ルフラン及びガレリアの地下迷宮と魔女ノ旅団と魔女と2体の百騎兵   作:TAMZET

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数多世界の辺境、ルスカ。
冠位序列上位26冠の中でも、特に僻たる地に存在する世界。


ナチの魂……ここなら……
早く見つけないと……私が私でなくなる前に……


【ガレリア編】第一幕 【ポルカの世界】
第一章 第一話『ルスカの種もみ』


 灰色の空の下、見渡す限りの麦畑。

 微風を受け波打つ麦色の大海原では、背に藁を背負った白き人達が、ひたすらに何かを探している。

 彼らを見下ろすのは、世界の中心に聳える巨大な赤壁の塔。頂上すら見えないその巨塔は、いつの時も、ただ静かに彼らを見守っている。

 その塔の存在から、世界樹の一族はこの世界を『赤塔のルスカ』と呼んだという。

 

 この世界は、長らく静寂であった。

 世界を巻き込まんとしたオオガラスの襲来にも、ルスカの民は沈黙を守り続けた。

 だが、その時は唐突に訪れた。

 天より降り注いだ極光が塔の根元を穿ち、世界に震動をもたらしたのである。震動はやがて巨大な地鳴りとなり、焦茶の麦畑を滅茶苦茶に掻き乱した。

 

 麦畑の内を、小さな何かが駆け回る。

 半透明な身体を持つ猫ほどの大きさの生物……シラコエムシ達だ。

 彼等を、背に藁の入った籠を背負った白き人達が捕まえようと追いかける。

 

 シラコエ「タスケテ……タスケテクダサイ……ツカマエナイデ……」

 白き人「みぃ〜つけたぁ〜」

 白き人「つかまえたぁ〜」

 

 次々と白き人の手にかかってゆくシラコエムシ達。麦畑を抜け、荒地に踏み出した個体も、待ち構えていた白き人達が捕らえる。

 まるで蜂の巣を叩いたように、静寂に包まれていたはずのルスカは、僅かばかりの間に悲鳴と喧騒に包まれた。

 

 塔を中心に広がる、ルスカの喧騒。

 その中をただ1人、重い足取りで進む旅人の姿があった。焦茶の襤褸(ぼろ)を纏っているため、顔は伺えない。旅人は老婆のように背を丸め、錆びた金のペンデュラムを手に、ただ麦畑を征く。

 両の靴底は擦り切れ、泥に塗れた、黒垢まみれの裸足が顔をのぞかせている。伸び切った爪先は時に地面に引っかかり、爪先の肉を千切る。

 だが、千切れた肉と爪はすぐさま再生され、旅人は何事も無かったかのように歩みを再開する。少し止まっては、それを繰り返すのだ。

 ユラッ……ユラッ……

 ペンデュラムに導かれ、旅人は何度も進路を変えながら歩みを進める。

 喧騒の中、ふとペンデュラムの針が動きを止めた。

 伸び切った薄金色の前髪から覗く、瑠璃色の瞳。生気を失い切ったその瞳に映し出されたのは、一際大きな紫炎を纏った(アニマ)だった。

 

 旅人「み、みつ、みつけた。みつけ、た」

 

 旅人は魂へと両手を伸ばし、すっと掬い上げた。魂は彼女の手の中で、煌々と紫炎を燃え上がらせている。

 

 旅人「ナチ……」

 

 旅人は魂を胸元に寄せ……抱きしめた。

 魂は、彼女の言葉には答えない。

 その光に誘われ、無数の白き人達が旅人の周囲に集まりつつあった。その事にも、旅人は気がつかない。

 

 旅人「あぁ……あああああぁあぁぁぁぁ!!」

 

 旅人は、悲鳴にも似た絶叫を上げた。

 それは明らかにら若い女性のものであった。

 

 旅人「私が、()()()()したから。分かってたのに。()()なるって、分かってたのに」

 

 旅人の目から涙が溢れる。次から次へと滴る涙を、魂の紫炎が蒸発させてゆく。旅人は腰を折り、ぼろぼろと涙を溢した。

 

 旅人「ごめんなさい。ごめんなさい! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいッ!!」

 

 旅人は、泣きながら謝った。枯れた喉を鳴らし、ボロボロに崩れた指先で祈りの形を作り。合わせた掌を頭上に掲げ。

 謝り、謝り、謝り謝り謝り……ただひたすらに謝った。

 

 旅人「ごめ……」

 

 旅人は唐突に謝罪を止め、乾いたその唇から真っ赤な血を吐き出した。

 白き人達が、槍で彼女の背を貫いたのである。襤褸の端から、真っ赤に染まった柔肌が顔を出す。

 

 旅人「う……ぐふっ……!」

 

 白き人達は仏頂面で、手に持ったやりを次々と旅人に突き刺してゆく。旅人は悲鳴を上げる事すらせず、その痛みを享受し続けた。

 やがて、1人の人が彼女の持つ魂へと手を伸ばした。旅人は初めて、抵抗を示した。

 

 旅人「ナチ……だめ……。私は、どうなっても、いいか、ら……ナチは、ナチだけは……」

 

 魂を抱える腕を、赦しを乞う喉を、槍が次々と貫いてゆく。旅人の纏う襤褸が、彼女の血で真っ赤に染まってゆく。

 旅人は最早抵抗すらしていない。背を丸め、地に伏し、ただひたすらに魂を守り続けている。

 

 地獄の情景を切り取ったかのような惨劇。

 だが、それも長くは続かなかった。

 

 轟音が、再びルスカの麦畑を揺らしたのだ。

 白き人達が槍を構え警戒する中、一台の馬車が彼等の前に姿を現した。

 2頭の白馬に牽引された、立派な馬車である。およそ10人以上が乗れるであろう客車、その戸には、カカリマの紋章が刻まれている。

 白き人達はその紋章に目をやるや否や、ある者は慄き、ある者は手にした武器を握り直した。

 

 白き人「カカリマの紋章……エルマ、エルマだぁ」

 白き人「とうとう、我らの世界まで。どうする? ()るのかぁ?」

 白き人「ルスカを統合させるわけにはいかねぇ。戦るしかねぇよぉ」

 

 慌てる白き人達の前で、客車の戸が開いた。

 中から姿を現したのは、黒い衣を身に纏った長身の女性だった。

 黒衣は艶やかな素材で仕立てられており、その胸元には金糸でカカリマの紋章が刺繍されている。

 

 黒衣の女性「この紋章が見えませんか? こちらは公王の馬車です。速やかに道をお開けなさい」

 

 厳しい口調で、女性は言い放つ。

 しゃがれているが、威圧感のある声だ。

 白き人達は彼女に圧され、動く事ができない。

 

 白き人「マーガレット統制卿だぁ……」

 白き人「統制卿が、こんな所に……なんでぇ」

 

 マーガレット統制卿と呼ばれた女性は、萎縮する白き人達を睨め付ける。その視線の、なんと鋭い事だろう。

 

 統制卿「もう一度だけお伝えします。公王の御前です。その方から離れ、すぐさま道を開けなさい」

 

 彼女の宣告に、数人の白き人が道を開けた。

 だが、残った人々は武器を手に、抵抗の意思を露わにする。

 

 白き人「ルスカは統合させねぇ!」

 白き人「公王め! 覚悟しろぉ!」

 

 槍を手に、5人の白き人が走り出した。

 彼等は恐怖に引き攣らせ、槍を手に統制卿目掛けて突進する。

 

 マーガレット統制卿「愚かな……」

 

 統制卿は深くため息をつくと、すっと右手を天に掲げた。

 次の瞬間、一陣の風が麦畑を凪ぎ、先頭を走っていた2人の白き人が走るのをやめた。否、走るのをやめたのではない、走る事が出来なくなったのだ。2人は、()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 ズルリ……

 

 音を立てて、2人の身体が麦畑に崩れ落ちる。残りの3人の視線は、馬車の前のとある一点に注がれた。いつの間にそこに立っていたのか、そこには、真黒い鎧を着込んだ仮面の騎士が佇んでいた。

 背は低く、華奢だ。鎧を着ていても、細身の装着者である事が見て取れる。だが、それよりも目を引くのは彼女の構える長剣である。

 その長剣は、騎士の身の丈ほどもあり、明らかに大振りな代物であった。

 

 騎士?「貴様らの不敬、許されるものではない。この姫騎士デオンが処刑する」

 

 デオンを名乗る騎士は地を蹴り、目にも止まらぬ速さで駆け出した。慌てて武器を構え直す白き人々。だが、彼等が武器を構えるのより早く、彼女の剣は彼等の身体を切り裂いた。

 崩れ落ちる白き人達を背に、デオンは血振を済ませると、剣を胸の前に構え、馬車へと一礼した。

 

 デオン「不敬者を誅しました。お見苦しい所をお見せした事、お許し下さい」

 

 馬車からは何の返事も返ってこない。

 デオンはカツカツと馬車へ歩を進めると、再びその内に姿を消した。

 彼女と入れ違うように、統制卿が倒れていた旅人へと歩み寄る。血溜まりの中で震える彼女の元へしゃがみ込み、統制卿は優しく微笑んだ。

 

 マーガレット統制卿「ユリィカさん。お顔を上げてください」

 

 その声に、旅人はおずおずと顔を上げた。

 目元を晴らし、彼女は訝しげに統制卿を仰ぎ見る。統制卿はフードを外し、にこりと頬を緩めた。

 

 旅人「ユリィカ?だれ……?」

 統制卿「あなたですよ。ユリィカさん。ユリィカ・ド・ソレイユさんですね」

 旅人「ユリィカ? ユリ……」

 

 何度かその言葉を復唱し、旅人はハッと身を震わせた。

 ユリィカ?「そうだ。()()()()……」

 

 旅人……ユリィカ・ド・ソレイユの瞳に、星のような輝きが戻る。

 ユリィカはまるで初めて物を見た赤ん坊のようにキョロキョロと辺りを見回し、次に眼前の統制卿へと目をやった。最早その目は、先程の死に体の旅人とは別の、生きた少女の目であった。

 

 ユリィカ「あ、れ? カテドラルで、見た……ミラージ、さん? でしたっけ?」

 統制卿「はい。アルステラではそう名乗っていましたね。【金匙の魔女】懐かしい思い出です」

 ユリィカ「……アルステラ……」

 

 ユリィカはマーガレットから視線を外し、灰色の空を見上げた。彼女の視界には、かつて彼女が見た遠い異世界が広がっているのだ。

 身体の動きを止めてしまったユリィカの視線を、統制卿の細い手が遮った。その手の動きに、ユリィカはハッと我に帰った。

 

 ユリィカ「ご、ごめんなさい!私、全然思い出せなくて……やだなぁ……えへへ……」

 統制卿「無理に想い出さなくても結構です。長旅でお疲れでしょうし、何より、この世界では初対面ですから」

 

 統制卿は呆けた様子のユリィカに向けて、深々と頭を下げた。その優雅な仕草に、ユリィカも慌てて彼女を真似て頭を下げる。やがて、2人は同じ具合に頭を上げた。

 

 統制卿「改めて自己紹介を。【金匙の魔女】ミラージ改め……【千里眼の魔女】マーガレットと申します。ようこそ、エルマ公国へ。我々はあなたを歓迎します」

 

 きぃ、と。馬車の扉がひとりでに開いた。ユリィカの手の中では、魂が煌々と紫炎を燃やしていた。




次回の投稿日は未定です。なる早で出します。
また、他3編についてはガレリア編一幕終了後に出します。
設定の矛盾、キャラ台詞の誤植等については、ご報告をいただけるとありがたいです。感想いただけると、投稿が早くなるかもしれません。

もうこの時点で分かるかもしれませんが、『ミラージさん=別世界のユリィカ』とかやる小説です。原作の設定にオリジナルの設定を詰め込みまくってぐちゃぐちゃにする系二次創作です。
でも、ミラージさんのあの見た目は絶対ユリィカだと思います。トルーデ≒メタリカ、ナチル=マルタの前例から、私はこの説を貫きます。
間違ってたら教えて下さい。

※pixivへは、一章毎に投稿を行います。
※ゼロワン小説は、9月のVシネが終わってから書きます。

次のお話は次の3つのうちどれがいいですか。

  • 【ルフラン編】 復活のドロニア様
  • 【魔女百編】 思い出のルッキーニィ
  • 【魔女百2編】 帰ってきた妹ラマン
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