ルフラン及びガレリアの地下迷宮と魔女ノ旅団と魔女と2体の百騎兵   作:TAMZET

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彼女の側には私の最も信頼する存在を置こう。
きっと彼女にとっても、いい友人となるはずだ。


このアトリエは心地よい。
一緒にぶどう酒を飲んだのが懐かしい。


第一章 第五話『ポルカの日常4』

 アステリア教育学校には、教室と呼ばれる部屋は2つしかない。12歳までの生徒が授業を受ける小学部。そして、それ以上の年齢の生徒が授業を受ける高等部だ。ワタシは、高等部の所属である。

 

 教室に着いた時には、時計の長針は10を指していた。ホームルームの開始まで残り20分と言ったところである。一眠りできるくらいの時間はありそうだ。生徒達のざわつきに耳を塞ぎ、一番奥の自分の席を目指す。席替えが行われていなければ、そこがワタシの席のはずだ。

 

 席の前には、真白い制服を身につけた背の低い紫髪の女生徒が座っていた。なるべく目を合わせないように横を通りすがったのだが、ワタシが席に座った瞬間、その生徒は椅子ごと後ろに振り向いた。

 

 生徒「ポルカさん、お久しぶり。ご機嫌いかが? 今日もいい朝ね!」

 

 妙に甲高い、お嬢様を拗らせたような声。耳を塞ぎたくなるが、残念ながらコイツのメガヘルツ級の声は両手のガードを貫通する。鬱陶しい事この上ない。恨みを込めて睨みつけてやるが、彼女は何事も無いかのようにそれを受け流す。

 

 ポルカ「はいはい、ごきげんごきげんフルネラさん。アンタのキンキン声が無ければもっといい朝になったと思う。それじゃ、おやすみ」

 フルネラ「相変わらずの毒舌ね。それでも、真の魔女見習いは挫けないわ」

 

 女生徒は、「フフン」と笑ってみせた。どうやら、ワタシの睡眠宣言には従わない姿勢のようだ。チビのくせに、いい度胸である。

 ワタシはため息と共に、その紫の瞳を見つめてやる。

 

 彼女はフルネラ。高等部の級長だ。大分発育が悪いのでワタシより年下に見られがちだが、こう見えてワタシの一年先輩である。

 成績優秀、品行方正、下級生への面倒見も良いという、理想の級長を絵に描いたような優等生だ。

 

 ただ、コイツと喋るのは嫌いじゃない。何故ならコイツには、およそ友達と呼べる人間がいないからだ。ボッチのシンパシーである。

 彼女に友人がいない理由は一つ、重度の魔女オタクだからだ。中世の魔女、近代の魔女、大戦前の魔女の全てを網羅する凄まじい情報庫である。それだけなら害は無いのだが、その話を皆に話して回るから(たち)が悪い。彼女が制服を真白に染め上げているのも、憧れの【白雷の魔女】に似せるためなのだそうだ。

 

 正直、コイツの魔女話に付き合わされる奴には同情する。この現代において、魔法は魔女の手を離れ現代人の手に渡っている。そんな古臭い存在の話をされても、困るだけだろう。

 

 フルネラは、椅子の頭から身を乗り出し、じっとワタシの顔を覗き込んできた。何だと言うのだ。顔に何かついているのだろうか。

 

 フルネラ「何かいい事でもあったの?」

 

 フルネラはにまりと頬を緩めてみせた。デフォルトの表情がドヤ顔のコイツにしては珍しい表情である。何か心を読まれているような気がしたワタシは、ポーカーフェイスを作り心をガードする。

 

 ポルカ「何でそう思うし」

 フルネラ「だってあなた、そうでもないと学校なんて来ないでしょう?」

 ポルカ「ぐっ……」

 

 図星だ。

 流石は級長、並外れた洞察力である。

 フルネラは自信満々と言った調子で続ける。

 

 フルネラ「あなたが教室に入ってきたのがHR前。という事は大分凄いことね。さしずめ、お父様でも帰ってらしたって所かしら。そして、家にいるとお父様が心配してしまうと思ったから、お父様を安心させてあげるために学校に来た。当たり?」

 ポルカ「エスパーかよ……」

 フルネラ「伊達に6年も委員長やっていないわ。そうでなくとも、長い付き合いだもの」

 

 フルネラは、何やら生暖かい目で見つめてくる。どう思われているか想像はつくが、お前はワタシの保護者ではないぞ。

 とはいえ、抗議するのも面倒くさい。ワタシは机の上に突っ伏し、目を閉じようとする。フルネラはそれに構わず、ワタシに話しかけてくる。

 

 フルネラ「そういえば、あの噂、ご存知?」

 ポルカ「あぁ、ゴズ先生がロバと○×%#してたって奴? 驚かないってそんなん。やってそうだもんね」

 フルネラ「セッ!?」

 

 フルネラの小さな顔がボッと真っ赤に染まった。ワタシは若干顔を上げ、その表情を目に焼き付ける。コイツはこういう話題に弱い。揶揄ってやると、非常に面白い反応を見せてくれる。

 彼女はしばらく何やら口の中でモゴモゴ呟いていたが、やがてワタシを指差し、甲高い声で叫び出した。

 

 フルネラ「ふ、風紀違反よっ!! あなた時々表現のえげつなさが過ぎるわ!! 時代が時代なら縛り首よっ!!」

 ポルカ「へいへい。ヒヒ……」

 フルネラ「何笑ってるのよっ! と、ともかく、そう言う類のお話じゃないの!! 噂というのは、ズバリ、ガレリアトウに出るカイトウの事よ」

 ポルカ「ガレリアトウ?」

 

 聞き覚えのない単語だ。ガレリア塔……そんな塔、このアステリア村にあっただろうか。頭の中に村の全体地図を思い浮かべたところで、ワタシはその単語についての知識を思い出した。

 ガレリア塔ではない、旧校舎のガレリア棟だ。

 

 このアステリア教育学校には、二つの校舎がある。

 一つは、私達のいる新校舎。もう一つは、新校舎の裏にある巨大な石造りの旧校舎……それが、通称ガレリア棟だ。

 曰く、このアステリア村は、昔はガレリアとかいう貴族の荘園だったらしい。そのガレリアが行方不明となった後、その住居を学校として改造したのだとか。だが、私が生まれた頃、旧校舎に幽霊が出るという噂が流れ始め、事態を重く見た学校は新しい校舎を作ったのだという。

 なぜそんな予算があったのか、生徒が十数人しかいない学校のために何故新校舎が建てられたのか……それは、このアステリア教育学校の七不思議の一つである。禁止された旧校舎は、わんぱくな生徒達の格好の遊び場となった。ワタシもよく、壁の人物画に鼻毛を描き足したものである。

 

 ポルカ「なつかし……初等生の頃は、先生にバレないように忍びこみまくったなぁ……で、なんだって、カイトウ?」

 フルネラ「そう。カイトウよ」

 

 これまた、聞き覚えのない単語だ。

 カイトウ……解凍……解答? 

 ダメだ、頭の中で文字が変換できない。

 

 ポルカ「カイトウって、テスト中に盗み見るヤツ?」

 フルネラ「ええ。どんなテストもバッチリ100点……って違うわよ!! というかそれ、模範解答じゃなくてカンニングペーパーじゃない!! そうじゃなくて、泥棒の方のカイトウ!!」

 

 泥棒の方……そう聞いて、やっと頭の中にイメージが浮かんだ。カイトウって、怪盗の事か。

 なんとまぁ古風な言葉を使うのだろう。魔女と同じく、現代では絶滅した存在だ。魔女の住処がファンタジー小説なら、怪盗の住処は推理小説の中である。そんなものこの時代にいるわけ無いだろうと心の中で馬鹿にしつつ、ワタシはフルネラの言葉に耳を傾ける。

 ウワサ自体は興味あるし。

 

 フルネラ「噂によると、怪盗は美麗な殿方と聞いているわ。淡麗な容姿にすらりと長いお御脚。瞳はガーネットのように透き通り、そのお姿はまるで舞踏会に現れる王子様らしいわ!! 」

 ポルカ「へぇ。男なんだ」

 フルネラ「反応薄くないかしら!? 私の説明の情報量9割型蒸発してるじゃない!!」

 ポルカ「ごめん、昨日完徹しててさ。で、その王子様怪盗ポワトリマンがなんだって?」

 

 フルネラはそこで、デフォルトのドヤ顔をやめ、真顔になった。妙に真剣な面持ちに、ワタシも頑張って意識を保つ。フルネラは少し声のトーンを落とし、囁くようにこう言った。

 

 フルネラ「……それが、実は怪盗の正体は魔女らしいの」

 ポルカ「はぁ?」

 

 ワタシは呆れずにはいられなかった。魔女の怪盗など、聞いた事がない。というか、そんなものがいてたまるか。

 フルネラはそんなワタシの考えに構わず、興奮した調子で続ける。

 

 ポルカ「怪盗で王子様で、おまけに魔女? 流石に属性盛りすぎでしょ。てか、怪盗や王子様はともかく、魔女はないでしょ魔女は」

 フルネラ「いいえ、全然アリよ。昔は、魔女の力を使って盗みを働いていた魔女もいたんだから」

 ポルカ「へぇ、そうなんだ。でも、なんで魔女なの? てか、何でウチに来るの? ウチ、別にお宝とか無いけど」

 フルネラ「ビスマン校長が集めてる変なコレクションがあるでしょ?きっと狙いはそれよ」

 ポルカ「なるほど。でも、盗んだのが魔女かってのは、どうやってわかったし」

 

 フルネラは、よくぞきいてくれましたとばかりに、胸をそり返らせる。どこまで主張しても、そこにはまっ(たい)らな絶壁しか無いぞ。

 

 フルネラ「犯行は1週間と3日前。ガレリア棟から、ビスマン校長の集めてる奇品が盗まれたのよ。犯行現場からはエリクシール残滓が検出された。それもごく最近ね。化学科のペトローネ先生が見つけたんだって」

 

 エリクシール残滓……その単語に、寝ぼけかけていたワタシの頭が覚醒する。一般人には聞き覚えのない言葉だろう。隠語の類を趣味で調べているワタシで、ギリギリ理解できる単語。

 

 ポルカ「クスリ使ってる奴がいるって事?」

 

 エリクシール残滓とは、薬物使用の隠語である。

 エリクシールは昔魔女が用いた不老不死の秘薬の名前で、今は「クスリ」を意味する。その残滓なわけだから、「使用痕跡」と言う意味だ。

 だが、それと怪盗になんの関係があるのだろう。興味津々で身を乗り出すワタシに、フルネラはあっさり首を振った。

 

 フルネラ「クスリ? 違うわ。私が言ってるのは、本物のエリクシールの話よ」

 ポルカ「本物? 本物って、魔女が使ってた不老不死の秘薬って事?」

 フルネラ「その通り。アレの使用者が通った後には、特有の痕跡が残るらしいの。それが、ガレリア棟で検出された……でも、おかしいわよね。エリクシールの作り方を知ってる魔女は、100年も前に全滅したはず」

 

 フルネラはニヤリと笑った。目を細め、小さな犬歯を覗かせて……その表情は、さながら、本物の魔女のようだ。

 

 フルネラ「魔女しか製法をしらないエリクシールの残滓を残していった、奇品盗みの怪盗。だから、怪盗であり魔女なの」

 

 フルネラはそう締めくくった。そしてワタシはそのまま机に突っ伏した。彼女には申し訳ないが、眠気が限界に来ていたのだ。

 

 フルネラ「はぁ!? 人に聞いておいて何よその態度!!」

 

 耳元で、フルネラのキンキン声がこだまする。うぅ、うるさい。ワタシは頭を高速で上昇させる事により、フルネラの顎を攻撃した。痛みに悶えるフルネラに、ビシッと指を突きつけて宣告する。

 

 ポルカ「それ全部アンタの妄想でしょ。もしくは故意に噂を誇大解釈してるか。悪いけど、今眠いからそんなのに付き合ってる暇ないの」

 

 フルネラは顎を抑えまだ悶えている。追撃をするなら今がチャンスだ。なんだか扉が開いたような音がして、先生の声が聞こえたような気もするが、些細な問題である。

 

 ポルカ「アンタ、前にこの国の王様に魔女がいたとかそんな事言ってたじゃん。アレでもうダメだった。そもそも魔女なんてふるくさ……」

 フルネラ「そこまでよっ!」

 

 復活したフルネラが、その小さな頭を突き出してきた。顔面を狙ったのだろうが、背が足りなかったのか、その一撃は急所を外れ、ワタシの胸に吸収された。フルネラは乱れた前髪を整えると、ワタシをキッと睨み据えた。

 

 フルネラ「アルソイルの統治者が魔女だったのは事実よ! そのくらいはご存知かと思ったけど?」

 ポルカ「は? 本気で言ってるそれ?」

 フルネラ「本気に決まってるじゃない。アナタ、歴史の教科書くらいお読みになったら?」

 ポルカ「は? 空想魔術読本の間違いじゃなくて?」

 フルネラ「史実よっ!! 今から歴史の教科書でも出しましょうか!? ほら、この23ページの所! 【戯曲の魔女】ジルルダ統制卿のお写真が載っているじゃない」

 ポルカ「アンタこそよく見てみなよ。魔女と『推測される』って書かれてるでしょ。コイツが本当に魔女だったかなんて分からないし」

 フルネラ「何よっ!多少発育がいいだけのくせに、調子乗るんじゃ無いわよ!」

 《font:357》ポルカ「やるのか!?紫白チビ魔女オタク!」

 フルネラ「何ですって!この万年引きこもり不登校革命児!」

 ポルカ「古代ロマンオカルトマニア魔女スキー!」

 ポルカ&フルネラ「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ!!」

 

 互いに互い頭突きし合わんばかりの勢いでいがみ合うワタシ達は、直後、怒りに震えるペトローネ先生の拳骨により、沈静化させられた。

 

 今、黒板の前で先生が朝の挨拶をしている。

 ワタシは机に突っ伏して、それを聞き流す。考えているのは、魔女の事だ。フルネラの妄言はさておくとして、怪盗の噂は気になる。

 それに、ワタシが朝に口走った、魔女という言葉。魔女が関係しているにしろ、していないにしろ、このアルソイルで、何かが起きようとしているのだろうか。

 とはいえ、それはきっとワタシには関係のない事だ。それより、今はこの眠気をどうにかしたい。目が覚めたら、学校が終わっていればいいのに。そんな事を考えながら、ワタシの意識は闇へと落ちていった。




フルネラちゃんが出てきました。彼女はこの世界ではポルカのクラスメイトであり、魔女ではなくただの人間として生活しています。
彼女の魔女好きは、現代で言うオカルト心霊マニアのようなもので、このアルソイルではかなり異質な存在です。同じように自分を異質と感じているポルカとは、気が合うようですね。
次回から、いよいよ物語が動き始めます。あらすじでネタバレしていますが、少し辛い流れになるので覚悟しておいて下さい。

次のお話は次の3つのうちどれがいいですか。

  • 【ルフラン編】 復活のドロニア様
  • 【魔女百編】 思い出のルッキーニィ
  • 【魔女百2編】 帰ってきた妹ラマン
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