煉獄杏寿郎と巡るユグドラシル【オバロ×鬼滅】   作:空想病

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※余談である今回、モモンガさんと煉獄さんの出番はありません。


余談    大悪魔、聖騎士との別れ

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 ナザリック地下大墳墓、第九階層。

 

「む」

「げ」

 

 白銀の聖騎士と羊頭の大悪魔が、厳かな宮殿の廊下で顔を合わせた。

 二人は来た方向へ戻ることはしない。そうすべき理由も意味も持ちえなかった。

 ゆっくりと歩を刻み、互いに言葉を交わせる距離──すれ違う二歩手前で、止まる。

 魔法職最強と冠されるワールドディザスター、ウルベルト・アレイン・オードルが口火(くちび)を切る。

 

「最近ご無沙汰でしたねぇ? 本職の方が忙しかったんですか?」

「ええ……近頃物騒な世の中で、出動回数も増加傾向でしたので」

 

 ご苦労なことで、と大いに(わら)うウルベルト。

 

「さすがに。ここ数ヶ月でアーコロジー内での事件、いや、テロ鎮圧に駆り出されてちゃ、ゲームする余裕もありませんか?」

「む。何故それを?」

「いくら情報統制されていても、あれだけの規模になると、どうやったって隠しようがないでしょ?」

 

 何しろ2chでは、自称犯行組織(笑)まで名乗り出てきている始末だ。いろいろな映像なり証言なりが検閲の網を突破し、ネットの海を遊弋(ゆうよく)している。枯れた山に放たれた野火(のび)のように、その火勢はいや増す一方で合った。富裕層・社会的上位者を打倒すること──あるいは正義の面をかりて、社会的弱者や無辜(むこ)の民衆を攻撃すること──ただのテロリズムに、何かしらの革命活動的なそれを嗅ぎつける有象無象(うぞうむぞう)は、この時代にも多い。いや、この時代だからこそ、というべきか。

 

「もうゲームに(きょう)じている(ひま)もないのでは?

 あなたの職分、いやいや正義降臨の出番が多いこと、は……?」

 

 ウルベルトは嘲笑をうかべかけて、失敗した。

 大災厄の魔たるプレイヤーに対し、抗弁どころか、無気力に項垂(うなだ)れるだけのライバルの姿を見て、唖然(あぜん)となる。

 たっち・みーは静かに語りだす。

 

「──ええ。正直な話、そろそろゲームは引退しようと思っているところです」

「……ちょ……………………まじっすか?」

「ええ。それに、妻が次の子を出産予定ですし、今はできるだけ、そばにいてあげようかと」

「そ……そうですか。……そうですね。……その方がいい。その話、モモンガさんには?」

「もちろん。先週、直接お話しして、了承をいただきました」

「──いまのアカウントは、削除されるつもりで?」

「ええ。はい。ただ、アイテムの(たぐい)はすべてモモンガさんにお譲りする予定です。ワールドチャンピオンの称号──レベルデータは、次の公式大会に出場しないと自動的に失効されるので。アバターを残しておいても、あまり意味がありません」

「──そうですか。──そうですよね」

 

 羊頭の悪魔は巨大な腕を組んで考えた。

 おそらく次の全体会合──ギルド:アインズ・ウール・ゴウンの集会で、メンバー全員に告知を出すという手筈だろう。

 すでに、諸事情によってユグドラシルをやめていったメンバー……ベルリバーたちと同じ列に、目の前のたっち・みーが加わるだけ。

 ただそれだけ。

 それだけのはず。

 ──だというのに。

 

「……」

「……」

 

 廊下に突っ立って床を見下ろし、どちらとも次の語を告げない二人。

 たっち・みーの引退──それを聞かされた際のモモンガの様子を、聖騎士は己の脳裏に、大悪魔は想像の内に幻視する。

 

「あー……今日、モモンガさんは?」

「どうやら仕事でIN(イン)できそうにないとのことで」

「ですか……話に聞く凄腕剣士のことを、詳しく(うかが)いたかったところですが」

「例の『煉獄杏寿郎』という、ワールドチャンピオン級の剣士(ソードマン)ですか?」

「ええ。たっちさんは、何か情報を持ってないんですか? 現職としての意見は?」

「そうですね……チャンピオン同士でも話をしたりすることもありますが、とくには」

「実際のところ、どれほどの強さなのやら。気にならないと言えば嘘になりますね」

「確かに。ですが(ぜん)クランの時から、我々は別のワールドへも果敢に挑むことが目的のひとつでした。異形種に有利な世界(ニヴルヘイムやヘルヘイム)以外にも挑戦すること。今回の煉獄さんとの一件で、橋頭保(きょうとうほ)、とまではいかずとも、それなりの協力者を得られる機会は、逃す手はないでしょう。──ウルベルトさん?」

 

 そうですねと再び気のない返事をする自分をウルベルトは理解したらしい。

 長く鋭い悪魔の爪で後頭をガリガリと掻きまわす。

 

「あーあー。うちのワールドチャンピオンが、ついに引退、ですか」

「ええ。ですが、最近はナザリックに侵入してくるプレイヤーは絶えましたし、防衛上の不利は、そこまででもないかと」

「それは違──、そうですね。うちのギルドに敵対可能な(やから)は一掃された……いや、攻め入るだけ無駄って感じですし」

 

 あの1500人の大侵攻。

 第八階層攻略戦。

 あれによって、ナザリックに侵攻しても、勝率は限りなくゼロに近いことが証明された。

 近づくだけ無駄であり、貴重なプレイ時間とアイテムを浪費するだけ。そんな場所を目指しても、プレイヤーたちには何の得にもなりはしない。

 あれから半年。

 ウルベルトは至近の懸念事項を頭に思い浮かべる。

 彼が確認したネット掲示板などで、未だにナザリック再攻略を志す奇矯な輩は、ごく少数──いや一団体──というか、一人だけが、熱心に説いて回っている状態だ。そして、その再攻略主張者は、他のプレイヤー連中に『何の興味もいだかれていない』という事実。ナザリック地下大墳墓の住人であるアインズ・ウール・ゴウンの構成員(メンバー)たちにしても、そのような弱小存在に構っている暇も余裕もなかった。そんなことよりも格段に有用な情報──「どこそこの狩場で超激レアなドロップが落ちたと、サーチャーズが報告した」とか、「複数のギルドが、謎の勢力に壊滅させられた」とか、「ニヴルヘイムとヘルヘイムの境を守護するボスキャラが何者かに排除され、二つの世界の往来が盛んになってしまった」とか、そういった情報をこそ重宝(ちょうほう)し、注視(ちゅうし)して然るべきであった。

 ここで、ナザリックの防衛について考えを巡らせる。

 先の侵攻の(さきがけ)となった八ギルド連合は、軒並み潰れ去った現状において、ナザリックに侵攻しよう・本気で再攻略を望む者は、絶無。物見遊山(ものみゆさん)のようにユグドラシルの「悪のギルド」へ……怖いと評判のお化け屋敷を楽しもうとする子供のような感じで、気安く突発的に立ち寄る者はいても、本気で陥落させられるなんて思う輩は、ゼロ。

 故にここで、最強の前衛職、ワールドチャンピオンのたっち・みーが離脱しても、防衛上の問題などどこにもない。

 だというのに。

 

「……」

 

 ウルベルトは深い沈黙の底で、彼を引き留めたがっている自分を確認した。

 

「──寂しくなりそうですね」

 

 我知らず呟いてしまった。

 それが己の本心であると気づくことに、彼自身数秒の時間を要した。

 魔法職最強の力を手にしてまで挑み続けてきたライバルが、引退──ありえて当然の事態だというのに、この今になってはじめて、その事実と対面し自覚している己の愚かしさが、ウルベルトを自嘲の荒波に突き落としていた。

 たっち・みーは、ウルベルトのライバルたる男は、どこまでも静やかに応答する。

 

「すいません。ウルベルトさん。そう言っていただけるとは、正直思ってませんでした」

「社交辞令ですよ、社交辞令」

 

 なるほどと「微笑」のアイコンを浮かべるたっち・みー。

 ウルベルトもお返しとばかりに口元を歪ませた「憮然(ぶぜん)」のアイコンを送り返す。

 

「ま。せいぜい頑張って職務に励んで、テロ組織を撲滅しまくってください。大事な娘さんと次のお子さん、そして奥さんを、護るためにも」

「ええ。はい。頑張ってそうさせていただきます。──今まで本当にありがとうございました、ウルベルトさん」

 

 握手を求めるように手を突き出してきたライバルを、しかし、ウルベルトは一笑にふして、無視した。

 このギルドの前身──「ナザリック地下墳墓」攻略以前の集団──クラン:ナインズ・オウン・ゴール時代からの仲間に対しての流儀であり、ライバルへの別れの儀式としてふさわしい。ウルベルトは忘れもしない。クラン時代の初期メンバー、九人のなかで唯一ユグドラシルを辞めていった人物は、ウルベルトが最も慕っていた人物だ。このことが、彼等の軋轢の主因となって久しい。たっち・みーはすべてを承知したように笑って、手をもとの位置に戻した。

 

「では、私は自分のNPCの状態を確認してから退出(アウト)しますので」

家令(ハウススチュワード)の、セバス、でしたっけ。竜人のレア種族。設定文もほとんど未記入……大侵攻の時に役目なしで終わったのが惜しいキャラでしたね」

「ウルベルトさんの第七階層守護者(デミウルゴス)のように出番があればよかったんですが──いえ、出番がない方がいいNPCでしたから、これでよかったと思います」

「まぁ、確かに」

「いずれモモンガさんのお役に立ってくれる日がくればと、おもっているのですが……」

 

 たっち・みーの明朗な語調が、終盤(にご)るのも無理はない。

 そんな日はこないだろう。

 そうウルベルトは言わないように(つと)めた。

 おそらく。きっと。このゲームが終わる時まで、ナザリックに本気で攻め込もうというプレイヤーはいなくなった、事実。

 難攻不落(なんこうふらく)金城鉄壁(きんじょうてっぺき)。すべてのプレイヤーが生還不能という、ナザリック地下大墳墓の伝説は、確固たる現実として、このDMMO-RPGの歴史に刻み込まれた。

 それを惜しむべきか誇るべきか、ウルベルトは迷う。

 

「では、また全体会合のときにお会いしましょう、ウルベルトさん」

「あ……ええ、また」

 

 こうして二人は別れた。

 少し歩いた先でたっち・みーは僅かに振り返るが、ウルベルトは止まることなく歩を刻んでいる。

 聖騎士のプレイヤーは前を向いて歩きだす。そんな彼の背中を、ウルベルトは少し立ち止まって、振り返りながら見送った。

 

 

 

 

 

 たっち・みー引退を通達する全体会合の招集に、ウルベルトは応じなかった。

 

 

 

 

 

 それから時を置かずして、ウルベルトもまた、ギルド:アインズ・ウール・ゴウンを去ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして。

 ユグドラシルが12年の歴史に終止符を打った時。

 ウルベルト・アレイン・オードルは、ある人物と現実(リアル)で対峙する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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