煉獄杏寿郎と巡るユグドラシル【オバロ×鬼滅】   作:空想病

6 / 43
※タグ【オリキャラ】【オリジナル要素】


第陸話   煉獄杏寿郎、鬼殺の剣士を探しに行く

/

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 モモンガたちと別れた煉獄は、街に戻って出立の準備を整えて終えた。

 

「では! 息災でな! ガングレリ殿!」

 

『またのお越しを、心からお待ちしております』という店主と固い握手を交わしつつ、煉獄は「グリンカムビ*鰻玉(うなたま)弁当」十五箱、「アルフヘイム産・九種の温野菜と薩摩芋(さつまいも)御膳」十五箱、「平天大聖牛魔王*印のすきやき弁当」十五箱、計四十五箱──軽く三日分の、最低限の食事を風呂敷包みに引っ提げ、ほとんど手ぶらに近い格好で街を出た。

 しかし、新たに調達したものもある。

 それを左の掌でつまみ広げた。

 

「この国の地図か! こういうものが道具屋で売られていようとは!」

 

 モモンガたちが教えてくれた通りだ。

 大正の時代、日本(ひのもと)の国にも、それなりの地図はあった。

 だが、鬼殺隊における地図というのは鎹鴉(カスガイガラス)による案内で事足りるものであり、国土が豊かな山林ばかりという島国の関係上、人のいる地域である町を闊歩(かっぽ)し、(おのれ)耳目(じもく)で鬼の出現情報を収集していた方が、割と鬼との遭遇確率はあがるというもの。なにより、貨幣や言語などの違う異邦(いほう)に流れ着いて、煉獄は鬼狩りの使命に終始するあまり、この土地独特の情報などは集められていなかった。

 というよりも、この数週間、集めようがなかった、とも言える。

 彼はただ、日々無限に大量に湧き出るがごとく人を襲う鬼=モンスターを狩ることにのみ専心し、ミズガルズに住まうプレイヤーたちとは、そこまで本格的な交流を持ち得なかった。

 対するプレイヤー側も、煉獄に対してアクションを起こすものは少なかったのが主たる原因である。

 煉獄がなにかしらの『なりきり』であることは、その挙動を見て取れば一目瞭然であったし、彼の奇行ぶり、奇天烈ぶりを忌避して、率先して声をかける度胸のあるものはいなかった。

 否。

 当初、数人ほどはいたのだが、誰もが彼の言行があまりにも奇想天外ぶりに辟易(へきえき)し、二言三言(ふたことみこと)言葉を交わした(のち)、「触らぬ神に」なんとやらの精神で、交流を断念。以後は静観という形で、彼のプレイスタイルを遠くから生温かく見守る態勢に入ることが吉とされた。実際、NPC(ノンプレイヤーキャラクター)に対し、まるで生きている人間を相手にするかのごとく気さくに親し気に対応する彼の様子は、ほとんどのプレイヤーの目から見て、常軌を逸しているとしか言えなかった。

 そしてさらに、彼の状況を膠着させた遠因──このユグドラシルにおいて、未知はプレイヤーの手で既知に変えていくことが奨励(しょうれい)されている事実。

 正確な地図(マップ)も、モンスターの情報(データ)も、各世界のフィールド効果や、アイテムの仕様に至るまで、運営側はプレイヤー自身の手によって、未知を探求・探索されることを望んだ。

 プレイヤーにとって初歩的なことは、ゲーム開始の初期段階──キャラクター作成と種族選択後のチュートリアルで、最低限必要なことは教えられる。

 未知を既知とする方法。コンソールの見方や使い方。

 戦闘経験値による種族レベルと職業(クラス)レベルの獲得。

 種族別の特殊能力。各種スキルの存在。強化(バフ)弱体化(デバフ)状態異常(バッドステータス)。魔法の存在。

 モンスターとの戦闘による金貨やアイテムドロップ。地図作成(マッピング)。フィールド特性。弱点への対策など。

 

 煉獄杏寿郎は、何も知らない状態──チュートリアルなど一切存在しないまま、この地に来た。

 

 しかし、彼との戦闘を生き延びた異形種プレイヤー・モモンガたちと出遭ったことで、彼の歩みは更なる前進を始めることになる。

 

「なるほど! 街道を進むのではなく、ここをこういけばよいのか! これは気づかなかった!」

 

 煉獄は、ホームタウン周辺──アスクエンブラ一帯の街道を進むのではない。

 現段階で、ギルド:ワールド・サーチャーズが作成した、高い信頼性と精度を誇る地図(初心者用にユグドラシル金貨で販売されている)を読み解き、遠く離れた開拓都市──人間種のプレイヤーたちが切り開いた世界の深部へ、最短距離で突っ切れそうな道筋にあたりをつける。

 

摸模具和(ももんが)殿が言っていたな! 『転移魔法があるので、次の土地へ行くのに街道を使う必要性は薄い』と!」

 

 さらに、こうも言っていた。

 

『ご新規さん──最初にミズガルズに来た人たち(プレイヤー)は、樹海都市(アスクエムブラ)周辺の街道を渡り、時々遭遇するモンス……鬼っぽい奴等と戦って、レベル上げ……じゃなく修行して、それぞれ能力を身につけていくんです。そうして強くなり、武器や防具を整えて、金貨や道具を蓄えて、それがひと段落したら、古参のプレイヤーが発見、あるいは開墾(かいこん)し造営した街や村、あるいは別の世界に、転移などを使って旅立ち、さらにそこから未知の土地へと足を運ぶわけです』と。

 

 異形の見た目とは裏腹に、面倒見が良い人物であった。煉獄の質疑にもわかりやすい言葉を選んで、懇切丁寧に教導してくれた。

 転移魔法というのは『現在地から別の場所へ瞬時に移動できる魔法』だと教わった。しかし、煉獄に魔法の心得などあるわけがない。空を飛ぶ魔法といい、この世界は実に不思議である。ちなみに、先の戦いで煉獄の心臓にもたらされた痛みについても、モモンガの得意とする魔法──血鬼術でないことが説明された。

 煉獄自身、目にも止まらぬ速さで移動・戦闘しているように見えるが、それは全集中・常中の呼吸法による身体能力の飛躍上昇にすぎない。だが、だからこそ、ちょっとした山だの川だの谷だのは、鬼殺の柱である健脚(けんきゃく)をもってすれば、造作(ぞうさ)もなく踏破できるだろう。転移の魔法とやらを習熟する必要はなさそうだった。“別の世界に行く”手段なども興味深いが、それらはおいおい調べるとしよう。

 長い道のりになるやもしれないが、行き会いに遭遇する鬼──モンスターたちの脅威も、まったく(おそ)るるに足らず。

 

「しかし! 今度からは鬼と戦う際には、きちんと確認せねばならんな!」

 

 煉獄は思い出す。

 彼らは、モモンガたちは、言うことができた。

 

 『鬼舞辻無惨を(たお)せ』と。

 

 彼の仲間である姉弟(まったく似ていなかったが)も鬼舞辻の鬼でないことは証明された。

 たった一日で三人も、鬼舞辻とは関係のない鬼(こちらの言い方だと異形種(モンスター)という存在)と出遭えた。これは驚くべき事実だ。鬼殺隊の皆が聞けば、とても信じられない事柄であろう。だが、事実だ。

 彼ら三人を鬼殺隊に勧誘できなかったことは、痛切の極み。だが、やむをえまい。彼らには既に所属する自分たちの組織にして協同体──“ギルド”があるため不可能なのだと。

 それでも、煉獄は今回の襲撃の非を認め、今後モモンガたちには何かあれば、必ず力添えを行うことを約束している。

 それに加え、〈伝言(メッセージ)〉と呼ばれる魔法で、後日また連絡する──とのこと。

 鬼殺隊の責務は『鬼舞辻無惨の滅殺』であって、人間を襲わない鬼を殺すことにあらず。竈門(かまど)少年の妹御しかり。煉獄の刀には“悪鬼滅殺”と彫られている──悪しき鬼を滅ぼし殺す、と。ならば、善き鬼を斬る理由は、大義は、煉獄には存在しえない。

 彼らとの出会いが、今後なにかの益になることを、煉獄は願う。

 モモンガはこうも助言してくれた。

 

『あなたは、あなたの強さなら、もっと世界の深部に、いいや、ほかの世界にも行くことを考えるべきです』

 

 煉獄は己の無知を心から恥じた。

 樹界都市(アスクエムブラ)周辺よりも、ミズガルズの深部や他の世界に、強靭かつ凶暴な鬼が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)していることを知った。

 知った以上は、滅殺に行かねばならない。

 モモンガの話では、この近辺にいる(モンスター)は、そこまで人間の脅威ではないのだと。頷ける話だった。鬼殺の剣士でも何でもない人々が、剣を取り盾を構え、悪辣な鬼たちと戦う場面に幾度も遭遇し、煉獄はこれを助けてまわったのだ。この一帯の今後は、彼らの働きに託しても問題ないだろう。

 煉獄は足を止め、瞼を閉じ、あらためて思う。

 

 剣士として。

 強き者として。

 鬼殺の柱として。

 

 人々の平穏を護るために(やいば)を振るう。

 

 短い瞑想から覚めた。

 

「いざ行こう! さらに悪しき鬼の住まう地へ!」

 

 探すのだ。

 ここにはいない仲間を。

 この世界に来ているかもしれない、鬼殺の剣士を。

 

「あ、あの!」

 

 いざ驀進(ばくしん)しようとした煉獄の耳に、声が投げかけられた。

 煉獄は振り返る。

 晴れやかな表情の人間──プレイヤーが、三人。

 

「君らは……」

 

 誰だと言いかけて、煉獄の記憶に合一する者らがいた。

 

「よかったぁ。やっと見つけた~」

「いやまさか、最初の街付近にいるとか」

「まったくの予想外」

「あの、いつぞやは本当に、ありがとうございました!」

「おお! あの時の!」

 

 そう。

 煉獄の記憶にあるのは、黒小鬼将軍(ブラックジェネラルゴブリン)と、それが率いる軍団に囲まれていた、男女三人。

 煉獄は彼ら彼女らと、この世界へ来た初日に会っていた。

 

「しかし、随分と見違えたものだ!」

 

 煉獄が誰何(すいか)の声をあげかけたのも無理はない。彼らの身に着ける武器や防具はまったく違うものに変わっていた。鎧甲冑は不思議な色彩の金属やら宝玉やらで仕立て上げられており、男性が握っているものは西洋剣から日本刀に変わっていた。女性陣二人も、人の身の丈ほどの太刀(たち)大鎌(おおがま)を背負っている。

 さらに、鬼殺の剣士である煉獄の目に際立って見えたのは、三人共なかなかに腕が立つようになったと容易に判断できること。漆黒の小鬼──ブラックゴブリンの将軍率いる軍団に襲われていたのが、ほんの数週間前だとは思えないほどの成長ぶりである。

 柱合会議から無限列車の任務までに成長した少年のことを思い出さずにはいられなかった。

 三人を代表し、黒髪の男が感謝を続けた。

 

「あなたに助けられた時のクリスタルやドロップ、経験値のおかげで、俺たち次の街へすんなり行けるようになって、あれからずっとお礼を言いたくて探してたんですけど」

「うんうん。開拓都市や、それ以上のエリアにいるレベルだと思ってたのに」

「まさか、ここいら(ホーム)で活動しているひとだったとは」

 

 煉獄は闊達(かったつ)な笑みと共に応じる。

 

「ははははは! 礼には及ばないさ! 俺は俺の務めをはたしたまで! 全員が無事で何よりだ!」

 

 煉獄の気さくな様子に、三人も笑顔を浮かべてくれた。

 男が何か決心をしたような瞳で握手を求めたので、煉獄は風呂敷を握ってない掌で気安く応じる。

 

「自分のプレイヤーネームは、カラスって言います。こっちはシマエナガで、あっちがオオルリです」

「ども。シマって呼んでください♪」

「私はオルリで」

 

 黒髪の彼が首を巡らせた方向にいる女プレイヤーたち……白い髪と青い髪が印象的な女性陣が手を振り会釈する。

 

「ほう! (からす)殿と島柄長(しまえなが)殿と大瑠璃(おおるり)殿か! 皆良い名前だ! 名乗られた以上は名乗り返すのが礼儀だな! 俺の名は煉獄杏寿郎! よろしく!」

「はい、煉獄さん────今日はひとつ、ご相談があって」

「相談か! 俺で良ければ聞いてやるとも!」

 

 カラスという男は二人を振り返り、了承の首肯を得る。

 

「煉獄さん──

 俺を、俺たちを鍛えてください! あなたみたいに強くなりたいんです!」

 

 首を傾げる炎柱。

 三人の目に宿る光に臆するものはない。

 揶揄(からか)いや(あざけ)りの気配、煉獄を奇異なるものとして捉える何物からも自由であった。

 煉獄は豪快に頷く。

 

「なるほど! ならば君らは、今日からの俺の継子(つぐこ)になりたい、と!」

「──つぐ、子?」

「いや、失敬。先ほど聞いたばかりだが、徒弟制度というものは、こちらの世界(くに)では馴染(なじ)みがないのだったな。確か、近いものだと団体、そう、ギルド! いや、拠点とやらがない状態の組合は、“クラン”というのだったな!」

「え、あ、はい! そうです! 俺たちクランのお願いを」

 

 煉獄は弁当箱の風呂敷ごと両腕を組みつつ、快く承諾した。

 

「ならば! 君らは今日から俺と同じ鬼殺の剣士──鬼殺隊の一員だ!」

 

 三人は口を揃えて呟く。

 

「「「 キサツタイって? 」」」

 

 煉獄は風呂敷を置き、森の木陰に腰を下ろして、彼ら彼女らを笑顔で手招く。

 炎柱たる男は、モモンガらに話したのと同じ感じの話を、カラス、シマ、オルリに話した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻。

 

 

 

 

 

 ニヴルヘイムとヘルヘイムの狭間・大叫喚泉(フヴェルゲルミル)の下流・霧煙るギョッル川、その“黄金橋”にて。

 

 

 

 

 橋の中心に(たたず)む、一人の少年。

 羽織の(がら)は、緑と黒の市松模様。 

 額には、まるで火傷(やけど)のような(あざ)

 赫灼(かくしゃく)の瞳が(まばゆ)い、優し気な(かお)

 

 

 

 彼の名前は■■■■■、■■■■。

 

 

 

 少年の手には、処女の門番(モーズグズ)の生首が握られている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*
北欧神話において、世界樹ユグドラシルの上にとまっている鶏。

*
中国の四大奇書『西遊記』などに登場する魔王。号が平天大聖。




オリキャラ メモ

名前    主武装(メインウェポン)

カラス   《刀》
シマ    《太刀》
オルリ   《大鎌》
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。