煉獄杏寿郎と巡るユグドラシル【オバロ×鬼滅】   作:空想病

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※注意※
この話で登場する八人のワールドチャンピオンは、すべて二次創作の独自設定です。
原作で明言されている情報は、ムスペルヘイムのチャンピオンはネカマくらいです。
なので、あしからず。


余談    ナザリックの軍師、大錬金術師との雑談

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 ヘルヘイム。

 ナザリック地下大墳墓、第九階層“ロイヤルスイート”、円卓の間。

 四十一人が同時に着席できる巨大な円卓の一隅で、小さな異形が、ひとり。

 

「ん~……」

 

 全身が(つる)によって編まれた植物系異形種“蔦の死神(ヴァイン・デス)”のプレイヤーは、ひとりで自作したレジュメに目を通していた。

 

「何してるんです、ぷにっと萌えさん?」

「え──うわぉっと!」

 

 ふと、仲間からの呼びかけに、蔦だらけの顔面の奥に輝く瞳を上へ向ける。そこにいたのは、同ギルドに所属する「大錬金術師」タブラ・スマラグディナの、顔色の悪い蛸頭。

 溺死体めいた異形の見た目は黒いボンテージ衣装に覆われており、細く鋭い手指の間には、魚類のそれを思わせる水かきもついている。

 それが振り向いた至近距離にあって、ヴァイン・デスは全身の蔦を驚きに揺らしてしまった。なんの気配も兆候もなく現れられるのは、現実の心臓に悪すぎる。

 

「びっ、びっくりしたぁ──もー、おどろかさないでくださいよ、タブラさん」

 

 この円卓の間は、アインズ・ウール・ゴウンのメンバーがログインするのに多用する、ギルド拠点の最奥地点だ。

 タブラ・スマラグディナがインしてくるのにも気づかないほど、自分は作業に熱中していただろうかと自問しかけるぷにっと萌えであったが、

 

「ああ、いや、すいません。何回かお呼びしたんですけど──ずいぶんと集中されてましたね? なにされてたんです?」

 

 疑問を継続する必要もないと頷き、ナザリックの軍師、アインズ・ウール・ゴウンの諸葛孔明は、手元にある資料をコンソールで仲間(タブラ)のもとに送る。

 

「たっちさんが引退されて、それに合わせた感じで、ウルベルトさんもIN(イン)しなくなってきてますからね。改めて、うちのギルドの戦術を練っていたところです」

「あー……それは、お疲れ様です」

 

 タブラは遠く虚空を仰ぐような感情(エモーション)アイコンを浮かべて、ナザリックの軍師をねぎらった。ぷにっと萌えも感謝するように笑顔のアイコンを頭上に浮かべる。

 

「いや、まぁ。正直なところ、近接職最強と魔法職最強が抜ける穴は、どうしようもないというのが本当ですけど」

「確かに。でも、以前ならいざ知らず、あの1500人撃退のおかげで、うちを本格的に討伐しよう敵対しようなんて勢力はいないんですから、そこまで気になさらなくても?」

「まぁ。そうなんですけどね」

 

 ぷにっと萌えは頬杖(ほおづえ)をついて述懐(じゅっかい)する。

 

「あの第八階層攻略戦の録画データ──タブラさんが作ってくれた“ルベド”、第八階層の“あれら”、そして、モモンガさんが起動した世界級(ワールド)アイテムによる戦闘……“蹂躙”……「1500人全滅」のおかげで、うちは名実ともに『難攻不落』のギルドになりましたからね。総勢で千を超える討伐隊を投じても、どうしようもないほどの反則技(チート)──いや、チートでもなんでもなく、そういう威力の世界級(ワールド)アイテムなのだから、文句のつけようもない。運営からのお墨付きもいただいているわけですし、そこは別に問題ないんですよ。ただ──」

「ただ?」

 

 タブラの鸚鵡(オウム)(がえ)しに、ぷにっと萌えは頭を振った。思わず呟きかけた言葉を飲み込んで、話題を喫緊(きっきん)のものに転じる。

 

「それよりも重要なのは、次のワールドチャンピオン、()アルフヘイム・ワールドチャンピオンがどうなるか、です」

「ふむ。確かに。それは気になるところですね」

 

 ナザリック地下大墳墓が誇る近接職最強、たっち・みーが引退を宣言し、アカウントを消去したことによって、ユグドラシル世界において冠絶した武の頂点たる九つの座の一席が、空位となった。

 ワールドチャンピオンは、ユグドラシル運営が開催する公式大会の優勝者に贈られる至宝のレベルデータだ。一対一のガチンコ勝負において、他に類を見ない戦闘センス──もしくは、戦闘ステータスを発揮した者のみが、その栄誉職のレベルデータを、公式から正式に授受(じゅじゅ)される。それだけでなく副賞として、ワールドチャンピオンの求める形状の武具や防具──たっち・みーの場合は“鎧”のアース・リカバリーがそれである──も、直々に鍛造製造されるという厚遇っぷりで、ユグドラシルに存在する全プレイヤーの羨望と賞賛を集めてやまない。さらにいえば、ワールドチャンピオンには専用ともいえるスキルが存在しており、その威力はうまく使いこなせば世界級(ワールド)アイテムすらも防御しきるという破格ぶりときている。これだけの条件が揃えられて、ワールドチャンピオンにあこがれないユグドラシルプレイヤーはいないと、そう断言しても過言にはなるまい。

 そして、アルフヘイムにおいて、近々、次のチャンピオンズトーナメント──決闘大会が開催される運びであるという事実。

 

「今ユグドラシルにいるワールドチャンピオンは、八名」

 

 ぷにっと萌えは確認するように植物の指を順番に八本折る。

 

 1、アースガルズ・ワールドチャンピオン  “剣帝”

 2、ミズガルズ・ワールドチャンピオン   “最上位竜騎兵”

 3、ヨトゥンヘイム・ワールドチャンピオン “天裂き地吞む狼”

 4、ニダヴェリール・ワールドチャンピオン “鐵”

 5、ヴァナヘイム・ワールドチャンピオン  “獅子奮迅”

 6、ニヴルヘイム・ワールドチャンピオン  “最上位死霊王”

 7、ヘルヘイム・ワールドチャンピオン   “深祖”

 8、ムスペルヘイム・ワールドチャンピオン “絶対最強超絶無敵火炎姫”

 

 そして、()アルフヘイム・ワールドチャンピオン“正義降臨”──たっち・みーで、合計九人。

 たっち・みーの例から分かる通り、各ワールドの優勝者は、各ワールドに必ずしも居住・根拠地を持っているというわけではなく、また、種族なども特に定めが設けられていることはない。ただ、公式大会が開かれるワールドごとに、得意不得意・有利不利の相性が存在することを考慮すれば、自然とそのワールドに属する種族で挑戦する者が圧倒的多数である。人間の世界であるミズガルズのチャンピオンしかり。異形種に有利なニヴルヘイムやヘルヘイムのチャンピオンもしかり。

 だが無論、例外というのも存在している。天使種族が最強であるはずのアースガルズに君臨する“剣帝”は、人間種のプレイヤー“剣帝”が長く勝利し続け、現ムスペルヘイムのチャンピオンは、先代が七大罪の魔王のアイテムを使用しワールド・エネミー化、軍団(レギオン)によって完全討伐された(のち)、ムスペルヘイム火山地帯の大熱気が渦巻く領域で開催された大会会場で堂々と課金拳で勝ち上がった、これまた人間種の少女である。

 

「だが男だ」

 

 ふと思い出して(ひと)()ちる植物の異形。

 

「この八人のワールドチャンピオン、いや、七人がそれぞれ属するギルドもなかなか手強(てごわ)い相手です。とくに、ニヴルヘイムの黒城(くろじろ)──ヘルヘイムの白城(しろじろ)である“氷河城“と文字通り()()()()鋼鉄城(こうてつじょう)”、あそこをおさえたニヴルヘイムチャンピオンのギルドは、なかなかに厄介です」

「今度アルフヘイムで生まれるチャンピオンが、どこのギルド所属かによっても、勢力図の書き換えは不可避ですね」

「うちのお歴々、とくに建御雷(たけみかずち)さんたちも狙ってはいますけど、正直な話、たっちさんレベルの戦闘力には遠く及びませんし。かと言って、商業ギルドのような大所帯から出たら、正直メンドくさい──でも、やはり最有力なのは、準ワールドチャンピオン級──公式大会で惜しくも敗れた人たちですからね」

 

 ぷにっと萌えは四大商業ギルドのひとつを治めるプレイヤーを思い出す。

 異形種ギルドであるアインズ・ウール・ゴウンとは直接取引することはないギルドではあるが、なにしろユグドラシルのプレイヤーの多くは人間種であり、そのほぼ全員が何かしらの形でかかわりを持つ団体だ。同盟を組むワールド・サーチャーズと共にユグドラシルの深部を探索する事業──開拓都市の造営だけみても、驚嘆に値する。

 よくもまぁそんな面倒きわまる慈善事業を、と思わないでもないぷにっと萌えだが、彼自身ただのゲーム内のギルドで、こうして軍師役として作戦立案や情報整理に精を出しているのだから、他人(ひと)のことをどうこう言えはしないだろう。

 ナザリックの軍師は言い連ねる。

 

「とりあえず、たっちさんの後釜、次のアルフヘイムチャンピオンがどうなるか目を離せません。他のランカーギルドの動静も含めて、警戒するに越したことはなし。お隣のニヴルヘイムとヘルヘイムは現在、モーズグズ不在で行き来が自由ですから」

「確かに。あ、そうそう。忘れちゃいけなかった。ニヴルヘイムの鋼鉄城で思い出したんですが──うちのワールド、ヘルヘイムにある氷河城で、こんな噂があるの、知ってます?」

「噂?」

「なんでも、氷河城の女主人・ヘルを打倒し、城を占拠した団体がいて、その首領はワールドエネミーに認定された、っていう話」

「……へえ、……どこ情報です、それ?」

 

 あくまで噂だと肩をすくめてみせるタブラ・スマラグディナ。

 

「にわかには信じがたい話ですね」

 

 ぷにっと萌えは深刻かつ懐疑的(かいぎてき)な低声をあげるしかない。が、タブラは持ち寄った情報は侮りがたいものがある。氷河城は、推定だがナザリック地下大墳墓を超える攻略難易度を有する、冥界(ヘルヘイム)の最上級ダンジョン・最重要拠点のひとつと目されている。それが何者かの団体に占拠されるだけでも大問題だが、そこからなにをどうしたら、首領がワールドエネミーになったという話につながるのか、まるで理解が追いつけない。

 しかし。

 これが事実であったとしたら。

 自分たちアインズ・ウール・ゴウンにとっては決して無視できない案件となる。

 

「どこかのワールドチャンピオンの仕業でしょうか? でも、現在確認されている八人は、それぞれのギルド拠点が確認されて、あ、いや一人だけ、炎姫は違いましたか。でも、あれがヘルヘイムにちょっかいを出すとは考えにくい──いずれにせよ要確認事項ですね。弐式炎雷さんたちの偵察部隊に、協力要請を出しておきます」

 

 おねがいしますと頷く、蛸頭の大錬金術師。

 ぷにっと萌えは顎に手を添えて、氷河城に関する情報を可能な限り想起する。 

 

「うちと同ワールドということを加味しても、敵対するとなれば非常に面倒な相手になりそうですね。セラフィムのようなうちの天敵連中でないだけマシではありますが、なんにしても、警戒するに越したことはありません」

「モモンガさんにも、一応報告しておいたほうがいいですよね?」

「無論です。まだ確定情報とはいかずとも、ヘルヘイムの情報は優先度()()()()です。でないと足元をすくわれかねませんから。──まったく。うちはたっちさんたちの引退で苦しいってのに、新チャンピオンだの、氷河城のエネミーだの、兎角(とかく)やることが多い」

「悪のギルドの宿命、という感じですかね?」

 

 どうしたものかと肩を揉みほぐす全身蔦製植物の異形は、小さな体を椅子の上で反らした。

 タブラは「ワールドチャンピオンといえば」と言い添え、最近話題の人物を思い起こした。

 

「あのひとのことも気にかかりますよね。──最近、モモンガさんと懇意(こんい)にしている」

「懇意──ああ、煉獄杏寿郎さん、ですね?」

 

 二人は頷きを返しあった。

 ぷにっと萌えは一瞬、彼が本当の優勝者(チャンピオン)として、このゲーム内に覇を唱える可能性に思い至る。

 

「でも、まぁ、聞く話によると、彼が所属しているキサツタイは、ただのクランです。自分たちで攻略した拠点もない団体では、正直、うちの障害になる確率は低いでしょう」

「ですか──あー、そういえば、今日、モモンガさんは、煉獄さんのところに?」

「ええ。ミズガルズに。護衛はいつものように茶釜さんとペロロンチーノさんが」

 

 ぷにっと萌えは彼らの予定を思い出す。

 ミズガルズは、異形種には不利な世界。であるが、アインズ・ウール・ゴウンは率先して、ほかのワールドに進出することを、ギルド方針に定めて久しい。そのための対策──人間種に化ける幻術や、タブラ・スマラグディナ謹製の仮面(マスク)など、枚挙に(いとま)がない。

 

(予定だと、もう帰ってきていい時間だけど、まぁ、今回も無事に帰ってくるでしょ)

 

 これまでも特に問題なくミズガルズに潜入できている。その事実がぷにっと萌えに楽観視の眼鏡をかけさせていた。

 ユグドラシルのプレイヤーの多くは、異形種狩り──俗にいうPKを多用する。否、多用することを“推奨されている”と言える。彼らの取得する職業(クラス)レベルの中には、ある程度のPKポイント──これは人間種を殺すとペナルティを被るが、異形種相手だとペナルティが発生しない──を必須とするものもある。そのため、上位職への転職(クラスチェンジ)にはPK行為が必要不可欠なのだ。ユグドラシル運営側が、率先してプレイヤー同士を相争わせる構図を敷いているといってもよい。こんなゲーム体制は他のゲームにはありえないほどであり、PK連中が大手を振って存在している大因でもあった。

 しかし、いかに自分で選んだこととはいえ、人間種プレイヤーに袋叩きにされる異形種プレイヤーにとっては迷惑千万この上ない。

 そんな不愉快なPK連中を“PKK”することを、ギルド:アインズ・ウール・ゴウンは標榜(ひょうぼう)し、ゆえに“悪のギルド”などという通称を奉じられるにいたった。

 

「ミズガルズで噂のキサツタイ──煉獄杏寿郎さん。

 たっちさんレベルの戦闘力とは──正直、人間種なんてやめて、異形種としてうちに属してくれたら、と思わずにはいられませんね」

 

 そうすれば、ギルド:アインズ・ウール・ゴウンの利となり益となることは明白。

 だが、煉獄杏寿郎の“なりきり”レベルは聞き及んでいる。

 お気に入りのキャラ設定、珠玉のビジュアルデータを捨ててまで、アインズ・ウール・ゴウンに鞍替えしてくれるような可能性はないと、モモンガなどは直感していた。現役の声優であるぶくぶく茶釜など、彼の巧みな演技力と行動力とを心から尊敬し、称揚(しょうよう)し、率先してモモンガの護衛役を買って出るほどに、煉獄との交流を楽しんでいる節があった。最近では煉獄の影響で、彼が出演する古い映画やコミック本──100年前の古書を読みふけるほどだという。そんな友と姉──二人にペロロンチーノがついていくのは、もはや自然の法則とさえいえるだろう。

 ふと、ぷにっと萌えはタブラが一音も返さないことを不審に思った。

 

「タブラさん、どうかしました?」

「…………え?」

「なにか、モモンガさんたちのことで、気になることでも?」

 

 いえ、と力なく言いよどむタブラであったが、

 

「なんでもありません」

 

 それだけ言って笑顔のアイコンを浮かべてみせた。

 ぷにっと萌えは、常の彼らしくない挙動に現実の眉を(ひそ)めかけ、

 

「緊急事態! 緊急事態だよ!!」

 

 円卓の間の扉を開けて、ギルドメンバーの一人、半魔巨人(ネフィリム)のやまいこが勢いよく飛び込んできた。

 彼女は急報を告げる。

 

「かぜっちが! モモンガさん達が!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




※注意※
ニヴルヘイムには「吹雪の中で出現する氷結城」があるという原作情報がありますが、拙作に登場する黒城・鋼鉄城とは、まったく別のものとしております。あしからず。

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