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「キャー、皆さんお久しぶりですーっ!」
アースガルズ“ヴィ―ンゴールヴ”女神の館にて、“恋柱”
そこに集っていた女神たち……オーディンの妻たるフリッグたちによる歓待を受けていた鬼殺の柱たる女傑は、煉獄らとの再会を素直に喜ぶ。
わけても“師範”と“継子”──師匠と弟子として、共に剣の修練に励んだ煉獄に対しては、顔面偏差値が崩れるほどの涙と鼻水を垂れ流して歓喜した。
「煉獄さん、っ、よくぞ、っ、ご、ご無事で!」
「うむ。相変わらず泣き虫なようだな甘露寺!」
再会をよろこび合う二人。
そして、
「か、甘露寺──」
「へ……伊黒さん」
あの最終決戦で、後世にて結婚の約束まで取り付けた両者は、
「…………っ」
「…………ッ」
何も言えなくなった。
ただ耳まで赤くして、互いに照れ笑いのような声を浮かべるのみ。
二人の事情を全く知らなかった煉獄や冨岡は疑念に首を傾げたが、察しは付いていた胡蝶と不死川があたたかく若い二人を見守る。
しかし、
『蜜璃ちゃんを連れて行こうっていうのなら、相応の実力を示して頂かないと、なりませんね』
フレイヤとは違い、我が子を危険から守るとする賢母の感を面にしつつ、女神は宣告する。
女神フリッグ。“ヴィ―ンゴールヴ”と呼ばれる女神の館の主人で、宮殿フェンサリルを居とする、すべての女神の頂点に位置する女神の中の女神。
「へぇ……それでしたら同じ女性同士、私が相手になりましょう」
彼女独特の刃のない──だが
「けけ、喧嘩はダメですよ!」
甘露寺の発した
二人の間に割って入り、勢い余ってフリッグの宴席台を交通事故よろしく、勢い余って吹き飛ばしてしまった。その直撃を被ったフリッグは、怒りのあまり鬼殺隊全員への敵対反応を取ることになるが、割愛しておこう。
『元気でいらしてね、蜜璃さん。しのぶさんも』
「は、はい!」
「そちらこそ──本当に傷だいじょうぶですか?」
鬼殺隊一行の力を認め、ボコボコの顔を瞬時に回復させる女神フリッグ。
「次に、ここから近いのは──ムスペルヘイム“炎巨人の生誕場”とやらか」
と不死川。
「そこに、柱最強たる“岩柱”──悲鳴嶼さんがいるわけだ」
と伊黒。
「ほほほ、本当に! 伊黒さんたち、なんで、そんなことを?」
と甘露寺。
「急ごう。期日まで時間はないぞ」
そう冷静に諭す冨岡に対し、煉獄は「うむ!」と承服の声をあげた。
「だったら手分けして探してみましょう」
そう述べるのは、鬼殺隊をここまで導いてくれた、商業ギルドの長である、お嬢。
「ムスペルヘイムは、クラン「鬼殺隊」の皆さんで。ニヴルヘイム、ガルスカプ森林地帯の方は、私の方で──少し心当たりというか、土地勘のある方をご存じですので。柱の皆さんの案内、お願いできます、カラスくん?」
「は、はい! ムスペルヘイムには、狩りで何度も足を運んでおりますし、“炎巨人の誕生場”でしたら、すぐにご案内できるかと」
決まりねと微笑みの
「合流予定地点は──どうかされました?」
お嬢が疑念の視線を送る先で、煉獄が何者かからの〈
「いや、ヘルヘイムの知り合いからだ……ふむ……! 宇随と合流した、本当かモモンガ殿!?」
全員が驚愕と歓喜に震えた。
彼が口に出した名前は宇随天元──まごうことなき“音柱”のそれであった。
上弦の陸との戦闘で片目片腕を喪い、戦線を離れ引退宣言までした柱であったが、不死川や冨岡の例にもれず、健在。
「ああ……ああ、わかった。ではニヴルヘイムで合流できるよう、手配を。ありがとう、モモンガ殿!」
やったぞと快哉を上げて、遠話の魔法の繋がりが断ちききれるのを感じる煉獄。
残る柱は二人……“岩柱”悲鳴嶼行冥と、“霞柱”時透無一郎のみ。
ここまでくれば、
「いよいよだな!」
そう確信してやまぬ炎……煉獄杏寿郎は、ムスペルヘイムへの道を目指す。
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ところ変わって、ニヴルヘイム・ガルスカプ森林地帯──双樹の森。
その中に隠されていた鏡の前で、時透無一郎と、熾天使プレイヤー・カワウソは邂逅をはたした。
「………………」
「────ねぇ」
無一郎は興味本位で訊ねた。
「どうして建物の中に海があるの?」
鬼殺の任務でも海に立ち寄ることはあった無一郎は、ヨルムンガルド
第四階層の屋敷から一望できる水平線は、南国のリゾート地そのものという景観であるが、それが建物・ギルド拠点内部にあることに不思議さを覚える少年に対し、カワウソはなんてことないように呟く。
「……あれは
「らぐーん?」
「……どうして中に連れてきちゃったかな、俺」
己の行動を今更になって悔いるカワウソ。六翼の右腕に相当する部位で球体の頭部分を叩く──しかし、彼には彼の事情があった。
「ノー・オータム──“お嬢”さんから聞いてた“柱”ってのを見つけたら知らせてくれって話だったし。あのままだと何時間も鏡の前で立ち話してそうだったし」
「柱? 柱を知ってるの、えーと?」
「あー。カワウソっていいます」
「
「……俺みたいな熾天使がしっているのか?」
「シテンシ?」
熾天使という単語からしてなじみのない少年は、独特の間の持ち主であった。
(正直、どう扱っていいかわからん)
興味津々に第四階層の内装を眺め、水平線の向こう側から感じられる潮風に長い髪を揺らす無一郎に、カワウソは辟易していたが、そこへ一本のメールが届く。
「“お嬢”さんからだ」
彼女からの文面は、仕事関連ではなく、ただの私用としてお時間をいただくことへの詫びが並び、最後に最近巷間を騒がせている“柱”について、何か知っていることはないだろうかという内容であった。
カワウソは少し考え、事実をそのままメールで伝えた。「時透無一郎を、ギルド拠点内にかくまっている」と。
返信は矢のごとく素早く飛んできた。
「カワウソくん、大丈夫?!」
お腹が空いたという無一郎に程よい美味さのスパゲティ・ナポリタン(~アルフヘイム産トマトをふんだんにつかって~)を食べさせてやっていた時に、お嬢は来た。
「本っ当に、ごめんなさい! 面倒なことに巻きこんじゃって」
「いえいえ。いつもお世話になってますし、これぐらいは」
箸を使ってナポリタンを平らげる少年剣士は「ごちそうさまでした」と折り目正しく一礼し、カワウソに感謝を送る。
お嬢から詳細を聞いた無一郎は、一も二もなく頷き、カワウソへ改めてお礼を述べた。
「ありがとう、
白刀を腰に佩いているとは思えない子供らしい微笑で、時透無一郎はお嬢らに伴われ去っていった。
「……なんだったんだ? 鬼殺隊──」
屋敷の巡回任務を終えたNPC・ミカが戻ってきた。
ネットでそれらしい単語を調べたカワウソは、100年以上前のアニメ動画──『鬼滅の刃』という作品にはじめて触れることになる。