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モモンガたちと別れた煉獄は、街に戻って出立の準備を整えて終えた。
「では! 息災でな! ガングレリ殿!」
『またのお越しを、心からお待ちしております』という店主と固い握手を交わしつつ、煉獄は「グリンカムビ*の
しかし、新たに調達したものもある。
それを左の掌でつまみ広げた。
「この国の地図か! こういうものが道具屋で売られていようとは!」
モモンガたちが教えてくれた通りだ。
大正の時代、
だが、鬼殺隊における地図というのは
というよりも、この数週間、集めようがなかった、とも言える。
彼はただ、日々無限に大量に湧き出るがごとく人を襲う鬼=モンスターを狩ることにのみ専心し、ミズガルズに住まうプレイヤーたちとは、そこまで本格的な交流を持ち得なかった。
対するプレイヤー側も、煉獄に対してアクションを起こすものは少なかったのが主たる原因である。
煉獄がなにかしらの『なりきり』であることは、その挙動を見て取れば一目瞭然であったし、彼の奇行ぶり、奇天烈ぶりを忌避して、率先して声をかける度胸のあるものはいなかった。
否。
当初、数人ほどはいたのだが、誰もが彼の言行があまりにも奇想天外ぶりに
そしてさらに、彼の状況を膠着させた遠因──このユグドラシルにおいて、未知はプレイヤーの手で既知に変えていくことが
正確な
プレイヤーにとって初歩的なことは、ゲーム開始の初期段階──キャラクター作成と種族選択後のチュートリアルで、最低限必要なことは教えられる。
未知を既知とする方法。コンソールの見方や使い方。
戦闘経験値による種族レベルと
種族別の特殊能力。各種スキルの存在。
モンスターとの戦闘による金貨やアイテムドロップ。
煉獄杏寿郎は、何も知らない状態──チュートリアルなど一切存在しないまま、この地に来た。
しかし、彼との戦闘を生き延びた異形種プレイヤー・モモンガたちと出遭ったことで、彼の歩みは更なる前進を始めることになる。
「なるほど! 街道を進むのではなく、ここをこういけばよいのか! これは気づかなかった!」
煉獄は、ホームタウン周辺──アスクエンブラ一帯の街道を進むのではない。
現段階で、ギルド:ワールド・サーチャーズが作成した、高い信頼性と精度を誇る地図(初心者用にユグドラシル金貨で販売されている)を読み解き、遠く離れた開拓都市──人間種のプレイヤーたちが切り開いた世界の深部へ、最短距離で突っ切れそうな道筋にあたりをつける。
「
さらに、こうも言っていた。
『ご新規さん──最初にミズガルズに来た
異形の見た目とは裏腹に、面倒見が良い人物であった。煉獄の質疑にもわかりやすい言葉を選んで、懇切丁寧に教導してくれた。
転移魔法というのは『現在地から別の場所へ瞬時に移動できる魔法』だと教わった。しかし、煉獄に魔法の心得などあるわけがない。空を飛ぶ魔法といい、この世界は実に不思議である。ちなみに、先の戦いで煉獄の心臓にもたらされた痛みについても、モモンガの得意とする魔法──血鬼術でないことが説明された。
煉獄自身、目にも止まらぬ速さで移動・戦闘しているように見えるが、それは全集中・常中の呼吸法による身体能力の飛躍上昇にすぎない。だが、だからこそ、ちょっとした山だの川だの谷だのは、鬼殺の柱である
長い道のりになるやもしれないが、行き会いに遭遇する鬼──モンスターたちの脅威も、まったく
「しかし! 今度からは鬼と戦う際には、きちんと確認せねばならんな!」
煉獄は思い出す。
彼らは、モモンガたちは、言うことができた。
『鬼舞辻無惨を
彼の仲間である姉弟(まったく似ていなかったが)も鬼舞辻の鬼でないことは証明された。
たった一日で三人も、鬼舞辻とは関係のない鬼(こちらの言い方だと
彼ら三人を鬼殺隊に勧誘できなかったことは、痛切の極み。だが、やむをえまい。彼らには既に所属する自分たちの組織にして協同体──“ギルド”があるため不可能なのだと。
それでも、煉獄は今回の襲撃の非を認め、今後モモンガたちには何かあれば、必ず力添えを行うことを約束している。
それに加え、〈
鬼殺隊の責務は『鬼舞辻無惨の滅殺』であって、人間を襲わない鬼を殺すことにあらず。
彼らとの出会いが、今後なにかの益になることを、煉獄は願う。
モモンガはこうも助言してくれた。
『あなたは、あなたの強さなら、もっと世界の深部に、いいや、ほかの世界にも行くことを考えるべきです』
煉獄は己の無知を心から恥じた。
知った以上は、滅殺に行かねばならない。
モモンガの話では、この近辺にいる
煉獄は足を止め、瞼を閉じ、あらためて思う。
剣士として。
強き者として。
鬼殺の柱として。
人々の平穏を護るために
短い瞑想から覚めた。
「いざ行こう! さらに悪しき鬼の住まう地へ!」
探すのだ。
ここにはいない仲間を。
この世界に来ているかもしれない、鬼殺の剣士を。
「あ、あの!」
いざ
煉獄は振り返る。
晴れやかな表情の人間──プレイヤーが、三人。
「君らは……」
誰だと言いかけて、煉獄の記憶に合一する者らがいた。
「よかったぁ。やっと見つけた~」
「いやまさか、最初の街付近にいるとか」
「まったくの予想外」
「あの、いつぞやは本当に、ありがとうございました!」
「おお! あの時の!」
そう。
煉獄の記憶にあるのは、
煉獄は彼ら彼女らと、この世界へ来た初日に会っていた。
「しかし、随分と見違えたものだ!」
煉獄が
さらに、鬼殺の剣士である煉獄の目に際立って見えたのは、三人共なかなかに腕が立つようになったと容易に判断できること。漆黒の小鬼──ブラックゴブリンの将軍率いる軍団に襲われていたのが、ほんの数週間前だとは思えないほどの成長ぶりである。
柱合会議から無限列車の任務までに成長した少年のことを思い出さずにはいられなかった。
三人を代表し、黒髪の男が感謝を続けた。
「あなたに助けられた時のクリスタルやドロップ、経験値のおかげで、俺たち次の街へすんなり行けるようになって、あれからずっとお礼を言いたくて探してたんですけど」
「うんうん。開拓都市や、それ以上のエリアにいるレベルだと思ってたのに」
「まさか、
煉獄は
「ははははは! 礼には及ばないさ! 俺は俺の務めをはたしたまで! 全員が無事で何よりだ!」
煉獄の気さくな様子に、三人も笑顔を浮かべてくれた。
男が何か決心をしたような瞳で握手を求めたので、煉獄は風呂敷を握ってない掌で気安く応じる。
「自分のプレイヤーネームは、カラスって言います。こっちはシマエナガで、あっちがオオルリです」
「ども。シマって呼んでください♪」
「私はオルリで」
黒髪の彼が首を巡らせた方向にいる女プレイヤーたち……白い髪と青い髪が印象的な女性陣が手を振り会釈する。
「ほう!
「はい、煉獄さん────今日はひとつ、ご相談があって」
「相談か! 俺で良ければ聞いてやるとも!」
カラスという男は二人を振り返り、了承の首肯を得る。
「煉獄さん──
俺を、俺たちを鍛えてください! あなたみたいに強くなりたいんです!」
首を傾げる炎柱。
三人の目に宿る光に臆するものはない。
煉獄は豪快に頷く。
「なるほど! ならば君らは、今日からの俺の
「──つぐ、子?」
「いや、失敬。先ほど聞いたばかりだが、徒弟制度というものは、こちらの
「え、あ、はい! そうです! 俺たちクランのお願いを」
煉獄は弁当箱の風呂敷ごと両腕を組みつつ、快く承諾した。
「ならば! 君らは今日から俺と同じ鬼殺の剣士──鬼殺隊の一員だ!」
三人は口を揃えて呟く。
「「「 キサツタイって? 」」」
煉獄は風呂敷を置き、森の木陰に腰を下ろして、彼ら彼女らを笑顔で手招く。
炎柱たる男は、モモンガらに話したのと同じ感じの話を、カラス、シマ、オルリに話した。
~
同時刻。
ニヴルヘイムとヘルヘイムの狭間・
橋の中心に
羽織の
額には、まるで
彼の名前は■■■■■、■■■■。
少年の手には、
オリキャラ メモ
名前
カラス 《刀》
シマ 《太刀》
オルリ 《大鎌》