煉獄杏寿郎と巡るユグドラシル【オバロ×鬼滅】   作:空想病

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第捌話   煉獄杏寿郎、相談に乗る

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 ミズガルズ〈最奥〉第十一開拓都市。

 高さ20メートルを超える“東門”。

 

 この都市はユグドラシル自由交易行路指定──商業ギルドによる平和協定が定められており、その運用関係上、人の出入りがかなり多い。転移門を通じて門前広場に降り立ったプレイヤーは、異形種でない限り総スルーされ、調教師(テイマー)によって調教(テイム)された竜や馬、種々様々なモンスターが荷を担いで、商業系職種のプレイヤーたちの交易材料──アイテムボックスに収まりきらない量の物資を運んでいた。世界樹から切り出した建材、冥王の洞窟から掘り出した石材、炎巨人の生誕場で生まれた火や燃料、神々の工房で醸造された最高級蜜酒(ミード)の樽、妖精たちの荘園で収穫された野菜や果物や小麦など、ほんとうに色とりどりといった具合である。これらは商業ギルドを通じて都市各所の市場に流通し、開拓都市に住まうプレイヤーたちの、開拓と冒険の糧となるのだ。

 そういった土地柄ゆえに、ここにははじまりの街(ホームタウン)のような門番……初心者を導く役目もままあるNPCは、ゲーム運営側の手によって配置されていない。

 しかし、それでも。

 門内部には有事の際に働く衛兵がつめており、窓ガラス越しにやりとりをかわすことは可能であった。

 そんな詰所内には、門番AAと門番ABが、衛兵室奥に設置された休憩スペースで、今日の軽食にありついている。

 

『おお。今日の飯はカツサンドか』

『ああ。カマプアア*農業の豚肉。南国(ハワイ)の味らしいぜ』

 

 そいつはいいと笑いながら、AAとABはビニール袋の封を切る。

 種族として人間に分類される彼らは、定期的に飲食をしなければならない。そういう決まり(ルール)だ。

 香ばしいソースと、開拓都市産の格安小麦を使用したパンによるカツサンドは、あっという間に二人の胃袋に収まった。

 

『はあ~、食った食った。今日もうまかったな~』

『数少ない楽しみだよな、俺たちにとって食事は』

『確かに。でも、一度くらいは妖精の国の、アルフヘイム産とやらを味わってみたいもんだね』

『んなの、俺らみたいな連中に下賜されるわけねえだろう?』

『わかってるって。言ってみただけさ』

 

 二人は衛兵室に支給されたお茶で一服を共にする。

 これも都市産の安物であるが、腹を満たすという意味では上質なものを与えられるほどの価値はない。それが彼等だ。

 

『おぅ、そういえば聞いたか、あの話?』

『話って?』

『うちの上官、プレイヤー殿がギルドのお仲間たちと、今朝(けさ)がた話してただろ?』

『ああ、第九の話か?』

 

 二人はどこか遠くの出来事のように感じつつ、都市壊滅の報に思いを致した。

 

『まさか、同じ開拓都市の、第九都市が壊滅するなんてな』

『ユグドラシル初期の時代から生き延びてきた開拓都市がなー』

『噂だと大量のモンスターに蹂躙(じゅうりん)された、って線が濃厚らしい』

『ひゅー、おっかねえぜ。おっかなすぎてチビっちまう』

『ここでもらすなよ、ちゃんと出す所で出すものだしな』

『言われなくても分かってるよ』

 

 ここにいる衛兵たちはプレイヤーではない。

 NPCたちだ。

 より詳細にいうなら、ユグドラシル金貨によって発生する「傭兵NPC」に分類される。

 都市造営と運用に携わる商業ギルドによって、開拓都市の門と隔壁には、こういったNPCが配置されるようになって久しい。

 ユグドラシルにおいて、門番(ゲートキーパー)市衛(シティガードマン)の職種に就きたいというプレイヤーもいないではないが、その数は限られている。何しろ直径がキロ単位におよぶ都市の規模を考えると、どう考えても員数が不足するのだ。それゆえに、こういった都市の門内や歩哨につめる衛兵の類は、たいていが傭兵NPCたちであり、彼等を指揮するプレイヤーの管理下において、日々仕事にはげんでいる。

 そんな彼等ではあるが、彼らなりの情報交換の会話──ネットワークの構築がなされていることは、プレイヤー側にはまったく知られていない。

 

『しかし。都市が壊滅なんて、想像もできねえよ』

『まぁな。都市がなくなるほどの攻撃を受けたら、俺らもタダじゃすまねえぜ』

『モンスターによる蹂躙なぁ。それだけの数が湧く条件って、何だったっけ? 知ってるか?』

『プレイヤー殿たちの会話で聞いたことがあるな。確か、イベントとかレイドボスとか。最近は聞かないが、モンスターの巣を放置してしまって、って場合』

『へえ?』

『あと、ごく稀だが、ワールドエネミーの随伴ってケースもあるらしい』

『ほぇ~。何にしろ、俺らにはどうしようもねえ話だな。プレイヤー殿たちが頑張ってくれないことには』

『それが傭兵の宿命ってやつかね。は~、やだやだ』

『俺らがここに雇われて、どれくらいだっけな? 三年? 五年だっけか?』

『前任者の俺ら、同じ型式の傭兵NPCがやられてからだからな。たぶん、それくらいだろう』

『前の襲撃の時は、“ごちゃんれんごー”の下っ端ギルドが略奪、物資を盗みに来た時、だったっけ?』

『それ、“にちゃん”じゃなかったっけ? よくは知らねえけど、連中さんざん返り討ちにあって、こっちの損害は軽微で済んだんだったか。以降は目立った揉め事は起こってないはず』

『まぁな。うちの都市の中で何か悪事を働こうものなら、そいつらは身ぐるみを綺麗に剥がされ、無一文(スカンピン)になるだけだ。結果、ギルド(ノー・オータム)の利益に還元されるだけとなりゃ、自然と襲撃なんてなくなるわな』

『なんでもいいさ。とにかく俺らが五体満足で生きられりゃあよ』

『だな。いずれにせよ、いざという時にはプレイヤー殿たちが、なんとかしてくれるだろ』

『それに、最近この都市に強い方が来てくれた、って話だ。プレイヤー殿たちもずいぶんと頼りにしている。南の農耕地帯──和風建築エリアの郊外に居を構えた』

『ああ、あのクラン! 変なクラン広告だったよな「集え、鬼殺の剣士」って』

『名前は、確か』

「もしも~し。すみませ~ん。

 ちょっとお尋ねしたいんですけど?」

 

 柔らかな声を聞いた瞬間、AAとABは同時に立ち上がった。

 彼らは定められた命令(コマンド)に従い、門番としての仕事を果たす。

 衛兵室のガラス窓から覗き込んでくる人物は、二人。

 ひとりは、左右の目の色が違う黒髪の長い男で、口元を包帯で覆い隠しているが、その程度の見た目はユグドラシルでは珍しくも何ともない。蛇を連れているのも、調教(テイム)したモンスターの類か、あるいは生きてるように駆動する装備品の部類だろう。

 しかし、声の主は、もうひとりの方であった。

 

『はい。どうかされましたか?』

『我々でよろしければ御力になります、が──』

 

 彼等は刹那の間、自分たちがNPCであることを忘れて、黒髪の女性に見入(みい)った。

 魅入られたというべきか。

 

 

 

 

 

「この都市に、“鬼殺隊(きさつたい)”を名乗る団体があると聞いて、私たち(うかが)ったのですが、ご存じありませんか?」

 

 

 

 

 

 そこにいた女性は、美麗な柄の羽織を纏い、日本刀を腰に帯びていた。

 

 

 

 

 

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 同都市郊外。

 クラン:キサツタイの屋敷。

 人間の姿に化けた骸骨の魔法使い──モモンガを広い客間へ迎え入れた煉獄は、卓を挟んだ彼と、真正面から相対する。

 

「話を聴こう! 遠慮せず言ってみるといい!」

「い、いやいや。そんな煉獄さんの耳をわずらわせるほどのこと、では……その」

「何を言う! 君たちにはこの世界で大変世話になった! その恩着に報いたい! 悩みがあるのなら、炎柱たる俺が!“聞いてやるとも”!」

 

 煉獄は至極当然という論調でモモンガに促した。

 

「…………はい」

 

 絞り出すような声音で、モモンガは決意する。

 彼らと共に座に居合わすのは、三名。

 人間種に化けたペロロンチーノとぶくぶく茶釜、そして、客人と煉獄──計四人に緑茶と芋菓子を運んでくれたクランの代表(煉獄に固辞されて就任した)、カラス。 

 

 ──それ以外のキサツタイメンバーは、客人に配慮した距離を保ちつつ、広大な庭の一角に設けられた工房で、作業を進めていた。

 しかし、煉獄の客人への興味は尽きないというのが正直なところ。

 

「……いま客間にいるのが、煉獄さんが世話になったっていう魔法使いさんと、そのお仲間さん?」

「そ。名前は確か、“ウォモンガー”さん。お仲間さんたちは“ペロロ”さんと“チャガマ”さん」

「ん、戦争狂(ウォーモンガー)? とてもそんなやべえ雰囲気じゃなかったけどな?」

「むしろタカナシさんの外見(ビジュアル)の方が戦争狂だよね」

「ガスマスクに銃火器、近接だと釘バットがメイン武装とか」

「いやいや。DMMO-RPGって言えば、鉄条網を巻いた釘バットだろ?」

「出さんでいいい出さんで」

「というか、どういう理屈です、それ?」

「わかってねえな。浪漫(ろまん)だよ、ロマン」

「これでうちのクランの探索役(シーカー)なんだから、世の中わからんもんだわ」

「何でもいいよ。プレイヤーネームは人の自由。いいから皆、グルーさんの錬鉄作業、手伝って!」

 

 クランの副代表を就任して久しいシマが、手を叩いて促した。

 ギルドのように自前のNPCを製造できない、さらには傭兵NPCなども金貨が惜しくて雇えないクランの運営状況では、武器や道具の製造もメンバー全員で従事することが多くなる。

 キサツタイの鍛冶師として合流したグルーを中心に、仲間たちがかき集めた素材だの何だのを持ち寄り、魔法の製鉄炉に燃料をくべていくのも、もはや全員が手慣れてきていた。

 

「──しかし」

 

 錬鉄の具合を、コンソールとは別種の端末──職業:博士(ドクター)医師(フィジシャン)が扱える計器類を通じて確認しつつ、ツークが細めた瞳で問いを投げる。

 

「ウォーモンガーさんとやら、今日煉獄さんに何の用事で来たのかしらね?」

「煉獄さんが急に予定変更するくらいの急用とはね」

「なんか、込み入った話っぽかったけど」

 

 些少以上の興味をもって、客間の方向を見やるメンバーたち。

 

 それほどにキサツタイ隊士たちに敬服されている男──ワールドチャンピオン級の強さを持つと、界隈(かいわい)で噂を広めつつある煉獄は、モモンガたちの近況を(しか)と聴いた。

 

「なるほどな。摸模具和(ももんが)殿の、お仲間が……」

 

 ユグドラシルを去って行った。

 それも、モモンガにとって恩人の中の恩人──ギルド:アインズ・ウール・ゴウンの仲間たちと出会うきっかけともなった救い主──たっち・みーの引退。

 モモンガは力なく項垂れてしまう。恥ずかし気に後頭を掻く手も所在なさげであった。

 

「ええ、いや、なさけない話ですよね……誰かが、ここを、ユグドラシルを引退するなんて、あたりまえのことなのに」

 

 それこそ、ギルド:アインズ・ウール・ゴウンの前身であったクラン……ナインズ・オウン・ゴール時代にも、別れた仲間はいた。

 しかし、たっち・みーは様々な意味で、モモンガにとって特別であった。

 このユグドラシルを続けるきっかけとなった──

 仲間たち皆との出会いの架け橋になってくれた──

 それがアルフヘイム・ワールドチャンピオン、“正義降臨”、たっち・みーであったのだ。

 

「たっちさんにも、ご家庭の事情はありますから──奥さんの出産も近いらしいですし──このゲー、あ、いえ、ユグドラシルに引き止める権利なんて、自分には──、でも」

 

 寂寥(せきりょう)の感は(ぬぐ)(がた)い。

 置いていかれた──捨てられた──などと思うなんて、お門違(かどちが)いも(はなはだ)だしい。

 わかっている、すべてわかっていて、モモンガは(おのれ)我儘(わがまま)な思考を(ぎょ)しきれない。

 

「煉獄さん……自分はいったい、どうすればいいんでしょう……」

 

 いったいどうすることが正解なのか。正解であったのか。

 泣いて喚いて、やめないで下さいと取り縋るべきだったか──否。

 たっち・みーのことなどきっぱり忘れてしまえばよいのか──否。

 かと言って、この思いを抱えたまま、このゲームを続けていく自信がない……そう率直に告げるモモンガの姿は、今にも朽ち折れてしまいそうなほど弱々しい。

 モモンガの仲間たちも──ペロロンチーノもぶくぶく茶釜も、明確な回答を示せないほど、モモンガの苦悩は深刻であった。表面上は「なんてことはない」と取り繕ってみせた、社会人として立派な姿を堅持しようとしていたが、それでも、仲間たち全員が気づき、気を使いながらも、当人たちではどうしようもないほど、モモンガの状態は深刻笠を増していた。

 だからこそ、一縷(いちる)の望みを託して、ギルド外で親交を得つつある存在──煉獄杏寿郎の屋敷を尋ねるに至ったのだ。

 頼られた煉獄は熟考するように押し黙った、

 

「──うむ。話は分かった」

 

 かに見えた。

 

 

 

「だが、知らん!」

 

 

 

 その場にいる全員が「ええええ!?」と声をあげ、座ったままスッ転び、卓をひっくり返しそうになるほど、炎柱たる男は轟然と言ってのけた。

 煉獄は確かに言った。悩みを“聞いてやるとも”と。

 しかし、一朝一夕(いっちょういっせき)に“解決する”とは、一言も約束していなかった。

 彼は言い添える。

 

「君の悩みは、俺も経験がある! 仲間との別れ、家族とも呼ぶべきものと離れることは、まったくもって耐え難いことだ──」

 

 煉獄の脳裏に焼き付けられた人々の姿。

 幼き日に病没した母。

 鬼殺の任務中に殉死した同輩。

 家に残してしまった弟と父、柱たちやお館様。

 そして、

 無限列車で共に戦い、後を託すことができた、竈門(かまど)少年たち。

 数え上げればキリがないほど、煉獄も多くの別離を余儀なくされてきたのだ。

 悔恨もある。苦悩も。未練も。

 

「しかし!」

 

 だとしても、と煉獄は声を張り上げた。

 

「君の悩みは君の悩みであって、俺の悩みなどではない! 助言助力を尽くすことはできるが! それで解消されるようなものでもないだろう!」

「そ、それは、えーと……そう、ですね」

「確かに」

「いやでも煉獄さん」

「そう! 何故なら! 君の悩みは、君自身の力で、君自身の心でしか、解決しようのないものだからだ!」

 

 明快無比なまでの正論に、モモンガたちは虚を突かれる。

 煉獄にも悩むこと、迷うことは数多い。

 

 このユグドラシルに流されてより数ヶ月、鬼殺の剣士は見つからず、元の世界(ひのもと)に帰る(すべ)もわからない。

 

 だが。

 それでも。

 

「俺は! 俺のなすべきことをなしとげる!“俺の責務を(まっと)うする”!

 去っていった者たち、別れなければならなかった人たちはとても多いが、それでも、俺のやるべきことは、何ひとつ変わらない!」

 

 君だってそうだろうと喝破(かっぱ)する煉獄。

 

「別れはつらい。泣くこともあろう。悲嘆にも暮れよう。

 それでも、君にはまだ、残されたものがあるはずだ!」

 

 顔をあげたモモンガは、煉獄の力強い首肯と眼差しを受けとめる。

 

「君には、君の守るべきものがある! それはいったいなんだ、モモンガ(・・・・)!?」

「じ……、自分には……」

 

 あらためて、モモンガは自分の奥深くを見つめ直す。

 モモンガが守るべきもの。

 それは、仲間たち全員と共に築き上げたギルド──ナザリック地下大墳墓の威容があった。

 

「自分には、皆と作った場所が、──ギルドが、ありますっ」

「そうか!」

 

 煉獄は微笑んだ。

 何もないなどと言われでもしたら、さしもの煉獄とはいえ何も言えなくなってしまっただろう。だが、モモンガには大切なものが、かけがえのないものが、確かにあるのだ。

 その事実を喜ぶように、煉獄は結論する。

 

「ならば、それを守ることだけを考えろ! 他のことなど気に病むな! 悩むこともいい! 悩んで悩んで悩みぬいて! そうして自分の答えに辿り着けばいい! 君は、君がなすべきだと、信じたことをなせばいい! 何も恥じることはない! 堂々と前を向け!」

「……はい……ありがとうございます、……煉獄さん!」

 

 快く頷くモモンガの姿に、ペロロンチーノとぶくぶく茶釜も胸を撫で下ろした。

 ──自分たちではこうはいかない。ここまで正直で、まっすぐで、何も後ろ暗いものを感じさせない言葉は紡げない。

 何より、姉弟もまた──アインズ・ウール・ゴウンの誰しもが、たっち・みーと同じ道をたどるだろう。

 リアルとゲーム、どちらに天秤がふれるかと言えば、答えなど分かり切っている。

 そんな自分たちが……否……モモンガの仲間という立場であるからこそ、彼の苦悩と葛藤を断ち切ることは不可能であった。

 だが、それを煉獄杏寿郎という男は、乱麻を快刀で断ち切るがごとく、一刀両断にしてくれた。

 

「ったく、かなわないなー」

「そうねー」

 

 これで万事解決、というわけにはいかないが、モモンガの不調はとりあえず取り除かれた。

 友人の復調に貢献してくれた男の破顔一笑ぶりに、姉弟はそれぞれの思いで眺め見る、

 ──その時であった。

 

「──む?!」

 

 芋菓子を一口して頬を膨らませた煉獄が、一瞬にして表情を険しいものに。

 遅れて、モモンガやカラスも、異変に気付く。 

 

「……これは、音?」

「地鳴り、でしょうか?」

 

 遠くから感じられる震動。

 卓に用意された緑茶の水面(みなも)が、規則的な波紋を作りつつある。

 耳を澄ませば、庭の鍛冶場(かじば)に詰めているキサツタイのメンバーたちも惑乱の声をあげていた──彼らの錬鉄作業が失敗したというのも考えにくい。

 

「なに、嘘、もしかして地震?」

「〈地震(アースクェイク)〉の魔法、なわけないよな?」

 

 ぶくぶく茶釜とペロロンチーノも周囲を警戒し始める。地震の魔法はユグドラシルに存在するが、都市内部で使うものがいるとは考えにくい。治安維持の関係上、大都市の類では周囲に影響を及ぼす私闘は禁じられるか、やる場合は指定された区画──競技場(スタジアム)格闘技場(リング)内でのみ解禁されているものであるから。かと言って、自然現象としての地震が、ゲーム内で発動するわけもない。なんのイベント告知もなしに。

 ふと、カラスが声をあげる。

 

「煉獄さん?」

 

 誰もが次の行動をとれない中で、煉獄だけが、日輪刀を手に立ち上がり、告げた。

 

「────、西か」

 

 

 

 

 

 

 

 

*
ハワイ諸島の神話に登場する農耕の神、原初の巨大豚。

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