前話「第肆拾話 煉獄杏寿郎、任務を終える」の後日談です。
読んでない方は前話をご覧ください。
カラス、シマエナガ、オオルリの関係性については、「第拾玖話 煉獄杏寿郎、夢を見る -2」で、それとなく語られています。
>「あのときは、ほんとに、足ひっぱってごめんな」
>「何言ってんの。……同じ病棟の仲じゃないのよ」
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ワールドエネミー・鬼舞辻無惨討伐クエスト。
別名、氷河城攻略クエスト。
運営が後日発表したそのクエスト名によって、鬼舞辻無惨は
「大赤字だわ」
ミズガルズ、
シュヴェルトラウテ城、
ギルド:ノー・オータムの拠点にて。
「鬼舞辻無惨討伐戦で、支配下においていた“雷神・トール”は失うし、“剣帝”アースガルズ・ワールドチャンピオンへの報酬額と合算しても、うちの利益なんてないも同然だったわ」
「そうはいっても。これは『ギルドの
わかってると呟く白銀のチャイナドレス姿で散らかったデスクの上に両脚を乗せる女性プレイヤーは、ビン底メガネの位置を整えた。
「あーあ。せめて氷河城のダンジョン運営権ぐらいは取りたかったんだけどな~」
「致し方ないでしょう。あそこの運営権を握るボスキャラは、あくまでも【災厄姫ヘル】です。それとの交渉なり戦闘なりを行えなかった時点で、ダンジョンの運営権は移行しません。第一、人間種主体の我々では、あそこを運営し続けることは不可能。結局オークションに、
ランは不景気そうな表情を頭上に浮かべてみせる。
お嬢もそれに
「とりあえず。うちの参戦が少しでも鬼舞辻無惨討伐の功績に結びついたのは、宣伝効果としてデカい。鬼殺の柱たちの動画映像を撮影してくれてたタブラっていう人への褒賞も高くついたけど──カラスくんたちが教えてくれた、クラン:鬼殺隊が獲得し、うちに公開してくれた
「“完全幻覚”能力でしたか」
お嬢は頷く。
きっと“青い彼岸花”というもの自体が
「しかし、惜しいことですな。せっかくなら規模縮小したクラン:鬼殺隊を、我が陣営に取り込むことが出来ればよかったのですが」
「クラン長──カラスくんの意思は尊重しましょう。商売は人心優先、ってね」
お嬢は父からの教えを実践しつつ、突如頭の中に響くコール音──おそらく義兄の最上位死霊王からの連絡に辟易しつつ、頭の中の受話器を手に取ろうとして、相手の名前表記を見て居住まいを正した。何度も咳払いして声の調子を確かめる。
お嬢はビジネスモードで受話器を取った。
「はい、もしもし──ああ、カワウソさん! ギルド内装の件は逢坂さんと折り合いが付きましたので……ええ、すぐにそちらへ納入の方へ……え、依頼していた新しいNPC外装データ、もう出来上がったんですか? いつも本当に、綺麗な外装データをありがとうございます──納入と合わせてすぐ受け取りにうかがいますね!」
お嬢は氷河城のことなどすっかり忘れて、上客との商談に心浮き立たせている。
彼女は今日もユグドラシル内を忙しく
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ミズガルズ、樹界都市アスクエムブラにて。
最上位死霊王──ニヴルヘイム・ワールドチャンピオンは、誑かされし食事亭に参集してくれたワールドチャンピオン達(“剣帝”は欠席)で、戦勝式の宴に興じていた。
宴の主催者たるミズガルズ・ワールドチャンピオン──最上位竜騎兵が檄を飛ばす。
「それでは、ご臨席の皆さん──ワールドエネミー討伐、おめでとう!」
おめでとう、という唱和の声。
一度は陥落まで秒読み段階にまで荒らされたホームタウンも、運営の手によってすっかり元通り。あの軍勢に加わった数多くのNPCやレイドボスも、元の場所に戻ったことが確認された──が、鬼舞辻無惨に喰われたヴァフスルーズニルと、ギョッル川の門番として長く存在してきた女騎士・モーズグズだけは、元の位置には戻されなかった。が、さしたる疑問を差しはさむプレイヤーは絶無であった。
戦いに参戦した多くのプレイヤーが、人間種・亜人種・異形種問わず参集し、祝杯を打ち鳴らし、クラッカーの紐を引いてパーティグッズを着込んでいる。
「しかし、今回の敵は厄介な相手だったな」
最上位死霊王がそう評するのを、各ワールドの覇者たちが同意するようにアイコンを浮かべる。
「まさかの
「あの量がひとつのワールドに集約されてたらと思うと、ぞっとしないのじゃ」
「あと、エネミー討伐者の名簿欄には驚きましたよ」
「事前に聞いていたとはいえ、あのアインズ・ウール・ゴウンも、討伐の功労者とは」
「ははぁ! しかも! 主たる討伐団体は、たった三人のクラン──鬼殺隊と来た!」
「ある意味、これからどう立ち回るのか……みものですね」
ヴァナヘイム、ムスペルヘイム、ニダヴェリール、ヘルヘイム、ヨトゥンヘイム、ニヴルヘイムの順に話すチャンピオンたち。
彼らは世界樹の大樹の下、巨大パーティ会場と化したアスクエムブラであがる花火の群れを楽しみつつ、交流を深めた。
「ところでニヴルヘイムの」
「なんです、火炎姫さん?」
「隠さんでもいい。どうだったのじゃ? その鬼殺の柱たちとやらの戦いぶりは?」
死霊王は無言で、タブラ・スマラグディナが撮影してくれた──それ以外の戦闘参加者はそれどころではなかった──柱たちの戦闘風景動画データを取り出し、
「まだまだ、このユグドラシルには“未知”がたくさんありそうです」
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ヘルヘイムのホームタウン“
異形種に有利なヘルヘイムの、多種多様な攻撃性フィールドエフェクト──特に人間種にとって致命的なものが多い──がある中で、唯一といってよい安全地帯のホームタウンである。
そこを待ち合わせ場所に選んだモモンガと、クラン:鬼殺隊において名実共に長となったカラスが、さびれた酒場──女堕天使のプレイヤーで経営されているそこで杯を並べ、軽い宴席をもうけている。モモンガは骸骨種でも摂取可能な特殊な黒色の飲み物を。カラスはアルフヘイム産オレンジジュースを注文している。
「そうですか、では」
「ええ。クラン:鬼殺隊は正式に、ギルド:キサツタイとして再結成されることになりました」
「それは、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
モモンガとカラスは談話に興じる。彼ら以外の客はいないし、何よりここの
褐色の肌に、たわわに実った胸、濡れ羽色の黒い髪──地上に落とされた天使の特徴として、壊れた翼の姿が印象深いが、あれは客の前でだけ出すスキルオブジェクトらしい。詳しくは知らないが。シャカシャカとシェイカーを振って独自のカクテルを生み出し、
そちらには目もくれず、フード付きマントを被った武士・カラスは主張する。
「本音を言うと、煉獄さん達がいなくてやっていけるのか不安でしたけど、クランの時の仲間も、シラトリさん以外は皆、戻ってきてくれたし、せっかく
「なるほど。立派な判断だと思います」
鬼舞辻無惨討伐の際、リスポーンに間に合わなかったサムライとニンジャは歯噛みして悔しがり、メールの呼び出しに気づくのが遅れた姉弟はINしていなかった自分たちの判断を心から後悔した。とくに茶釜などは煉獄さんロスが酷かったが、それもタブラの撮ってくれた動画が唯一の救いとなった。特に、特殊クラス【
酒場に集った二人は煉獄に関する思い出話に話を咲かせていたが、ふとカラスが呟いた。
「本音を言うとですね。こんな自分にギルド長なんて務まるのかなぁって」
「というと?」
カラスは不安を口にした。
それは彼のリアル事情にも大きくかかわっていた。
「自分、本当は今、病院住まいで、子供のころからずっと長いこと
「みんなで
カラスは頷いてみせた。
国内でも有数の自由度を誇るDMMO-RPGに
その直後、慣れない戦闘の最中、助けてくれたのが、あの煉獄杏寿郎だった。
カラスは握った杯──オレンジジュースの金色を眺めながら、モモンガに語る。
「正直、いつ死ぬかどうかもわからない自分たちがギルドを、なんて、想像を絶するというか、身の丈に合わないというか」
「……そんなことはないと思いますけど?」
「ありがとうございます、モモンガさん。でも、煉獄さんにも言われましたし……『この世界を生き抜いてほしい』って……俺、っ、あんなまっすぐ生きてほしいって、言われたことなくて……病院の皆は優しいですけど、それでもっ」
そこから先は言葉にならなかった。
出会うことが出来て、本当に良かった──と。
カラスという少年が、余命宣告を受けていることを、モモンガは知らない。
モモンガは慣れないながらも人生の先達として、ギルドランキング最高第九位の長として、新米ギルド長の肩を叩く。
そして思う。
(煉獄さん、あなたの意志は、思いは、確かに残っているみたいです)
モモンガは、運命を異にした者が目の前にいる思いで、自分のグラスを掲げ、一息に
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二人はしばらくの間、緊密にやりとりを交わしていたが、それもいつの頃からか途絶える。
カラスと、彼の仲間たちがどうなったのか知るものはいない──
内紛や分裂があった形跡はなかった。彼の病状がどんどん重くなり、ゲームに
そんな苦い経験も、モモンガ自身、仲間たちとの度重なる別離と、多忙なリアル事情の合間に、
季節は巡り、年月は積み重なる。
盛者必衰。
のちに、ユグドラシルは12年という短くも長い歴史に幕を下ろす。
それでも、彼らの記憶には煉獄杏寿郎や柱たちは存在した──
彼らと駆け巡った思い出は、消しようがない事実であった──
そのことだけは、誰にも否定しようがない、真実であった──
『煉獄杏寿郎と巡るユグドラシル【オバロ×鬼滅】』をご覧いただきまして、誠にありがとうございます。
去年の5月に連載を開始して、今年5月での完結に相成りました。
オーバーロードの主人公・モモンガと、鬼滅の刃の炎柱・煉獄杏寿郎の「中の人/声優つながり」というクロスオーバー作品、これにて終幕となりましたが、いかがだったでしょうか?
自分としてもクロスオーバー作品は初の試みだったので、両方のキャラを立てるのに難儀しつつ、ユグドラシルのオリキャラとも絡ませつつ、手探りで進めてきましたが、なんとか完結までこぎつけることが出来ました。ひとえに皆様の応援のおかげです。
ラストはしっとり湿っぽい感じになってしまいましたが、初期案だと他のゲームや物語に煉獄さんが転移して、また「よもよもよもやだ!」──というのもあったのですが、「いくら何でも煉獄さん働かせすぎ」という理由でボツにしたり(*'▽')
本音を言うと、もう少し続けたい気持ち──モモンガの活躍や、オリキャラの掘り下げ、柱たちの日常、氷河城の主・災厄姫ヘルの動向などを書きたい気もあったのですが、私のリアル事情の都合で、一旦、二次創作からは離れようかと。詳細は活動報告「六年」を参照。……なにげにチラ裏で絶死絶命ちゃんの話も書きあげることは出来ましたし。これで思い残すことは────結構ありますね!
最後は駆け足の連載となってしまって、誠に申し訳ございません。
とにかく一度始めた物語は、できるだけ完結させる主義ですので。
さて、ここで恒例のお礼タイム。
この作品を
お気に入り登録してくれた400名以上の方々。
評価してくれた50名以上の方々。
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本当にありがとうございました!
またFANBOXなどを開設しておりますので、ご支援いただける方がいれば、そちらの方もよろしくお願いいたします(一応の報告)
それでは、またの機会にお会いできる日が来ることを。
By空想病