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第十一開拓都市に夜が訪れ、戦場はにわかに
〈永続光〉の街灯が街を照らし、〈照明弾〉のアイテムが戦場を白く淡く染め上げる。
その真下で戦う、鬼殺隊の“炎柱”たる男の雄叫びが、ミズガルズに
「これ以上、貴様らの好きには、させん!」
豪快に吼える煉獄は、ただひたすらに刀を振るい前進する。
それを機械槍を振るう女騎士が立ちはだかって行く手を塞ぐ。
「煉獄さん!」
カラスやシマエナガたち、仲間からのさらなる強化の援護を受け取りつつ、煉獄は肺腑のうちに練り上げた呼吸を、解放。
「炎の呼吸 壱ノ型
『く……ッ!』
『ッ、行かせはしない』
「悪いが、押し通る!」
鎧の左脇腹を炎の一閃で盛大に砕かれたモーズグズに追撃の蹴りを入れて飛び越え、煉獄はプレイヤーたちを蹂躙する少年……“鬼”の首魁として現れた自称炭治郎のもとへ、勇躍。
彼の追撃を図るべく、白い羽織の背中に槍を変形させ
さらに、ガスマスクを被って釘バットと自動小銃を振るうタカナシや、全身に大具足を纏って十字槍を優雅に振るうシラトリも、クラン長に加勢。
『──邪魔を』
「モーズグズは俺らで押さえます、煉獄さんは!」
肉の腫瘍じみた奇態極まる鬼の群れを薙ぎ払い、切り倒し、進撃を続ける。
ついに、すべてのプレイヤーたちが遠く及ばなかった──転移魔法も完全に阻害している──炭治郎を、至近距離にとらえた。
ありとあらゆる疑問や葛藤、躊躇や憐憫などと一切無縁な剣撃を、炎の呼吸と赫き刀身に乗せて繰り出す。
「炎の呼吸 伍ノ型 炎虎!」
虎の
「はは。ひどいなあ」炭治郎はせせら笑う。「少しくらい加減してくれてもいいんじゃないですか、煉獄さん?」
煉獄は炭治郎の顔でそのように
「鬼に情け容赦など無用!」
反撃の竜骨が殺到するのを、煉獄は迎撃する。
「肆ノ型 盛炎のうねり!」
鞭のようにしなり、さながら龍のごとく躍動する骨の刃を、煉獄は辛くも防ぎきる。一本一本がとんでもない攻撃範囲と威力、そして速度を放つ斬撃と刺突兵器だ。鬼殺隊の柱である煉獄ですら、
(だが!)
煉獄は
炭治郎の姿をした鬼は、ここで止める。止めなければならない。
鬼の企図も計略も解せぬままだが、これを放置しておいてよいはずがない。炭治郎の名誉のためにも、炭治郎の姿をした鬼に、これ以上プレイヤーたちを害させるわけにはいかなかった。
「正体を現せ、鬼!」
煉獄は怒号を戦場に
「これ以上、竈門少年を
鬼は答えない。
代わりに、それまで固定されていた微笑みの色が、凍てつくような温度を帯びる。
「……暑苦しい」
炭治郎は右目の腫瘍をいらだたしげに膨らませ、左目の虹彩に映る煉獄を心底わずらわしげに眺めやる。
「何にも知らないデク人形ごときが、この“僕”に指図するな」
黒い笑みを浮かべ、炭治郎は強力な一撃、もとい五撃を煉獄に見舞う。
「くッ!」
無論、煉獄は五本の刃による変則的な斬撃と刺突を完璧にしのいでみせるが、炭治郎が虚空へと飛び上がる
煉獄は逃がすまいと呼吸を練る。
「炎の呼吸
同時に、鬼は告げる。
「“
瞬間、炭治郎の振るう凶刃が妖しい輝きを灯し、揺れる。
そのまま陸ノ型で迎撃せんと身構える煉獄。
だが、
「 ── ッ !!!? 」
轟音が、煉獄の全身を
雷光のような一瞬の閃きと共に、とんでもない衝撃波が、炎柱の五体を完全に打ちのめしていた。
(な、なん、だ、いま、の、は!?)
煉獄は上下の感覚すら失い、その場に
(い、かん、呼、吸、が!!)
できない。
完全に、全集中・常中が、継続不能にされた。
煉獄を襲ったものは、あの
もはや煉獄の
一方で、キサツタイや都市のプレイヤーたちは、異形の刀ではなく炭治郎の口から放出された衝撃波を
同時に、その余波を受けたものたち全員が、〈視覚喪失〉〈聴覚喪失〉〈意識混濁〉など、いずれかの
「っ、くそ、なんなの、今の!」
「〈
「そんなはずない! 魔法の兆候なんてなかったのに!?」
「っ、まずい! 煉獄の旦那モロに食らったぞ!」
「早く回復魔法を! ツーク!」
「やばっ、射程外!」
昏倒する煉獄の傍へ駆け寄ろうと試みるキサツタイ
「煉獄さん!!」
カラスたちが悲鳴じみた叫喚をあげた。
技後硬直を終えた炭治郎──彼の振るう長大な刃が、鬼を産む
《 よくもウチのシマで好き勝手やってくれたな、このクソガキッ!! 》
拡声器ごしの大音声が、夜の闇に包まれた戦場を
都市上空から、墜落よりも速いスピードで来襲する「蹴り」を、知覚しきれた者は皆無に近かった。
唯一、知覚できていた炭治郎が刃を上空に構えた瞬間、鬼の頭領たる少年のいる空中・空間が──
極一点を穿ち貫いた破壊力は、隕石落下もかくやという衝撃を、ミズガルズの大地に叩き落とした。
再び視野を染め上げて奪う紅蓮の光量に、プレイヤーたちが身構えてから、数秒後。
商業ギルドの構成員たちが、
「や、やったぞ!」
「やっと来てくれたっ!」
「うちの実戦部隊長兼総支配人!」
「よ! 抱かれたい女プレイヤー、ナンバー
「ばか、それ言ったら殺される!」
「おお、我らが“お嬢”!」
「た、助かったぁ」
パウダーピンクの長髪を戦塵になびかせ、純銀のチャイナドレスに豊満な女体を包み込み、首元には“
「──き、──きみ、は?」
倒れ伏したままの煉獄杏寿郎にかまうことなく、お嬢は小型マイクをつうじて、全都市中に告げる。
《 てめえら! 都市のことなんて考えんじゃねえ! おまえらがやるべきこと、やらなきゃいけねえことは、ひとつきりだ! 》
ギルド長と同様に上空から落下してきた
《 よりにもよって、
その号令と共に、各所で広範囲魔法や殲滅攻撃が多用され始めた。
お嬢の意を受け、援軍の実戦部隊に属する魔法使い達が詠唱する。
「〈
「〈
「〈
ともすれば、第十一開拓都市そのものが
・
鬼の
あの少年剣士が放った衝撃波の一撃と、ついで現れた隕石落下のごときプレイヤーの一撃で、この建物を含む周囲にも相当のダメージがいっているが、三人は無事健在。
「ちょちょちょちょ、どうなったどうなった、おい弟?!」
煉獄の窮地に思わず飛び出していこうとしたピンクの
「煉獄さんは無事、だけど……相変わらず、えげつないエフェクトフラッシュ。目が痛くなるな」
そんな姉の頭を押さえるように制した弟である
「あのひとの戦闘、本当に派手ですよね。前のミズガルズ・ワールドチャンピオン決勝戦でも大暴れで、かなり話題になりましたもんね」
モモンガも正直な感想をこぼしてしまう。
生で見るのははじめてだったが、彼女は、このユグドラシルでも名の知れた存在である。
それこそ、不落の伝説を築いたアインズ・ウール・ゴウンや、ユグドラシルの世界探求に情念を燃やすワールド・サーチャーズ、常にギルドランキング
俗にいう“課金拳”によって、現ミズガルズ・ワールドチャンピオン“最上位竜騎兵”と雌雄を決し、惜しくも敗れ去った、輝かしい戦績を誇る──いうなれば“準ワールドチャンピオン”という実力をもって鳴るのが、
ギルド間の商取引においては、特徴的なビン底メガネをかけ、キャリアウーマン的な物腰の柔らかい才女めいた雰囲気を
「で、どうします、モモンガさん?」
「そうですね」
煉獄が一瞬で戦闘不能にされた姿を見たときは本気で救出に行こうともしたが、それもなんとか不要になった。商業ギルドの実戦部隊は、都市上空の数百メートル上──転移阻害の範囲外から、ヘリボーンよろしく続々と降下してきている。
にわかに騒がしさを増す戦況を見たがり、ぴょこぴょこ跳ねるぶくぶく茶釜──そんな姉を小脇に抱えるペロロンチーノの
「なにはともあれ、都市の援軍も予想より早く到着しましたし、煉獄さんもキサツタイも無事救出されたと見ていいでしょう。──自分たちの援護も必要なさそうです。都市の援軍にまぎれて、そろそろ脱出ルートの手筈を整え」
ようとした、その時。
「もしも~し。ちょっと、よろしいですか?」
モモンガたちは肩を揺らし、「ふぁ!?」という
まるで宙を舞う
「
今しがた、そちらの骸骨さん。“
──これはどういうことなのでしょうか?
夜の
こうして、モモンガたちは