ルフラン及びガレリアの地下迷宮と魔女ノ旅団と魔女と2体の百騎兵   作:TAMZET

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アルソイル。ウルの欠片。
打ち捨てられた、三つ子の長男。


この世界を揺り籠にする事にした。
この子が全てを思い出すまで、ここで育てよう。


第一章 第二話『ポルカの日常1』

 ワタシの名前は、ポルカ・コルベール

 アステリア村で暮らす、ごく普通の村娘だ。

 金髪赤眼、背丈は同年代の女子の中では高い方だと思うが、基本姿勢が猫背なので平均くらいだ。スタイルは……胸以外は普通の方だと思う。胸に関しては、誰に似たのか今もスクスクと育ってきている。

 今は戦後暦50年。かつて私たちの世界【アルソイル】は、不可という巨大な魔獣との戦いに勝利し、長い平穏を勝ち取った。大戦で使われた技術は多くの民間企業に流れ、魔導携帯電話や魔道パソコンの開発につながった。

 

 父はネルド・コルベール、出稼ぎの傭兵をしている。ワタシと同じ、マルっとした眉の形をしている。これのせいで、全然顔が似てなくても親子とバレてしまうのだ。曰く凄腕の傭兵らしく、全然家に帰ってきてくれない。母はいない。ワタシが生まれたばかりの頃、出て行ってしまったのだそうだ。

 

 近所には、お祈りが趣味の修道女のマリエッタさんと羊飼いのヌッタマッタさんがいる。あと、町長のパンプルトンさんは、家も遠いのに、よくワタシの様子を見に来てくれる。親切な人だけど、最近私を見る目が少し卑猥だ。

 

 学校は十数人の生徒がいるばかり。どこの田舎にでもある、小中高混合の学校だ。最近はそんな学校すらサボりがちなのだが。

 

 朝日を眺め、麦畑を横切り、夕日が沈んだかと思えば月が登る。

 代わり映えのしない、田舎の日々。

 窓から光り輝く王都を夢見る、そんな毎日だ。

 

 だが、楽しみが無いわけじゃない。

 なんせ、ワタシには村の皆には無い、不思議な力がある。それは……人形に魂を込める力だ。

 ワタシが力を込めた人形は、何故か1人でに動き出すのだ。人形の大きさは問わない、人と同じ大きさのもので試しても成功したし、小人ほどの大きさの人形でも大丈夫だ。

 歌って踊れる人形達がいるおかげで、1人でも寂しくは無い。

 

 また、人形達は非常に高い戦闘能力を持っている。これを応用し、ワタシは迷宮の探索に乗り出す事にした。

 

 え、迷宮がどこにあるって。

 聞いて驚くなかれ、実はワタシの部屋に備え付けられていた衣装箪笥(ワードローブ)の奥が、いつの間にか迷宮の入り口になっていたのだ。

 

 迷宮は意外と広く、8ヶ月の探索を行ってもまだ全貌が見えない。

 探索序盤で手に入れた迷宮の地図のお陰で大体の形は掴み取れたが、それでもまだ分からない事の方が多い、摩訶不思議な迷宮だ。

 

 これは最近知った事だが、迷宮の中には豪華な宝箱に収められた宝物の数々が存在する。これは、知り合いの話によると、古物商には高く売れるそうだ。だが、残念な事にこの村には古物商はいない。

 今では考古学の先生に買い取ってもらっているが、きっつい手数料を取られ、手元に残るのは二束三文の端金だ。何より私は、その先生が大の苦手である。

 人形兵を使った探索によりだいぶ色々なお宝を集められた。先生に収めていないコレクションもある。これを、王都に行って売ればきっと金になる。

 

 傭兵として働く父のために、ワタシは今夜も、人形兵を衣装箪笥の中に送り込むのだ。

 


 

 その日は、熱帯夜だった。田舎特有の、無駄に暑い夏の夜。枕元の電子端末からは、怪談朗読が聞こえてくる。

枕元の時計の短針は、もうすぐ5時を指そうとしている。もう少しで朝かもしれないが、夜は夜だ。

 

 ポルカ「哀れ、嘘つきの狼は王子様の目を潰してしまったのでした。めでたくなし、めでたくなし」

 

 怪談話を暗唱し終え、ワタシは何度目になるか分からない寝返りを打つ。筋肉も贅肉も無い痩せた身体が、朽ちかけた木製のベッドをギシリと揺らす。痛みきってしなしなになった金の髪が、ベッドの上に散らばっている。そろそろ掃除しなきゃ。

 最近、胸が少し苦しくなってきた。子供の頃の下着を使い続けている所為だ。お父さんに新しい物を買ってきてもらわなければ。

 開け放たれた窓から、微風が乾いた冷風を運んでくる。風が、出しっぱなしのお腹を悪戯に撫ぜる。

 

 ポルカ「うぅ……寒いって」

 

 足元に投げ出していた布団を親指で器用に掴み、胸元へと持ってくる。枕元では、相変わらず低い女性の声で怪談話が朗読されている。

 

 ポルカ「(いい加減鬱陶しい……)」

 

 そっと端末の電源を切る。

 チュンチュンと鳥の鳴き声が聞こえてくる。窓の外から注ぎ込む光が朝日だと気がつき、ワタシは眉を顰める。

 

 ポルカ「なんでもう朝なんだよ。さっきまで夜だったじゃん……太陽なんて、登って来なけりゃいいのに」

 

 目を擦りながら、部屋の隅の衣装箪笥へと目をやる。狭い部屋に見合わない、巨大な漆黒の衣装箪笥だ。取っ手の辺りには、埃を被った紺の制服がかけられている。胸のあたりに施された赤糸の刺繍は、アステリア教育学校の紋章だ。

 制服の埃が減っていない事を確認し、ワタシは胸の中に溜まった熱い息を吐き出した。衣装箪笥の扉が開けば、埃が落ちる。埃が落ちれば、それはつまり人形兵が帰ってきたという証左だ。それが無いということは、調査は進展していないという事。残念である。

 

 ポルカ「アイツ、まだ帰ってきてないのかよ。こんなに時間がかかるなんて、アイツらしくないな」

 

 ふわぁと一つ欠伸をし、寝返りを打つ。

 瞳を閉じ、全身を弛緩させ……もう一度眠りに……

 

 男の声「……ルカ!」

 

 階下から聞こえてきた若い男の声に、ワタシはビクッと体を震わせた。閉じかけていた目が、今はパッチリと開いている。この声は……お父さんだ。

 

 ポルカ「やば、そういえば父さん帰ってきてたんだった!」

 男の声「……ルカ!! 早く起きて来ないと……こく」

 

 はーい、と返事をするや否や、私は凄まじい速さで起き上がると、ワードローブにかかった制服へと手を伸ばした。

 早くお父さんに会いたい。その思いで、ひたすら急ぐ。ぎこちない手つきで制服を身につけ、部屋の戸を開け、二段飛ばしで階段を降りる。

 

 ポルカ「おはよ、おとーさん!」

 

 食卓では、大きな鍋がもくもくと湯気を立てていた。

 キッチンには細身の男性の背中があった。灰色の髪に真っ赤な目、落ち着いた雰囲気。間違いなく、父……ネルド・コルベールだ。

 ワタシはボサボサの頭をフードで隠し、食卓に腰掛ける。久しぶりの父との食事だ、カッコ悪いところは見せたくない。

 

 ネルド「お、やっと起きたなポルカ。この寝坊助め」

 

 エプロン姿の父は、手に持ったお玉を掲げ、その髭もじゃの頬をにまりと緩めた。顔だけを見ると、傭兵というより山賊と言った方がしっくりくる。

 

 ポルカ「いや、ずっと起きてた。寝てないだけ」

 ネルド「そうだったか、それなら良かった……ん? いや、それはそれで問題があるんじゃないか?」

 ポルカ「き、気のせい気のせい! ほら、そんな事より、お父さんのスープ飲みたいなー、なんて」

 

 父の顔が、太陽のように明るくなった。ワタシは鍋から鍋から真っ黄色スープを掬うと、自分の席まで持ってくる。

 父は真面目な人だ。生活習慣が乱れてるなんて知られたら、必ず説教が待っている。ただでさえ父といられる時間は長くないのだ、貴重な時間を説教なんかに潰されたくない。

 スープからは、甘いカボチャの香りが漂ってくる。香りだけなら美味しそうだ。

 

 だが、侮ってはならない、ワタシの知る限り父の料理の腕は()()()である。

 かつて父の作った魚の塩焼きを食べた時は、あまりの塩っこさに数日味覚が消失した。他にも、胸焼けを誘発するショートケーキ、一口で昏倒するオートミール等の負の実績がある。

 どれも見栄えだけは良いから性質が悪い。

 ワタシが一人暮らしでも食に困らないのは、父の料理(こうげき)から身を守るために、調理のスキルを身につけたからだ。

 

 ネルド「腕によりをかけたよ。東部駐屯兵団の連中に作り方を教えてもらってね」

 ポルカ「う、うん」

 

 自分から言い出した手前、退くに退けない。

 期待に満ちた父の視線に押され、ワタシは恐る恐るスープを口元に運ぶ。舌先が、黄色のスープの端に触れた……

 

 ポルカ「!?」

 

 予想に反し滑らかな舌触りだ。僅かな期待を胸に、スープを舌の上に運ばせる。

 出汁を飲みつつ、具を奥歯ですり潰そうとし……そこで、ワタシはすっと目を閉じた。

 

 ダメだ、これは。

 

 スープの出汁は、いい。材料は普通のカボチャだ、ダメにする方が難しい。だが、問題はスープの具である。

 塊が大きいとか、そういう問題では無いのだ。異様に()()のだ。

 普通、調理したカボチャは噛み砕ける。スープでふやかしているなら尚更だ。だが、このスープ内の遺物は硬すぎる。奥歯が欠けそうな硬さだ。砂利のようなものが入ってやしないだろうか。

 食が止まってしまったワタシを、父は心配そうな顔で覗き込んでくる。

 

 ネルド「硬質エダマメを切って入れてみたんだ。野菜だし、消化にいいかなと思って。口に合わない、かな?」

 ポルカ「ううん、おいしい、よ」

 

 ワタシは肺の奥から、なんとか声を絞り出した。父は知らないかも知れないが、硬質エダマメは野菜ではなく鉱物である。エダマメのような形をした『』だ。

 自分で試食などはしてみなかったのだろうか。我が父ながら恐ろしい。

 ワタシは精一杯を笑顔を作り、スープをテーブルの上に置いた。スープの中には、無数の硬質エダマメが残っている。

 胃の中で荒れ狂うエダマメの流動を抑えつつ、私は埃まみれの鞄を手に取り、出口へと向かう。

 食卓から、父の心配そうな声が聞こえてくる。

 

 ネルド「今日くらいは休んでもいいだろう。昨日から寝れてないんだろう?」

 ポルカ「大丈夫! お父さんこそ、お仕事から帰ってきたばっかりでしょ。ワタシの事はいいから、ちゃんと休んでね」

 

 スカートの端をキュッと握りしめ、ワタシはドアノブに手をかける。

 本当なら、父と一緒にいたい。学校なんていい事なんか無いし、これっぽっちも行きたくない。

 だが、父を心配させるのはもっと嫌だ。

 それに、ワタシは立派な人にならなきゃいけないんだ。あの日、父とそう約束したから。

 

 ポルカ「それじゃ、行ってくる。休みだからって、昼間からお酒飲んじゃだめだよ」

 ネルド「分かってる。寄り道せずにまっすぐ帰るんだぞ」

 ポルカ「ひひ、どうしようかな〜。誰かさんの家に泊まってきちゃったりして」

 ネルド「なっ!? ダ、ダメだ!! まっすぐ帰ってきなさい!! これは、と、父さん命令だ!!」

 ポルカ「は〜い!! 日付が変わるまでには帰ってくるからさ」

 

 父の焦った声に背中を押され、ワタシは玄関の扉を押しあけた。瞬間、真夏の太陽が頭上から凄まじい勢いで照りつけて来る。光を通り越し、最早レーザー光線の領域だ。

 

 ポルカ「う、眩し……殺す気かよ」

 

 見慣れたはずの田舎道。

 麦畑を両端に、まっすぐ伸びる、学校への道。かつて通い慣れたはずの道。けれど今は、どうやって歩けばいいのかすらも危うい。

 

 ポルカ「がっこう、か。何日ぶりだろ」

 

 背には、安息の我が家がある。お父さんがいる。冒険だってできる。

 これから行く場所には、楽しさなんて無い。けれど、お父さんを安心させるためだ、久しぶりとはいえ、行ってみるしかない。

 鞄と服についた埃をはたき落とし、すうっと息を吸い込むと、湿った真夏の熱風が肺の中に飛び込んできた。

 

 ポルカ「(ワタシ、明日で18歳になるんだよ。約束、守ってよね、お父さん)」

 

 ワタシは心の中でそう呟き、探索の成果が一杯に詰まった重い鞄を背に、外界への一歩を踏み出した。

 




とりあえず、今書いている分がこれまでです。
世界観設定が混乱するかもしれませんが、混乱した場合は個チャくれれば、回答できる範囲で回答します。

一応、このアルソイルという世界は、アルステラ及びアルムーンの近似世界で、年代的には私達の暮らす現代に近いです。このアルソイルは、ガレリアの地下迷宮にあるスイッチの模様から着想を得ました(月と星、太陽の欠片が組み合わさり一つになっている紋章です)。
多分あの世界は三つ子世界で、そのうち一つがどこかにまだ存在しているのではと私は思っています。

次のお話は次の3つのうちどれがいいですか。

  • 【ルフラン編】 復活のドロニア様
  • 【魔女百編】 思い出のルッキーニィ
  • 【魔女百2編】 帰ってきた妹ラマン
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