煉獄杏寿郎と巡るユグドラシル【オバロ×鬼滅】   作:空想病

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第拾参話  煉獄杏寿郎、深手を負う

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 第十一開拓都市に夜が訪れ、戦場はにわかに暗澹(あんたん)の度を深めていく。

〈永続光〉の街灯が街を照らし、〈照明弾〉のアイテムが戦場を白く淡く染め上げる。

 その真下で戦う、鬼殺隊の“炎柱”たる男の雄叫びが、ミズガルズに(こだま)する。

 

「これ以上、貴様らの好きには、させん!」

 

 豪快に吼える煉獄は、ただひたすらに刀を振るい前進する。

 それを機械槍を振るう女騎士が立ちはだかって行く手を塞ぐ。

 

「煉獄さん!」

 

 カラスやシマエナガたち、仲間からのさらなる強化の援護を受け取りつつ、煉獄は肺腑のうちに練り上げた呼吸を、解放。

 

「炎の呼吸 壱ノ型 不知火(しらぬい)!」

『く……ッ!』

 

 執拗(しつよう)防御役(タンク)に徹していたモーズグズが、焔の一刀をしたたかに浴びた。

 

『ッ、行かせはしない』

「悪いが、押し通る!」

 

 鎧の左脇腹を炎の一閃で盛大に砕かれたモーズグズに追撃の蹴りを入れて飛び越え、煉獄はプレイヤーたちを蹂躙する少年……“鬼”の首魁として現れた自称炭治郎のもとへ、勇躍。

 彼の追撃を図るべく、白い羽織の背中に槍を変形させ(なげう)つ態勢をとるモーズグズ、であったが、キサツタイのクラン代表を務めるサムライ──煉獄の後を引き継ぐように現れたカラス、彼の振るう日本刀によって、冥府の女番人は機械槍を完全に封じられる。

 さらに、ガスマスクを被って釘バットと自動小銃を振るうタカナシや、全身に大具足を纏って十字槍を優雅に振るうシラトリも、クラン長に加勢。

 

『──邪魔を』

「モーズグズは俺らで押さえます、煉獄さんは!」

 

 (みな)まで言われるまでもなかった。頷く煉獄は後顧(こうこ)(うれ)いなく進軍する。

 肉の腫瘍じみた奇態極まる鬼の群れを薙ぎ払い、切り倒し、進撃を続ける。

 ついに、すべてのプレイヤーたちが遠く及ばなかった──転移魔法も完全に阻害している──炭治郎を、至近距離にとらえた。

 ありとあらゆる疑問や葛藤、躊躇や憐憫などと一切無縁な剣撃を、炎の呼吸と赫き刀身に乗せて繰り出す。

 

「炎の呼吸 伍ノ型 炎虎!」

 

 虎の(あぎと)が正確に、鬼の(くび)を、炭治郎の喉笛をとらえる……寸前、彼の振るう竜骨を思わせる異形の刃が、炎虎の横っ面を引き裂き貫いてしまった。

 

「はは。ひどいなあ」炭治郎はせせら笑う。「少しくらい加減してくれてもいいんじゃないですか、煉獄さん?」

 

 煉獄は炭治郎の顔でそのように(わら)う鬼が、心底から気に入らなかった。

 

「鬼に情け容赦など無用!」

 

 反撃の竜骨が殺到するのを、煉獄は迎撃する。

 

「肆ノ型 盛炎のうねり!」

 

 鞭のようにしなり、さながら龍のごとく躍動する骨の刃を、煉獄は辛くも防ぎきる。一本一本がとんでもない攻撃範囲と威力、そして速度を放つ斬撃と刺突兵器だ。鬼殺隊の柱である煉獄ですら、肝胆(かんたん)(さむ)からしめる超級の連撃。

 

(だが!)

 

 煉獄は(おく)さない。

 炭治郎の姿をした鬼は、ここで止める。止めなければならない。

 鬼の企図も計略も解せぬままだが、これを放置しておいてよいはずがない。炭治郎の名誉のためにも、炭治郎の姿をした鬼に、これ以上プレイヤーたちを害させるわけにはいかなかった。

 

「正体を現せ、鬼!」

 

 煉獄は怒号を戦場に(とどろ)かせた。

 

「これ以上、竈門少年を(はずかし)めることは、この俺が断じて許さん!!」

 

 鬼は答えない。

 代わりに、それまで固定されていた微笑みの色が、凍てつくような温度を帯びる。

 

「……暑苦しい」

 

 炭治郎は右目の腫瘍をいらだたしげに膨らませ、左目の虹彩に映る煉獄を心底わずらわしげに眺めやる。

 

「何にも知らないデク人形ごときが、この“僕”に指図するな」

 

 黒い笑みを浮かべ、炭治郎は強力な一撃、もとい五撃を煉獄に見舞う。

 

「くッ!」

 

 無論、煉獄は五本の刃による変則的な斬撃と刺突を完璧にしのいでみせるが、炭治郎が虚空へと飛び上がる間隙(かんげき)を与えてしまった。

 煉獄は逃がすまいと呼吸を練る。

 

「炎の呼吸 (ろく)ノ型!」

 

 同時に、鬼は告げる。

 

 

 

 

「“血鬼術(けっきじゅつ)”」

 

 

 

 

 瞬間、炭治郎の振るう凶刃が妖しい輝きを灯し、揺れる。

 そのまま陸ノ型で迎撃せんと身構える煉獄。

 だが、

 

「   ── ッ !!!? 」

 

 轟音が、煉獄の全身を打擲(ちょうちゃく)した。

 雷光のような一瞬の閃きと共に、とんでもない衝撃波が、炎柱の五体を完全に打ちのめしていた。

 

(な、なん、だ、いま、の、は!?)

 

 煉獄は上下の感覚すら失い、その場に(くずお)れた。鼻と口のみならず、目と耳からも血が吹き上がるほどの一撃を(こうむ)った。

 

(い、かん、呼、吸、が!!)

 

 できない。

 完全に、全集中・常中が、継続不能にされた。

 煉獄を襲ったものは、あの猗窩座(あかざ)の攻撃速度を超過してあまりあるほどの、刹那の衝撃光であった。

 もはや煉獄の痙攣(けいれん)する身体には、何の力もこもらない。俎上(そじょう)の鯉も同然の(てい)だ。その耳にも、仲間たちが驚愕の声をあげるのが聞こえない。かろうじて機能する眼球──それでも、ガタガタと震え崩れる暗い視野の中で見えたのは、炭治郎の牙だらけの口からこぼれる、暴悪な噴煙(ふんえん)

 一方で、キサツタイや都市のプレイヤーたちは、異形の刀ではなく炭治郎の口から放出された衝撃波を目視(もくし)していた。

 同時に、その余波を受けたものたち全員が、〈視覚喪失〉〈聴覚喪失〉〈意識混濁〉など、いずれかの状態異常(バッドステータス)罹患(りかん)してしまう。

 

「っ、くそ、なんなの、今の!」

「〈上位絶叫(グレーター・シャウト)〉か、〈核爆発(ニュークリアブラスト)〉か、何かか?!」

「そんなはずない! 魔法の兆候なんてなかったのに!?」

「っ、まずい! 煉獄の旦那モロに食らったぞ!」

「早く回復魔法を! ツーク!」

「やばっ、射程外!」

 

 昏倒する煉獄の傍へ駆け寄ろうと試みるキサツタイ隊員(メンバー)であったが、鬼の群れの物理的な肉壁は、如何(いかん)ともしがたい。転移魔法も効力を発揮しえない状況。あの煉獄杏寿郎が、こうも一方的かつ瞬間的に劣勢に立たされるなど、彼らは初めて見る光景であった。普段の煉獄が、巨竜の高速ブレスすらも見切り一刀両断する超一流の剣士であったがために、こうも追い込まれる事態など予期しようがなかったというのは、手痛い皮肉といえる。

 

「煉獄さん!!」

 

 カラスたちが悲鳴じみた叫喚をあげた。

 技後硬直を終えた炭治郎──彼の振るう長大な刃が、鬼を産む(きっさき)が、煉獄の喉に突き入れられようかという、その時だった。 

 

 

 

《 よくもウチのシマで好き勝手やってくれたな、このクソガキッ!! 》

 

 

 

 拡声器ごしの大音声が、夜の闇に包まれた戦場を席巻(せっけん)した。

 都市上空から、墜落よりも速いスピードで来襲する「蹴り」を、知覚しきれた者は皆無に近かった。

 唯一、知覚できていた炭治郎が刃を上空に構えた瞬間、鬼の頭領たる少年のいる空中・空間が──

 ()ぜた。

 極一点を穿ち貫いた破壊力は、隕石落下もかくやという衝撃を、ミズガルズの大地に叩き落とした。

 再び視野を染め上げて奪う紅蓮の光量に、プレイヤーたちが身構えてから、数秒後。

 商業ギルドの構成員たちが、快哉(かいさい)の声をあげた。

 

「や、やったぞ!」

「やっと来てくれたっ!」

「うちの実戦部隊長兼総支配人!」

「よ! 抱かれたい女プレイヤー、ナンバー(ファイブ)!」

「ばか、それ言ったら殺される!」

「おお、我らが“お嬢”!」

「た、助かったぁ」

 

 パウダーピンクの長髪を戦塵になびかせ、純銀のチャイナドレスに豊満な女体を包み込み、首元には“竜殺しの外布(タルンカッペ)”の真紅を巻き付けた女拳士──ビン底メガネをはずした「戦闘モード」──ギルド:ノーオータム・ギルド長“お嬢”が、第十一開拓都市への援軍を引き連れ、参上した。

 

「──き、──きみ、は?」

 

 倒れ伏したままの煉獄杏寿郎にかまうことなく、お嬢は小型マイクをつうじて、全都市中に告げる。

 

《 てめえら! 都市のことなんて考えんじゃねえ! おまえらがやるべきこと、やらなきゃいけねえことは、ひとつきりだ! 》

 

 ギルド長と同様に上空から落下してきた木こり(ランバージャック)が煉獄を背負って立ちあがるのを横目に見つつ、爆発の破孔の中心──円状に十メートルほど抉れた大地の底で、表情一つ変えずに現れる無傷のクソガキ──竈門炭治郎を睨み据えて、お嬢は明言する。

 

《 よりにもよって、商業ギルド(ウチら)に喧嘩を売りつけやがったクソゴミ共を、一匹残らず、この世界(ゲーム)から駆逐(くちく)しろッ!! 》

 

 その号令と共に、各所で広範囲魔法や殲滅攻撃が多用され始めた。

 お嬢の意を受け、援軍の実戦部隊に属する魔法使い達が詠唱する。

 

「〈魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)超酸の霧(ミスト・オブ・スーパーアシッド)〉!」

「〈魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)大溶岩流(ストリーム・オブ・ラヴァ)〉!」

「〈魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)隕石落下(メテオフォール)!」

 

 ともすれば、第十一開拓都市そのものが灰燼(かいじん)に帰しかねない第十位階の魔法群が発せられた──ギルド長自らの出陣に伴い、本格的な反攻が、はじまった。

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 

 鬼の坩堝(るつぼ)と化した大市場──都市中心部を見渡せる建造物、その屋上の陰に潜むモモンガたち一行は、愕然としつつも冷静に、戦局を見極めていた。

 あの少年剣士が放った衝撃波の一撃と、ついで現れた隕石落下のごときプレイヤーの一撃で、この建物を含む周囲にも相当のダメージがいっているが、三人は無事健在。

 

「ちょちょちょちょ、どうなったどうなった、おい弟?!」

 

 煉獄の窮地に思わず飛び出していこうとしたピンクの粘体(スライム)

 

「煉獄さんは無事、だけど……相変わらず、えげつないエフェクトフラッシュ。目が痛くなるな」

 

 そんな姉の頭を押さえるように制した弟である翼人(バードマン)が、鷹の目を細めるように呆れ声で呟く。

 

「あのひとの戦闘、本当に派手ですよね。前のミズガルズ・ワールドチャンピオン決勝戦でも大暴れで、かなり話題になりましたもんね」

 

 モモンガも正直な感想をこぼしてしまう。

 生で見るのははじめてだったが、彼女は、このユグドラシルでも名の知れた存在である。

 それこそ、不落の伝説を築いたアインズ・ウール・ゴウンや、ユグドラシルの世界探求に情念を燃やすワールド・サーチャーズ、常にギルドランキング首位(トップ)に君臨する天使系ギルド・セラフィムなどと並び称される、四大商業ギルドの一角──その首座に据えられた「廃課金プレイヤー」が、彼女。

 俗にいう“課金拳”によって、現ミズガルズ・ワールドチャンピオン“最上位竜騎兵”と雌雄を決し、惜しくも敗れ去った、輝かしい戦績を誇る──いうなれば“準ワールドチャンピオン”という実力をもって鳴るのが、数多(あまた)の商人プレイヤーを囲い、数多くのプレイヤーに商品を(おろ)す商業ギルド:ノー・オータム、ギルド長──総支配人兼実戦部(カチコミ)隊長たる“お嬢”であった。

 ギルド間の商取引においては、特徴的なビン底メガネをかけ、キャリアウーマン的な物腰の柔らかい才女めいた雰囲気を(かも)し出すのに対し、実戦闘においてはメガネをはずして、代わりに魔法系の課金装備である耳飾りを重宝し、そのおもてに飾られた不機嫌そうな女の美貌を惜しげもなく衆目にさらす。そういった二面性が、彼女のある種のカリスマ性を発露させていた。商務においても戦闘においても、彼女は類まれなる才幹を発揮して、先代ギルド長や幹部たちの信任を受け、現在の地位を確立したとされている。

 

「で、どうします、モモンガさん?」

「そうですね」

 

 煉獄が一瞬で戦闘不能にされた姿を見たときは本気で救出に行こうともしたが、それもなんとか不要になった。商業ギルドの実戦部隊は、都市上空の数百メートル上──転移阻害の範囲外から、ヘリボーンよろしく続々と降下してきている。

 にわかに騒がしさを増す戦況を見たがり、ぴょこぴょこ跳ねるぶくぶく茶釜──そんな姉を小脇に抱えるペロロンチーノの促言(そくげん)に、モモンガは判断を下す。

 

「なにはともあれ、都市の援軍も予想より早く到着しましたし、煉獄さんもキサツタイも無事救出されたと見ていいでしょう。──自分たちの援護も必要なさそうです。都市の援軍にまぎれて、そろそろ脱出ルートの手筈を整え」

 

 ようとした、その時。

 

「もしも~し。ちょっと、よろしいですか?」

 

 モモンガたちは肩を揺らし、「ふぁ!?」という頓狂(とんきょう)な声を出して振り返った。

 人除(ひとよ)けの魔法をはっているはずの屋上に、その声の主は現れた。

 まるで宙を舞う(ちょう)のように、音もなく現れた女性は、なごやかな声色でたずねる。

 

伊黒(いぐろ)さんと二手(ふたて)に別れて、襲われたこの都市の人たちを助けていたところなのですが。

 今しがた、そちらの骸骨さん。“煉獄(れんごく)さん”って、言いました? 言いましたよね?

 ──これはどういうことなのでしょうか? (くわ)しく聞かせていただけませんか?」

 

 夜の(とばり)の下。

 (ちょう)(はね)を思わせる羽織を纏った女性剣士が、にこやかな音色と共に“刃のない”日本刀──日輪刀──を抜いて、モモンガたちを微笑(ほほえみ)のまなざしのうちに()めつけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、モモンガたちは胡蝶(こちょう)しのぶと、相対した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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