煉獄杏寿郎と巡るユグドラシル【オバロ×鬼滅】   作:空想病

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ユグドラシルの住人とは「異なる者達」


第拾捌話  情報の共有、そして暗躍

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 ミズガルズ。

 “旧”第十一開拓都市、郊外。

 あの戦いのなかで、かろうじて全壊をまぬがれた数少ない建造物──クラン:キサツタイの屋敷。

 

「煉獄の奴ァ、今日も眠り通しか?」

 

 臨時に設けられた救護室の扉の方を、胡蝶しのぶは振り返り見た。

 東の空が白みだす。

 

「あら、不死川(しなずがわ)さん。復旧のお手伝いの方は?」

 

 白い寝台の上で、眠り続けている炎柱の傍で不寝番(ふしんばん)の看病を続ける蟲柱は、疲労の色などおくびにも出さずに、僚友の仕事ぶりをたずねてみる。対して、不死川は笹の葉に包まれた握り飯を行儀悪く立ったまま口に放り込む。この屋敷を管理するキサツタイの料理人(コック)女忍者(くのいち)からの差し入れであった。

 

「はむ、復旧なんて、ご立派な仕事なんざ、あむ、残っちゃいねえ、ブッ壊れた都市の解体と使える資材の搬出、はむ、んで、あのクソ連中が撒き散らした“悪鬼”ども──その残党狩りだァ」

「ご苦労様です。──伊黒さんと、冨岡さんは?」

「同じようなもんだ。俺は北の破壊された隔壁、冨岡は北東の毒で汚染された区画、伊黒は西門の焼け野原で、それぞれ役目をこなしてる。だが、まぁ、俺の方はとりあえずひと段落だ。休息が済み次第、南の地区で働いてるキサツタイの奴等と合流する──が」

 

 竹製の水筒でのどを潤す風柱は一呼吸をおいて告げる。

 

「正直、煉獄と共にいたって連中(クラン)の何人かは、もう“ダメだな”。俺らはともかく、煉獄のことを、まるで薄気味悪い化け物──亡霊か何かでも見るようにしてやがる。うまく隠しちゃあいるが、眼を見りゃわかる……ありゃ遠くない内に、半分は離脱するだろォ」

「それは…………いたし方ありませんね。彼らにも彼らの主張や考えがあるでしょうし、鬼殺隊でも、戦いから身を引かねばならないものもいました。それと同じだと思うべきでしょう」

 

 胡蝶は理解の吐息をついた。

 煉獄はずっと昏睡している……このユグドラシルで……“ゲーム”のなかで……一刻たりとも目を覚まさない、その異常性──プレイヤーたちにとっては理解の範疇を超えているだろう。

 

「それはそれとして」

 

 しのぶは話題を転じた。

 

「キサツタイの彼らが都市の解体に従事し続けるのは、やはり彼らなりの義理というか、義務のようなものなのでしょうか?」

「ああ。この都市の長……“お嬢”とか呼ばれてた女が言うには、『都市を放棄しそこねる(・・・・)と、あんでっど等に代表されるもんすたーの巣窟になって、後々面倒ごとになる。事後処理は“完全に”やらないと、ぎるどの恥になる』ってなァ。んで、都市の住人は可能な限り、それに従事するのが筋ってモンらしい」

 

 あの戦いで、都市の損壊率は九割を超えた。土地は荒れ、農地は枯れ果て、森祭司(ドルイド)や神官らによる魔法でも修繕不可能な、完全無欠の大破壊である。こうなってしまった以上は、プレイヤーの手で復旧することは不可能──死んだ土地を捨て、別天地を探し求めるほかにない。……それほどの破壊を、殲滅魔法の類を行使しなければ、都市のプレイヤーたちは敗北を喫していただろうと、都市を運営するギルド長と幹部たちは分析している。お嬢は、都市庁舎跡地の焼け野原に仮の対策本部を設置して都市の解体と放棄を急ピッチで進めている。理由は、字義通りに死地と化した廃都が、モンスターの巣窟と化する事態を恐れてのこと、その一事のみでは、ない。耳聡(みみざと)くも騒ぎを聞きつけた敵対ギルドによる都市領有権の奪略や、焼け残った地下倉庫などに残された貴重なクリスタルや重要アイテムの盗難、その可能性が大であるのだ。実際、先日鬼の一党の急襲によって潰された第九開拓都市は、都市領有権こそ他の組織に奪わせはしなかったが、いくらかの貴重なクリスタルやアイテム類を、竈門何某(かまどなにがし)と称する少年の一味に劫略され、火事場泥棒を働いた外部のプレイヤーに漁夫の利よろしく持ち逃げされ、かなりの痛手を被っている。

 胡蝶は、頬に指をあて、割と真剣に考え込む。

 

「都市領有権とやらの話は複雑でよくわかりませんでしたが、あのお嬢さん、話してみた感じ、結構なやり手ですよね。ぜひ鬼殺隊に参加してほしいくらいです」

「確かにな。ああいう事務能力は、(かくし)連中に欲しい人材だぜ──だが、向こうにも向こうの事情があらァな。むしろ、あっちの方が俺らを勧誘したがってる」

「それは光栄なお話です。けれど、私たちが仰ぐべき旗は、鬼殺隊以外ありえませんからね」

 

 腕を組んで力強く首肯する不死川。

 

「いずれにせよ、煉獄が目覚めねえ以上は、俺たちもしばらくここを動けねえ。最悪(かつ)いででも他所(よそ)に移すが、まぁ、今は都市の後片付けとやらに付き合ってやってもいいだろォ」

「そうですね……」

 

 煉獄の傷は、ユグドラシルにおける回復魔法で癒された。だが、彼の意識は何故か目覚めない──深い昏睡状態を保ったまま、この屋敷へと戻された。

 以来三日、煉獄杏寿郎は目を覚ましていない。

 彼をこのような状態にせしめたであろう主因──というか、原因らしい原因はこれ一つきりしかないであろう、“鬼”との戦闘──を、胡蝶は想起せずにはいられない。

 

竈門(かまど)くんが引き連れた──そのうえ、刃の攻撃によって生み出した悪鬼たち。あれは、なかなかに手強い相手のようです」

「……竈門(かまど)、か」

 

 二人は別々の思いで沈黙した。

 胡蝶は、彼をひそやかに慕っていた(カナヲ)のことを思って。

 不死川は、あの決戦の時、炭治郎らと共に無惨を陽光の下で焼き殺した時の記憶を思い浮かべて。

 

「俺は直接は見てねえが、……本当にガチなのか、その話は?」

「信じがたいことですけど──私も、この目で彼が敵の鬼と共に退いていくのを確認しました」

「チッ。信じられねぇ話だァ。あいつが胡蝶のとこの義妹(カナヲ)祝言(しゅうげん)あげたのを、俺と冨岡で見届けたんだぞ?」

「ええ────私は鏑丸(かぶらまる)くんから、伊黒さん経由でその話は聞きました」

 

 決戦後、片目の視力を著しく弱めたカナヲの介添え役として、彼は長いこと二人の傍にいたという。

 それはそれは素晴らしい白無垢姿だったと聞いて、しのぶは頬が緩むのを強く感じた。叶うならば実際この目で見てみたかったと、姉心(あねごころ)(うず)いてやまない。

 と同時に、強く、暗く、不快な疑問が脳裏を付きまとう。

 

「なのに…………なぜ、どうして、…………竈門くんが、この世界で“鬼”になりはてているのか」

 

 明確な答えを出せる者は、いない。

 だが、クラン:キサツタイの(カラス)たち──煉獄と戦闘を共にしたプレイヤーたちが聞いたところ、あの竈門炭治郎は「鬼舞辻無惨」と、何らかのかかわりを有していることは、確実。

 加えて、彼らが都市から撤退する時の、あの声。

 あの声を都市外でも聴いた冨岡たちは断定した──「あれは無惨の声に間違いない」と。

 ありえざることが起こっていると、柱であれば誰もが認識できた。

 

「鬼舞辻無惨の……復活」

「──ありえねえ冗談だ」

 

 蟲柱と風柱は、同時に眉間を険しくした。

 握る拳が、鉄をも砕きかねない握力を発する。

 鬼殺隊が決死の覚悟で挑んだ無限城での戦い、そして、太陽のもとに引きずり出された無惨は、確かに陽光のもとで滅殺された──多くの者たちを犠牲にして──「なのに」という思いが、柱たちの心を占拠してやまなかった。

 胡蝶は推察を述べる。

 

「冨岡さんが言っていた、竈門くんが一時“鬼にされた”ことと、何か関係があるのでしょうか?」

「さぁな」

 

 短く返す不死川であったが、彼は当時重傷を治療された直後で意識を保てず眠り込んでいた──ここにいる者たちの中で、実際に現場を見ることができたのは、冨岡義勇ただひとりだけである。

 彼が現場にいれば、炭治郎の鍔のなくなった日輪刀──黒い竜骨や四本の鉄鞭の形状について意見を述べることができたかもしれない。

 あれこそまさに、鬼と化した炭治郎が振るった脅威の凶器そのものであったことを。

 

「いずれにせよ、この妙な世界にいる竈門のやつが、本物であれ偽物であれ、鬼である上は、俺たちのやることはひとつだ」

「ええ」

 

 胡蝶も決意を新たにする。

 竈門炭治郎──そう称する鬼を見つけ出し、鬼舞辻無惨諸共(もろとも)に、滅する。

 しかし、

 

「この広い、ユグドラシルという世界の中で、果たして見つけ出すことができるかどうか……」

 

 教わった限り、ユグドラシルには九つの世界があり、それぞれが広大な領域を有している。それも、いまだ未知の領域が多く、隠れられた敵を見つけることは難しい。

 俗に「悪のギルド」などと呼称されている敵性ギルドなどであれば、ギルド拠点、すなわち根拠地となる根城くらいは判明しているらしいが、それでも、攻め落とすのは至難の業ときく。

 胡蝶たち柱にとって、鬼舞辻の痕跡や、手がかりらしいものがひとつもない状況で、連中を発見することは、ほぼ不可能であると言わざるを得ない。

 だが、不死川は努めて楽観的な見方を示す。

 

「なぁに。自称・竈門の野郎が言ってたんだろぉ? 鬼殺隊(おれたち)を潰すだの何だのと。

 なら、向こうから仕掛けてくるのは確実。その時にふん捕まえればいい」

「ですが。それに巻き込まれる人々がいるやもという状況は、どうにかしたいところです。かと言って、どこか他の地に根拠地を築いても、必然的に罠を警戒されるでしょう。お館様が身を挺して、文字通りの血路を開いてくださったように。それになにより、このまま受け身なままでは、攻めきれない可能性が十分あります。やはり、こちらから先手を取りたいところですが──」

 

 確かにな、と嘆息する不死川。

 ふと、二人は何者かの気配を感じる──屋敷の玄関は通りに落ちた隕石群と共に半壊しているため、裏口の方角から来客が来たことを覚る。

 

「この感じ──鬼に似ているが、まさか」

「いえ。この気配には覚えがあります。──大丈夫です」

 

 不死川は日輪刀を構えかけるが、立ち上がる胡蝶の微笑に制される。

 ほどなくして、廊下の奥からクラン:キサツタイの料理番──割烹着姿の女忍者・オオルリが、来客を連れて現れた。

 

「胡蝶さん、不死川さん、えーと、お客様なんですけど?」

「ええ、構いません。どうぞ、こちらへ」

 

 案内されてきた人物は、二名。

 

「お邪魔するわよー」

 

 白銀のチャイナドレス──ではなく、黒いスーツに身を包んだ女性プレイヤー。

 パウダーピンクの髪を結いあげたキャリアウーマン──ビン底メガネをかけた“営業モード”の商業ギルドの長、お嬢。

 そして、彼女の腕に抱えられる異形種のプレイヤー……ピンク色の粘体が、一人。

 赤いボール状の姿になって運ばれる姿は「ぼく、悪いスライムじゃないよ?」と言外に主張しているようにも見えた。

 

「あの、しのぶさん、煉獄さんは?」

 

 炎柱の身を案じる異形(モンスター)の乙女に対して、剣を交えもした胡蝶は、心から好意的な笑みを浮かべてしまう。

 

「まだ目覚めてはおりませんが、ご安心を」

 

 言って、胡蝶は寝台横に座っていた椅子から立ち上がり、彼女に勧めた。

 粘体はお嬢の手を離れ、椅子の上に跳ね登り、寝込んだままの青年を気づかわしげに見る。目は存在しないが、しのぶにはなんとなく解った。

 

「いつも心配してくださってありがとうございます、茶釜さん」

「い、いえ──私は、えと、代理として、ですね──えへへへ」

 

 照れたように粘体の表面を波打たせるぶくぶく茶釜。

 そんな彼女の様子をしのぶは微笑ましく、不死川は胡散臭(うさんくさ)げに眺めやる。

 

「いやはや。何度見ても信じられねえぜ。あの煉獄(・・・・)が、鬼の親戚かなんかにしか思えねえコイツを、我が身も(かえり)みずに守るなんてよ」

 

 風柱の阿修羅を彷彿(ほうふつ)とさせる鋭い眼光に射すくめられる茶釜は、小さく丸くした姿がさらに縮むような思いをあじわう。

 が、蟲柱は厳然とした口調で、不死川をいさめた。

 

「何度も言っていますが、事実ですよ。私がこの目で、はっきりと確認していますから」

「ケッ。わぁってるよ。鬼舞辻の鬼じゃねえ以上は、殺すのは手間でしかねえからなぁ」

 

 不死川も不死川で、このユグドラシルで数多くのモンスターと邂逅を果たしている。その中でも、ヨトゥンヘイムで邂逅した巨人族の魔女たちというものとは、冨岡と共に世話になったらしく、鬼舞辻の鬼ではない異形──プレイヤーたちとも親交を結んだという。が、冨岡が巨人の女性たちに歓待されている様を想像すると、しのぶは何とも言えない微妙な心地になる。おもしろいような、おもしろくないような。

 そんな胡蝶をおいて、風柱は率直に問う。

 

「それで? “すらいむ”のお嬢ちゃんはともかく、この都市をおさめていた“ぎるど”の嬢ちゃんは、何の御用だぁ?」

「そうね。いまさら勧誘にはのってくれないだろうし──でも一個だけ。情報共有しておこうかと」

「情報、ですか?」

 

 お嬢は救護室入口を閉じて、スーツの内懐、もといボックスからデータディスク形のアイテムを取り出す。

 

「そ。うちが協定を結んでいるギルド:ワールド・サーチャーズから得られた情報」

 

 お嬢は何故(なにゆえ)か、舌打ちでもしかねない表情を作る。彼女はそのままの勢いで、ディスクを虚空に投げるように起動。

 

「これは、この都市がブチ壊された頃と時を同じくして、サーチャーズのヘルヘイム調査団、その一部隊が壊滅させられた時に撮られた、唯一の映像記録。どうやら、部隊が全滅した後、遺失物となったキャンプ道具一式とともに、猛吹雪で安全圏外にまで吹き飛ばされてきたアイテムよ。遺失物はドロップ品として、拾ったプレイヤー個人の手に渡るもんだけど、これを拾った連中──匿名希望者さんは、律義にもサーチャーズに返却したのよ。“お礼品もなにもいただかずに”ね」

 

 映像の中にいるのは、人間とエルフと小人と獣人と火精霊からなる、精鋭五人チーム。

 吹雪がやむまでの小休憩を終え、出立準備をしつつあった彼らが、次の瞬間──惨殺。

 

「で、ここからが本題。これが(くだん)の部隊員たちをやった、下手人の姿よ」

 

 見覚えはあるかしらと唱えつつ、お嬢は慣れた手つきで動画映像を停止および拡大。

 映し出された立体映像(ホログラム)の中に、吹雪を背にし、臓物の塊のごとき触腕で食事を愉しむ、一人の男の姿が投影される。

 その男の異容と異様──蟲柱と風柱にとって、忘れようもない大敵にして怨敵──

 

「────まさか!」

 

 胡蝶は瞠目し、不死川は奥歯が砕けんばかりに顔を顰めた。

 

「あの……野郎……!」

 

 

 鬼舞辻無惨が、白亜の城の前に佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

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 ナザリック地下大墳墓、第九階層、円卓の間にて。

 

「本当によかったんですか、モモンガさん?」

「こんな重要情報を、わざわざ外部にもらすとは」

「しかも匿名希望だなんて──もったいなくないですか?」

 

 空席がいくらか目立つ円卓を囲み、仲間たちと共に会議を進めるギルド長は、ペロロンチーノと獣王メコン川、るし☆ふぁーの質問に対し、鷹揚(おうよう)に頷いてみせた。

 

「サーチャーズやノー・オータムに恩を売るのは、確かにメリットではあります。が、異形種ギルドであるうちが、「悪のギルド」である我々が、ほいほい重要情報を横流ししても、『欺瞞情報』の可能性を疑われかねません。最悪、うちが影で何か良からぬことを企んでいるなんて、ありもしない腹を探られるような事態に陥る──なんていうのは、おもしろくありませんからね?」

 

 なにしろ、モモンガたちは「悪のギルド」と称される身の上。

 たとえ、ほんの親切心でもやった出来事が、すべて「悪のギルド」の奸計や謀略などと軽んじられ疎んじらる可能性は、大である。

 

「先日、タブラさんとぷにっと萌えさんの進言で、氷河城周辺を調査してくれた弐式炎雷さんたちの苦労は承知しています」

 

 今回の収穫をギルドにもたらした三者が、思い思いのアイコンと身振りによって、モモンガからの賞賛の念を受け取った。

 

「が、しかし、今回の“これ”は、ギルド:アインズ・ウール・ゴウン単一で、どうにかなる敵ではありません」

 

 モモンガは決然と断言する。

 円卓の間に浮かぶ立体映像──サーチャーズの遺失物を回収し、残されていた記録データの中に存在した──まぎれもない異形。

 高機能カメラのインターフェース越しに赤々と警告を明滅させる朱文字──“世界の敵(ワールドエネミー)”とカテゴライズされる、まごうことなき悪の権化。

 

 

 氷河城門前の猛吹雪の中で、悠々と“食事”をしている男…………“鬼舞辻無惨”

 

 

 煉獄杏寿郎と知り合ったことで事前に敵の映像情報を得られていたことは僥倖であったが、まさかまさか──100年前のコミック本の敵役が、ワールドエネミーとしてこのユグドラシルに実装・降臨しているなどとは、モモンガたちの想像の埒外である。

 さりとて。

 この情報を有意義に使う手段など、ヘルヘイムに属するアインズ・ウール・ゴウンには限られているのが現状だ。まず、ヘルヘイムの氷河城は、ギルド:アインズ・ウール・ゴウン単独でどうこうできるようなダンジョンではなく、また、ワールドエネミーについても、自分たちだけでは勝利を収めるのは難しい相手であること(世界級(ワールド)アイテムを使えば話は別だろうが)。次に、これだけ有益かつ純然たる情報を高値で売り飛ばすにしても、もともとが別ギルド──世界の未知を探求してやまないランカー上位ギルドの調査記録である以上、それを窃取するような“せこい”真似──姑息な手段に訴え出ねばならないほど、アインズ・ウール・ゴウンは狭量ではないということ。

 そして何より、モモンガが個人的に友好関係を結んでいる存在──キサツタイを立ち上げ、襲撃されたぶくぶく茶釜を救済してくれた男──煉獄杏寿郎への借りを返す意味でも、この情報はきっと、彼らの利となるに違いないこと。

 さらに、

 

「おそらく近日中に、氷河城を攻略する部隊──討伐隊が、サーチャーズやノー・オータム主導で編成されることでしょう。その機にうまく乗じることがかなえば、これまで謎に包まれていた、ヘルヘイムの《最奥》にして《最深部》の情報を、我々は掴めるかもしれない」

 

 メンバーたちの幾人かが快哉とも驚嘆ともつかぬ声をあげた。

 誰かが言っていたことがる──『どうせなら、世界の一つでも征服しよう』と。

 今回の事件が、そのきっかけになりうるかもしれないと思うだけで、皆の気力が充溢(じゅういつ)していくのを肌で感じる。

 

 ヘルヘイムの氷河城。

 

 城の全周を覆う猛吹雪の多層構造。群れ集う氷系統最強種たる霜竜や巨人や化物の群れ。それらをかいくぐった先に待ち受ける、人類(プレイヤー)未踏の超高難易度ダンジョンたる巨城。

 

「個人的に、すごくおもしろいことになりそうだと思うのですが──誰か、反対意見はありますか?」

 

 モモンガは、骸骨の表情の上に悪だくみの感情アイコンを浮かべ、仲間たちもそれに賛同する笑みを示した。

 反対の意見を述べようとするものはひとりもいなかった。

 慎重論や意見を述べてくそれそうな幾人か、タブラ・スマラグディナぷにっと萌えも頷いてくれたのを見て、空いた空席……たっち・みーやウルベルトの残した空白を見るのをやめて、モモンガは決議を下す。

 

「では、我々は秘密裏に、ヘルヘイム氷河城を目指します」

 

 こうして、ギルド:アインズ・ウール・ゴウンは、後日結成される氷河城討伐部隊の“陰”の協力者として、尽力することが決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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