鬼との戦いで倒れた煉獄さんは?
第拾漆話 煉獄杏寿郎、夢を見る -1
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煉獄杏寿郎は、夢を見ていた。
父との稽古。
弟との会話。
母との別離。
それらいつもの夢とは一線を画す──奇妙な、奇態な、奇抜に過ぎる、夢。
地平線の果てまで炎で覆われた大地。
見るものが見れば、彼の『無意識領域』に近似する、燎原の荒野。
煉獄はまったく意識することなく、炎熱が渦巻く大地の上を踏破する。一歩一歩に力を込めて、常の彼らしい健脚のまま。
ここはどこだろうと思う矢先、
「 」
誰かの声を聴いた。
歩きながら耳をそばだてるが、周囲には誰もいない。
煉獄以外の誰も────
「──────!」
煉獄は立ちどまった。
立ちすくんだというべきだろうか。
尋常ならざる怒気を孕んだ、言い争いの声量。
それは至近で聞こえているのに、煉獄の周囲には誰も──
「──────?!」
「──────!!」
誰もいないと思っていたのだが、気が付くと、古い屋敷の座敷の中にたたずむ己を知覚して、仰天する。
しかし、煉獄は声が出ない。
否。声が出せないどころではない。
ありえない現象に目を丸くしてその場にたたずむが、体はまるで勝手に──決められたこと・定められたことに沿うがごとく、動く。杏寿郎の意思とは無関係に。
煉獄は座を見渡していた。
周囲には侍とおぼしき者たち・帯刀した剣士たちが集い、一人の男を取り囲んで、言葉汚く罵り、糾弾し、断罪していた。
煉獄は判然としないながら、状況を理解した。
いかなる理由によってか──どうやら煉獄は、断罪する者達とされる者、両者の間に割って入って、孤立無援なありさまの男を守ろうとする誰かに、なっている……らしい。
これも夢の不可思議な幻か。
ひときわ大きな怒号が、煉獄の鼓膜をしたたかに叩きだした。
「鬼の祖を仕損じただと!?」
(鬼の、祖、だと?)
その単語に該当しうるものは、鬼舞辻無惨ただ一人だけ──それを口の端にのぼらせることができる者たちとすれば、鬼殺隊以外ありえない。
だが、彼らの身なりは、杏寿郎の知る現在の鬼殺隊のそれにはあらず。
規格統一された隊服ではないが、刀を
それにしても、この夢はいったいなんだ──煉獄は大いに疑念するが、やはりは声は出せない。
一方で、
侍と思しき者たち──否、鬼殺の剣士らしきものたちは、怒気の大火に燃料をくべて
「今一歩のところまで追いつめたからなんだ! 討ち損じては何の意味もありはしない! この愚か者が!」
「しかも、傍にいた鬼の娘をみすみす取り逃がしただと!?」
「手落ちにもほどがある! せめて、その鬼の娘を捕らえ、始祖について知りうることを洗いざらい吐かせるべきだったろうに! たとえ拷問にかけてでもな!!」
「貴様の兄の裏切りで、こちらにはどれほどの被害が出たか、分かっておるのか! 我等の、お、お……お
「この責任をどう取るというのか!」
「即刻この場で自刃せよ!」
仲間たちからの弾劾の言の葉で、ひたすらに鞭打たれる男──ただ己の犯した罪に双肩を押さえつけられる咎人──額に太陽を思わせる
そして、口が勝手に語を紡ぐ。
「そんなことはあんまりだ! 彼のおかげで、我等はここまで強くなれたのだ! 皆、忘れたわけではあるまい! 彼の力添え、呼吸術の伝承、なにより、剣の指南があったからこそ、我らは以前にもまして、悪しき鬼どもを討ち果たせているではないか!?」
「ええい、黙っておれ煉獄!」
「炎柱殿! もはやそれどころの話にはあらず!」
煉獄が事態の鎮火を試みて尚、男が罰せられて当然という空気だけが醸造される中、座敷の中で上座に座る少年──お館様が一言、男の罪を
仲間たちは口々に異を唱えた。聞けば、彼の父──先代という会話から、齢六つほどの少年が、死んだ父の後を継いだようだ。
結局、当代のお館様の恩赦によって命を救われ、代わりに男は鬼狩りから追放されることに相成った。
「すまぬ…………すまぬ、
煉獄は、一人去っていく男──
「自分がもっと強く! 彼らを説得できていれば! 鬼狩りである我等にとって、大恩ある君を、
煉獄は、彼との思い出を語らずにはいられなかった。彼の驚異的な剣才と教導によって、鬼狩りの剣士たちは飛躍的に力を向上させたこと。呼吸術の基礎となる「水」「風」「岩」「雷」そして「炎」の礎を築いてくれたこと。それほどの人物が、ただ一度の
それを受けた縁壱は、静かに首を振った。
「私の方こそ、感謝しております、炎柱……煉獄殿」
煉獄は涙溢れる面を上向け、彼を見た。
「あなたのおかげで、私はうたを──殺された妻と子を、十日ほども過ぎてようやく
あなたが来てくれなければ、私はあのまま、死んだ二人を抱いたまま、枯れ死んでいたやもしれない」
煉獄は彼との出会いを思い出して、さらに涙の大粒を溢れさせた。
縁壱は言い募る。
「あなたが導いてくれたおかげで、私は鬼狩りになれた。
私の大切なものを奪ったものたちを追う使命を──得ることができた」
「──縁壱殿っ!」
煉獄は滂沱の涙を流して膝を屈した。男泣きを繰り返す恩人に、縁壱は深く頷いて言い添えた。
ありがとう。
そうして去っていく継国縁壱を──太陽の耳飾りが揺れる微笑み──友の最後の姿を、煉獄家の始祖は見えなくなるまで、一人見送った。
煉獄は自邸に戻って、悔悟の念に腹が捩じ切れそうになりながら筆を執り、涙で紙面を濡らしながら書を
『この日、我々は大いなる柱を失った。我等鬼狩りは、空に
杏寿郎は、やがてそれが、己が生前読むことのなかった炎柱の秘伝書となることを、まだ知らない。