煉獄杏寿郎と巡るユグドラシル【オバロ×鬼滅】   作:空想病

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第弐話   煉獄杏寿郎、噂になる

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 ヘルヘイム。

 グレンデラ沼地地帯の最奥。

 ──ナザリック地下大墳墓──表層にて。

 

「そういえば聞きましたか、モモンガさん?」

「なんですか? ペロロンチーノさん?」

「例の噂ですよ。ウ・ワ・サ」

「噂、ですか?」

 

 死の超越者(オーバーロード)の種族、骸骨姿のプレイヤー、ギルド:アインズ・ウール・ゴウンのギルド長を務めるモモンガは頚骨(けいこつ)(かし)げた。

 中央の墳墓入口の階段に座りながら、雑談に興じようと話題を口にした翼人(バードマン)は、明るい表情をした感情(エモーション)アイコンを頭上に現した。このギルド随一の狙撃手である彼は、肩に担ぐ黄金の弓から手を離し、身振り手振りを交えつつ最近ユグドラシル内で取りざたされている噂とやらを語りだす。

 

「このヘルヘイムではないんですけどね。最近、ミズガルズあたり、人間種が中心になってる世界とかで、ものすごく強い炎属性の“剣士”が現れて、そいつが人間のプレイヤーを助けて回っている……って話です」

「へぇ。それは初耳ですね」

 

 ペロロンチーノは人差し指を左右に振ってみせた。

 

「チッチッチッ。情報は武器ってもんですよ? とくに、その剣士ってのは、異形種を優先的に狩ってるって話です。ウチらみたいな異形種ギルドにとっては、天敵みたいなやつですからね。気をつけてください?」

「あーははは」

 

 モモンガは存在しない耳元を掻きながら、額に汗を流すアイコンを頭上に浮かべる。

 自らの不見識を恥じるようなモモンガを見かねたのか、翼人(バードマン)の隣で這いずる肉塊じみた粘体(スライム)が釘を刺した。

 

「──はぁ。無理ないよ、人間種のプレイヤーに不利なここいらには、まるで関係ない話だし? ていうか、ウチの弟の話、あんまり信用しない方がいいよ、モモンガさん?」

「──んだよ、姉ちゃん。俺が“うそつき”だなんて、モモンガさんに吹き込みたいわけ?」

「その噂話にしたって、ただの噂ってだけでしょ? 情報確度としては“下の下”。攻略サイトの掲示板でも、目撃情報は十数件ってレベルだし。ワールドサーチャーズみたいなしっかりとした情報源があるわけでもないんだから、気にするだけ無駄ってもんでしょ?」

「でもよぉ。もしもそんな奴がさ、モモンガさんと一戦交えることになったら激ヤバだろ? 骸骨に炎は相性最悪じゃん?」

「まぁ、確かに」

 

 姉弟(してい)の気遣いに対し、モモンガは軽く頭蓋骨をさげた。

 

「心配してくれてありがとうございます、ペロロンチーノさん、ぶくぶく茶釜さん」

「プレイヤーを助ける剣士、ねえ……」

 

 話は終わりかと思いきや。

 二人とはモモンガを挟んで反対側に座る男、羊頭に仮面をつけた悪魔のプレイヤーが話に加わりだした。

 

「なぁにを考えて“人助け”なんてロールプレイをブチかましてるんだ、そいつは? ひとさまを助けて自分に酔いしれてる(やから)ですかね? いやはや、まったくもって奇矯奇怪の極みってもんでしょうに。本気で神経を疑いますよ?」

 

 悪魔の揶揄(やゆ)する言動に、メンバーたち数人が肩を揺らした。

 

「……それは、私のことを言ってるんじゃないですよね、ウルベルトさん?」

 

 純白の聖騎士が険しい声を発するのも無理はない。

 彼こそは、人間種プレイヤーにPK(プレイヤーキル)されまくる異形種プレイヤーを助けた実績をもつ──隣に座っているモモンガもそのひとりである──アースガルズの闘技大会で優勝し、その世界最強の称号を我が物とした近接職最強の男、ワールド・チャンピオン、たっち・みーに他ならなかった。

 額に青筋が浮かぶのを幻視するほど、静かに激昂する男の声音。それに気づいていないはずもないだろうに、ウルベルトはさも愉快げにくつくつと含み笑いながら、中身が昆虫種の聖騎士を煽りたてる。

 

「もぉ~ちろん、違いますとも~? あなたは「異形種を助けるプレイヤー」なんですからぁ? 人間種を助ける輩よりも、さらに奇妙奇天烈っていうべきですかねぇ?」

 

 一触即発の空気。

 おもむろに立ち上がり、アイコンも出さずに額を突き合わせる両者だが、この二人に割って入れるものは少ない。

 片やギルド最強の前衛。片やギルド最強の後衛。ワールド・チャンピオンとワールド・ディザスターが、ガチでやり合おうというのを、誰もが黙して見守るしかない状況で、

 

「二人とも! 今は喧嘩してる場合じゃないですよ!」

 

 ギルド長であるモモンガの、意外と強めな発言に、二人は互いへの戦意を霧散し腰を下ろす。

 他にいるメンバーたちがほっと胸を撫で下ろした時、毒の沼地へと斥候に出ていたザ・ニンジャ──種族としてはハーフゴーレムの弐式炎雷が、ちょうど良いタイミングで帰還をはたした。

 

「来たぞ、来たぞ、お客さんが!」

 

 ウキウキと肩を弾ませる青い忍。

 今日ゲームにログインしているメンバーが、ナザリックの表層へと迎撃に出て、ナザリック最強格の二人が喧嘩をやめる理由が、これであった。

 

「やー、久しぶりだな、侵入者と()るの!」

「前の“1500人侵攻”から、だいぶ日が経ってますからねぇ」

「あー。あれでウチに楯突くことの愚かさを覚った連中が、大勢いましたからね?」

「あんなのやられちゃ、誰だって侵攻する気なくすってもんでしょ?」

「モモンガさんの大金星でしたね」

「あ、はははははは」

 

 照れ笑うアイコンを浮かべるモモンガ。

 ほぼ同時に、ナザリックの周辺がにわかに騒がしくなり始めた。

 最後の侵入者迎撃用の罠──ナザリックの近衛兵らが隊伍を築いて、大墳墓入口の門扉を堅守しようとしてくれているが、時間の問題だろう。

 

「さてと」

 

 モモンガは異形種のギルドメンバーたちを率いて、その日ナザリック侵入を試みたプレイヤーたちを撃滅した。

 

 

 

 

 

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 ミズガルズ。

 ホームタウン・西エムブラ地区。

 ──(たぶら)かされし王の食事亭にて。

 

 

「うまい!!」

 

 

 驚くほど大きな声が、亭内に轟いた。

 

「うまい! うまい! うまい!!」 

 

 声の主は、年の頃二十歳(はたち)前後。炎を思わせる髪色に、見る者の印象に残る双眸の輝き。

 食事の美味なるを称賛する声は、一口一口に覇気が宿っており、聴く者の耳朶をこれ以上ないほど叩きつける。

 

「うまい!!!」

 

 とても幸せな声が轟く。

 張り上げた声を聞く客──プレイヤーたちは、その威風堂々たる食いっぷりに驚きを隠せない。

 カウンターテーブルにしこたま積まれた皿の量は、「空腹」の状態異常(バッドステータス)を埋めて余りある。

 いくら仮想現実とは、何がその男の食欲を旺盛にしているのか、聞いて確かめてみようという度胸の持ち主など、この食堂内にはいなかった。

 合計ニ十皿にも及ぶフレイムドラゴンステーキセットを平らげ箸をおく男──名を煉獄杏寿郎。

 最後に注文しておいた緑茶を(すす)って一息(ひといき)つくと、

 

「うむ! 大変馳走(ちそう)になったガングレリ(・・・・・)殿!」

 

 挙句に男はNPC──ノンプレイヤーキャラクターの店主へ向かって、律儀かつ丁寧に礼を述べるものだから、周囲から失笑の吐息さえ漏れだす始末。

 しかしながら、そんなことなど意に介さず、炎柱・煉獄杏寿郎は、財布の中から金貨の山を掴み出し、食事の支払いを済ませた。

 店の主人、ガングレリは、“笑みを浮かべて応答する”。

 

『またのお越しをお待ちしております』

「うむ! また来よう! それでは!」

 

 幾人かが、煉獄の奇行に吹き出してしまった。

 彼が店を後にすると「ロールプレイにしても、やりすぎw」という忍び笑いが漏れるが、聞こえてくる会話の内容は煉獄にはさっぱりわからないし、そのようなことを気に留めるほど煉獄は暇でもなかった。

 

「実にうまかった! 弁当がないことが惜しいくらいだ!」

 

 食べ物が美味なることは幸福なことだ。

 一口一口ごとに感謝を忘れないよう、存分に腹を満たしたことで、煉獄は鬼殺の任務に向かうことができる。

 腹が減ってはなんとやらだ。

 

「それにしても! 不思議な国だな、ここは!」

 

 煉獄は店の入り口に面した大通りを颯爽(さっそう)と歩きながら、(ひと)()ちる。

 

 空を見上げると、そこには樹があった。

 巨大な樹だ。

 あまりにも巨大だ。

 天突くほどの巨木であった。

 蒼穹と白雲をくすぐるように、新緑の枝葉が無尽に伸びている様は圧巻の一言だ。

 

 見上げる空の半分ほどを埋め尽くす大樹など、煉獄は、日本(ひのもと)の国で聞いたためしがない。御伽噺(おとぎばなし)の中にさえ、このように不可思議なものが存在したかどうか、定かでなかった。鎹鴉(カスガイガラス)を用いた情報収集網を誇る鬼殺隊でも、あのようなものは風聞の端にものぼらなかったはず。

 さらに驚くべきことに、空を飛ぶ乗り物や生き物が存在し、それらは主に“魔法”によって動いたり生きているのだという。(どらごん)と呼ばれる羽根つき巨大蜥蜴(とかげ)に騎乗する人間や、どういうわけだか杖やら(ほうき)やら、何だったら何もなしに浮遊し飛行する“魔法使い”まで、数限りなく存在している事実。

 

 結論。ここは煉獄の知る国──日本に(あら)ず。

 

「だが!

 何はともあれ!

 俺のやるべきことに変わりはない!」

 

 悪鬼滅殺。

 日輪刀に刻まれた大義の下に、煉獄は今日も任務に就く。

 お館様や同輩たち……なにより父や、弟の千寿郎(せんじゅろう)と会えないことに一抹以上の寂寥(せきりょう)を感じるが、その程度で折れていては、炎柱の名が(すた)るというもの。

 それに、確実にわかっていることはある。

 

 

 ──この世界にも、人を襲う鬼がいる(・・・・)

 

 

 ならば、やるべきことはひとつだけ。

 煉獄はいついかなる時でも、弱きものを守り、悪しき鬼を斬る。

 知り合いとなった西門の番兵(NPC)らに軽く挨拶を交わし、煉獄は外の世界へと突き進む。

 彼は野へ山へ谷へと足を運ぶ──己の力を必要とする者のために、炎柱はYGGDRASIL(ユグドラシル)を翔け巡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ギュルヴィたぶらかし』において、北欧の神々の館を訪れようとしたスウェーデン王、かの王が神々に名乗った偽名。彼がオーディンと交わした質問という形で、北欧神話の全容が語られる。

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