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ミズガルズ。
シュヴェルトライテ城内。
ギルド:ノー・オータム──会議室。
教会の美麗なステンドグラスを思わせる大講堂に集まったのは、関係者である十数人。
「ニヴルヘイムの協力者ギルドのところに行く前のおさらい……これまでの調査で判明している、鬼舞辻無惨の関連情報まとめね」
スーツ姿のお嬢が用意したレジュメが配られるのと共に、長卓の上では立体映像が青白く浮かび上がる。
列席者の数は部屋の規模と比して、そう多くはない。
まず“柱”たち五名──背をまっすぐにした煉獄、ゆったりと腰をおろす胡蝶、静やかに卓を眺める冨岡、神経質そうに卓に肘を置く伊黒、無礼にも組んだ足を卓にのせて一同を威嚇するがごとく
それと、クラン:キサツタイの四名──カラス、シマエナガ、オオルリ、シラトリ。そして、彼らの対面の席に、お嬢の腹心たる幹部たち複数。
ギルド:ノーオータムは、クラン:キサツタイ──もとい鬼殺隊を「客分」として、
すべては、竈門炭治郎一行──悪鬼を引き連れたクソったれどもを討滅する目的で。
お嬢は簡潔に議事を進める。
「結論から言うと。ここ数ヶ月続発していたランカーギルド急襲、ヘルヘイムを中心とした各地の北欧神
そう断定するお嬢を補佐するように、元第九開拓都市の顔役──
一覧されたのはモーズグズをはじめ、ゲーム内で消失・行方不明扱いを受けている北欧神話由来のボスモンスターたち。
「〈
一覧が切り替わる。
フロースガール王領を荒らす怪物“グレンデル”。そのグレンデルの母たる復讐鬼“グレンデル・マザー”。ヘイムダルの化身たる旅人“リーグ”。魔竜と大鷲の仲介者“ラタトスク”。そして、羽衣を纏う北欧神話最高の美の女神“フレイヤ”。
カラスたち一般のプレイヤーからすればとんでもない事態に直面していると理解せざるを得ない。
ユグドラシルのモンスターは、専用の職業スキルや装備を使用することで「捕獲」「調教」し、自分の“シモベ”として配下に加えることができる。
「ありえません。いま挙がったのは、運営が用意したボスNPCやレイドボスばかりです。しかも神のフレイヤまでなんて……とても
「ありえない──そんなことはわかってる。けれど、実際にモーズグズをはじめ、実例がこれだけの数も積みあがれば、現実として受け入れるしかない。おわかり?」
カラスの抗弁を封殺したお嬢であるが、彼女にしても今回の件は「おかしすぎる」と
運営の用意する
これまで運営は沈黙を保ち続けている──まるで、これはプレイヤー同士が片付けるべきいざこざか何かだとでも言わんばかりに、無関心だ。いや、あるいは、本当にクソ運営は関知していないという線もあり得るだろうか?
あの有名な1500人の大侵攻──誰もが侵攻部隊の八ギルド連合の勝利を信じて疑わなかった──『ナザリック第八階層での“番狂わせ”』を見て、パンクするほどの抗議文を受け取っても「あれはチートではない」と明言した運営のことを思うと、今回の対応の鈍さも「なくはない」と思うお嬢。
「ボスキャラの件はこれぐらいにして、まだもう一つ問題がある」
「問題とは?」
完全に復調した煉獄の
「……問題は、あの【竈門炭治郎】という存在」
柱たちの表情が一変することなく、ただ、一挙に関心の圧を増した。
お嬢は言ってのける。
「あのクソガキ、いや、あの竈門炭治郎を称する敵は、私たちプレイヤーの即死対策を素通りして
「? 悪鬼化とは?」
首をかしげる胡蝶に、お嬢は説明した。
「ああ、とりあえずの仮称だけど、あれはウチらが知るゾンビ化やスケルトン化やヴァンパイア化……不死者のモンスターとは決定的に違う。かといって、ユグドラシルに現存する「鬼」の種族とも言えない。カテゴリ欄が“バグった”存在だから“バグ化”とか“バグモンスター”にしようかって話もあったけど、あの悪鬼を捕獲し肉体から剝ぎ取っ、もとい、採取したサンプルの検査結果で、あれは新モンスター“悪鬼”であると、ワールド・サーチャーズが正確に定義してくれたわけ。こういう調査系においては、調査系ギルドの仕事は迅速かつ的確なのが売りよ」
「──悪鬼か」
「ふん。確かに」
「悪くねえじゃねえか。あの所業はまさに、悪鬼と呼ぶにふさわしいと思うぜェ?」
冨岡、伊黒、不死川が順に納得の息をついた。
「それで。自称竈門少年の攻撃、その対応策の方は?」
煉獄の問いに、お嬢は肩をすくめてみせた。
「今のところは“何も”。ただ、あいつと交戦した煉獄さんや、私の戦闘データログから見るに、とにかく一撃死しなければいい……かもしれないってところかしら?」
「とすると、仮称竈門くんの相手は“柱”レベルでないと務まらない、と」
そう理解を示す胡蝶。
「難儀な話だ」
と伊黒。
「俺たちが都市の外で対処していた“れいどぼす”とやら。あれは下弦の鬼などよりもはるかに厄介な相手だ」
「ああ。なにせ、あの図体の
そんな厄介極まるバケモノどもを、竈門炭治郎は今も営々と作り出しているかもしれない、そう思うと、柱たちは居ても立っても居られない思いを覚えた。
「それで。肝心の竈門少年の、
煉獄の質す声に、お嬢が映像を白亜の巨城に切り替える。
「ヘルヘイムのなかでも最高にめんどくさい
お嬢の説明は簡潔を極めた。
人海戦術のまったく通じない
ここで、不死川が苛立ちをこめて頬杖を突く。
「だが、そこを
「そりゃあ、ね。そこはむこうにいる転移魔法の使い手──ヴァフスルーズニルなんかの仕業だと思う」
お嬢の予測に、煉獄は腕を組んで考える。
「転移魔法……確か、転移魔法でいけるのは施術者が行った地点に限定されるのだったか?」
「あとは、なんらかの情報系魔法で現地の位置情報を把握する必要があります……けれど、最高難易度ダンジョン・氷河城を遠方から魔法で覗き見ることは」
不可能だと説くカラス。
そんな簡単に覗き見が出来れば、このユグドラシルで未知なる世界や領域など、〈
「状況は分かった」
冨岡が意外にも一同を代表するがごとく雄弁を発揮する。
「して。そちらはどのようにして、鬼舞辻無惨の拠点を落とす算段か?」
あの最終決戦で無惨を討ち果たすのに貢献し、柱としての自覚に満ちた水柱の様子に、隣に座る蟲柱などは虚を突かれる。
そちらはさておき。お嬢は難しい顔(のアイコン)を浮かべながら、一人述懐する。
「……ヘルヘイムの白城と対なすニヴルヘイムの黒城──あそこを利用する」
投影画面が二つの世界──隣接する死の世界たるヘルヘイムとニヴルヘイムの全景(調査済み領域)を映し出す。お嬢はとにかく不満そうにブーたれていた。
「ああ、もー……あいつに頭を下げるのは業腹だけど、背に腹は代えられない──」
「ニヴルヘイムの、鋼鉄城?」
「まさか、
カラスやシマエナガたちが眉をひそめた。
事態を飲み込めない柱やプレイヤーたちに、お嬢の背後に控えていた大男が注釈を述べてくれた。
「じつは、お嬢と、ニヴルヘイム・ワールドチャンピオンたる最上位死霊王殿は旧知の仲といいましょうか、義」
「それ以上は言う必要ないわ“ジャック”」
言外に「余計なことを言ったら●す」といわんばかりの変わり身で、カラスたちは現実の背筋がひやりとした。
お嬢は口調を常の営業モードに直す。
「今回の相手がワールド・エネミーである以上、有象無象のプレイヤーじゃ話にならない。そもそも物量戦が意味のない相手だから、こっちも最精鋭をぶつけるわよ」
「あん? 物量戦に意味がないってどういうこったァ?」
不死川の問いかけに、お嬢は基本的なワールドエネミー攻略戦術を説明する。
「ワールドエネミーをやるには、6人パーティを6組、計36人で組まれる“
「というと?」
胡蝶が促す。
柱たちが知らないのも無理はないが、ユグドラシルでは通常6人1組チームを5組までの、最大30人でパーティーが組める。しかし、例外として二ギルド協力可能な6人1組からなるチーム6組で構築される
お嬢は言い添える。
「普通に考えれば単体の敵なんて、100人や200人でタコ殴りにすればいいって思うのが普通でしょうけど、このゲームではあくまでチームを組んで……まぁ
「めんどうな話だな」
「もし、それに則さぬ人数構成で挑まない場合はどうなる?」
率直に顔をしかめる不死川と、淡々と疑義を述べる伊黒。
「そのときは、勝負自体が成立しない。相手が“無敵”モードにでもなったのかってステータスになって手が付けられないうえ、取り巻きの雑魚モンスターが無限湧きするから始末が悪い──前のムスペルヘイム・ワールドチャンピオンが呪いでエネミー化しやがった時も、本気でヤバかったわね……」
懐かしくも嫌な思い出を想起したお嬢は
「あんた
「いや、それは少し話が違うな、お嬢さん」
煉獄が待ったの声をかけた。
「我々柱は九人だ」炎柱は豪語した。「きっと、この世界のどこかに、柱があと“四人”いる。それを含めて、戦力の方を考えていただきたい」
頷く柱たち。お嬢はこめかみに手を当てて考える。
「……前も聞いたけど、その話の根拠は?」
「ない!」
「ありませんね」
「ないな」
「とくにない」
「しいて言えば、俺らがここにいることが根拠、ってやつかァ?」
胡散臭げを通り越して呆れたような表情(アイコン)を浮かべるお嬢。
「……まぁ。各世界各地域にいる支部を通じて、宣伝というか
クラン:鬼殺隊がやっていたそれとは比べようもない、商業ギルド:ノー・オータムの拡散力。それは必ずや、ユグドラシル全土全域に波及する。
何しろ今回のは掲示板などへの投稿ではなく、空に文字や映像が浮かび上がる仕様の大規模広告版だ。これならばユグドラシルのド辺境に住んでいても、いやでも目に入るのである。
煉獄の動画付き
『鬼殺の剣士よ、我がもとに来たれ。この世界に住まう鬼舞辻無惨を、
運営のアプデニュースや、他のギルド広告とまじって流れるそれは、シュヴェルトライテ城の上空にも定期的に回り浮かんでは消えている。
あとは、
「本当に良かったの? 集合場所とかは明記しなくて?」
「ええ。私たちには私たちなりの暗号手段がございますので」
そういって笑った胡蝶は、女神のごとく
胡蝶は右手で“狐”の形を作ってコンコンと頷かせてみせる。
「柱であれば、煉獄さんの暗号──指文字を読めないことはないでしょう」
「なるほど。妙なポーズと思ったけど──だから映像付きにこだわったわけね」
ひとしきり感心するお嬢。しかし、一同の不安を代弁するかのように、黒髪の少年が独語する。
「本当に、うまくいくでしょうか」
柱たちは無言だった。
「これ、期日までに柱がそろわなくても」
「ああ。我等は戦いに赴く」
彼らの決意は断固たるもの。
それなりに発言権を持つはずの商業ギルドの長が
お嬢は深く呼吸する。
「……こちらが揃えられる戦力は揃えたいところね」
氷河城攻略のための戦闘部隊の投入。勿論、寒冷地対策に
「敵が“ワールドエネミー”である以上、こっちもなるたけ
実際は望み薄だ。
ギルド:ノー・オータムや協定を結んでいるワールド・サーチャーズでもひとつを有しており、他の
「サーチャーズが所有している“グライアイ”は、攻撃には使えない探索系」
お嬢の脳裏に閃くのは、とにかく実戦闘に使えそうなもの。
そのなかでも“鬼”に特攻がありそうなものとくれば。
「“
幹部やカラスたちは一様に頷く。
「相手が“悪”側の存在なら“
お嬢は肩をすくめて頭を振った。同意するように幹部の女性プレイヤーが続く。
「さすがにギルド:セラフィムは貸してくれないでしょうね。いくらウチの頼みでも」
「あったりまえでしょ。「二十」なんて、使用したら即・消滅の
「──ほかに使えそうな
「“ダヴはオリーブを運ぶ”……
所有者は判明していますが、使用条件および効果不明で、いまだに発動したことすらないそうで」
「ま、使えねえな。これといった実戦経歴もないし」
即座にコンソールを通して「
「“ユグドラシル・リーフ”……
全世界規模の防御・城塞型アイテムで、現在ギルド:
「うちの
×を二重に入れるお嬢。
「“ギャラルホルン”……
超位魔法〈
「あの九曜喰らい戦から、所有者は未確認、か」
──×。
「“
天空を支えた神の話から、全世界を
「サーチャーズにしてみたら喉から手が出るほど欲しいでしょうね。けど、あそこから奪ってまで手に入れたあのギルドは一般公開なんてしないし一時貸与もしない……フツーの自己利益追求型ギルドだものね」
「“ホーリーグレイル”……
杯の中身を飲めば、常時〈
「“副作用”が、えげつないから論外」
××××と四重されるチェック欄。
あれを扱ってる(?)プレイヤーを知ってはいるが、とにかく
幹部は最後のリストをめくった。
「“
「二十」のひとつで、言わずと知れた
お嬢は鼻を鳴らした。
「あんなアホ武器、喜んで使う奴がいるか。傭兵NPCに持たせたところで、当てられなきゃ逆に
まったく、結局“四凶”って、なんだったんだよ、気になってしようがねえなどとブツブツ言いつつ、
「“
そして、最後の項目には、戦艦でも輪切りにしそうな巨剣を担ぐ一人の男の姿が。
「現アースガルズ・ワールドチャンピオン──
剣帝が持つ「二十」のひとつ“
普段彼が扱う巨剣とは別に存在するアイテムで、普段はこん棒程度の攻撃力しかないそれが、使えば使うほど無限に強くなっていき、最終的には単騎で最上級ダンジョンも陥落させるとされている“
「ニヴルヘイム・チャンピオンとアースガルズ・チャンピオン……少なくとも、そのお二人から助力を
これは
「……アースガルズの剣帝の方には貸しがひとつある。それを清算できるか、一度だけ交渉しよう」
とはいうが、お嬢は難しいだろうと思っている。
一商業ギルドの
沈黙する一同。
幹部の一人が重苦し気な空気をやわらげようと声を上げる。
「てか、お嬢が戦闘時に身に着けている白龍のチャイナドレス“
「そうですよ。あれでいま支配下においてる、神クラスでも最上位モンスター《雷神・トール》とか、
お嬢は軽く笑って答えた。
答えるついでに普段の戦闘装束──白銀の龍が刺繍された純白のチャイナドレスと、
「つっても。私のトールは奥の手。相手は他にも神クラスモンスターを多数使役してる以上、正直どこまでやれるか……」
神クラスモンスターは、実装当時は最強のボス存在に位置づけられていた。信仰系魔法詠唱者の中には、実際にユグドラシルに存在する神を奉じ、ゲーム設定上信仰することが普通に行われている。
だが、運営は神の脅威を世界の下に設定し、数多くの神が雑魚……とまではいかずとも、それなりに攻略可能な存在になりおおせた。いまだに拠点NPCのUR制作ガチャには実装されていないが、あるいはそのうち──なんて噂もある。
そんな中でも、北欧の雷神・トールは最強の名をほしいままにしていた。
なにしろユグドラシルの元ネタにちなんだ北欧神であり雷の神だ。その
仮にも北欧神話を主体としたゲームなのだ。こいつまで雑魚扱いをしては、さすがに運営も立つ瀬がないというものだろうに。
お嬢が幹部らに微笑む中、木こりが誰にも聞こえぬよう耳打ちするように顔を寄せる。
「お嬢────いっそのこと、彼の手を借り受けるというのは?」
「は? 彼って?」
「お嬢が
「それはダメだ」
オパールの瞳が憤慨の雷光に
パウダーピンクの怒髪が、天を突こうとするかのごとく揺らめく。
彼の情報は、彼女たちの商業ギルドの中でも明らかにされていない。
彼が、お嬢の営む「NPC
「彼は──今回の戦いには絶対に参加させない──というか彼は、うちの雇われの、NPCビジュアルグラフィッカーであり、彼のギルド内装を手掛けてやった
それに、場合によっては、あのギルド──アインズ・ウール・ゴウンも参戦してくる可能性があること──それが彼を遠ざける最大要因のひとつであった。
「ですが、彼が有している
「お願いだから、それ以上は言うな、
殺すぞ。
そう言葉もなく言われた。
本名で制止された
しかし、本気で惜しいとも思った。時間制限付きとはいえ「味方全員を無敵化」できる
(まぁ、彼にとってはただの“烙印”でしかないのだから、あまり知られたくないのもやむなし、か。お嬢にとっても上客である以上、無理強いはできない)
ひとり納得する木こり男のプレイヤー。
お嬢は一座を見渡した。
「話はまとまった。最後に、立ち寄っておきたい場所があるんだけど、いいかしら?」
「立ち寄りたい場所?」
疑問する煉獄やカラスたちに、お嬢は言った。
「ユグドラシル、北欧神話において最高神であり知の神に位置する神──“オーディン”を
※
以下、Web版 説明より一部抜粋
総数は200(製作会社発表)。wikiに記載されている数は50。これは知られると争奪戦が行われるために、もっているプレイヤーが必死に隠すためである。
『聖者殺しの槍』:災厄のワールドアイテム。使用者のキャラクターデータの抹消と引き換えに、力を発動させる。制作会社狂ってる。
『ホーリーグレイル』:回復?系
『グライアイ』:ワールド・サーチャーズ所持。
『ユグドラシル・リーフ』:防御系
『ギャラルホルン』:超位魔法《コール・アヴァター/神の化身召喚》の上位?バージョン
『ファウンダー』:運営狂ってる。
『ダヴはオリーブの葉を運ぶ』:なにこれ
『強欲と無欲』:アインズ・ウール・ゴウン所持。前半最終話でアインズが使用予定。
ほかにも書籍三巻「ギルド:アインズ・ウール・ゴウンから奪われた“
が、この作品は【二次創作】ですので、あしからず。