煉獄杏寿郎と巡るユグドラシル【オバロ×鬼滅】   作:空想病

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第参拾漆話 血戦

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「──ヒノカミ神楽──」

 

 

 少年はまるで舞い踊るかのように、“鬼舞辻無惨”の方へと斬りかかった。

 そして、叫ぶ。

 

 

()()

 

 

 強い踏み込みと共に前転。溢れ出す陽光の軌跡が、確実に無惨の触手数本を焼き斬った。刀を振るう炭治郎の様は、ある種の精霊のようにも見える。

 

「ば、馬鹿な……」

 

 己の後継者と信じて疑わなかった者の造反──裏切りに、無惨は耐えがたいほどの屈辱と怒気を味わった。

 

「た……炭治郎……貴様ア"ッ!!!」

「違う」

 

 明哲な響きを伴った、自称・竈門炭治郎を名乗る鬼。

 彼は澄み渡る空のように透き通った声で、明朗に告げた。

 

 

僕は(・・)僕だ(・・)────竈門炭治郎じゃ、ない」 

 

 

 何が起きているのか判然としない柱たち。

 それにも増して、これまで従順に仕え続けていた竈門炭治郎の裏切りに、鬼舞辻無惨の意識は一挙に混沌と化していく。

 

「おまえは炭治郎だ! 私がヤツの細胞から創りあげた存在なのだぞ!?」

()は……竈門(かまど)炭治郎(たんじろう)では……な"い"!」

 

 少年の血を吐くがごとき宣告。

 にもかかわらず、彼の繰り出す十二の円環──日の呼吸の極意たるそれは、確実に無惨の力を奪い取り、再生の速度を著しく減耗させていた。

 

 炎舞(えんぶ)

 幻日虹(げんにちこう)

 火車(かしゃ)

 輝輝恩光(ききおんこう)

 飛輪陽炎(ひりんかげろう)

 斜陽転身(しゃようてんしん)

 日暈(にちうん)(りゅう)頭舞(かぶりま)

 陽華突(ようかとつ)

 灼骨炎陽(しゃっこつえんよう)

 烈日紅鏡(れつじつこうきょう)

 碧羅(へきら)(てん)

 円舞(えんぶ)

 

 血みどろと化す主人・鬼舞辻無惨に対し、自称炭治郎だった鬼は、鬼の瞳を閃かせながら述べ立てる。

 

「あなたには、感謝しております。

 こんな僕に命を与え、力を授け、務めを与え、結果的に、彼女とも出会わせてくれた──だがッ!」

 

 少年はさらに刃を主人の奥底へと突き入れていく。

 容赦なく。慈悲もなく。

 ただ冷酷に冷厳に、宣言する。

 

「僕は! 僕の意思で! おまえを(たお)す!!」

 

 同時に、赫く灼熱した冨岡の日輪刀の熱量に焼かれていき──

 彼の創造主たる鬼の始祖は、血眼を剥いて怒気を爆発炎上させる。

 

「この、──裏切り者がああああああああああアアアアアアアアアアアアアア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ッ!!!!」

 

 無惨の絶望と憤激にまみれた大叫喚と共に、肉鞭の群れが炭治郎の全身を切り刻みバラバラに分解してしまう。

 

「あ……」

「この私が、裏切り者を許すとけっして思うな!」

 

 さらに細切れにされる炭治郎の肉体。

 自称炭治郎のいう通り、彼は竈門炭治郎ではない。

 それ故に、彼の放つヒノカミ神楽・日の呼吸も、そこまでの出力は期待できなかった。使っている刀も、満身創痍の冨岡から、半ば強引に奪って借りた青い日輪刀であることも、彼の技の強度を弱める要素たりえた。その刀だけが無傷で元の持ち主のもとへ転がっていったのは、奇跡と言ってよいだろう。

 

「が、あ……」

 

 吹き飛ばされる、少年のバラバラの肢体。

 無惨同様、無限の再生能力を誇っていたことが信じられないほどボロ炭と化す肉体。主人から“棄てられた”後継──道具は、廃棄処分されるのが関の山だったのだ。

 

「貴様のような不良品はいらん。新たに炭治郎を造れば、それで済む話だからなあアアアアアアッ!!」

 

 かろうじて繋がる頭部と胸部に、トドメの爪牙が怒涛となって殺到した瞬間、

 

「竈門少年!」

 

 シラトリたちによって、この階層にまで運び込まれた煉獄杏寿郎の炎刀が、かろうじて割って入ることができた。

 ほかの柱たちやモモンガ、ワールドチャンピオン二人も無惨を追い立て、物理的な障壁となって刃をむける。

 その間に。

 

「おい、少年、しっかりしろ! 竈門少年!」

 

 もはや怒鳴りつけるような煉獄の呼びかけに、鬼の少年は微笑すら浮かべて訂正を求める。

 

「あ、は、は……ち……ちが、い、ますよ、れんごく、さ……ぼ、く、は、竈門、炭治、郎、じゃ、ありま、せん」

「!」

 

 瀕死の状態にありながら、少年は一心に己の意思を表明する。

 煉獄は励ますように鬼の身体──もはや胸から上だけといってよい(むくろ)を揺さぶった。

 

「ならば君は!

 君はいったい誰だ!

 君の! 本当の名は! 何なんだ!」

 

 教えてくれと頼む炎柱の腕の中で、竈門炭治郎ではない鬼の輪郭が砕け、崩れていく。

 そして、誰にとっても残酷な事実を、告げる。

 

 

「…………僕……にッ、……名、は…………な……い…………。

 ……ぼく、は、……だ、れ、で も ……ない ……ぅ──」

 

 

 血のあぶくを吐いて、両の目から涙をあふれさせた少年から、かろうじて教えられた真実。鬼舞辻無惨、許すまじ。その決意を新たにする炎柱・煉獄杏寿郎。

 もはや音という表現もできない、微風よりも儚げな喘鳴(ぜいめい)をあげる、鬼。

 

 

「ご…… め  モ  ズ  グ  ごめ… ぅ ぅ  」

 

 

 煉獄の鍛え上げた聴覚神経が、彼のボロボロに崩れる口元から、数音を拾い上げることもできなくなる。

 己の不甲斐なさを呪いかける炎柱──だが、しかし、ふと気づく。

 

 

「──ありがとう、少年」

 

 

 煉獄は知っている。

 彼が最後に成し遂げたことは、煉獄のみならず、ここにいる皆が、等しく胸に刻んで忘れることはないだろう。

 

 

「君は、その手で我々を守ってくれた。人々のために、無惨を斃すために、その刃を振るってくれた」

 

 

 かつて、同じことを煉獄は、一人の少年に説いて聞かせたことがあるのを思い出す。

 

 

「命をかけて“鬼”と闘い、人を守る者は、誰が何と言おうと、鬼殺隊の一員だ」

 

 

 目を(みは)る鬼の少年に、煉獄は静かにうなずく。

 

 

「君を、鬼殺隊の一員として認める。

 だから、君は何者でもないはずがない。

 君は、俺たちの大切な仲間だ。だから、堂々と胸を張れ──胸を張って、──ッ」

「ぇ、へへへ…………あ、あり、が…………      」

 

 

 少年は感謝の言葉を唇にのせきれず、顔面まで灰のように崩れ去る中で、確かに微笑み、最後の涙をこぼした。

 

木偶(でく)人形呼ばわりして、すいません)

 

 その声は言葉にならなかった。

 数瞬の後、まるで太陽のようだった少年の笑顔は、煉獄たちが見送る中で、ユグドラシルの世界から、永遠に消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 どことも知れぬ闇の中──

 

 

「……待っていてくれたのか?」

 

 

 鬼の少年が、闇の底へ向かう道行きのなかで、ひとり待っているものがいた。

 

 

『はい。お待ちしておりました』

 

 

 銀髪褐色に眼鏡をかけた女騎士は、常の戦装束をといて、一心に、彼を待っていた。

 

 

「ごめんな。待たせてしまって」

『いいえ』

「ごめんな。たくさんつらくあたってしまって」

 

『とんでもないことにございます』と微笑む彼女に手を差し伸べられ、鬼の少年は迷うことなく彼女の手を取った。

 

 

「でも、本当にいいのかい?」

『当然です』

 

 

 彼女は月光のように美しい笑顔を向けて、少年の両手を握ってまっすぐに正対する。

 

 

『私は誓いました。私に自由を与えてくだった、たくさんの世界を見せてくれた、あなたのために、私の身命のすべてを捧げると。

 私のすべては、あなた様だけのもの──ですから、どうか、このまま共に(まい)らせてください』

 

 

 彼女の誓約と意思を無下にはできないと、少年はかすかに、だが太陽のように快く笑う。

 

 

「ありがとう──モーズグズ」

 

 

 彼は地獄への道を歩みだす。

 己の罪を購うために。

 己の業を償うために。

 けれど、もはやその瞳には、かつての恐れなどはなかった。

 

 

 彼は地獄の業火に焼かれ、暗黒の底へと燃え尽きていく。

 胸を張って。堂々と。

 

 

 ──“誰でもない自分”を心から認め、ひたすら想ってくれる女性(ひと)と、手を繋いで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




自称・竈門炭治郎、死亡。



完結まで、あと4話
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