煉獄杏寿郎と巡るユグドラシル【オバロ×鬼滅】   作:空想病

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RPGの鉄則:物語の最初にヒントは隠されている


第弐拾参話 (たぶら)かされし王の食事亭

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 一方そのころ。

 

 ミズガルズのホームタウン“樹界都市(アスクエムブラ)”中央。

 

「よもやよもやだ!」

 

 煉獄は純粋な驚きを面に浮かべていた。そして、一言。

 

「相変わらずだな、ここは!」

 

 煉獄杏寿郎は久方ぶりに世界樹の空に陰る街に足を運んだ。こんな時でなければ、宿屋兼食事処の“(たぶら)かされし王の食事亭”店主ガングレリが提供する極上の食事──フレイムドラゴンステーキセットやアルフヘイム産・九種の温野菜と薩摩芋(さつまいも)御膳などを仲間たち──冨岡や胡蝶らに振舞いたいが、残念ながら、今回の目的は食事関係にあらず。

 彼をここへ連れてきた商業ギルド“ノー・オータム”の長たるお嬢は、店への扉をあけながら、告げる。

 

「『ギュルヴィたぶらかし』」

 

 彼女が口に出した単語は、北欧神話における起源のひとつともいえる“作品”のことであった。

 

「ここの店名、“(たぶら)かされし王の食事亭”というのは、そのまま『神々の館に招待されながら(たぶら)かされた、一人の王』を意味している。」

 

 宿を貸し切る=ユグドラシル金貨を億単位で消耗するという第一条件を満たしたお嬢に連れられるまま、煉獄たちは扉をくぐった。

 しかし、内装にこれといった変化はない。貸切ったおかげで他に誰も客がいない程度の差だ。カウンターで待ち受ける主人の顔は、煉獄の知るそれとまったくおなじ。

 

『ご用は何でしょうか、お客様?』

 

 素朴かつ温和な口調。

 その定型文を吐く主人・ガングレリ──その名前こそ、神々の館で王が使用した偽名であった。

 ヴァルハラの館に案内されたガングレリ──その正体は、アース神族の力を借りたいと画策したスウェーデン王・“ギュルヴィ”。

 だが、神々は彼の意図を読んでいた。

 彼の訪問を知りながら神々は彼に対して門を開いた、ヴァルハラへの道が開いたのだ。

 つまり、

 

「現状、私らが最高神に謁見(えっけん)するには、どうあってもガングレリ経由じゃないと無理なのよ……戦場でならいざ知らず」

 

 そのような役割を持つ、重要な役儀を果たすような男にも見えない平凡に笑う男は、お嬢の言葉──第二条件の合言葉(キーワード)を待ち続けている。

 お嬢は淡々と告げる。

 

「──『誑かされし王・ギュルヴィに問う。もっとも偉大な神るは?』」

『ハールは答えた。「それはアルファズル──オーディンである」、と』

 

 ガングレリもとい、ギュルヴィ王が厳粛に答えた瞬間、王衣を纏った彼は一瞬で姿を消した。同時に、建物全体がギシリと揺れ始める。変化と呼ぶには、いささか以上に駆動音が激しい──変形と呼ぶ方がふさわしかった。

 建物の構造自体が自動的に変形を余儀なくされての震動、というべきか。ロビーの吹き抜けはなくなり、ありえざる空色と木漏れ日が部屋全体を明るく染める。

 食事亭の二階にあったはずの宿部屋は、完全になくなってしまったようだ。今は空が、その建物の一部となっている──そして、建物の中央部から下りてくる、芯柱のないガラス製の透明な螺旋階段が、一同の前に披露された。

 

「──これが?」

「“表ヴァルハラへの道”よ」

「……表?」

「とすると、裏なんかがあるのかぁ?」

「ええ、そう──ものすごく物騒で野蛮で超上級者向け(ナイトメア)な“裏側”がね」

 

 疑問符を以って問う煉獄たちに、お嬢はこともなげに気安く説明する。

 

「現時点だと、ここ経由以外からオーディンにあうことは人間のプレイヤーにはできないのよ。たとえ、アースガルズにいても、ね」

 

 そう言って、お嬢は透明な(きざはし)を上り始めた。木こり(ジャック)もそれに続く。かんかんという金属質な高温は一切聞こえず完全な無音──空気か薄雲でも踏んでいるかのような無音ぶりだ。

 煉獄や冨岡、胡蝶、不死川、伊黒が淡々と後に続く中、こんな裏ギミックがあったこと自体初耳だったカラスたちも、手に手を取って、どうにか天への(きざはし)を上っていく。

 そして、

 

 

「 おおおお …… 」

 

 

 神聖な空気に身を包まれる、天上の楽園を見た。狼の巣があちこちにあるが、どの群れもあくびをたてて大人しい。小さな子狼のじゃれあいなど、微笑ましい光景ですらある。

 小川のせせらぎに小鳥のささやきが間奏を添えた、戦死者の国にして、オーディンの宮殿──“ヴァルハラ”。

 美しい女戦士が戦いの歌を歌う──ゲーム的に言えばBGMが流れている具合だ。

 ふと、一行の目の前に駆け寄ってくる少年が、三人。

 

「僕はハール」「僕はヤヴンハール」「僕はスリジ」

 

 三人の少年の案内で、一行は牧歌的ともいうべき天上の国を、オーディンの館へと案内された。

(もっとも、この三人のショタがオーディンという解釈も成り立つけど)と、お嬢は頭の中で笑う。

 少年らの案内した先に待つ宮殿じみた館は、天頂部に雄鶏──グリンカムビがおり、何事かを観測しているように微動だにしない。

 

「「「さぁ、どうぞ」」」

 

 少年ら案内役に促され、煉獄たちはオーディンの第五の館・黄金の館(グラズヘイム)に通された。

 少年らに先導されるまま、一行は黄金で出来た長卓の席にそれぞれ着くと、いつの間にやら少年たちの姿がない。

 そして、黄金の玉座に光がともる。

 部屋の奥に玉座らしきものが十段以上も高い位置にあり、そこには二頭の狼と二羽の(からす)がいるだけで、主人の姿は見えない……否。

 

「?」

 

 最初に気づいたのはカラスであった。

 

「どうかした?」

 

 シマエナガに問われつつも、彼が指差すことができたのは、金色の玉座のさらに、上──

 

「あ、あれって?」

 

 全員が注目した先にあるのは、ステンドグラスの一部と目されていた、人の影。

 それがほんのわずか、かすかにだが、動いていた。

 

「な」

 

 煉獄らが刀を抜くこともできず、言葉を失うのも無理はない。

 オーディンは老人と聞いてはいた。

 つばのひろい帽子に隻眼の、神槍グングニルを持った、長い髭を貯える老人の姿だと。

 ──だが、自分で自分の首を吊り、自分の身体を槍で貫いている老人だとは、一言も聞いていなかった。

 

「ま、まさか、あれが?」

「そ。最高神オーディン」

 

 お嬢は平然と答えた。

 玉座に座す御仏の姿を連想していた煉獄らには理解不能であるが、これこそが、オーディンにとって必要な儀式であり、習慣であり、義務であった。

 オーディンは知識を得るためミ―ミルの泉を飲む代償に隻眼となり、ルーン文字の秘密、魔術を会得すべく、九日九夜、自分自身という存在を創造神オーディンに「捧げた」という逸話を持つ。

 それ故の知恵の神であり、こうして煉獄たちが訪れるきっかけとなったわけであるが、

 

 

『う、うう、ううう……』

 

 

 さすがに何かを問いたい気分にはなれないだろうと思うお嬢。

 何しろ相手は、北欧の最高神とはいえ、首吊りと自殺癖のあるご老体なのだ。むしろ、相手の凶行を見てドン引きするのが当然というもの。

 

 

「失礼! ご老人の方!」

 

 

 と思いきや。

 煉獄は構うことなく老人に語り掛ける。

 

「失礼ながら随分と苦しんでおられるご様子! 助けたほうが御身のためと思うが、いかがだろうか!!?」

 

 どこまでも愚直な煉獄の様子に、柱たちも呼応する。

 その姿を見渡した最高神は、

 

『……ほお。なかなか見どころのある者たちのようじゃ』

 

 オーディンはグングニルを自らの手で引き抜き、首を吊っている縄を引き裂くと、ドカッと真下に存在した玉座の上に泰然と腰をおろす。

 神は超然と頬杖をついた。

 

『この最高神。オーディンの知恵を借りに来たのであろう?

 己で調べればわかる程度のことは教えてやらんが、遠慮せず申してみるがよい、ユグドラシル(がい)の異邦人よ』

 

 最後の言葉を全く無視して、煉獄は問いを投げる。

 

「我々は現在、ワールドエネミーと呼称される鬼舞辻無惨(きぶつじむざん)を斃すための仲間を募っている! とくに、九人の柱! 残り四人の所在を是が非でも知りたい!!」

『ふむ。よかろう。調べて(しん)ぜよう』

 

 言うやいなや、彼の玉座にいた二羽の鴉──フギンとムニンが飛び立った。

 数十秒後、世界を見渡してきた己の耳目(じもく)たちから教えてもらい、オーディンは答える。

 

『岩柱とやらは、ムスペルヘイム“炎巨人の生誕場”に。

 音柱とやらは、ヘルヘイム“グレンデラ沼地地帯”に。

 恋柱とやらは、アースガルズ“ヴィ―ンゴールヴ”女神の館に。

 霞柱とやらは、ニヴルヘイム“ガルスカプ森林地帯、双樹の森”に』

「なるほど、相分かった!」

「待ってください煉獄さん。それが事実であるという証拠はどこにもありませんが」

「この状況下だ、胡蝶。確定ではないとはいえ、少しでも仲間たちの情報は集めておくに越したことはない」

 

 蟲柱と水柱の確認に、風柱と蛇柱も同意した。

 早急にメモを取り始めるカラスたち。

 お嬢は語られたうちの一か所が、自分がよく通っている──「彼」がいるギルド拠点の場所であることを察して、現実の表情は変えず、ただ背筋を悪寒が走るのを感じた。

 煉獄の声が続けざまに轟く。

 

「さらに質問よろしいか?!」

『無論』

「何故、我々九人の柱がここへ──いや、答えはわかりきっているな──鬼舞辻無惨を完膚なきまでに滅ぼすためか!?」

然様(さよう)

 

 煉獄はいつも通り闊達(かったつ)な調子で、最高神と相対する。

 若干20歳とは思えぬ豪胆ぶりだ。

 

「鬼舞辻無惨を斃すうえで、そなたたち神々(かみがみ)とやらの助勢は受けられるものだろうか?」

『それはならぬ。ワールドエネミーは世界の敵じゃが、あくまで人間(プレイヤー)たちに処理されるべき害獣(がいじゅう)にすぎん──そこのお嬢さんのように、世界級(ワールド)アイテムで“雷神トール”を無理やり使うのは可能じゃが』

 

 水を向けられたとわかったお嬢は遠くを見やる。

 そういえば、あのステンドグラスの枚数は何枚だったろうか?

 それにしても、と思う。この最高神オーディンは知恵の神という設定だけあって、他のNPCとは一線を画している。発話するのもそうだが、表情の変化や身振り手振りなども、まさしく運営が用意したNPC(モノ)として恥ずかしくない動作プログラムだ。正直、商業ギルドで卸している動作データよりもはるかに高度であると言わざるを得ない。

 

「では、これが最後の問いだ」

『なんじゃ? 勝てるかどうか卜占(ぼくせん)でもせよと?』

「その必要はない!」

 

 煉獄は一声する。

 

「何故なら! 我々が勝つからだ!!」

 

 そう豪語し断言する炎柱──煉獄杏寿郎。

 炎柱は今回の戦いを、まったく怖れてなどいない。

 戦力は少なかろうと。できることは限られようと。

 

「鬼舞辻無惨は(たお)す──必ず! この手で!」

 

 彼が想起するのは、歴代炎柱が残した書の内容。

 始まりの呼吸の剣士──継国縁壱以外の誰にも追いつめることが出来なかったという、最悪にして災厄の鬼の始祖。

 だが、冨岡義勇らの働きによって、鬼舞辻無惨は無事に滅んだ。日本(ひのもと)の国では。

 ならば、この世界・ユグドラシルでも、同じように滅ぼすのみ。

 

「俺が聞きたいのは、戦いの終わった『後』のこと、────────!」

 

 これに、オーディンは答えてくれた。

 

「今日は本当に感謝に堪えない! 仲間たちの居所はだいたい分かった!」

 

 これは非常に大きな戦力アップだ。ひとまず最初は、同じアースガルズにいるという甘露寺のもとへ“女神の館”へと向かうのも悪くない。

 

「オーディン殿! 無惨討滅の手がかりをくれた御礼は、必ず!!」

 

 そういって館を辞していく柱やカラス、お嬢たちを見送りつつ、オーディンは思う。

 ただ、一言だけ。

 

 

 

『……惜しいことだな』

 

 

 

 客人のいなくなったオーディンは、しばしの間、煉獄との邂逅の余韻に浸りつつ、またも自分をつるす縄と、貫き抉る槍を準備するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




(たぶら)=タブラって、もう言ってったっけ?

自論としては「タブラさん=嘘をついている説+?」
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