煉獄杏寿郎と巡るユグドラシル【オバロ×鬼滅】   作:空想病

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第参拾壱話 鬼舞辻無惨討伐隊 -3

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 伊黒と甘露寺は、“音楽劇場”で歌う鬼に手を焼いていた。

 琵琶を弾き、城そのものを操る上弦の肆と、似ているようで異なる戦法。

 

「この、歌、声は、」

「しょ、衝撃、波?」

 

 あれも炭治郎が悪鬼化させた、この城の住人だろう。

 漆黒に塗りたくられた影絵のごとき歌姫の魔女は、その美声をもって、柱たちの接近を許さない。

 

「くそ、これはこれで」

「厄介な相手、ですね」

 

 無数にある観覧席の最後列で、思わず二人同時に、あの時のことを思い出すのは不謹慎だろうか。

 あの時は愈史郎(ゆしろう)という鬼の隊士がいたから後事を託せたが、今は──

 

「今は、援軍を待つ余裕はなさそうだ」

「ですね!」

 

 劇場の出入り口はすべて封鎖され、甘露寺の圧倒的な膂力(りょりょく)をもってしても破壊することはできなかった。とくれば──

 

「前の敵を倒す以外に、道はないな──」

「大丈夫。私と伊黒さんなら、きっと!」

 

 伊黒が赤面するようなことを言いつつ、恋柱は頬を熱くして前進し、己の呼吸を練りあげた。

 

「恋の呼吸 陸ノ型 猫足恋風」

 

 

 

 

 

 

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「ここは……」

「御館様の、お屋敷?」

 

 そう見まがうほど似ている日本庭園であった。

 よく手入れされた庭。白石の質感や小川のせせらぎまで、何もかも、今はなき産屋敷(うぶやしき)邸の庭園そのものであった。

 

「やぁ、行冥、しのぶ」

 

 二人は日輪刀を構えたまま、そこに佇む気配に慄然(りつぜん)とする。

 一族の呪いで紫に変色した顔の痣。手足の先も呪いの痣に侵され、立っていることすら儘ならない。

 だが、その声──まるで子を慈しむ父か母のごとき愛情のこもった声は、柱であれば聞きたがえようもない。

 

「…………お」

「御館、様?」

 

 喪服のごとき召し物に、白地に淡い色彩の羽織を纏った、男性の微笑。

 幻術だ。

 幻覚だ。

 幻影にちがいない。

 そういう血鬼術だと判断できたのは、悲鳴嶼の方が先であった。

 

「御館様の姿に化けるなど、無礼千万!」

 

 彼は鉄球を振り回して烈怒する。

 即座に岩の呼吸を発し、壱ノ型を繰り出す。蛇紋岩・双極による鉄球と手斧の同時投擲で挟み込まれた御館様は、ものの見事に破砕され、肉片の残骸と化す。

 

「ひどいじゃないか、行冥」

 

 二人はぎょっとしつつも再び振り返る。見れば、小川の石橋のあたりに佇む御館様の姿と声が。

 

「これ、また偽物ですか?」

「どうやら──そのようだ」

 

 岩柱の盲目の眼には、「透き通る世界」が見えている。

 御館様の筋力や臓器は、“あれほどまでに精強であるはずがない”のである。

 

「どんなに姿形を真似ようとも、我等には通じん」

「それはどうだろうね」

 

 胡蝶たちは視線だけで振り返った。

 

「僕たちのつとめは、君たちをここで食い止め続けること」

「悪いけど。行冥としのぶには」

「僕らとの戦いに付き合ってもらうしか、ない」

 

 岩柱と蟲柱は背中合わせに刀を構える。

 わらわらと湧いて出てくる、産屋敷耀哉(うぶやしきかがや)の姿──数えただけで二十人強──いや三十──五十人は優に超える。

 それらすべてを相手にせねばならないという、精神的にもキツそうな状況でも、二人は構えた日輪刀を下ろすことはない。

 

 

 

 

 

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「まったく、なんだってんだ、この戦場は」

「泥臭いというか、生臭いというか……いやな環境ですね」

 

 鉄条網を幾重にもひいた荒野。泥の跳ねる塹壕(ざんごう)の中で、二人は見えざる敵の攻撃を受けている。

 

「姿を消す血鬼術と、弾丸の血鬼術か……クソ、厄介だな」

 

 試しに宇随は忍特製の爆薬を四方にまき散らし、敵の反応を窺う。うまくいけば首は落とされ、敵の正体を幾許かでも知ることはできただろうが。

 

「ま、一筋縄にゃあ、いかねえわな」

 

 手ごたえなし。

 弾丸の驟雨(しゅうう)を受けて、二人は塹壕の中で身を隠すほかにない。

 

「宇随さん、今度は僕が試してみます」

「霞の呼吸か……よし、頼むぜ!」

 

 霞柱は塹壕を臆することなく飛び出し、「霞の呼吸 伍ノ型 霞海の海」で戦場を席巻する。

 瞬く間に純白の霧に覆われる戦場。時透は身体感覚を鋭敏に研ぎ澄まし、霧の中を移動する兵士の一群を見つける。

 

「霞の呼吸 壱ノ型 垂天遠霞」

 

 刺突攻撃は兵士たちの中心──頚を貫いたかに見えた。

 くずおれる兵隊。これで終わりかと呆気なさを感じる無一郎のこめかみに、弾丸の気配が迫っているのを知覚。

 

「時透!」

 

 だがそれは天元の放った苦無(クナイ)によって、間一髪のところではじき飛ばされる。

 霞柱は塹壕内に戻り、自らの失態を謝した。

 

「すいません、宇随さん。お手数をおかけして」

「なあに、気にするんじゃねえよ。……しかし」

 

 宇随は狭い塹壕から音の広がりで戦場の全体像を把握しつつある。

 時透が仕留めた兵士は、どうやら鬼の気配を纏った機械(カラクリ)仕掛けであったと窺い知ることができた。

 そして──驚愕の事実を把握する。

 

「どうなってやがる、この戦場は?」

 

 

 

 

 

 

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 第二階層“ダンスホール”にて。

 ここに残された炭治郎とモモンガたちもまた、死闘を演じざるを得なかった。

 

「モモンガさん!」

魔法二重最強化(ツインマキシマイズマジック)大爆撃(グレーター・エクスプロード)

 

 軍師・ぷにっと萌えの号令に伴い、死霊術師は炎属性の魔法を鬼の少年に浴びせかけるが、

 

「効果はいまいち!」

 

 試せるだけの魔法を試し、試せるだけの戦術や戦法をぶつけてみたが、そのどれもが竈門炭治郎には通用しなかった。まるで、すべての属性に耐性・無効化を有するがごとき強健すぎる鬼の肉体。反則級なまでの一撃死性能の刀──竜尾が五本も生えた刀の威圧感と圧倒感。

 

「クソ、一旦後退します!」

「そう簡単にひかせるわけ」

「いいや、ひかせてもらう」

 

 待機がずしんと重くなったような、声音。

 アースガルズ・ワールドチャンピオン──“剣帝”が動いた。

 彼は対艦刀とも呼ぶべき巨大な武器を器用に振るい、まるで野球のボールよろしく竈門炭治郎の肉体を豪快に吹き飛ばしてみせた!

 

「おやおや、“吹き飛ばし”効果ですか。これではこちらも引かざるをえませんね」などと暢気に宣うヴァフスルーズニルを放置し、剣帝は告げる。

 

「一旦体勢を立て直す! 一階に降りろ、アインズ・ウール・ゴウンのお歴々!」

 

 すでに炭治郎との戦闘で、ザ・サムライ(ぶじんたけみかづち)ザ・ニンジャ(にしきえんらい)の二人が、戦闘不能に陥っていた。

 そんな二人を連行し、症状を分析・解析する“大錬金術師”タブラ・スマラグディナ。

 

「二人とも、徐々に鬼化が進行していますね──彼の攻撃は厄介の極みだ」

「……一旦、死に戻ってくるっていうのも、いい作戦じゃないか?」

「……不覚を取っただけだ。次は絶対に素戔嗚(スサノオ)ぶちあててやる」

 

 二人が損傷・切断したのは右腕と左腕──あれほど超高速に伸縮変形する攻撃など、対応できるのはワールドチャンピオン級の実力者のみである。

 

「勇ましいのはいいですけど。無茶はしないでください、二人とも」

 

 タブラ・スマラグディナが錬金術で二人の治療を試みる。

 

「とりあえず錬成調合してみた抗生物質を投与してみました。けれど、次に攻撃をうけたら」

「おしまいってか?」

「くそ、笑えねえ!」

「……………………」

 

 モモンガは沈黙して考えにふける。

 このまま仲間を危険にさらすことと、今回の作戦を天秤にかける。

 煉獄たち柱たちを分断した意図──ユグドラシルプレイヤーであるモモンガたちを残置した理由──炭治郎の目的は、

 

「自分たちを悪鬼に変えて支配下におこうとしている?」

 

 つい口を突いて出た言葉を、モモンガは慌てて飲み込んだ。

 だとすると、なんとかして柱たちと合流せねば。

 当初の作戦だと、九人の柱──竈門炭治郎と戦闘可能な彼らのサポートをしつつ、ワールドエネミー・鬼舞辻無惨の掃討に手を貸すというのが、作戦の大前提だ。

 だが、転移阻害装備効果を貫通するほどの強力な〈転移〉で、柱たち九人は行方不明。

 大幅な計画の見直しが求められていると、モモンガは肌で感じた。

 

(最悪の想定、九人の柱を一人ひとり潰されでもしたら)

 

 今回の奇襲作戦は失敗に終わる。

 だが、氷河城に乗り込んだ今をおいて、ベストなタイミングなんて存在するのだろうか。

 

「おっと──」

「どうかしまし」

 

 たかという前に、モモンガは周囲を見渡す。

 無限の悪鬼の群れが、モモンガ一行とアースガルズ・ワールドチャンピオンを取り囲んでいた。

 

「ようやく、ちょうどいい戦場になってきたな」

「え……剣帝、さん?」

 

 モモンガが問うよりも先に、彼は背中の樹剣(ワールドアイテム)を取り出し構え、無限の悪鬼共に突き付ける。

 

「これで“世界意志(こいつ)”の真価もようやく発揮できるってもんだ」

 

 モモンガは不安げにたずねた。

 

「いけますか?」

「ここに来る前に、軽く“ウォーミングアップ”してきたからな。打ち合ってるうちに、こいつの効果が上がることを祈ろう」

「もういいですか、作戦時間は?」

 

 そう促してくる炭治郎は五本の竜尾の刃を下段に構えて、アースガルズ・チャンピオンの出方を見る。

 

「おたくらはヴァフスルーズニルをどうにかしておいてくれ。さすがに、あれを気にしながらだと集中して打ちこめない」

「わ、わかりました」

 

 チャンピオンに言われるまま、モモンガたちはヴァフスルーズニルへと照準を定める。

 

「今だ!」

 

 剣帝の声と共に、全員が動き出した。

 悠然とそれに対処しようとした炭治郎の前に、“世界意志”の樹剣を構えた剣士が立ちふさがる。

 転移の魔法などではなく、特殊技術(スキル)の発動でもない──これが彼にとってあたりまえのゲームプレイなのだった。

 

(いやいやいや、速すぎだろ!)

 

 モモンガは記憶にあるたっち・みーと比較してみたが、彼の方がより速度の面で押している気がする。あれも世界級(ワールド)アイテム“世界意志”の効果なのだろうか。

 

「──ッ」

 

 剣帝は無言で悪鬼を討ちとりつつ、炭治郎の竜尾五本を一挙に相手取る。

 徐々に所有者のステータスを増幅させていく“世界意志”の樹剣に、炭治郎の竜尾一本が、折れて砕けた。

 

「いける!」

 

 そう確信したモモンガ。

 やはり、上の上に位置しているプレイヤーは格が違うことをまざまざと思い知らされつつ、ヴァフスルーズニルの攻撃魔法を、剣帝の方へもっていかせない。

 さらに、三重強化した〈心臓掌握〉が、確実に黒髪白衣の魔法詠唱者の心臓を捕らえスタンしていく。

 

『っ、っ、……邪魔を』

「よし、今だ、タブラさん!」

「〈上位転移(グレーター・テレポーテーション)〉」

 

 ゲームの仕様上、あまり遠くまでとばせえない敵──第一階層の“氷の螺旋階段”くらいだろう──に敵を分断したモモンガたちは快哉をあげる。

 

「こっちはなんとか押さえますから、剣帝さんは」

「おう。任せとけ!」

 

 頼もしい声を受けて、モモンガたちは一路“氷の螺旋階段”へと向かった。

 ダンスホールには立った二人の剣士二人が相対するのみとなる。

 

「──なめた真似してくれるじゃないですか?」

「おまえ一人なんぞ、俺一人で充分ってことだ」

 

 事実を告げる樹剣の保持者は、巧みな剣術を披露するが、炭治郎もまたそれに負けない剣技を披露する。

 さすがのアースガルズ・チャンピオンも肝が冷えた。

 ワールドエネミー攻略は初の仕事ではないが、ここまで厄介な邪魔が入るのは、想定外にもほどがあった。

 

「おまえ、一体なんだ」

「…………()? ボクは──」

 

 そこで一時停止(フリーズ)してしまう炭治郎。

 

「僕は、──違う、(おれ)は──俺って何だ──俺は竈門炭治郎だ。じゃあ、(ぼく)は?」

 

 至高の渦にはまる敵。

 

僕は(・・)一体(・・)()()()()?」

 

 それなのに、竜尾を使った剣戟は衰えることを知らない。

(NPCにしては人間臭い奴だ)という判を押しつつ、剣帝は“世界意志(ワールドセイヴァー)”を振るい続ける。

 その時だ。

 

「『そんなことなど関係ない、そうだろう、炭治郎?』」

 

 ノイズのように響く男の声が、炭治郎の口から零れ出ていた。

 

「な、なんだ?」

「はい、無惨様」

 

 無機的に応対する敵に対し、アースガルズ・チャンピオンは突貫する──が、その横合いから横やりが入った。

 

「モーズグズか!」

 

 主人の危地を救うべく、アースガルズの裏ヴァルハラから帰還帰投を命ぜられた女騎士が、尋常でない気迫と剣技でアースガルズのワールドチャンピオンを圧倒していく。

 剣帝は肝が潰れる思いで迎撃し続ける。まだ途上とはいえ、“世界意志”の力以上の力など限られている。

 

(この力! 今こいつ自身がワールドチャンピオン級じゃ!)

 

 雑魚相手には無双し増強できる力も、同格同等の相手には分が悪い。

 壁際に追い込まれた剣帝は、モーズグズの振るう機械槍の一撃をモロに浴び、窓外の猛吹雪の底に落ちていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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