ルフラン及びガレリアの地下迷宮と魔女ノ旅団と魔女と2体の百騎兵   作:TAMZET

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ヒルデブランドには罰を下してもらおう。
禁足地を踏み荒らすなど、愚か者のする事だ。


運命の収斂する音が聞こえる。
ナチ……もうすぐ会えるね。


第二章 第三話『友達』

 夜は友達、ずっとそう思っていた。

 暖かな布団の中で、いろんな妄想をする。冒険したり、お父さんと一緒にドラゴンを倒したり。

 だが、今日ワタシは知ることになった。本当の夜は、ひどく肌寒いのだと。冷たさを纏った風が服の繊維の隙間を抜け、肌の熱を奪ってくる。ストッキングを履いてくれば良かったと今更ながらに後悔している。

 手に持った懐中電灯が、一歩先までの暗闇を照らす。年代物の安物だが、これがワタシの歩みを支える唯一の希望なのだ。

 森の中は、木々が風を防いでくれるので寒さは和らぐ。だが、夜間の森は怖い。お化けのように垂れ下がる木々の枝、ガサリと蠢く草むら、彼方から聞こえてくる遠吠えのような叫び声。五感を通して語りかけてくるもの全てが恐怖を掻き立てるのだ。

 ふと、ワタシのすぐ後ろでチリンと鈴の音が鳴った。

 

 ポルカ「だ、だれっ!?」

 

 慌てて振り返る。ブレる懐中電灯の光をなんとか操り、目の前を照らす……そこにいたのは、黒猫だった。首には金色の首輪が巻かれている。

 音の正体は、この黒猫だったのだ。

 

 ポルカ「なんだ、伯爵か」

 

 この猫は伯爵と呼ばれる黒猫である。近所では有名なドラ猫で、よく残飯を漁る事で有名だ。首輪をしている以上、誰かが飼っているのだと思うが、その正体は誰も知らない。謎に満ちた猫である。

 伯爵はライトの光に驚いたのか、そそくさと森の中へ駆けて行ってしまった。ワタシは逸る心臓を宥めつつ、行進を再開した。

 

 やがて、森を抜けると、暗闇が広がっていた。灯ひとつない真っ暗な校舎は、昼間とはまるで違う雰囲気を醸し出していた。

 

 ポルカ「結局、来ちゃった。こんな夜中にまで登校って、どんだけ勤勉な生徒だっての」

 

 月と星の紋章が刻まれた門に手をかける。

 案の定、門には鍵がかかっていた。だが、そんなものワタシの前では障害にならない。

 ポケットから2本の針金を取り出すと、ワタシは門の鍵の中に差し込んだ。ピッキングという奴である。ワタシがいつの間にか身につけていた、日常生活では役に立たない特技の一つだ。

 カチャカチャと何度か弄ると、ガチャッと小気味良い音と共に鍵が外れた。

 

 ポルカ「失礼しまーすっと」

 

 ワタシは足で門を押しあけ、

 灯ひとつない学校は、流石に怖い。昼間に会ってしまった怪盗もある、あまり長居はしたくない。

 職員室についた。よく呼ばれているので、目的の机の場所は分かっている。書類が乱雑に積み重ねられた汚い机……それが、ゴズの机だ。

 ワタシは彼の机の引き出しに針金を突っ込むと、すぐさまこじ開けた。所詮既製品の鍵などこの程度のものだ。引き出しをこじ開け、書類の棚を漁る。

 探すは昼間見た羊皮紙……免罪符だ。

 

 ポルカ「ない……ここにも。金庫みたいなものは……」

 

 紙が隠されていそうな場所はあらかた探した。それこそ、重箱の隅を突く感じで。

 だが、目的のものは見つからない。

 

 ポルカ「ダメか。……やっぱり、ここに置いとく訳ないか。処刑の期限まで、あと1か月……1ヶ月……」

 

 頭の中に浮かぶのは、断頭台に立たせられている父の姿。多くの人々が見守る中、処刑人の斧が振り下ろされ、血飛沫が舞う。

 人々の足元に転がる父の首……その顔は酷く歪んで……

 

 ポルカ「ダメだダメだ!! ワタシがお父さんを助けるんだ。まだ、始めたばっかりなんだ、まだ、頑張れる!!」

 

 自分に喝を入れ、捜索の手を早める。

 出てくるのは、エロ本や生徒の隠し撮り写真集……妙に馬面の女生徒が多い。後は、ワタシから買い取った迷宮の品物が少々。これだけでも中々にスキャンダルだが、それ以外には、学校の書類しか見つからない。特に鍵のかかった棚は何度も念入りに調べたが、やはり出てくるのは書類ばかりだ。

 

 ポルカ「やっぱり、そうだよね……」

 

 ワタシは額の汗を拭い、散らかりきったゴズの机を見る。これだけ頑張って収穫なし……予想はしていたけれど、やはり堪える。胸の真ん中を見えない針がチクリと刺す感じだ。

 

 ポルカ「残り金貨80枚、マリエッタさんのお小遣いを引くと78まい……」

 

 軽い絶望に、引き締めていた胸の筋肉が弛緩する。明滅する懐中電灯の灯が、探索の打ち切りを促してくる。

 まだだ、まだ頑張れる。

 心はそう言っているのに、身体と現実が、それを阻んでくる。身体を動かそうにも、息が続かない。痛みに軋む四肢が、もう諦めろと叫んでくる。

 それでも、ワタシは……

 

 謎の声「ダセ……ダセ……」

 ポルカ「!?」

 

 ドキンと、心臓が跳ね上がった。

 背後で、何か声が聞こえた気がして、ワタシは捜索の手を止め振り返る。

 

 恐る……恐る…………

 

 背後はすぐ窓である。外では、スギの樹木が夏の夜風に吹かれ、ざわめいているだけであった。何も変わらない、夜の景色だ。

 

 ポルカ「誰も、いない?」

 

 考えてみれば、窓の外に人が立てるはずもない。先程の声は、風の悪戯だったのだろう。

 ワタシは机に向かい直し、捜索を再開しようと手を伸ばした……だが、次の瞬間、声はワタシの耳元で聞こえた。

 

 謎の声「……イダセ……イダセ……」

 ポルカ「ひっ!?」

 

 先程の囁くような声とは違う、生々しい声だ。風の悪戯ではない! 

 警戒センサーを全開にし、ワタシは手に持った懐中電灯であたりを照らす。

 

 ポルカ「だ、誰ッ!? もうHR(ホームルーム)終わってるよっ!?」

 

 混乱のあまり、自分の言っている事が最早分からない。360°、ぐるりと振り返りながら灯りを向けるが、何も見えない。

 だが、ワタシの警戒センサーはどこかに人の気配を感じていた。この部屋のどこかに人がいる……ふと、その視界が暗くなった。

 

 ポルカ「ああっ!?」

 

 何が起きたかはすぐに分かった。懐中電灯の光が消えたのだ。

 光源一つない空間で、闇が身体中にまとわりついてくる。どこかで足音がする気がする……その足音は、ワタシの方に近づいてきて……

 

 ポルカ「で、電気電気!!」

 

 恐怖に駆られ、ワタシは職員室の入り口へと駆け出した。足元など見れないため、足がいろんなものにぶつかる。何度も躓きかけ、実際2回机に腰をぶつけた。

 壁に手が触れた。

 壁沿いに、進み、電気を探していると……廊下に出てしまった。足音が廊下の奥から近づいてくる。

 

 ポルカ「あぁ……あぅ……」

 

 声にならない声を上げ、ワタシは職員室の扉を閉めた。扉を背で抑え、隠れる。

 もはや何も考えていない。

 足音は、どんどん近づいてくる。

 カツ、コツと。靴を履いた足音だ。

 やがて、足音が止まった。

 行ってしまったのだろうか……ワタシはそっと、職員室の扉を薄く開け、外の様子を伺う。

 そこには、灯りを持った人影がいた。

 オレンジの灯に照らされた綺麗な青色の瞳が、こちらを見つめていた。

 

 ポルカ「ぎゃああっ!?」

 謎の声「うひゃああっ!!」

 

 二つの悲鳴が夜の校舎を揺らした。

 相手方の声は聞き覚えのある声な気がした。だが、そんな事気にしている暇はない。ワタシは懐中電灯を両手持ちに構え、ザザザザッとエビのように後ずさった。

 

 謎の声「だ、だだだだだだれっ!!? かかか怪盗さんですかっ!?」

 ポルカ「ごごごごめんなさいっ!!! 悪いことしてません!! してませんからっ!!」

 

 扉を挟み、長距離を開けて向かい合う侵入者とワタシ。どうやら向こうも、ワタシと会う事は想定外だったようだ。

 ワタシは懐中電灯を構え、ゆっくりと近づく。向こうも同じように……

 先に声を発したのは、ワタシではなかった。

 

 謎の声「……もしかして、ナチ?」

 ポルカ「ユリィカ……?」

 

 声の正体は、ユリィカだった。

 とりあえず、恐怖の侵入者の正体が知り合いだった事に、ワタシは胸を撫で下ろした。

 ユリィカも同じ気持ちだったのだろう、引き攣っていた表情をほにゃあと緩めた。

 

 ユリィカ「良かったぁ〜! やっぱり……ナチだった! ナチじゃなかったらどうしようかと……」

 ポルカ「…………」

 

 ワタシはユリィカに灯りを借り、一緒に学校から帰る事にした。懐中電灯もなしに夜の学校を歩くのは怖すぎるし、何より家まで帰るとしたら危なすぎる。

 真っ暗な廊下を、ランタンの灯りと共に歩く。いつかどこかで、同じような事をしていた覚えがあったが、思い出せない。

 何も収穫が無かった、その事が、心臓の奥の方をチクチクと刺激する。明日になれば、また学校が始まる……職員室の机を荒らした事はすぐに知れ渡るだろう。ゴズにはすぐバレるはずだ。お父さんももういない……

 そうなればワタシはあっという間にボコボコにされ、今度こそ酷い目に遭わされるだろう。下手したら、殺されるかもしれない。

 

 ユリィカ「そいえばナチ……灯りもつけないで何してたの? 怪盗ごっこ?」

 ポルカ「え!?」

 

 突然の質問に、ワタシは素っ頓狂な声をあげてしまった。ユリィカが不思議そうにこちらを覗き込んでいる。

 確かに、冷静に考えれば深夜の校舎にいる理由など想像もつかないだろう。とはいえ、本当の事を話す訳にもいかない。

 少し考えた末、ワタシは誤魔化す事に決めた。

 

 ポルカ「いや、その、ひ、ひなたぼっこ」

 ユリィカ「もう夜だよ?」

 ポルカ「じゃあ、天体観測」

 ユリィカ「ここ部屋の中だよ?」

 

 やけに鋭いツッコミを入れてくるじゃないか。ワタシはユリィカの洞察に舌を巻きつつも、言い訳を考える。

 そういえば、ゴズは色々な生徒から没収と称して色々なものを取り上げていると聞いた事がある。基本的にはエロ本を取り上げられる事が殆どだが、中にはアクセサリーや端末を取られる生徒もいるらしい。

 よし、これを使おう。

 

 ポルカ「……没収された化粧道具取りに来た。ゴズに盗られたら、もう帰ってこないと思って」

 ユリィカ「ナチ、お化粧するっけ?」

 ポルカ「あのさ、ワタシの事なんだと思ってるんだよ。ワタシだって、一応女の子なんだから。街行く時は化粧ぐらいするし」

 

 ユリィカは少し首を傾げた末、クスリと笑った。

 

 ユリィカ「へぇ、なんだか意外。そうだよね、ナチも女の子だもんね」

 ポルカ「あのさぁ……ワタシの事なんだと思ってるんだよ」

 

 何とも腹の立つ受け答えである。

 ジト目で睨んでやると、ユリィカは大振りなリアクションで驚いてみせた。まったくふざけた奴である。

 だが、今の状況では、それもありがたい。

 

 ポルカ「(学校辞めたら、コイツと一緒にいられなくなるのか。……ちょっとだけ、寂しいな)」

 

 そこまで考えたところで、一つの疑問が浮かんだ。

 

 ポルカ「てか、アンタこそなんでここにいるし?」

 

 ユリィカは待ってましたとばかりに、ぱあっと顔を輝かせた。謎のリアクションである。

 鼻歌まじりに、彼女は手元に下げていた金のペンデュラムを揺らしてみせる。

 幼い頃、聞いた事がある。これを揺らすと、失せ物の元まで案内してくれるんだとか。

 

 ユリィカ「私はね、友達を探しに来たの」

 ポルカ「へぇ……」

 

 彼女の回答に、心がチクリと傷んだ。

 昼間、ワタシを友達と言っておきながら、他の子と喋り続けていた光景が頭に浮かぶ。

 別にコイツが悪いわけじゃない。けれど、ワタシが大変な時に、他の友達のために世話を焼いているコイツに、何だか腹が立った。

 ワタシの中の意地悪な心が、鎌首をもたげる。

 

 ポルカ「アンタ友達いないって言ってたじゃん」

 ユリィカ「うん。言ったよ」

 ポルカ「……悪びれろとまでは言わないけどさ。せめてそこは嘘ついてよ」

 

 ワタシはポッケに手を突っ込み、ユリィカから僅かに距離を離す。コイツにワタシの気持ちがわかるとは思っていない。

 けれど、今のコイツの態度を許せるだけの器量は、ワタシには無かった。

 

 ユリィカ「嘘? 嘘じゃないよ?」

 ポルカ「……もう、そういうのいいから。ワタシ、ショックだったんだ。アンタに嘘つかれるとは思ってなかったから」

 

 ユリィカは首を傾げている。

 無邪気な表情で何を考えているのか、ワタシには全く分からない。分かりたくもない。

 心の中を、どす黒いものが渦巻く。

 

 ポルカ「もう大丈夫。探し物、無い事は分かったし1人で帰れるから」

 

 灯りなんかなくてもいい、今すぐコイツの前から離れたかった。じゃないと、ワタシは本当にこいつの事が嫌いになってしまうと思ったから。

 

 ユリィカ「嘘じゃないよ」

 

 ユリィカは灯りを持ったまま、距離を詰めてくる。ワタシは離れる。それでも彼女は距離を詰めてきて……ワタシは舌打ちした。

 

 ポルカ「もういいよ。その友達、見つかるといいね」

 ユリィカ「嘘じゃないよ」

 ポルカ「もういいって!!」

 

 ついに、堪忍袋の尾が切れた。

 心の中にある辛さや悔しさ、怒り憎しみ、それらの全てが、行き場を失って暴走した。

 近寄ろうとするユリィカを突き飛ばす。

 彼女は「あうっ」と声を上げ、尻餅をついた。倒れた彼女を見下ろし、ワタシは眉を逆立てる。

 

 ポルカ「アレ聞いた時さ。ワタシ、本当に嬉しかったんだよ。アンタが、ワタシの事友達だと思っててくれたって知って。そんなわけないのにね。何十人もいるうちの1人が、私ってなだけでさ。そんなの、分かってたのに」

 ユリィカ「ナチ……」

 

 ユリィカは眉をへの字に曲げ、いつもの反省のポーズで聞いている。でも、ワタシは知っている、コイツがすぐに話を忘れる事を。

 そう考えると、ますます腹が立ってきて。

 ワタシは思う様叫び倒した。

 

 ポルカ「そのナチって誰なんだよ!! 友達だってんなら、名前くらい覚えろよ!! 何? ワタシが可哀想だと思ったから付き合ってやってるってワケ? だとしたら余計なお世話だから。可笑しくても惨めでも結構!! 笑ってればいいじゃん、アンタの大事なお友達とさ!!」

 

 心の中に溜まっているものを全部言い切って……後に残っているのは、嫌な気持ちだけだった。

 眼前では、ユリィカが口を一文字に結んでいる。

 またやってしまった。ワタシはいつもそうだ、感情のままにキレて、人を傷つける。それが大切な絆だと分かっても、取り返しがつかない。

 ワタシは座ったままのユリィカを放り、歩き出す。灯から遠ざかり、真っ暗な闇の中へと歩みを進めてゆく。

 

 ポルカ「分かってる。本当に大事な時に、ワタシの側は誰もいてくれない。全部1人でやるしかない……」

 

 目が闇に慣れてゆく。

 これなら、帰りも歩けそうだ。

 帰ったところで何がある訳でもないけれど。

 そうだ、このままこの闇の中に消えて仕舞えば、楽かもしれない。そうすれば……

 瞬間、頭頂部を激烈な痛みが襲った。

 

 ポルカ「いだっ!?」

 

 ワタシはうめき声を上げ、頭を抑える。今のは明らかに背後からの攻撃だ。

 恨みを込めて振り返ると、そこには、眉を釣り上げた表情のユリィカがいた。

 その剣幕に、ワタシは怯んでしまう。

 

 ユリィカ「ナチのバカ!!」

 ポルカ「バカ……? 私が? アンタより?」

 ユリィカ「そうだよ!! バカもバカ!! 大バカだよ!!」

 

 ユリィカは凄まじい剣幕で詰め寄ってくる。彼女のこんな一面など、見た事が無い。

 呆気に取られるワタシに、彼女はさらに詰め寄ってくる。

 

 ユリィカ「私は、ナチを探しに来たんだよ」

 ポルカ「……何で?」

 ユリィカ「ナチ、何かあったでしょ? お父さんの事なんでしょ? 普通じゃなくなるくらいの、何かなんでしょ?」

 ポルカ「……アンタには、かんけ」

 ユリィカ「だったら話してよ!!」

 

 ユリィカのその言葉に、ワタシもカチンときた。心の中で燻っていた怒りの火が、再び燃え上がる。

 ワタシはおでこをぶつけんばかりの勢いで、彼女に掴みかかった。

 ランタンの火が、ぶらぶらと揺れた。

 

 ポルカ「話して、何か変わる? 人の言ったこと全部右から左に通り抜けるような奴にさ! ずっとぼけたように毎日生きてて、人の苦労も切らないで! お前に、ワタシの何が分かるんだよ!!」

 ユリィカ「分かるよ!!」

 

 次に放たれた一言……その一言は、ワタシの心臓の動きを止めた。

 

 ユリィカ「私、ナチの友達だよ?」

 

 いつも聞いている筈の言葉。

 でも、その言葉の重みに、ワタシは二の句が告げなかった。

 ユリィカは、太陽のように熱い手で私の手をぎゅっと握り、続ける。

 

 ユリィカ「私の友達は、ずっと昔からナチ1人だよ!! ナチが苦しんでたら、私も苦しいんだよ?」

 ポルカ「だって、アンタ……他の奴とも……」

 ユリィカ「私に話しかけてくる人は、いつもワタシに気に入ってもらう事が目当て。お父さんの知り合いにさせてって、ずっとそればっかりしか言わないんだよ」

 

 ユリィカはそこで一旦言葉を切った。

 ワタシが顔を上げると、そこには、いつもの優しい表情の彼女がいた。

 

 ユリィカ「でもナチは違う。私のために、離れてって言ってくれる。寂しいけど、でも、ナチの気持ちはワタシ、分かってるんだよ!」

 ポルカ「うそ、だよ」

 

 ワタシは俯く。目頭のあたりがキュッと熱くなって、喉のあたりがうまく動かなくなる。

 今声を出したら、変な声が出てしまう。

 

 ポルカ「あ、ぅ」

 

 ワタシはズズッと鼻を(すす)り、胸を襲う情動を抑える。こんなところ見られたくないのに、恥ずかしいのに、何故だろう、全然気持ちの高ぶりは引っ込んでくれない。

 

 ポルカ「ワタシなんて、アンタに友達なんて呼んでもらう資格ない。こんなに酷いこと言うのに、いいところなんか、何もないのに」

 

 ユリィカはにっこりと笑い、首を横に振った。

 

 ユリィカ「たくさんあるよ、ナチのいい所。例えば……誰よりも頑張ってるところ」

 ポルカ「?」

 

 ユリィカはすっと人差し指を上げた。

 

 ユリィカ「頼まれなくても、人のために頑張るところ。頼まれたら、どれだけでも頑張って仕事するところ。褒められたら、すっごい可愛い顔になるところ。それから……」

 ポルカ「ちょ、ちょっと待って!! ごめん……それ以上やめて」

 

 ワタシは慌てて、ユリィカを止めた。

 ダメだった。

 流石に耐えられそうも無かった。

 褒められるなんて、この数年父以外にされた事なくて。心がぎゅうってなってしまって。

 ワタシは、慌てて顔を隠した。

 きっと、変な顔してるだろうから。

 

 ポルカ「ワタシ、そんな、事、してない!! ……してないし」

 

 そんなワタシの思いなんてつゆ知らず、ユリィカは続ける。無邪気に、心の底から言っているとわかるセリフで。

 

 ユリィカ「ナチはすっごい人なんだよ。私が心から信じられる、自慢の友達」

 ポルカ「……」

 ユリィカ「でも、少しだけ寂しいんだ。ナチ、1人で何でもできちゃうから。恩返しがしたくても、全然できない。そんなナチが困ってるって事は、本当に大変な事なんでしょ? 力になれるか分からないけど」

 

 ユリィカはそこで一旦言葉を切ると、満面の笑みでこう言った。

 

 ユリィカ「私は何があっても、ナチの味方だから!!」

 

 そこが、限界だった。

 今までずっと堪えていた涙腺が、決壊したのだ。抑えていた手の隙間から、涙が滝のように溢れてくる。胸の内から湧き上がってくる熱い何かを堪えられない。熱い息を伴って登ってくる何か……それを堪える事なく、ワタシは堪らず嗚咽した。

 

 ポルカ「……何で」

 

 どうしてなのだろう。

 排斥されて、隅っこに追いやられて、欲しいものなんか何も手に入らなかった人生。

 周りに合わせろと言われ、頑張って合わせても押しのけられた人生。捻くれて、いじけて、変な心に育ったワタシ。

 そんなワタシと同じ(かんきょう)で育ったのに。

 

 ユリィカ「……オマエは……そうなんだよ……」

 

 どうしてこいつだけは、真っ直ぐな心を持っていられるのだろう。そして、こんなワタシなんかを、友達と呼んでくれるのだろう。

 

 ポルカ「う、うぅ……」

 

 でも、なんだかわかる気がする。

 コイツが真っ直ぐな理由。

 それはきっと、コイツが、信じるものを持っているからだ。何か一つをやり通すだけの信念の強さ。コイツにはそれがあるのだ。

 

 ポルカ「ユリ。これから頼む事は、ワガママかもしれない」

 

 ワタシはユリィカの瞳を真っ直ぐ覗き込み、涙でぐしゃぐしゃの顔で頼み込む。

 何千年ぶりに、本気で、心から頭を下げる。

 

 ポルカ「変なことするかもしれないし、危ない橋も、渡る事になるかもしれない。けど、ワタシ1人じゃ、多分できない事だから」

 

 きっと彼女は断らない。

 それが、ユリィカだから。

 誰かが困っていると、見捨てられない。

 そんないい子が、コイツだから。

 

 ポルカ「お願い……お父さんを、助けるの…………手伝ってっ!!」

 

 ワタシの予想通り、ユリィカは当然のように首を縦に振った。そこには、コンマ1秒の躊躇も無かった。

 

 ユリィカ「もちろんだよ!!」

 

 ユリィカの返事は、いつも通り元気だった。

 




誰か助けてください……
解放してください……
私は仕事に疲れました……

次のお話は次の3つのうちどれがいいですか。

  • 【ルフラン編】 復活のドロニア様
  • 【魔女百編】 思い出のルッキーニィ
  • 【魔女百2編】 帰ってきた妹ラマン
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