煉獄杏寿郎と巡るユグドラシル【オバロ×鬼滅】   作:空想病

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第弐拾捌話 氷河城奇襲作戦

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 九つの世界同時に奇襲を仕掛けた悪鬼の群れ──その元締めである鬼舞辻無惨と竈門炭治郎の掃討は急務となった。

 

「前々から準備はしていたけど、こうも先手を取られるなんて」

「ミズガルズの不可侵地帯──ホームタウンのアスクエムブラにも、悪鬼の群れは寄せてくる勢いだとか」

 

 お嬢は(ほぞ)を噛んだ。

 しかし、納得しがたいことがひとつ。

 

「これだけの量の敵を、(やっこ)さんはどうやって統制している? 九つの世界同時侵攻とか、いかにもワールドエネミーらしい能力であり戦術ではあるけど」

「おそらく将帥級──敵の中での主軸となるものがいるはずだ」

 

 それまで会議に参加せず、大叫喚泉の漆黒の湖を眺めていたアースガルズ・ワールドチャンピオンが宣う。

 

「俺を含め、『九曜喰らい』戦……最初のワールドエネミーと戦ったことがある連中には既知のことだが」

「それぐらいわかってるわよ!」

 

 お嬢は臆することなく言ってのけた。

 

「それでも、今回の件はおかしすぎ。なんで運営からのアナウンスもなく、イベントが発生してんのよ?」

「あるいは、運営にも未知の事象が働いていたりとかな」

「はぁ? ありえるのそんなこと?」

「さてな……ニューロン・ナノ・インターフェース……人々の脳を巨大な演算装置として繋いでしまうあれの普及率は、ほぼ100%。いろいろと噂は絶えないからな。運営の用意した裏コードだの、チートバグだの……覚えはないか? ギルド:アインズ・ウール・ゴウン──ギルド長さん?」

「それは────どうでしょうね?」

 

 モモンガは言いあぐねた。

 世界級(ワールド)アイテムによる同時発動(シナジー)効果。

 その情報を知るのは、世界級(ワールド)アイテムを桁違いの“11個”も保有するギルドの秘中の秘であり、かの有名な「1500人全滅」を成し遂げた主因。けっして外部に漏らしてよい情報ではなく、ぷにっと萌えの情報管制でも、そのあたりは慎重を期している。

 

(ここで言うのは得策とは言えない。そもそもシナジー効果があることは、世界級(ワールド)アイテムを“複数”もてば試せる話。まぁ、持てたとしても、それが相乗効果を発揮するかどうかは運次第)

 

 モモンガは沈黙を貫いた。

 それをどう受け取ったのか、アースガルズ・チャンピオンは肩をすくめてみせる。

 

「とりあえす、いま必要なのは、圧倒的に“対応”だ。運営()公式ワールドエネミー:鬼舞辻無惨。これを討たねば、最悪ユグドラシル自体が滅びるぞ……九曜喰らいの時の失敗、失態を忘れたか?」

 

 当時を知らぬモモンガやカラスは首を傾げるしかないが、ユグドラシル創始期からの古参たるプレイヤーたちは重く頷くしかない。

 

「あー……当時はエネミーの斃し方も分からず、手探り状態だったものね」

「運営から公式情報が出て、ようやく“軍団(レギオン)”方式の討伐法が普及したんでしたね。オーディンに伺いを立てても『それぐらい自分たちで調べよ』の一点張りだったからな」

 

 お嬢が虚空を眺め、ニヴルヘイム・ワールドチャンピオンも同意するように首肯を幾度も落とす。

 

「なにはともあれ!」

 

 煉獄杏寿郎が柱を代表するように大音声(だいおんじょう)を放った。

 

「我々はこれより氷河城を(ねぐら)とする鬼舞辻無惨の討伐に向かわねばならない──というわけだな!」

 

 闊達な音調に同意したがごとく、冨岡義勇、胡蝶しのぶ、伊黒小芭内、不死川実弥、宇随天元、甘露寺蜜璃、悲鳴嶼行冥、時透無一郎──残る柱八人が席を立つ。

 腰に各々の日輪刀を佩いた鬼殺の柱たちの立ち姿は、見るものすべてを圧倒するものが漲っていた。

 それは戦気。

 あるいは闘志と呼ぶべきもの。

 そこに居合わせたユグドラシルプレイヤーたちは、皆すくみあがる思いを味わった──チャンピオンたち以外は。

 

「……ふむ。ただの、なりきりプレイヤーにしては」

「ああ。なにか、“度を越している”な……諸君らは」

 

 アースガルズとニヴルヘイム、双方のワールドチャンピオンが九人の柱への警戒を深めた。

 

「じゃあ、先遣隊はクラン:鬼殺隊の四人と、九人の柱たちで十三人──それからアースガルズのに任せて十四、プラスして私とランで十六ね」

「ちょ、そんな大事な役に、俺らが?」

「何よ、不満なの?」

 

 お嬢の作戦立案に異を唱えるカラスだが、

 

「大丈夫だ、カラス殿!」煉獄の言葉に背中を目一杯おされる。「貴殿らの腕ならば、継子(つぐこ)程度の働きは期待できる! 俺が、そのように鍛えたからな!」

 

 煉獄の言葉に嘘偽りはない。そのことを他の柱たちも(はだ)で感じ取っていく。

 カラスはシマエナガ、オオルリ、そしてシラトリを振り返り見て、ひとつ頷いてみせた。

 

「わかりました。俺たちも御供します!」

「何ができるかはわからないけど」

「精一杯、がんばります」

「………………」

 

 クラン:鬼殺隊の意思も固まったところで、アースガルズ・チャンピオンが告げる。

 

「では後衛には俺がつこう」

「ほう。その背中にある世界級(ワールド)アイテム“世界意志(ワールドセイヴァー)”の威を発揮する、と?」

 

 ニヴルヘイム・チャンピオンが顔のない影の(かお)を微笑ませながら(たず)ねた。

 

「有象無象を叩き潰さんと、“これ”は力を最大限まで発揮できんからな。最前線が危うくなった時の援軍として、期待しておいてもらうくらいが助かる」

「その代わり、報酬はたんまりもらおうというわけだ……別名・傭兵王は伊達ではないな、“剣帝”殿は?」

「何とでもいえ。(チャンピオン)の力を借りる以上、相応の支払いはあって当然だろう、最上位死霊王」

 

 何やら見えない火花を散らす両者の間に割って入るように、お嬢が立ちあがる。

 

「そっちは商業ギルドである我々の領分です、どうか存分な働きを」

 

 上客に対する礼節を形にしたようなやりとりで、お嬢は剣帝に頭を下げた。今回雇われる形となった彼の要求に、商業ギルドは全力で応えることを約束する。

 そのお嬢たちも中陣として氷河城奇襲作戦の要を担う──雷神トールを世界級(ワールド)アイテム“傾城傾国”で従えたお嬢と、その護衛役が数名つく予定。

 

「さて、となると、あとは攻城ゴーレムの発進準備だが」

「ああ、そちらはすでに手を回しました」

 

 モモンガは簡潔に言い放つ。

 

「タブラさん──うちの構成員の一人に連絡し、起動段階に入ったところです。

 ヘルヘイムに存在する我がギルド、アインズ・ウール・ゴウンが誇る攻城戦用ゴーレム・ガルガンチュア、その威を発揮するのにも、氷河城戦は望むところです」

 

 本来は、ただのダンジョン攻略には使えない攻城ゴーレムも、相手が“ギルド拠点”となれば、話は別だ。

 

「ははっ、さすが!」

「噂に違わぬ人物のようだな、アインズ・ウール・ゴウンのギルド長は」

 

 ワールドチャンピオン二人に同時に褒められ恐縮してしまうモモンガ。

 

「それじゃあ」

「作戦開始と」

「いきますか」

「煉獄さん!」

 

 カラスに促され、炎柱は一座を見渡した。

 

「それでは諸君!

 打倒・鬼舞辻無惨! えい、えい、おーっ!」

 

 

「「「「「「「  おおおーーっ!  」」」」」」」

 

 

 (とき)の声と共に突きあがる(こぶし)の数は、異形のそれを含め十八本。

 ここに、氷河城奇襲部隊の結成は、なされた。

 

 

 

 

 

 

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 ヘルヘイム・氷河城内にて。

 

「ふふふ、いい気味だ」

 

 惑乱するユグドラシルプレイヤーたちの様子を、鬼舞辻無惨は酒精──ではなく純血の注がれたワイングラスを片手に高みの見物を決め込んでいた。

 炭治郎が生み出した将帥級とも称すべきボスキャラたちが、各ワールドの主要都市を攻め立て、悪鬼の群れを量産し始めている。

 

「やはりお前は素晴らしい、炭治郎」

「あ、ありがとう存じます、無惨様」

 

 跪拝(きはい)の姿勢で忠節の言葉を述べる炭治郎の頭を思うまま撫で梳く無惨。

 やはり炭治郎こそが鬼の王にふさわしい。

 あとは、無惨自身が太陽の光を克服する手がかり──青い彼岸花を手に入れれば、事は成就する。その時が楽しみでたまらない無惨は杯を一気に干した。

 その時だ。

 

「んん……なんだ、この地響きは?」

 

 氷河城内では完全に聞いたことのなかったそれを、鬼の始祖は鋭敏に感じ取る。

 何事かと城の主人であったヘルの猿轡を解いて訊ねてみるが、詳細は不明のまま。

 しかし、地響きは次第に大きく、かつ、絶対的な揺れを感じさせるものに変貌を遂げる。

 城の宮廷魔術師のごとく仕えるヴァフスルーズニルに、外の様子をモニターさせていた無惨は、氷河城周辺の様子を映すように命じた。

 水晶の大画面(グレーター・クリスタルモニター)には、純白の吹雪が吹きすさぶ様子が映し出されるだけ……ではなくなった。

 

「……なんだ、あの赤い光は?」

 

 吹雪の中にともっていたのは、まるで心臓の鼓動のごとく胸部中央に燦然と輝く赤。それと同じ煌きに明滅する両の眼。

 霜龍や巨人の群れを蹴散らし、人間種を凍てつかせる猛吹雪も、同種を即死させるクレバスも、堂々と踏み越えて踏み砕いて進撃する巨岩の影。

 やがてずんぐりとしたフォルムに、太い手足を生やしたそれは、優に三十メートルを超える巨大な岩盤の“動く像”──攻城ゴーレムの類であることが判明した。

 

「はっ。面白い見世物だな……炭治郎」

「即座に、誅戮(ちゅうりく)の部隊を送ります」

 

 炭治郎が起動させたのは、氷河城地下にて埋もれていた同種のゴーレム、名を“アウルゲルミル”……原始の霜巨人の名を冠された攻城ゴーレムは、起動と同時に地表へと転移。ずんぐりフォルムの敵方とは違い、全身が永久氷河を切り出したかのような尖鋭なフォルムが特徴だが、敵方のような胸の鼓動は一切見受けられない。

 

()け!」

 

 そう命じる炭治郎の思念を受けて、アウルゲルミルは拳を振り上げ、氷河城に接近せんとする不遜な岩の塊に殴りかかったが、

 

「な、何ぃ?!」

 

 炭治郎が驚嘆に目を剥いた。無惨ですらも、炭治郎の支配下にある巨像が易々(やすやす)と敗れるとは(つゆ)とも思わなかった。

 アウルゲルミルは殴りつけようとした拳が融けて使い物にならなくなり、逆に岩塊の巨人──ガルガンチュアの一発を顔面に受けて倒れ崩れる。

 

「ま、まだだ!」 

 

 ここはアウルゲルミルにとって有利なフィールド。猛吹雪が損傷を癒し、巨大な氷柱状に伸びた腕が、ガルガンチュアの胸部を──貫けない。

 貫く前に超高温にさらされ、大量の水と化すアウルゲルミル。

 豪雪の中に倒れ伏す彼の足を、ガルガンチュアは虫の足でも()ぐように、簡単に破壊し、放擲してしまう。

 さらに、ガルガンチュアの背中や肩に乗っていた異形種プレイヤーたちの死体撃ちのごとき攻撃が、アウルゲルミルを周到に執着的に襲った。

 炭治郎は声を震わせて現実と向き合う。向き合わねばならなかった。

 

「ばかな、こんなことが」

「何をしている、炭治郎」

 

 炭治郎は背筋が凍る思いで振り返る。

 氷河城の玉座に座する主は、苛烈な眼差しで己の後継を見つめていた。

 

「あまり私の前で醜態をさらすではない」

「……も、……申し訳、ありません」

 

 だが、どうみてもアウルゲルミルとガルガンチュアの性能差は明らかであった。

 アウルゲルミルが氷であるのに対し、相手は明らかに超高熱を発していて、近づくことすら儘ならない。いくら再生可能なフィールドでの戦いと言っても、これでは。

 

「お二方とも。敵の正体が知れました」

 

 ヴァフスルーズニルは、その明晰な頭脳でもって、ずんぐりフォルムの岩塊を遣わした下手人を看取する。

 

「ほう? して、その敵とやらは」

「あの攻城ゴーレム、名はガルガンチュア──ユグドラシル内で悪名を轟かすギルド:アインズ・ウール・ゴウンの第四階層守護者というものにございます」

 

 搭乗し指揮をしているプレイヤーたちも、アインズ・ウール・ゴウンの関係者で間違いないと断言する魔法詠唱者(マジックキャスター)

 炭治郎は驚嘆の声をあげる。

 

「おまえ、そんなことまで分かるのか?」

「私はオーディンに並ぶ智者でありますれば」

 

 あっけなく言ってのけるヴァフスルーズニル。

 無惨は青筋を刻んだ顔で納得と疑念を呈する。

 

「そうか。アインズ・ウール・ゴウンとやらか。目障りな話だが、何故この時期に、ここを攻め寄せる?」

「おそらくは、我等の存在を知って、それを排除、または挑戦すべく動いたものかと。先のヘルヘイムへの攻撃の際には、接敵行動もとりましたので」

「ふむ。使者を送って和睦するまでもない──城の兵を出せ、炭治郎。おまえの無限の悪鬼ならば、その物量で追い返せるだろう」

「ははっ。ただちに!」

 

 炭治郎は城の守備兵に思念を送り、アウルゲルミルの援軍──ガルガンチュアの掃討のため、兵を動かした。

 

 

 

 

 

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「……そろそろ、向こうがいい頃合いだといいんだが」

 

 ニヴルヘイムの黒城では、最上位死霊王が刻限を数えていた。

 彼の背後に居並ぶ奇襲作戦の従軍者たち、その最前列で、煉獄は友人のことを思う。

 

「モモンガ殿は、うまくやってくれただろうか?」

「大丈夫だと思いますよ、煉獄さん」

 

 カラスは慰めるわけでもなく、杏寿郎に事実を教える。

 

「ギルド:アインズ・ウール・ゴウン──モモンガといったら、その筋では有名なプレイヤーです」

「そうそう。あの自称・悪のギルドの長だもの。そう簡単に負けるとは」

「思えないですよね」

「時間だ、諸君」

 

 ニヴルヘイム・ワールドチャンピオンの声に、全員が視線を転じる。

 どこかの部屋の柱時計がボーンという音を響かせ、定刻を告げてくれる。

 ……彼らがいるのは、黒城の秘密の通路──実はここに、ヘルヘイムの白城へと繋がる《扉》がある。

 ヘルヘイムとニヴルヘイムは同じ冥界であり、支配者も同じ名前のヘルという姫君、そして、世界の中央に聳えたつ最上級ダンジョンという配置まで同じときている。

 これだけの共通点がありながら、両者が全く無関係とは考えにくいと調べに調べた最上位死霊王が発見したのが、普段は隠されている謎の通路。発見当初は扉は固く閉ざされていたが、そこにある扉をある時刻に開けると、別の場所へと繋がってしまう。運営がどういう意図をもって黒城と白城に相同性や共通点を持たせたのか定かではないが、これは偶然ではない。

 このギミックを使えば、ニヴルヘイムの鋼鉄城からヘルヘイムの氷河城まで、一挙に侵入することが可能なのだ。その説明を受けた時、モモンガらが驚嘆したのも当然の事実である。ちなみに、このギミックを使えるのは鋼鉄城の主人であるニヴルヘイム・ワールドチャンピオンのみで、彼は潜入チームを送り出した後、“外”で戦うアインズ・ウール・ゴウンのメンバー……モモンガたちと合流する手筈である。

 そして、時は来た。

 柱時計が13回目の音色を鳴らした時、ニヴルヘイム・ワールドチャンピオンが、影の手でドアノブを回し、ついで叫ぶ。

 

「繋がった!」

「いくぞっ!」

 

 氷河城への《扉》は開放された。

 吹きすさぶ冷気が一行を襲うが、その程度は装備品ですでに対策済み。

 おまけに通路付近にいた炭治郎の悪鬼たちも、無惨の命令によって出払っていた。

 まさに千載一遇の好機。

 煉獄たちは地下から上階を目指して、一路進軍。

 外のガルガンチュアとの戦いに気を取られている無惨たちは、煉獄をはじめ九人の柱と、その協力者たちの侵入に、まったく気づくことが出来ずにいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【氷河城奇襲作戦】

>内部潜入戦力“第一陣”
 鬼滅の刃の“柱”たち        九人
 クラン:鬼殺隊          四人
 商業ギルドの長・お嬢と大男    二人
 アースガルズ・チャンピオン   =計16人
>外部攻撃戦力“第一陣”
 ガルガンチュア          一体
 ギルド:アインズ・ウール・ゴウン 数人
 ニヴルヘイム・チャンピオン    一人
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