煉獄杏寿郎と巡るユグドラシル【オバロ×鬼滅】   作:空想病

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※この二次小説は、原作にはないオリジナル要素を多大に含みます。


第伍話   モモンガたち、煉獄杏寿郎を評す

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 ミズガルズ・アスクエムブラ近隣の森から、ヘルヘイム・グレンデラ沼地へと、ひとつの転移門が開かれた。

 黒い門のうちから歩み出た異形種プレイヤーは、三名。

 そのあとに続くものはなかった。

 

「おつかれさまです、モモンガさん」

「こちらこそ。長いこと付き合わせてしまってすいません、お二人とも」

「そんなこといいよ~、モモンガおにいちゃん~。なかなかにない出会いだったし」

 

 炎を思わせる剣士・煉獄杏寿郎と別れ、帰路につくモモンガたち。

 仲間からのいたわりの言葉に、骸骨のプレイヤーは軽く後頭部のあたりをもみほぐしながら答えた。

 

「あはは……いやぁ……ほんとうに……濃いひと……でしたね」

「うんうん」

「確かに」

 

 二人の頷きをうけつつ、モモンガは頬骨を掻いて思い返す。

 煉獄杏寿郎とのやりとりを。彼が語ってくれた“設定”を。

 

「鬼殺隊。

 武器は日輪刀。

 着ている衣服は隊服。

 鬼狩りの使命。敵は鬼舞辻無惨。

 趣味は能と歌舞伎と相撲観戦…………ほんと、ものすごい人でした」

 

 森の中で座り込みながら話を聞かされること一時間弱。

 煉獄は、「鬼舞辻の鬼ではない」「人間を食わない鬼」と確信したモモンガたち一行に襲撃の件を陳謝し、彼らと友好を深めるべく、自分の身の上を聞かせてくれた。

 

「あそこまで徹底されたキャラプレイは、初めて見ましたね。いや、ああいう『なりきり』ができるのも、DMMO-RPG(このゲーム)醍醐味(だいごみ)といえば醍醐味ですが」

 

 モモンガは思い出す。

 彼の挙動や言行をつぶさに観察しつつ、そのキャラメイクの精巧さと異彩ぶりに、正直なところ目を奪われてしまった。

 このユグドラシルにおいて、キャラの造形はすべてプレイヤーの自由に任されている。人種、瞳、髪色、肌の色、体格、場合によっては戦傷痕などのオプションまで、有料のクリエイトツールを使えば、すべてをこと細かくメイキング出来る。

 煉獄というキャラクターは、既存品のそれ──運営側が用意している数十種類のキャラパーツ──とは、一線を(かく)すものだ。長い金髪には炎が灯るような赤。切れ上がった双眸の真紅。本当に血の通っているかのような、血管の筋まで分かりそうなほど雄々しい肌艶(はだつや)。どれもがモモンガの知りうる初期パーツでは、ありえない。そして、自分の手ずからああいうキャラ造形を用意するには、よほど手間暇をかけないと、あそこまできめ細やかな仕上がりにはならない。ネット上にあふれる二次元のイラストをそのまま持ってきたりしたところで、三次元空間であるDMMO空間内で違和感を持たせないようにすることは、正直なところ難しい。どちらかというと3Dクリエイターとしての手腕が求められるのだ。さらに、彼が身に帯びていたアイテムにしても、すべてが精巧に作られていた。煉獄が日輪刀と呼ぶ赫い刀、“炎柱の象徴”だという羽織にしても、一切が既製品などでない精緻(せいち)な造形が見て取れた。

 そして何より。

 彼の語ってくれた身上話(みのうえばなし)──設定を語る際の挙動についても、内心「よくぞボロをださなかったものだ」と、ひとしきり感心してしまうほどである。

 というのも、

 

「ああいう設定を語っているときって、どうしても中のひとの恥というか、違和感というか、そういうのをついついこぼしちゃう人間(プレイヤー)が、圧倒的に多いはずなんですけど──」

 

 いかにDMMO-RPGといえど、その中身はNPCでなければ、ただの人間だ。

 が、このゲームにおいて、プレイヤーの用意できるNPCがあれほど流暢(りゅうちょう)に喋ることは、技術的に不可能。都市常駐型のような、基本動作をプログラミングされたものは、プレイヤーの適切な命令コマンドという形で、ロールプレイングゲームなやりとりを交わすのみ。無論、例外もある。ゲーム内における各種イベント、その“進行役”を務めるNPCなどは、それなりに血が通った人間っぽい挙動をすることは十分ありえる。溌溂(はつらつ)と会話し、プレイヤーたちにイベント達成を促すために一役買ってくれるものだ。2100年代のゲームなのだから、運営・GM(ゲームマスター)の用意するNPCくらいは、それくらい出来るようになっているのが普通とも言える。個人が召喚使役したりするモンスターや傭兵、拠点防衛用のNPCなどは、そうもいかないのが現状であるが。

 モモンガたちが確認した限り、煉獄杏寿郎のステータス表記は、どう見てもプレイヤーであった。そして人間(プレイヤー)である以上、ただのゲームの中で、なにかしらのキャラクターになりきることは至難を極める。

 たとえば、だが。

 モモンガの普段の格好は、魔王然とした骸骨の異形種、死の超越者(オーバーロード)であるが、その見た目通り、普段から魔王のように振る舞うなど、ありえない。

 ギルド防衛戦──想定されうる最終決戦──第十階層“玉座の間”の戦いなどは、そういう趣向をこらすことをメンバーの皆と決めているし、“悪のギルド”として名を馳せたギルドの長として、それなりの振る舞いをすることは、やぶさかではない。

 しかしながら。

 煉獄の主張する話──というよりも、彼の口から語られた内容は、首尾一貫して、自らが『煉獄杏寿郎』というキャラクターであることを顕示していた。

 彼自身がそう信じて疑わないがごとき、なにかしらの強固さすら垣間見えたと、モモンガなりに思う。

 

「あそこまで徹底されていると……そら恐ろしくすらありますね」

「同感です。レベルとかスキルとかさえ知らない感じで訊問(じんもん)、もとい質問してくるなんて、さすがにやりすぎって感じしましたよね。道具屋(ショップ)でアイテムを買うことも知らないなんて」

「おまけに、あの戦闘力。本音をいうと、ワールドチャンピオンのたっちさんとの模擬戦闘を思い出しちゃいました」

「ああ、たっちさんの「稽古(笑)」のおかげで、俺らも反応対応できた感ありますよね。でも、そのたっちさんの話だと、ミズガルズのワールドチャンピオンはドラゴンを連れた竜騎士のはずですし、ホームタウンに常駐するチャンピオンなんて聞いたことないですし。やっぱいるもんなんっすね、野良でああいう戦闘の天才って。おまけにあの『なりきり』度合ときたら、天は二物を与えた的な?」

「はは、ですね。茶釜さんはどう見ました? 職業・声優さんとして?」

「あー、うん──」

 

 彼女は、一呼吸以上の間を必要とした。

 そうして率直に告げる。

 

「──正直このゲームで、あそこまで“キャラ”になりきれるなんて、素人には無理だと思う。本業は芸能事務所につとめる俳優とか、映画や舞台の監督とか、そういう畑のひとなのかも。というか、そうでも考えないと、あの演技は無理だと思う。絶対」

 

 触腕(しょくわん)の指を顎に添えつつ、ものすごく真面目な声で頷くピンクの粘体(スライム)

 彼女は声による演技を生業(なりわい)とし、そのうえで、期待の大作と評されるゲームにも出演するほどの人気を(はく)す女性だ。

 このユグドラシル内で『煉獄杏寿郎』というキャラを名乗り、そのように振る舞うプレイヤーの一挙手一投足に、ぶくぶく茶釜はおもわず舌を巻いていた。

 

「人気声優の姉ちゃんでも、あそこまでなりきるのは“恥ずか死ぬ”案件なわけだ」

 

 などとからかう弟に、姉は「あ"あ"ん?」というドス黒い声と、殴りつけたい思いを込めた視線で──スライムに目はないが──牽制する。

 震えあがるバードマンが小さく口笛をさえずりながらコンソールを開く様をガン無視し、彼女はギルド長に本心を打ち明ける。

 

「本当のこと言うとね…………私、尊敬しちゃった。

 なんだったら、今から現実(リアル)で勉強させてくださいって、お願いしたいレベルだよ。あの演技力は」

 

 おどけた時に見せるかわいらしい声色とは全く違う、完全に本気の入った声優の魂。

 

「でも、まぁ、あそこまでなりきっている以上、こっちも合わせる(・・・・)のが筋というか、マナーだからね~」

「そうですね」

 

 ぶくぶく茶釜が煉獄の前で本心を申し出なかった理由に、モモンガは納得の声を紡ぐ。

 繰り返しになるが、あのような『なりきり』は、この手のゲームでは珍しいことでない。

 この広大なユグドラシルというゲーム内において、ああいう“遊び”に興じる者は、他にもたくさんいる。

 

「あ。いま軽く検索してみたんですけど、これじゃないですかね?」

 

 ペロロンチーノが歩きながらコンソールをいじって空中に示した画像は、90年ほど過去、国内で一世を風靡(ふうび)した、一冊の漫画(コミック)本であった。

 

「鬼滅の……へぇ~、この作品の登場人物(キャラクター)ですか?」

「みたいですね。『煉獄』『杏寿郎』、それに『炎柱』に『鬼殺隊』……見た目のデータからしても確定ですね」

「どれどれ~? ────へぇ。大正時代の日本が舞台? 時代劇っぽくて、おもしろそう!」

 

 姉弟(してい)が画像と情報を共有するのに合わせ、モモンガのコンソールにも作品のWikiが開かれる。

 そのキャラクター紹介欄に、「彼」が記載されていた。

 

「なるほど。確かに聴いた話の内容と一致する……にしても。100年近く昔の作品のキャラなんて、あの人よっぽどのマニアなんでしょうか?」

「いやでもユグドラシルのユーザー数は相当半端ないし、俺が知ってる限りだと、100年以上も前のキャラクターに『なってる』プレイヤーもいますから、モモンガさん」

 

 なんてことはないとペロロンチーノが判を押すので、モモンガも腑に落ちるものを感じる。

 ぶくぶく茶釜が首をしきりに頷かせる。

 

「あは~、確かに。

 ステッキで変身する魔法少女とか。怒りで金髪に覚醒する拳法家とか。白い悪魔的なパワードスーツとか。いろいろといるよね~」

 

 彼女も古典とよぶべきアニメやマンガなどを参考にした、『なりきり』のユグドラシルプレイヤーに思い当たるものがあったようだ。

 ぶくぶく茶釜は続けて言う。

 

「それに、この作品のWiki見た感じだと、『公開された劇場アニメは当時の興行収入を完全に塗り替えた実績を持ち、国内だけでなく海外でも愛好されていた』って書いてあるよ」

「俺らが知らないだけで、そういった過去の名作を愛好するマニアもいるわけですね、この2100年代にも」

 

 姉弟が感慨深げに笑うのに合わせて、モモンガも自然と頬が緩む。

 ふと、ペロロンチーノが伺うように振り向いた。

 

「あー……モモンガさん。本当に良かったんですか? せっかくあそこまで行けたのに」

「?」

「“虹の橋(ビフレスト)”──私らのようなヘルヘイムの異形種プレイヤーが、天上世界のアースガルズに行くための唯一の手段──なのに」

 

 二人の気遣いに、モモンガは心底から嬉しい思いを声にのせた。

 

「いいんですよ、お二人とも。さっきも話し合ったじゃないですか。今日は運が悪かっただけです」

 

 虹の橋(ビフレスト)

 ユグドラシルの元ネタである北欧神話においても、人間の世界(ミズガルズ)からアース神族の世界(アースガルズ)につながる橋として語られるもので、それはこのゲームにおいても踏襲(とうしゅう)されている。

 しかし、美しい虹は永遠にかかるものにあらず。

 ミズガルズにおいて虹の橋(ビフレスト)が出現するポイントや時間は限られており、異形種であるモモンガらがもっとも潜入に向いている地──ミズガルズにおける人間種プレイヤーのホームタウン、樹界都市アスクエムブラ──に出現するのが、今日この日であったのだ。

 しかし、煉獄による発見と戦闘、くわえて「お話」によって、虹の橋の出現時刻は、とうの昔に過ぎてしまった。

 

「また皆さんの都合がついた日に行ければいいんです……まぁ正直、ヘイムダルとの戦い、あの神モンスターが落とすレアドロップは、自分(オーバーロード)の強化に必要不可欠ですけどね」

 

 アースガルズは、ユグドラシルにある九つの世界において最上層に位置するものであり、そこに住まうNPCやモンスターも、(ゴッド)女神(ゴッデス)、そして天の使いである戦乙女(ワルキューレ)などの天使種族が大半をしめる。そこをゲームの出発地──ホームタウン名“イザヴェル”──スタート地点とするプレイヤーもいるが、彼らは人間種ではなく、先ほども述べた天使種族などを最初に選択したプレイヤー(神の種族はプレイヤーには選択不可)であるが故に、そこからのスタートを余儀なくされている。ちなみに、同じような世界として、ヴァン神族の世界であるヴァナヘイムも存在するが、妖精の世界アルフヘイムの支配者である豊穣神・フレイの故郷であることが知られている。

 

「あーあ、ヒミンビョルグへの潜入──門番の神(ヘイムダル)対策もバッチシだったのに」

「もうぶつくさ言うな弟。煉獄さんと行き会ったのは偶然の賜物(たまもの)だし、なによりモモンガさんがいいって言ってるんだから、この話はこれでおしまい」

「わかってるよ──って、賜物? んん?」

「そうだよね? モモンガおにいちゃん?」

「ええ、茶釜さん。あれだけ強いプレイヤーと知り合えたのは、今後なにかの役に立つかもしれません」

 

 彼が人間種ではなく異形種であれば──そう思わずにはいられないほど、彼の戦闘センスはずば抜けていた。

 鬼殺隊とやらへの推薦の話は、ギルド関係の都合上固辞(こじ)せざるをえなかったが、煉獄は今回のモモンガたちへの襲撃を心から詫び、なにかしらの形で借りを返すことを確約してくれた。

 なんとも律儀な話ではあるが、彼の存在が今後、自分たちアインズ・ウール・ゴウンの利益に繋がれば重畳(ちょうじょう)というもの。

 

「今日は本当にありがとうございます、二人とも」

 

 心からの謝意をしめすモモンガ。

 親指を突き立てる翼人(バードマン)粘体(スライム)、姉弟から笑顔のアイコンが浮かび上がる。

 コンソールの端っこの地図(マップ)に、ギルド:アインズ・ウール・ゴウンの拠点──ナザリック地下大墳墓が確認できて、ふと、歩みを止める。

 人間種には猛毒な、ヘルヘイムの毒々しい空を眺めつつ、今日人間の世界(ミズガルズ)でなされた戦闘と邂逅に思いを馳せる。

 

(──それにしても)

 

 煉獄杏寿郎。

 彼が執拗に訊ねた言葉が、いまも耳に残っている。

 

「──『鬼舞辻(きぶつじ)無惨(むざん)(たお)せ』か」

 

 煉獄の双眸が、(ほむら)のごとく脳裏を焼く。

 彼があれほどの執着を──執念の炎を燃やす、仇敵の存在。

 これもWiki情報を見る限り、物語における悪の首魁であり、諸悪の根源。

 その末路は実に物語らしく、主人公とその仲間たちによって、完膚なきまでに滅ぼされたと書いてある。

 しかしながら。

 こんなことをそのまま煉獄に伝えたところで詮無い事であり、むしろ彼のプレイスタイルの否定──妨げにしかならないだろう。

 それに、あるいは、

 

「どうかした、モモンガさん?」

 

 振り返った粘体(スライム)に訊ねられて我に返る。

 なんでもありませんよと言って歩を進めるモモンガは、我ながら馬鹿馬鹿しいと理解しつつ、思った。

 

 

 

 

 

 

 

 あるいは、本当にいるのかもしれない──鬼舞辻無惨という鬼は。

 

 

 

 

 

 

 

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