煉獄杏寿郎と巡るユグドラシル【オバロ×鬼滅】   作:空想病

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第弐拾壱話 対ワールドエネミー対策会議

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 ミズガルズ。

 シュヴェルトライテ城内。

 ギルド:ノー・オータム──会議室。

 教会の美麗なステンドグラスを思わせる大講堂に集まったのは、関係者である十数人。

 

「ニヴルヘイムの協力者ギルドのところに行く前のおさらい……これまでの調査で判明している、鬼舞辻無惨の関連情報まとめね」

 

 スーツ姿のお嬢が用意したレジュメが配られるのと共に、長卓の上では立体映像が青白く浮かび上がる。

 列席者の数は部屋の規模と比して、そう多くはない。

 まず“柱”たち五名──背をまっすぐにした煉獄、ゆったりと腰をおろす胡蝶、静やかに卓を眺める冨岡、神経質そうに卓に肘を置く伊黒、無礼にも組んだ足を卓にのせて一同を威嚇するがごとく睥睨(へいげい)する不死川。

 それと、クラン:キサツタイの四名──カラス、シマエナガ、オオルリ、シラトリ。そして、彼らの対面の席に、お嬢の腹心たる幹部たち複数。

 ギルド:ノーオータムは、クラン:キサツタイ──もとい鬼殺隊を「客分」として、剣の戦乙女(シュヴェルトラウテ)の城に招いた。カラスたちの戦力──というよりも、煉獄たち“柱”と呼称される存在の戦闘力を高く評価し、一時的な協調関係を結んだのだ。

 すべては、竈門炭治郎一行──悪鬼を引き連れたクソったれどもを討滅する目的で。

 お嬢は簡潔に議事を進める。

 

「結論から言うと。ここ数ヶ月続発していたランカーギルド急襲、ヘルヘイムを中心とした各地の北欧神(クラス)のボスキャラ喪失は、連中の仕業(しわざ)とみて間違いないわ」

 

 そう断定するお嬢を補佐するように、元第九開拓都市の顔役──木こり(ランバージャック)の大男が立体映像を操作する。

 一覧されたのはモーズグズをはじめ、ゲーム内で消失・行方不明扱いを受けている北欧神話由来のボスモンスターたち。

 

「〈記録(レコード)〉の魔法による証拠映像(スクショ)こそ撮れていないけど、襲撃されたギルド構成員たちの証言や、サーチャーズが調査した限りにおいて、各地の北欧神話由来のボスNPCやレイドボスが『失踪』していることは、確実。──冥府を訪れようとする生者を必ずはばむ女門番“モーズグズ”、毒竜の財宝窟に陣取っていた王竜“ファブニール”改め、女王竜“ファフニール”、巨人族の墓所を徘徊するはずの石工“フリームスルサル”、そして彼の愛馬である“スヴァジルファリ”、ロキの兄弟にあたる“ビューレイスト”と“ヘルブリンディ”、戦争を始める魔女“グルヴェイグ”……ヘルヘイムだけじゃなく、ミズガルズなどの各地でも、同格のボスキャラがいなくなってる事実から見て、おそらくは連中の支配下に組み込まれた、そう考慮していいでしょ」

 

 一覧が切り替わる。

 フロースガール王領を荒らす怪物“グレンデル”。そのグレンデルの母たる復讐鬼“グレンデル・マザー”。ヘイムダルの化身たる旅人“リーグ”。魔竜と大鷲の仲介者“ラタトスク”。そして、羽衣を纏う北欧神話最高の美の女神“フレイヤ”。

 カラスたち一般のプレイヤーからすればとんでもない事態に直面していると理解せざるを得ない。

 ユグドラシルのモンスターは、専用の職業スキルや装備を使用することで「捕獲」「調教」し、自分の“シモベ”として配下に加えることができる。狩人(ハンター)調教師(テイマー)などと協力しモンスターをある程度まで弱体化させることで、Lv.90の高レベルモンスターが仲間となりうる。また、それらを商い──買主と売主を仲介する商人の存在も重要となるが、それでも──

 

「ありえません。いま挙がったのは、運営が用意したボスNPCやレイドボスばかりです。しかも神のフレイヤまでなんて……とても拿捕(だほ)調伏(ちょうぶく)なんて不可能なはず」

「ありえない──そんなことはわかってる。けれど、実際にモーズグズをはじめ、実例がこれだけの数も積みあがれば、現実として受け入れるしかない。おわかり?」

 

 カラスの抗弁を封殺したお嬢であるが、彼女にしても今回の件は「おかしすぎる」と(さじ)を投げだしたい気分だ。

 運営の用意する特別品(N P C)を、他の有象無象と変わりなく拿捕・使役するなど、それはどんな反則技(チート)だというのか。

 これまで運営は沈黙を保ち続けている──まるで、これはプレイヤー同士が片付けるべきいざこざか何かだとでも言わんばかりに、無関心だ。いや、あるいは、本当にクソ運営は関知していないという線もあり得るだろうか?

 あの有名な1500人の大侵攻──誰もが侵攻部隊の八ギルド連合の勝利を信じて疑わなかった──『ナザリック第八階層での“番狂わせ”』を見て、パンクするほどの抗議文を受け取っても「あれはチートではない」と明言した運営のことを思うと、今回の対応の鈍さも「なくはない」と思うお嬢。

 

「ボスキャラの件はこれぐらいにして、まだもう一つ問題がある」

「問題とは?」

 

 完全に復調した煉獄の闊達(かったつ)かつ明直な質問に、お嬢は思わず言葉を飲み込みかけた。

 

「……問題は、あの【竈門炭治郎】という存在」

 

 柱たちの表情が一変することなく、ただ、一挙に関心の圧を増した。

 お嬢は言ってのける。

 

「あのクソガキ、いや、あの竈門炭治郎を称する敵は、私たちプレイヤーの即死対策を素通りして一撃死(クリティカル)を与え、あまつさえその攻撃で死亡したプレイヤーは、問答無用で、竈門なにがしの支配下に組み込まれる。一切の例外なしに“悪鬼化”する」

「? 悪鬼化とは?」

 

 首をかしげる胡蝶に、お嬢は説明した。

 

「ああ、とりあえずの仮称だけど、あれはウチらが知るゾンビ化やスケルトン化やヴァンパイア化……不死者のモンスターとは決定的に違う。かといって、ユグドラシルに現存する「鬼」の種族とも言えない。カテゴリ欄が“バグった”存在だから“バグ化”とか“バグモンスター”にしようかって話もあったけど、あの悪鬼を捕獲し肉体から剝ぎ取っ、もとい、採取したサンプルの検査結果で、あれは新モンスター“悪鬼”であると、ワールド・サーチャーズが正確に定義してくれたわけ。こういう調査系においては、調査系ギルドの仕事は迅速かつ的確なのが売りよ」

「──悪鬼か」

「ふん。確かに」

「悪くねえじゃねえか。あの所業はまさに、悪鬼と呼ぶにふさわしいと思うぜェ?」

 

 冨岡、伊黒、不死川が順に納得の息をついた。

 

「それで。自称竈門少年の攻撃、その対応策の方は?」

 

 煉獄の問いに、お嬢は肩をすくめてみせた。

 

「今のところは“何も”。ただ、あいつと交戦した煉獄さんや、私の戦闘データログから見るに、とにかく一撃死しなければいい……かもしれないってところかしら?」

「とすると、仮称竈門くんの相手は“柱”レベルでないと務まらない、と」

 

 そう理解を示す胡蝶。

 

「難儀な話だ」

 

 と伊黒。

 

「俺たちが都市の外で対処していた“れいどぼす”とやら。あれは下弦の鬼などよりもはるかに厄介な相手だ」

「ああ。なにせ、あの図体の巨大(デカ)さだ。俺らの呼吸術でも、苦戦を強いられる鬼となると、上弦のそれに匹敵する」

 

 そんな厄介極まるバケモノどもを、竈門炭治郎は今も営々と作り出しているかもしれない、そう思うと、柱たちは居ても立っても居られない思いを覚えた。

 

「それで。肝心の竈門少年の、(いな)、鬼舞辻無惨の拠点については?」

 

 煉獄の質す声に、お嬢が映像を白亜の巨城に切り替える。

 

「ヘルヘイムのなかでも最高にめんどくさい拠点(ダンジョン)よ。なにしろあのサーチャーズが、今まで中に入って本格的な調査をする事も出来ていない──外周をとりまく環境がとにかくもう最悪の最悪のクソ最悪って感じ」

 

 お嬢の説明は簡潔を極めた。

 人海戦術のまったく通じない即死のクレバス(フィールド)──超位魔法(ザ・クリエイション)三発を使わねばやむことはありえない猛吹雪の三重奏──そして、氷河城周囲をナワバリとする最上位の霜竜と災厄の霜巨人──どうあがいても人間種の団体では、入口にさえたどりつくことさえかなわないのである。

 ここで、不死川が苛立ちをこめて頬杖を突く。

 

「だが、そこを(ねぐら)にしているってことは、出入りする法はあって然るべきじゃねえかァ?」

「そりゃあ、ね。そこはむこうにいる転移魔法の使い手──ヴァフスルーズニルなんかの仕業だと思う」

 

 お嬢の予測に、煉獄は腕を組んで考える。

 

「転移魔法……確か、転移魔法でいけるのは施術者が行った地点に限定されるのだったか?」

「あとは、なんらかの情報系魔法で現地の位置情報を把握する必要があります……けれど、最高難易度ダンジョン・氷河城を遠方から魔法で覗き見ることは」

 

 不可能だと説くカラス。

 そんな簡単に覗き見が出来れば、このユグドラシルで未知なる世界や領域など、〈遠隔視(リモート・ビューイング)〉の魔法やアイテムでなくなってしまえるだろうに。

 

「状況は分かった」

 

 冨岡が意外にも一同を代表するがごとく雄弁を発揮する。

 

「して。そちらはどのようにして、鬼舞辻無惨の拠点を落とす算段か?」

 

 あの最終決戦で無惨を討ち果たすのに貢献し、柱としての自覚に満ちた水柱の様子に、隣に座る蟲柱などは虚を突かれる。

 そちらはさておき。お嬢は難しい顔(のアイコン)を浮かべながら、一人述懐する。

 

「……ヘルヘイムの白城と対なすニヴルヘイムの黒城──あそこを利用する」

 

 投影画面が二つの世界──隣接する死の世界たるヘルヘイムとニヴルヘイムの全景(調査済み領域)を映し出す。お嬢はとにかく不満そうにブーたれていた。

 

「ああ、もー……あいつに頭を下げるのは業腹だけど、背に腹は代えられない──」

「ニヴルヘイムの、鋼鉄城?」

「まさか、最上位死霊王(ワールドチャンピオン)の?」

 

 カラスやシマエナガたちが眉をひそめた。

 事態を飲み込めない柱やプレイヤーたちに、お嬢の背後に控えていた大男が注釈を述べてくれた。

 

「じつは、お嬢と、ニヴルヘイム・ワールドチャンピオンたる最上位死霊王殿は旧知の仲といいましょうか、義」

「それ以上は言う必要ないわ“ジャック”」

 

 言外に「余計なことを言ったら●す」といわんばかりの変わり身で、カラスたちは現実の背筋がひやりとした。木こり(ランバージャック)の方は言葉が過ぎたことを素直に謝して頭を下げた。

 お嬢は口調を常の営業モードに直す。

 

「今回の相手がワールド・エネミーである以上、有象無象のプレイヤーじゃ話にならない。そもそも物量戦が意味のない相手だから、こっちも最精鋭をぶつけるわよ」

「あん? 物量戦に意味がないってどういうこったァ?」

 

 不死川の問いかけに、お嬢は基本的なワールドエネミー攻略戦術を説明する。

 

「ワールドエネミーをやるには、6人パーティを6組、計36人で組まれる“軍団(レギオン)”以外に対処法がないのよ」

「というと?」

 

 胡蝶が促す。

 柱たちが知らないのも無理はないが、ユグドラシルでは通常6人1組チームを5組までの、最大30人でパーティーが組める。しかし、例外として二ギルド協力可能な6人1組からなるチーム6組で構築される軍団(レギオン)というパーティが組める場合があり、今回想定されるワールドエネミー・鬼舞辻無惨戦における「実行導入限界」とも言えた。

 お嬢は言い添える。

 

「普通に考えれば単体の敵なんて、100人や200人でタコ殴りにすればいいって思うのが普通でしょうけど、このゲームではあくまでチームを組んで……まぁ単独(ソロ)にこだわる変態(ひと)もいるにはいるけど……とにかく、そうやって仲間と協力してレイドボスなりエネミーなりを狩っていくのよ。でも。今回の“軍団(レギオン)”は、たくさんのチームで狩りを楽しむレイドイベントじゃあない。単体で存在する世界の敵……ワールドエネミーを、少数精鋭で狩るっていう制約があるわけ」

「めんどうな話だな」

「もし、それに則さぬ人数構成で挑まない場合はどうなる?」

 

 率直に顔をしかめる不死川と、淡々と疑義を述べる伊黒。

 

「そのときは、勝負自体が成立しない。相手が“無敵”モードにでもなったのかってステータスになって手が付けられないうえ、取り巻きの雑魚モンスターが無限湧きするから始末が悪い──前のムスペルヘイム・ワールドチャンピオンが呪いでエネミー化しやがった時も、本気でヤバかったわね……」

 

 懐かしくも嫌な思い出を想起したお嬢は(かぶり)を振った。 

 

「あんた(たち)クラン:鬼殺隊(キサツタイ)は煉獄さんら含め9人。私らが残り27人を見繕(みつくろ)うことになりそうだけど」

「いや、それは少し話が違うな、お嬢さん」

 

 煉獄が待ったの声をかけた。

 

「我々柱は九人だ」炎柱は豪語した。「きっと、この世界のどこかに、柱があと“四人”いる。それを含めて、戦力の方を考えていただきたい」

 

 頷く柱たち。お嬢はこめかみに手を当てて考える。

 

「……前も聞いたけど、その話の根拠は?」

「ない!」

「ありませんね」

「ないな」

「とくにない」

「しいて言えば、俺らがここにいることが根拠、ってやつかァ?」

 

 胡散臭げを通り越して呆れたような表情(アイコン)を浮かべるお嬢。

 

「……まぁ。各世界各地域にいる支部を通じて、宣伝というか檄文(げきぶん)というか、それらしい人物がいたら“ここへ来い”って書いてやったけどさ──」

 

 クラン:鬼殺隊がやっていたそれとは比べようもない、商業ギルド:ノー・オータムの拡散力。それは必ずや、ユグドラシル全土全域に波及する。

 何しろ今回のは掲示板などへの投稿ではなく、空に文字や映像が浮かび上がる仕様の大規模広告版だ。これならばユグドラシルのド辺境に住んでいても、いやでも目に入るのである。

 煉獄の動画付き檄文(げき)の内容は、彼が考案したシンプルなもの──

 

『鬼殺の剣士よ、我がもとに来たれ。この世界に住まう鬼舞辻無惨を、(たお)すために!』

 

 運営のアプデニュースや、他のギルド広告とまじって流れるそれは、シュヴェルトライテ城の上空にも定期的に回り浮かんでは消えている。

 あとは、

 

「本当に良かったの? 集合場所とかは明記しなくて?」

「ええ。私たちには私たちなりの暗号手段がございますので」

 

 そういって笑った胡蝶は、女神のごとく(たお)やかに微笑んだ。

 胡蝶は右手で“狐”の形を作ってコンコンと頷かせてみせる。

 

「柱であれば、煉獄さんの暗号──指文字を読めないことはないでしょう」

「なるほど。妙なポーズと思ったけど──だから映像付きにこだわったわけね」

 

 ひとしきり感心するお嬢。しかし、一同の不安を代弁するかのように、黒髪の少年が独語する。

 

「本当に、うまくいくでしょうか」

 

 柱たちは無言だった。

 

「これ、期日までに柱がそろわなくても」

「ああ。我等は戦いに赴く」

 

 彼らの決意は断固たるもの。

 それなりに発言権を持つはずの商業ギルドの長が()されるほどの。

 お嬢は深く呼吸する。

 

「……こちらが揃えられる戦力は揃えたいところね」

 

 氷河城攻略のための戦闘部隊の投入。勿論、寒冷地対策に不死者(アンデッド)竜種(ドラゴン)対策は必須。さらには。

 

「敵が“ワールドエネミー”である以上、こっちもなるたけ世界級(ワールド)アイテムを揃えて武装したい……と言いたいけど」

 

 実際は望み薄だ。

 世界級(ワールド)アイテム。その総数は200にもなる壊れ性能のアイテムだが、Wiki情報でも全容が解明しているのは、たったの50のみ。

 ギルド:ノー・オータムや協定を結んでいるワールド・サーチャーズでもひとつを有しており、他の世界級(ワールド)アイテムの情報についても、それなりの知見を得ている。

 

「サーチャーズが所有している“グライアイ”は、攻撃には使えない探索系」

 

 お嬢の脳裏に閃くのは、とにかく実戦闘に使えそうなもの。

 そのなかでも“鬼”に特攻がありそうなものとくれば。

 

「“光輪の善神(アフラマズダー)”」

 

 幹部やカラスたちは一様に頷く。世界級(ワールド)アイテムについて知識の浅い柱たちはひとまず無視して、お嬢たちは世界級(ワールド)アイテムの情報を整理する。

 

「相手が“悪”側の存在なら“光輪の善神(アフラマズダー)”が使えそうなんだけど……」

 

 お嬢は肩をすくめて頭を振った。同意するように幹部の女性プレイヤーが続く。

 

「さすがにギルド:セラフィムは貸してくれないでしょうね。いくらウチの頼みでも」

「あったりまえでしょ。「二十」なんて、使用したら即・消滅の世界級(ワールド)アイテム。他の奴に貸したり売ったりするがわけない。当然でしょうよ」

「──ほかに使えそうな世界級(ワールド)アイテム、保持者やギルドのリストは?」

 

 木こり(ランバージャック)に促され、お嬢は幹部たちを振りかえった。

 

「“ダヴはオリーブを運ぶ”……

 所有者は判明していますが、使用条件および効果不明で、いまだに発動したことすらないそうで」

「ま、使えねえな。これといった実戦経歴もないし」

 

 即座にコンソールを通して「×(ナシ)」とチェックを入れるお嬢。

 

「“ユグドラシル・リーフ”……

 全世界規模の防御・城塞型アイテムで、現在ギルド:大隊商(グランド・キャラバン)が所有していますが」

「うちの商売敵(しょうばいがたき)だろうが。砂漠帯や炎熱地を中心にした」

 

 ×を二重に入れるお嬢。

 

「“ギャラルホルン”……

 超位魔法〈神の化身召喚(コール・アヴァター)〉を超える神の軍勢召喚は使えそうですが」

「あの九曜喰らい戦から、所有者は未確認、か」

 

 ──×。

 

「“支えし神(アトラス)”……

 天空を支えた神の話から、全世界を俯瞰(ふかん)する視点──要するに全世界規模の正確な“マップ”を手に入れることができる貴重品、ですけど」

「サーチャーズにしてみたら喉から手が出るほど欲しいでしょうね。けど、あそこから奪ってまで手に入れたあのギルドは一般公開なんてしないし一時貸与もしない……フツーの自己利益追求型ギルドだものね」

 

 奪い取られたDQNギルド(アインズ・ウール・ゴウン)に渡らなかったのは幸か不幸かわからないが、とりあえず──×。

 

「“ホーリーグレイル”……

 杯の中身を飲めば、常時〈大治癒(ヒール)〉をはじめ、善や神聖属性など様々な回復治癒神聖効果を対象一人に永続化できるアイテムですが」

「“副作用”が、えげつないから論外」

 

 ××××と四重されるチェック欄。

 あれを扱ってる(?)プレイヤーを知ってはいるが、とにかく虫酸(むしず)が走る。戦力にはなるだろうが……正直、思い出したくもない。

 幹部は最後のリストをめくった。

 

「“聖者殺しの槍(ロンギヌス)”……

 「二十」のひとつで、言わずと知れた反則(チート)級の完全消滅アイテム。現在はギルド:七芒星(セプタグラム)にある、そう、ですが……」

 

 お嬢は鼻を鳴らした。

 

「あんなアホ武器、喜んで使う奴がいるか。傭兵NPCに持たせたところで、当てられなきゃ逆に()られるだけのゴミクズ装備。おまけに、前に使った所有者(ドアホ)のせいで、ワールドイベントが一個おシャカになったんだろうが。……クソ。思い出しただけで、まじクソ。あんな激かわイベント進行キャラ消すとか、正気の沙汰かよ、あのボケヤロウが。絶対にうちと取引なんてさせねえ」

 

 まったく、結局“四凶”って、なんだったんだよ、気になってしようがねえなどとブツブツ言いつつ、×(バツ)を五重六重するお嬢。

 

「“五行相克(ごぎょうそうこく)”や“永劫の蛇の指輪(ウロボロス)”は、現在所有者不明……」

 

 そして、最後の項目には、戦艦でも輪切りにしそうな巨剣を担ぐ一人の男の姿が。

 

「現アースガルズ・ワールドチャンピオン──

 剣帝が持つ「二十」のひとつ“世界意志(ワールドセイヴァー)”……」

 

 普段彼が扱う巨剣とは別に存在するアイテムで、普段はこん棒程度の攻撃力しかないそれが、使えば使うほど無限に強くなっていき、最終的には単騎で最上級ダンジョンも陥落させるとされている“世界意志(ワールドセイヴァー)”──

 

「ニヴルヘイム・チャンピオンとアースガルズ・チャンピオン……少なくとも、そのお二人から助力を(たまわ)ると?」

 

 これは大仕事(おおしごと)になるとスーツ姿の巨漢(ランバージャック)はギルド長の採決を待った。

 

「……アースガルズの剣帝の方には貸しがひとつある。それを清算できるか、一度だけ交渉しよう」

 

 とはいうが、お嬢は難しいだろうと思っている。

 一商業ギルドの喧嘩(いざこざ)に、果たして剣帝が応えてくれるものだろうか。

 沈黙する一同。

 幹部の一人が重苦し気な空気をやわらげようと声を上げる。

 

「てか、お嬢が戦闘時に身に着けている白龍のチャイナドレス“傾城傾国(けいせいけいこく)”でも十分でしょう?」

「そうですよ。あれでいま支配下においてる、神クラスでも最上位モンスター《雷神・トール》とか、最強(さいつよ)ですし?」

 

 お嬢は軽く笑って答えた。

 答えるついでに普段の戦闘装束──白銀の龍が刺繍された純白のチャイナドレスと、神器級(ゴッズ)装備の“竜殺しの外套(タルンカッペ)”に早着替えする。雷を総身に纏う魔法剣士は肩をすくめた。

 

「つっても。私のトールは奥の手。相手は他にも神クラスモンスターを多数使役してる以上、正直どこまでやれるか……」

 

 神クラスモンスターは、実装当時は最強のボス存在に位置づけられていた。信仰系魔法詠唱者の中には、実際にユグドラシルに存在する神を奉じ、ゲーム設定上信仰することが普通に行われている。

 だが、運営は神の脅威を世界の下に設定し、数多くの神が雑魚……とまではいかずとも、それなりに攻略可能な存在になりおおせた。いまだに拠点NPCのUR制作ガチャには実装されていないが、あるいはそのうち──なんて噂もある。

 そんな中でも、北欧の雷神・トールは最強の名をほしいままにしていた。

 なにしろユグドラシルの元ネタにちなんだ北欧神であり雷の神だ。その大槌(おおつち)の破壊力は、世界蛇ヨルムンガルドをも撃砕するといわれるほど。

 仮にも北欧神話を主体としたゲームなのだ。こいつまで雑魚扱いをしては、さすがに運営も立つ瀬がないというものだろうに。

 お嬢が幹部らに微笑む中、木こりが誰にも聞こえぬよう耳打ちするように顔を寄せる。

 

「お嬢────いっそのこと、彼の手を借り受けるというのは?」

「は? 彼って?」

「お嬢が懇意(こんい)にしている、堕天使の」

「それはダメだ」

 

 オパールの瞳が憤慨の雷光に(ひらめ)いたように見えた。

 パウダーピンクの怒髪が、天を突こうとするかのごとく揺らめく。

 彼の情報は、彼女たちの商業ギルドの中でも明らかにされていない。

 彼が、お嬢の営む「NPC外装(ビジュアル)取引」において重要な顧客であり商業ギルドとしての価値を考慮したから、というのが主たる原因であったが、お嬢の低声はむしろ私情の分量が増している。

 

「彼は──今回の戦いには絶対に参加させない──というか彼は、うちの雇われの、NPCビジュアルグラフィッカーであり、彼のギルド内装を手掛けてやっただけ(・・)の間柄よ。今回の争いに巻き込む道理はない」

 

 それに、場合によっては、あのギルド──アインズ・ウール・ゴウンも参戦してくる可能性があること──それが彼を遠ざける最大要因のひとつであった。

 

「ですが、彼が有している世界級(ワールド)アイテムの有用性は」

「お願いだから、それ以上は言うな、(ラン)

 

 殺すぞ。

 そう言葉もなく言われた。

 本名で制止された木こり(ランバージャック)は、アイコンさえ浮かべるのを止めたお嬢の本気度を推しはかった。そして屈した。

 しかし、本気で惜しいとも思った。時間制限付きとはいえ「味方全員を無敵化」できる世界級(ワールド)アイテムというのは、今回の戦争で十分に活用する余地もあろうに。

 

(まぁ、彼にとってはただの“烙印”でしかないのだから、あまり知られたくないのもやむなし、か。お嬢にとっても上客である以上、無理強いはできない)

 

 ひとり納得する木こり男のプレイヤー。

 お嬢は一座を見渡した。

 

「話はまとまった。最後に、立ち寄っておきたい場所があるんだけど、いいかしら?」

「立ち寄りたい場所?」

 

 疑問する煉獄やカラスたちに、お嬢は言った。

 

「ユグドラシル、北欧神話において最高神であり知の神に位置する神──“オーディン”を(たず)ねてみるつもり」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




世界級(ワールド)アイテムについて※

以下、Web版 説明より一部抜粋

総数は200(製作会社発表)。wikiに記載されている数は50。これは知られると争奪戦が行われるために、もっているプレイヤーが必死に隠すためである。

『聖者殺しの槍』:災厄のワールドアイテム。使用者のキャラクターデータの抹消と引き換えに、力を発動させる。制作会社狂ってる。
『ホーリーグレイル』:回復?系
『グライアイ』:ワールド・サーチャーズ所持。
『ユグドラシル・リーフ』:防御系
『ギャラルホルン』:超位魔法《コール・アヴァター/神の化身召喚》の上位?バージョン
『ファウンダー』:運営狂ってる。
『ダヴはオリーブの葉を運ぶ』:なにこれ
『強欲と無欲』:アインズ・ウール・ゴウン所持。前半最終話でアインズが使用予定。

 ほかにも書籍三巻「ギルド:アインズ・ウール・ゴウンから奪われた“支えし神(アトラス)”」なども参考にしております。

 が、この作品は【二次創作】ですので、あしからず。
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