)したような異彩を放つ。水色の(きら)めきが揺れる銀髪を一本の三つ編みに()い、右手には勇壮かつ機械的な騎士槍(ランス)を、左手には巨大かつ近代的な、強化ガラスを思わせる(シールド)を軽々と(にな)う。鎧の節々から覗く褐色の肌は筋繊維の厚い束で覆われており、神々の(うから)とも評すべき耽美と精美に(つや)めいていた。純黒のインナータイツに覆われた腹筋と太腿も、神話の彫刻家の手によるものかと錯覚するほどの緻密(ちみつ)さで彫り込まれている。

 追撃を避け、仲間たちの陣まで後退する煉獄。

 炭治郎は柔らかい笑みと共に、女の右手すぐそばまで歩み寄る。

 

 

 

「紹介します、煉獄さん。俺の、新しい仲間です」

 

 

 

 十間(じゅっけん)ほどの距離の先で炭治郎は告げる。

 彼の言動が真実であると告げるように、銀髪褐色の女騎士は、炭治郎の障害となりうるすべてを排除せんばかりに槍と盾を煉獄へ向けて構えた。  

 煉獄は直感する。

 この女性、只者(ただもの)にあらずと。

 彼の勘を肯定するように、煉獄の仲間たちが呟きを漏らした。

 

「あ、あれって?」

「え、え、なんで?」

「モ……、モーズグズ?」

 

 カラスたちが当惑するのも無理はない。

 彼女はここ数ヶ月、消滅の噂が流布(るふ)されていた存在……冥界にかかる橋の女番人……だが、彼女はミズガルズにいるはずのないボスモンスターであり、加えて(いささ)か以上に、その外装には変化が生じていると見て取れた。

 

 首元に見える生々(なまなま)しい切断痕(せつだんこん)

 心臓を思わせる(しゅ)が鼓動を刻み、青黒い血脈が(ふく)れあがる瑕疵(きず)

 一度は首断たれた後に、何らかの技法呪術で再結合されたがごとき、禍々(まがまが)しい変成。

 

 それ以外は、ユグドラシルプレイヤーが知悉(ちしつ)する北欧神話由来ボスモンスターの威容、そのものであった。

 あの“ヴァルキュリアの失墜”以降に実装された新外装──機械槍と巨大盾を扱う冥府の女騎士としての姿を、見間違えるプレイヤーなどいるはずがない。

 しかし。

 繰り返しになるが、彼女が出現するのはニヴルヘイムとヘルヘイムを繋ぐ“黄金橋”──その番兵として立ちはだかるのが、モーズグズという処女神であったはず。

 間違っても人間の世界に、どんなイベントであろうともミズガルズの新緑の大地に姿を現すはずのないものが、彼等プレイヤーたちの目の前に現れている。

 ユグドラシルの歴史上にも(まれ)に見ない珍事であった。

 さらに、当惑を覚えるべきボスキャラは、彼女(モーズグズ)だけではなかった。

 

「う、嘘でしょ?」

「あれって、まさか」

「いいや、間違いない」

 

 炭治郎なる少年剣士、および、モーズグズと肩を並べるように現れたのは、やはり、ユグドラシルの神クラスモンスターたち。

 その委細(いさい)を知っていたプレイヤー、クラン:キサツタイの構成員(メンバー)たちが口を開く。

 炭治郎の右側に現れた、血まみれの人物を見る。

 

「グ、グレンデル・マザー?」

「フローズガール王領、雄鹿(ヘオロット)館近くの、“赤血(せっけつ)の沼”の裏ボスが、なんで都市(ここ)に?」

 

 殺された息子(グレンデル)の片腕を抱きながら泣き濡れる、喪服姿の赤髪の女性。

 奪われた子の片腕を取り返すべく王の館を襲い、北欧の英雄・ベイオウルフへの復讐に果てた、傷だらけの母。

 ついで、モーズグズの左側に現れた人物を全員が見る。

 

「あいつヴァフスルーズニルじゃん!『オーディンと並び称される智者』!」

「んな、ばかな。死者として、ヘルヘイムの氷河城にいるはずだろ? このミズガルズにいるわけない!」

 

 北欧神話の主神との知恵比べに敗れ命を落とした、純白のローブを(まと)う大賢者。

 黒髪の男は叡者(えいじゃ)を思わせる顔立ちに静かな笑みと細めた目を浮かべ、まるで副官のごとく炭治郎たちの(そば)(たたず)んだ。

 さらなる人影が炭治郎の背後に現れ、全員が息をのむ。

 

「う、──うそ」

「あ……ありえな」

「まさか──まさか?」

「フ……、フレイヤ──?」

 

 このユグドラシルにおいて絶対的な美貌を有するヴァン神族の女神──生と死、愛と戦、豊穣と魔術を(つかさど)りし、絶世の美女。

 (たお)やかな笑みをくすくす浮かべる金髪金眼の美女は、性愛を刺激してやまぬ豊満な肢体を少年にすりよせ、細く長い手指を炭治郎の首に背後から絡みつかせた。透けるような薄衣はR-15ぎりぎりをせめたような美麗なドレスで、まさに女神の羽衣というべき(おもむき)。フレイヤからまるで口づけを催促(さいそく)するがごとき熱愛と寵愛(ちょうあい)抱擁(ほうよう)を受けとりつつ、炭治郎はまったく平然と微笑み屹立(きつりつ)したままだ。そのキャラ造形の美麗さとイベント登場回数の豊富さから、男女の垣根を超えた全ユグドラシルプレイヤーの憧れの存在たる北欧の女神に対し、あれだけ密着されるというのは垂涎(すいぜん)を禁じ得ない。だというのに、少年は何の感情も刺激されていないというのは、もはや異様としか言いようがなかった。

 ──さらに、光景の異様さは加速する。

 

「え、な、な、なに?」

「地震? 地殻変動の魔法?」

「ねえ、あれ! あれ見て!」

「いや、あれって……、……?」

「そんな、なんで、こんなところに?!」

 

 煉獄やプレイヤーたちの背後の方角──地鳴りと共に都市の西側に現れたのは、小山のようにも見える影。

 その正体についても、知らぬプレイヤーは皆無であった。

 腐蝕毒の瘴気と大呪詛の竜鱗を身に(よろ)う、北欧の巨竜・ファフニール。

 さらに、アース神族の城砦を築きながらも謀殺された、巨人の石工・フリームスルサルと、彼の相棒にして愛馬、すべての八足馬(スレイプニル)の父たる巨大馬・スヴァジルファリ。

 いずれもユグドラシル内において、大量のプレイヤーによって仕留められることが前提となるレイドボス……超級の体躯と、強靭なステータス、さらには超弩級の体力ゲージを持つことで有名なイベントモンスターに他ならない。

 どうやら超大型の彼らは、都市外縁……森と街を隔てる高さ20メートル程度の隔壁に取りつき、完膚なきまでに破壊の限りを尽くす算段のようだ。

 由々(ゆゆ)しき事態の連続に、煉獄は(ほぞ)()んだ。

 

「っ、これだけ鬼舞辻の鬼が近づきつつあったというのに、まったく気づくこともできなかったとは!」

 

 穴があったらとも言っていられない──まったく慙愧(ざんき)にたえぬと、己を叱咤(しった)する炎柱。

 煉獄の気が(ゆる)んでいた──たるんでいたことの証であろうか?

 断じて(いな)であった。

 

「いやぁ、すごいですよね、魔法の力。〈完全不可知化(パーフェクト・アンノウアブル)〉と〈全体記憶操作(マス・コントロール・アムネジア)〉とかいう魔法らしいですけど、なかなか便利なものですよ~」

 

 情報系魔法と精神系魔法の(かさ)(わざ)をはじめ、他にも様々な魔法の恩恵を、ここにいるヴァフスルーズニルが使ってくれたのだと得意げに語る炭治郎。

 褒められた形になる白服の男は、まるで主人に仕える従者のごとく、少年へと(うやうや)しい一礼を返してみせた。

 混沌を深める状況のなか、キサツタイの皆が煉獄に問いかける。

 

「れ、煉獄さん。鬼舞辻の、その……“鬼”って」

「ユグドラシルの鬼と、どう違うんでしたっけ?」

 

 日本刀を抜いたカラスと、背負っていた大鎌を構えるオオルリが、率直(そっちょく)()いた。

 煉獄が常日頃から危険を知らせていた存在であることは周知の事実。が、まさかこのユグドラシルに実在するとは思ってもみなかったという表情だ。プレイヤーの感情(エモーション)アイコンとやらはわからぬ煉獄だが、彼の目には、仲間たちの不安げな様子が痛いほど理解できる。

 煉獄は改めて教えた。

 

「鬼舞辻の鬼は、君らの知る鬼──モンスターとは根本的に違うものだ」

 

 煉獄はこの世界(ユグドラシル)で学んでいた。

 ユグドラシルの鬼──種族としてのモンスターと、鬼舞辻の鬼は、似て非なるものだと。

 

「この世界の鬼──ニヴルヘイムやヘルヘイムを主な(ねぐら)とする異形種(モンスター)只人(ただびと)と同じように住まう者たちは、比較的話が通じる者も多い。が、鬼舞辻が生み出した──奴の血を注がれた人間がなり果てた“鬼”は、会話や交渉というものが成り立たないこと(おびただしい)しい。奴らは兎角(とかく)人肉を食うことを嗜好する──というよりも、人を喰わねば生きていけない者どもで、限りなく危険だ」

 

 そう口で説明する煉獄だが、果たしてプレイヤーたる者たちに、どれほど恐怖の意識を共有することができるものか。

 そもそも煉獄がいた日本(ひのもと)においても、鬼の存在は隠され、鬼殺隊の存在も(おおやけ)になっていなかった事実。

 人を喰う鬼が実在するという話を公表しようものなら、その恐慌と狂乱は、間違いなく人心を乱し、国家に大きな災いの影を落とすだろう。

 だからこそ、人食いの鬼は伝説や寝物語の住人となり果て、鬼殺隊も人々の伝聞の内に語り継がれるだけのものとされた。

 煉獄に、キサツタイの一人である女武士、五尺大太刀を抜き払ったシマエナガが問いを投げる。

 

「あの、煉獄さん。竈門少年って、確か、煉獄さんが、後を、託したって」

 

 そうだと頷く煉獄だが、目の前の少年は明らかに違う。違い過ぎる。

 

「あれが竈門少年であるものか」

 

 断言する。

 いかなる経緯をたどろうと、あの少年が鬼になることを許容するとは思えないし、何より、仲間や妹をあのような言い方をするなど、まったくもって考えられなかった。

 鬼になったばかりで正気を失っているというのならば、まだ納得がいく。しかし、煉獄は今、目の前の鬼と会話し、ある程度の意思疎通ができている。その事実がある以上、彼は間違いなく自我を有している。

 そんな状態にありながら、従容(しょうよう)と鬼舞辻の鬼であることを受け入れるものだろうか。彼が炭治郎本人ならば、自我を取り戻した瞬間に、己の状況を許すことなく、その場で自決する道を選ぶだろうと、容易に想像がつく。それが竈門(かまど)炭治郎(たんじろう)だと煉獄は理解していた。

 柱として鍛え上げた感覚野が告げる真実。

 目の前にいるものは、長年にわたり対峙し退治してきた、宿敵の一体であること。

 炭治郎……否……右目が肉腫で潰れた鬼の左目には、十二鬼月(じゅうにきづき)の証──上弦下弦の文字や数字の刻印は、一切、見受けられない。が、それでも、十二鬼月のそれに近い濃密な気配・鬼舞辻の血の濃さを、(いや)(おう)でも感じさせられる。あるいは、無限列車で戦った上弦の参(あかざ)よりも、この鬼の強さは桁違(けたちが)いに上やもしれない。

 

(しかし、わからん)

 

 あれの正体は間違いなく“鬼”であるが、それが炭治郎の姿を取っている理由は、何か?

 高性能な擬態能力を有しているにしても、何故、竈門炭治郎の姿に化ける必要があるのか?

 それこそ、煉獄の意識を読み取り、その像を形作る血鬼術(けっきじゅつ)という線は、ありえる。初対面のはずなのに煉獄のことを勝手知ったるがごとく、気さくに話しかけてこれたことも、記憶なり思考なりを読む術理を使ったものと推察できる。そんな非常識をやってのけるのが、鬼舞辻の鬼であり血鬼術だ。

 しかし、何故炭治郎である必要があるのか、(はなは)だ理解できない。

 煉獄の躊躇(ちゅうちょ)を誘うつもりであれば、煉獄ともっとも親しいもの──弟の千寿郎(せんじゅろう)、元炎柱たる父・槇寿郎(しんじゅろう)──幼き日に死に別れた母・瑠火(るか)に化ける方が、はるかに意義深いのではあるまいか。たとえ相手が家族の誰かであっても、煉獄は戦う気概を保ち得る……そう断ずることは、正直難しかった。実際、無限列車で敵の術中にはまった過去を、炎柱たる男は想起せざるを得ない。

 情報が不足している。現状において、偽物の炭治郎……鬼の思惑を(つか)みきれない。

 なんとも歯痒(はがゆ)い。思考の迷宮にはまりかけようという瀬戸際であった。

 

(それでも!)

 

 いずれにせよ。煉獄杏寿郎の内に(たぎ)るのは、たったひとつの決断である。

 僅か数瞬の思考を終えた。

 

「鬼舞辻の鬼は、俺がすべて(めっ)する!

 その(むご)たらしい口で、竈門少年の名を(かた)るな!」

 

 裂帛(れっぱく)の呼気と共に、炎熱の息吹(いぶき)が夕暮れの都市に漏れ出す。

 

「炎の呼吸 伍ノ型」

 

 繰り出したのは、鬼の郎党(ろうとう)(ことごと)く焼き包む技。

 

炎虎(えんこ)!」

 

 炎刀から(ほとばし)る斬撃は、虎のごとく巨大な焔となって(うな)りをあげる。 

 盾を構える女騎士──モーズグズの防御系スキル“女巨人の盾”が発動。グレンデル・マザーは傷だらけの顔を怯懦(きょうだ)に濡らしつつ、やはり傷だらけの腕で我が子の腕は固く保持したまま、後退。炭治郎に絡みついていた女神フレイヤも、(とろ)けた微笑みを浮かべたまま虚空へと(のが)れる。

 北欧神話の主神(オーディン)と並ぶ智者──ヴァフスルーズニルが、ひとつの魔法を詠唱。

 

『〈完全記憶操作(パーフェクト・コントロール・アムネジア)〉』

 

 精神系魔法の極み──対策を講じなければ意識を操られ、場合によっては大幅なレベルダウンを余儀なくされる強力な魔法であるが、

 

「──ッ、効かぬわ!」

 

 突進する煉獄は気合のみで、魔法の影響を弾き飛ばす。

『やはり』という風に微笑む男。彼は賢知に富んだ静かな声音──覚者めいた調べを保ったまま魔法の詠唱を続ける。

 

『では、モーズグズ(きょう)

無限障壁(インフィニティウォール)〉〈上位魔法盾(グレーター・マジックシールド)〉〈上位硬化(グレーター・ハードニング)〉〈炎属性防御(プロテクションエナジー・フレイム))』

 

 モーズグズへと注がれる強化魔法の数々。炎属性への耐性強化を受け、モーズグズは突撃を敢行。

 

「どけぇ!」

『どかない』

 

 叫ぶ煉獄に、長柄武器をもって立ちはだかる女騎士。

 日輪刀と機械槍が激突の火花を散らした。

 たった一合の鍔迫(つばぜ)りあいで、煉獄はモーズグズを真の実力者であると確信する。刃を交わしたまま、煉獄は炎の呼吸を己の肺腑(はいふ)の内に()りあげる。

 

「炎の呼吸 肆ノ型 盛炎のうねり」

 

 巨大な焔の渦を生む斬撃であったが、モーズグズの防御の硬さを突破できない。

 さらに打ち込んだ二撃三撃を阻まれ、四五六撃を打ち込まれ防御に徹する炎柱。

 

(この女騎士殿、相当の手練(てだ)れだ!)

 

 魔法の強化を受けていようと、最上位プレイヤー──ワールドチャンピオン級とも評される煉獄の振るう一撃に追随できるものは、極めて限られている。単純な反射速度の違いだけでも、煉獄の身体能力は超人の域に位置していた。しかし、

 

『あの方の邪魔は、させない』

 

 モーズグズは髑髏(どくろ)の口元から冷厳な声音をこぼしつつ、炎柱の技巧を見事防ぎきる。

 

「くッ!」

「煉獄さん! 援護します!」

 

 進撃を阻害される煉獄に、仲間たちからの支援が届いた。身体強化と防御魔法の重ね掛け。ついで、色とりどりの魔法、遠距離攻撃の矢弾(やたま)釣瓶打(つるべう)ちに炭治郎に迫る。だが、

 

「あは」

 

 炭治郎は腰にある日輪刀──鍔を失った刀に、手を這わせた。

 抜刀は一瞬。

 次の瞬間には、銃弾や魔法の弾幕が引き裂かれ、バリケードを築いていたプレイヤー十人が、宙を舞っていた。

 より正確には、空中に吊り上げられるように、体の中心を貫かれている。

 

「ッ、なに!?」

 

 驚愕した煉獄の瞳に映るのは、炭治郎の黒刀とは似ても似つかぬ、異形の凶器。

 竜の尾の骨を思わせる太い白刃がひとつと、黒鉄の刃で織り編まれた鞭のごとき触手が四つ。

 それが炭治郎の握る刀の柄から飛び出し、まるで遊弋(ゆうよく)する蛇のごとく夕暮の空に波打っている。

 超々高速で行われた殺戮劇に、殺された(とう)のプレイヤーたち本人が当惑していた。

 

「え……え?」

「お、あ?」

「うそ?」

 

 次の瞬間、炭治郎は鍔部分に骨のようなものが生えた刀を横へ振った。

 と同時に、プレイヤー十人の肉体が上下に千切れた。

 たった一撃。

 ただそれだけの攻撃で瞬殺されたプレイヤーたちが雑魚であった──そんなわけがない。

 

「ば、馬鹿な!?」

「冗談きつすぎでしょ!」

「そ、即死対策貫通とか、ありえねぇ?!」

 

 殺されたプレイヤーたちの仲間たちは、愕然となりつつ現実を否定。

 この都市はミズガルズ〈最奥〉への探索を試みるための前線基地……第十一開拓都市で経験を積んだプレイヤーたちは、軒並みLv.100の実力者だ。身に帯びる装備品も、超一級の最高クラス──“神器級(ゴッズ)”には届かないまでも、即死対策や時間対策などの必須要件を組み込んだ一級品ばかり。それがまるでガラス細工のように砕かれ、見るも無残な(しかばね)をさらさせる。

 

「信仰系! 早く蘇生させろ!」

「ちょ、駄目! 蘇生妨害されてる!」

「戦闘終了まで復活なしか! ヤバい相手だぜ!」

 

 そんな彼等の前で、(むくろ)が“動き始める”。

 

「な、ま、まさか?」

「え、ゾ、ゾンビ化?」

「じゃねえぞ、これッ!」

 

 さきほど煉獄が(ほうむ)ったプレイヤーと同じ末路。

 十人のプレイヤー──その上下に分断されたものたちが、ニ十体(・・・)

 奇怪で耳障(みみざわ)りな唸り声をあげる肉腫の群れ、牙と眼を剥く触腕の異形と化した。

 

「やっべえ、マジかよ!」

「全員、あの少年に殺されるな! 敵勢力に取り込ま、げぁ!」

「班長!」

障害物(バリ)もっと持ってこい! 早、ギャ!」

 

 注意喚起する端から、まるで(なぶ)るように炭治郎の刃がプレイヤーたちの胸を腹を首を頭を貫いていく。

 そして、肉腫と化した者たちが、仲間たちだったものたちへ抱擁(ほうよう)するように(くら)いついていく。

 

「ッッ、貴様ああああああああああああああああああああッ!」

 

 怒りのまま()える煉獄。

 しかし、彼を阻むモーズグズの槍捌(やりさば)きは、煉獄をとらえて放さなかった。

 成す術もなく蹂躙される都市のプレイヤーたち──

 だが。

 

「待って待ってやばいっしょ、これ!」

「うわ、鳥肌たってきたし!」

「とにかくあいつを、あのガキを潰せ! ブチ殺せ! 有象無象に構うな!」

「そんなこと言ってもーっ!」

「うちの主力が来るまでねばれ!」

「フレイヤの挙動にも注意しろ! 何しでかすか分からん!」

「くそが! この街を落とさせてたまるかよ!」

「ここまで進むのに、どれだけかかったと思ってる!」

「上等だぁ、やってやんよ!!」

「いくぞぉっ!!!」

 

 剣士が、騎士が、武士が、騎兵が、弓兵が、僧侶が、修道士が、司祭が、格闘家が、歩兵が、銃兵が、魔法詠唱者が、都市のありとあらゆるプレイヤーが、続々と戦線に加わっていく。

 

 渦巻く喧噪に満ち満ちる戦気、混沌を極める都市の中心で、煉獄とキサツタイは戦い続ける。

 そんな人間たちの奮戦に対し、炭治郎は太陽が西のかなたに沈みゆく空を背に、(わら)い続ける。

 

 ────ユグドラシルに、夜が、訪れようとしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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