ルフラン及びガレリアの地下迷宮と魔女ノ旅団と魔女と2体の百騎兵 作:TAMZET
人形兵は魂を鍛える毎に強くなる。
コーレイトウさんが教えてくれた事。
⌘
ナチの側には、一番強い人形を置こう。
ナチを守ってくれる、とっても強い人形を。
机を挟んで向かい合う、ヒルデブランドとマルク。
シュート、ガチンコ、セメント……命をかけた一対一の真剣勝負だ。
ワタシ?ワタシはマルクの後ろに隠れてるだけだからノーカウント。そもそも、王国の精鋭部隊に普通の女子高生は勝てない。勝てないなら、邪魔にならない位置にいるのが一番だ。
初めて会った時と同じ……ヒルデブランドからは、刺し貫かんばかりの殺気を感じる。少しでも動いたら、瞬殺されそうだ。こんなものに今まで心を許していたのかと思うと、ゾッとする。
マルク「ポルカ……下がってろよ。コイツ、並じゃない」
ポルカ「わ、分かった。ごめんマルク……」
マルク「謝るなよ。俺はお前の騎士。お前のどんなワガママも、叶えてやるのが俺の仕事だっ!」
言うや否や、木製の卓を蹴り上げ、マルクが突撃した。
卓上の食器が宙を舞い、ヒルデブランドの身体に打ち付けられる。彼女は瞬き一つせず、それらを受けた。ただ一つ彼女が見ていたのは、投擲物に紛れ繰り出されたマルクの突き出す槍の先端である。
ヒルデ「机を蹴り上げ、投擲物で視界を奪ってから本命の槍で攻撃……遅れておりますね、田舎の喧嘩は!」
穂先を右腕で絡めとり、ヒルデブランドはマルクとの距離を詰めた。胸と装甲が激突しそうな距離。槍や剣よりも遥かに短い、拳闘ですら撃ち合いには向かない間合いである。
マルクは距離を取ろうとするが、それを自制した……何故?
その理由はすぐに分かった。彼の背中にワタシがいるからだ。これ以上退けば、ヒルデブランドの攻撃がワタシに当たってしまう。ワタシは、この戦いではマルクの足枷にしかならないのだ。
彼女の視界に入らないよう、ワタシは二階へと続く階段へと駆ける。
ポルカ「ごめんマルク! ワタシ、隠れてるからっ!」
マルク「馬鹿ッ! 下手に動くなッ!」
瞬間、ヒルデブランドの右腕が霊光を放った。真っ赤な閃光が腕から
ポルカ「がふっ……」
まるで何十キロもある鉄球を思い切りお腹にぶち当てられたかのような衝撃に、ワタシはたまらずその場に倒れ伏せた。身体の中の臓器がみんなびっくりしてしまったのか、息ができず、吐き気が止まらない。
頭がキーンとする。すぐ近くで聞こえるはずの激音が、とても遠くから聞こえる気がする。
ぼやけた視界の中で、マルクとヒルデブランドが刃を交えている。ヒルデブランドはマルクの槍を巧みに避けながら、とにかく距離を詰めようと前へ出る。マルクはそれをさせじと、背後や左右に飛び回りながら槍を突き出す。絡み合う魔撃と突撃。
鉄華火花散る、轟轟たる激戦である。
両者の攻防は、拮抗していた。
ヒルデ「この戦い……あなた、ただの人形兵ではありませんね。憑依か……はたまた、核となる魂が異質なのか」
マルク「何をブツブツと言っている! そんなに俺の正体が知りたいのか!」
ヒルデ「ええ、ぜひ。もしかすると、本当に危険なのはあなたなのかもしれないのだから!」
マルク「そう言ってもらえるなら、光栄だ!」
ヒルデブランドの掌底とマルクの槍による突撃が、勢いを以って激突した。両者の攻撃は互角……攻撃同士のぶつかり合いは衝撃波を生み、家のあちこちを破壊した。
ヒルデは距離を取ると、ふっと息を吐いた。ここまで激しい戦闘が繰り広げられていたと言うのに、全く息が乱れていない。隙のない彼女の構えに、マルクの額を汗が伝う。
彼の息は乱れていた。敵の技量もそうだが、重装を身につけたまま戦う事はスタミナの消費につながるのだ。重装と不退転……二つのハンデを抱えながら戦う彼は、あらゆる意味で不利であった。
すうっと、深く息を吸い込み、マルクは立ち上がった。何かを決意したかのような、ずあっとした佇まい。
頼もしさと同時に、妙な予感が頭をよぎる。
彼を呼び止めようとするワタシの言葉に被せ、彼は信じられない事を口走った。
マルク「もし俺が負けたら、速攻で上まで逃げて、
ポルカ「マ、マルク……何言ってるの?」
それはつまり、見捨てろという事であった。何年も共に過ごしてきた家族を、見捨てろとコイツは言っているのだ。
聞けるわけがない。
ワタシは首を振る。家族を失うのなんて、絶対に嫌だ。
マルクは槍の肢で壁をドンと叩いた。喝にも似た衝撃に心の臓の裏を叩かれ、ワタシは身体を硬直させた。
マルク「良いから聞け! 俺は人形だ。お前が生きてればいつかは生き返れる。だが、お前が死んだ瞬間俺は一瞬でアウトだ。製作者がいなくなるんだからな!」
ポルカ「でも……」
マルク「デモもストも無い!」
マルクの大きな背中が、大きくなった気がした。
まるで、お父さんみたいに。
ワタシは、ゆっくりと頷く。ヒルデブランドの紅の瞳を睨みつけながら。
マルク「何があったか知らないけどよ。ネルドさん助けられんのは、お前だけだろ」
ワタシは大きく息を吸い込むと、階上へ向けてダッシュした。
後ろは振り返らなかった。
途中何度も階段から足を踏み外し、膝を、脛を打ちつけた。擦りむけた足裏がもう走りたくないと訴えてくる。もう頑張りたくない、助けて欲しいと。
けれど、そういう訳にはいかない。父が育ててくれて、マルクが繋いでくれた。ワタシは、父を助けなければならない。
階下から、2人の声がする。
マルク「これで、終わりにするか」
ヒルデ「そうでございますね。終わらせて差し上げます」
ワタシはやっとの事で自分の部屋の扉にたどり着いた。戸を開けると、なんて事はない、いつもの部屋が広がっている。
だが、落ち着いている暇はない。マルクが守ってくれている間に、早くワードローブに飛び込まなければ! ワタシは衣装箪笥の扉へと手をかけた。扉の奥には、無限の星々が広がっている。さながら、子供が書いた宇宙のような。
マルク「ポルカ、何してる!」
ポルカ「え……」
ワタシはワードローブの中へと飛び込みヒルデブランドの胸元へと飛び込み……目の前には、歓喜に満ちたヒルデブランドの表情があった。
絶望が、心を貫く。何故、ここに戻ってきてしまったのだろう。理由は簡単、催眠術だ。どこでかけられたかは分からないが、かけられた術により、ここに戻ってきてしまったのだ。
ポルカ「う……そ………………?」
ヒルデブランドの右手が真っ赤に染まる。直接触れていないのに、空気が振動しているのがわかる。それほどの魔力という事だ。
そのまま叩きつけられれば、鍛えてもいない17歳の学生の身体がどうなるか、容易に想像できる。
マルク「ポルカッ!」
後ろで鎧の音がした。マルクが助けようとしてくれているのだろう。だが、間に合わない。ヒルデブランドの右手がワタシの喉元へと伸びる。
ワタシは目を閉じた。
自分を待っている死という運命に立ち向かうのが怖かったのだ。
喉元に、魔力の振動が降りかかり、喉骨に痛みが走った……その瞬間!
男の声「そこまでだっ!」
一陣の風が頬を撫でつけたかと思うと、ワタシの喉にかかっていた魔力の振動がたちまち消えて失せた。
恐る恐る目を開ける……そこには、赤眼をカッと見開き右腕を押さえるヒルデブランドと、革の鎧に身を包んだ騎士の姿があった。
眼尖鋭く、仁王立ちにサーベルを抜き放った騎士……父の姿だった。
鬼神の如き眼光である。先程のヒルデブランドさんの殺意とはまた違う、物理的な熱を感じさせる気迫であった。
こんな父は見た事がない。
ネルド「ヒルデブランドさん。お久しぶりですね」
父は爆発するような気迫を纏い、ヒルデブランドの元へと歩み寄る。一歩、一歩と近づくたびに、彼女は血の滴る右腕を抑え後ずさる。
ヒルデ「ふふ……ご無沙汰しておりましたわ……公王の剣さん……いえ、忘れ形見かしら」
ネルド「あなたが公王の法に忠実に動く限り、私は逆らうつもりはありません。ですが、ポルカに手を出したら、命の保証はしませんよ」
ヒルデ「ふふ、分かりました。肝に銘じておきますわ……」
瞬間、ヒルデブランドの目がキラリと光った。思えば、あの目を見てからワタシはヒルデさんの事が優しいと錯覚し始めた。
だとすると、催眠術のキーはあの目だ!
ヒルデさんの目は真っ直ぐに父を見据えている。何か意思を持った、強い視線だ。父がガクッと膝をつく。ヒルデさんの口元がにやぁりと、妖艶に歪む。催眠術にかかってしまったのだろうか。
ポルカ「お父さ……」
瞬間、父の身体が揺らいだ。小説で良く読むような、残像のように身体が消える現象、それが目の前で起こったのだ。一陣の旋風が家の中に吹き荒れ、ワタシはマルクの所まで吹き飛ばされた。
父の方を見やると、剣を振り切った格好で止まっていた。
ヒルデ「ぎ……ぎいいいいいっ!!!」
ヒルデブランドは左手で両眼を抑え、絶叫を放っている。痛みのせいか、腰をかがめ、後ずさってゆく。指の隙間からは、ドクドクと血が溢れ出し、止まらないようであった。
ワタシは、何があったかを直感した。父の剣撃が、彼女の両眼を切り裂いたのだ。グロテスクな光景である。もう催眠術は使えない。可哀想だが、もう父相手に勝ち目は無いだろう。
彼女は後退りしながら、何やら腰のあたりを弄っている。父は追撃をする事はせず、ただその姿を冷たい目で見下ろすだけだ。
ヒルデ「こ、後悔しますよ……傀儡の王に……逆らう、など……」
ネルド「後悔なら後でします。私は公王陛下より、ポルカを守るよう命を受けています……その命令は、私の命を守る事より大事なのです」
ヒルデ「なるほど……あなた……らしい……」
ヒルデブランドは懐から何かを取り出した。石膏のような艶をした、平たい物質。アレは、仮面だろうか。昼間の怪盗が身につけていたオペラマスクによく似ている。
父が再び、腰を低く、剣を自身の頭の横に構えた。脚のバネを使い、手持ちの剣で突き刺すつもりだ。
ヒルデ「……残念です…………」
父は脚のバネを解放し、爆発的な勢いでヒルデブランドへと突撃した。それと同時に、ヒルデは仮面を地面に叩きつけた。仮面の破片が地にめり込み、地面が湖の水面のように波立つ。それは、一瞬の出来事であった。
彼女の足が波紋の地面に吸い込まれた一瞬の後、父の剣劇が空を裂いた。
ネルド「………………」
父はしばらくヒルデの消えた家の床を見つめていた。その瞳の中に、どんな感情があったのかは分からない。
やがて、剣についた血が床にシミを作り出した頃……父はふぅと息を吐き、ワタシの方に振り向いた。
血に塗れ、
ポルカ「お、とうさん?」
ネルド「あぁ。ポルカ、おかえり」
ポルカ「た、ただいま」
父は、マルクが吹き飛ばしたテーブルをよいしょっと声を上げて持ち上げ、元に戻した。所々破壊された椅子を立て、まるで何事もなかったかのようにそこに座った。
多少雑多ではあったが、そこにはいつもの食卓が戻っていた。
ネルド「学校はどうしたんだい?」
学校の事を聞かれ、ワタシはドキッとする。時計の針は14:10を指している。本当なら、今帰りのHRが終わったくらいの時間だ。
ワタシは慌てて、早口で捲し立てる。
ポルカ「あ、学校は……体調不良で帰ってきた。なんか、気持ち悪くなって、吐いちゃって……ごめんなさい」
ネルド「そうだったのか。いや、父さんこそすまない!! そうと知っていれば、迎えに行ったんだが」
ポルカ「あ、いや、友達に送ってってもらったから大丈夫。ワタシ、友達沢山いるし、みんなが助けてくれたから」
父が戦い以外のことについては鈍感で助かった。ワタシは胸を撫で下ろす。なおも申し訳なさそうな表情の父を安心させるべく、えへへと笑ってみせる。ユリィカがよくやる仕草だが、ワタシがやると嘘っぽく見えてしまうのはどうしてだろう。
マルク「へぇ、お前友達いたんだ」
ツッコミを入れてきたマルクの頭を思いっきり引っ叩き、父に向き直る。友達関係でまで父の手を煩わせたくない。ワタシはまた笑顔を作り直し、身振り手振りで取り繕う。
ポルカ「あ、当たり前、じゃん。クラスじゃ、委員長の悩み相談とかもしてるんだから」
ネルド「そ、そうか」
父さんの返しはぎこちない。当然と言えば当然だ。あんな激戦の後である、まだ興奮が抜けきっていないのだろう。ワタシだって、今も身体が宙に浮いているような気分だ。足元が落ち着かない。
ネルド「……部屋も汚れちゃったな。ヒルデブランドさんは腕利きの魔法使いなんだ。2人とも、よく頑張った……大変だったろう。父さんが片付けておくから、ポルカはもう休んでいなさい」
ポルカ「でも……」
そう言いかけて、ワタシの視界がぐらりと揺れた。身体を支えていた緊張の糸がついに切れたのだ。
思えば、ゴズから解放されてから、無理な体調でずっと何かしていたわけである。貧弱なワタシにとっては明らかな超過労働だ。
ここは、父の好意に甘えよう。
ポルカ「うん。そうする。ごめんね……お父さんだって仕事で疲れてるのに、心配かけちゃって」
ネルド「父さんの事はいい。夕方少し出かけるけど、今日は家にいられるようにするから」
ポルカ「うん……」
今日は、その言葉に引っかかりを覚えずにはいられなかった。
早く休みたいと願う身体と、言ってはダメだと叫ぶ心がぶつかり合い、その場から動けない。
ネルド「マルクも、ポルカの事見てくれて、ありがとうな」
マルク「お安い御用ですよ。色々無茶振りされて大変ですけど、まぁ、何とかやってます」
ネルド「無茶振り?」
マルクの口ぶりに、ワタシの脳内の危険センサーがアラートを鳴らす。
まずい。
ワタシは日頃コイツにありとあらゆる雑用を任せている。掃除洗濯に風呂焚き、迷宮の探索に料理……例を挙げるとキリがない。それバラされたら、父との約束が果たせなくなってしまう。
コイツを喋らせてはならない!
ワタシは近くにあったハエ叩きを振りかぶると、思い切りマルクの頭に叩きつけた。
マルク「に"っ!?」
マルクの喉から変な声が漏れる。
彼の声が止まったのを確認し、ワタシはマルクと父の間に割って入った。普段の猫背をしゃんと伸ばし、マルクの長身を隠す。
ポルカ「た、大した事じゃないから!! ね、マルク」
ワタシはマルクのグリーブの先を踏みつけ、暗に余計な事は喋るなと伝える。だが、考えてみれば靴下で踏みつけているわけで、それは何の脅しにもならない。
マルクは「いや、だいぶ酷いっすよ」と軽口を叩き続ける。
マルク「飯炊きから掃除から宿題代行まで、起きてる時は基本何かやらされてますね。後最近は……」
ポルカ「勝手に喋んなこのっ!!」
ワタシはジャンプすると、マルクの顔面に裏拳を叩き込もうと身体を捻った。
だが、悲しいかな、ワタシの足りない運動神経と身長では、彼の肩口付近まで飛び上がるのが精一杯だ。ワタシの手は彼の胸元の鎧……ちょうど鎧で一番硬い部分に激突し、ガウンと音を当てた。
ポルカ「ぁ、ぅ」
激痛が右手を襲う。マルクの馬鹿にしたような表情が無性に腹立ったので、ワタシは奴の腹に頭突きをかましてやった。
マルクは呻き声をあげて後退する。たとえ鎧を着ていると言えど、50kg以上ある体重の物体が激突すると痛いのである。
その後、小一時間の説教を受け、ワタシは解放された。
ワタシは無事だった皿を洗剤で洗っている。レモン果汁の泡が手の切り傷に染み込んで痛い。ワタシの横では、マルクが皿の選別をしている。そのまま手を切って仕舞えばいいのにと思うが、小手をしているのでそれは叶わないだろう。残念だ。
ポルカ「よかった。お父さん、何ともなさそうで」
自分に言い聞かせるように、ワタシは呟く。マルクは答えない。返すべき答えは既にワタシの中にあるとでも言いたげだ。
ポルカ「ワタシ、馬鹿だ。あんなヤツの言う事なんか信じちゃって。死刑なんて、あるわけないんだし」
ワタシは、無理に笑ってみせる。自分を信用させるために、目の前の現実から逃げるために。いつものように、妄想の中へ。
マルク「聞いとかなくて良いのかよ」
ポルカ「え?」
マルクが、いつになく真剣な顔をしている。コイツらしくない、真面目な表情。泡だらけの皿を奪い取り、マルクはその巨体でワタシを台所から押しのけた。
ポルカ「ちょっと!」
マルク「今聞いとかねぇと、後悔すんぞ」
ポルカ「あ……ぅ、ん」
ワタシは手を
父は、部屋にいた。
何やら、手紙を書いているようだったが、ワタシの存在に気がつくと父はその手紙をすっと机の下の引き出しに隠した。
何を書いていたのかは想像がつく。あえて突っ込む事はしたくない。
ポルカ「お父さん。あの、聞きたい事、ある、んだけど」
ネルド「何だい?」
ポルカ「その、何か、まずい、事」
ネルド「まずい?」
ポルカ「その、捕まったり、連れてかれたり」
ネルド「捕まって、連れていかれる?」
ポルカ「その、うぅ……公王様の、馬車、を」
ネルド「馬車?」
心臓が、限界まで拍動している。息がうまくできない。腕と足の感覚が無い。喉がつっかえて、うまく言えないのがもどかしい。ワタシはすうっと大きく息を吸い込むと、ゆっくり、ゆっくりと吐き出した。
緊張で凍りついた指先が解れてゆく。
ワタシは一言一句を噛み締めるように、脳内に用意した言葉を読みあげた。
ポルカ「お父さんが、公王様の馬車を、邪魔して。それで、ふ、不敬罪で、処刑されるって、本当なの?」
ネルド「父さんがかい?」
父は、まさかとばかりに笑い飛ばした。わざとらしくない、自然な仕草だった。だが、その目が僅かに泳いだのを、ワタシは見逃さなかった。
父は、嘘がつけない。
ポルカ「本当の事を教えて!! お父さんのためなら、ワタシ何でもするから!! だから……」
父の胸に飛び込み、ワタシは涙混じりにそう訴えた。父は何やら言おうとしていたようだったが、やがて諦めたようにため息をついた。
そのため息だけで、全てが分かってしまった。
ネルド「ポルカ」
ポルカ「……」
ネルド「……大丈夫。ポルカが、心配する事じゃない」
ポルカ「それって、どういう事? 大丈夫って事?」
父はワタシの肩を持つと、ぎゅっと抱きしめてくれた。子供の頃、してくれた時のように。ゴツゴツとした筋肉だらけの身体……お気に入りのレモンシャンプーの香り……何年ぶりだろう。
これが、最後のだっこになってしまうかもしれない。そんな事を考えながら、ワタシはその暖かさに甘えた。
父はしばらくそうしていたが、やがてワタシを解放し、真正面から向き合った。ワタシと同じ真っ赤な目に、囚われた。
父が、口を開いた。
ネルド「本当だよ。お父さんが、馬車の前を横切ったんだ。その日は疲れていてね、その馬車に公王様が乗っている事にも気がつかなかった」
ワタシは、胸を襲う訳の分からない痛みを、必死に堪えた。肺と喉と手と足と頭が、いっぺんに爆発しそうなのを必死に堪えた。
予想できた答えだった。
でも、父の口からそれが語られるのは辛かった。俯いたままのワタシの頭を、大きな手がポンポンと撫ぜる。
ネルド「明日、公王様に会ってくる」
ポルカ「ダメ……不敬罪は……極刑だって、先生が……」
ネルド「大丈夫。こう見えて父さんは元王国騎士なんだ。昔功績を上げて、公王様にだって顔が効くんだぞ! きっと大丈夫さ」
父は笑っている。ワタシも笑いたかった。父の言葉が嘘であると思い当たらないくらいに、愚かでありたかった。
父の笑顔がまともに見れない。最後になってしまうかもしれないのに、目に焼き付けておかなければいけないのに。
ネルド「だから、ポルカが心配する事は何も無いんだよ。父さんがいない間も、しっかり学校に行って、勉強するんだよ」
ポルカ「お父さん……」
気がつくと、父はワタシの目の前から消えていた。
窓からは、夏の熱風が流れ込んでくる。雲は晴れ、山の端にかかる夕焼けが空っぽの部屋をオレンジに染めていた。
ふと、家のチャイムが鳴った。
ポルカ「誰だろう?」
おぼつかない足取りで、階段を降りる。
そこに立っていたのは、ユリィカだった。
手には、汚れた二足の革靴があった。ワタシのために持ってきてくれたのだろうか。ワタシは彼女からそれらを受け取ると、扉に手をかけた。彼女は不思議そうな表情でワタシの顔を覗き込んでくる。
いつも可笑しな事をやっているコイツだが、こういう顔をしている時は、何を考えているのか本当に分からない。
ユリィカ「ナチ?」
ポルカ「ユリィカ……ありがとね」
今出せる精一杯の声を絞り出し、ワタシは玄関の戸を閉めた。視界には、空っぽの我が家が広がっている。
手元には、履き慣れた革靴があった。
そういえば今日投稿の日でしたねと思い出して投稿しています。
ルフラン編の台詞書いてるんですけど全然進みません。ネルドちゃんが動いてくれません。たすけて
一応、ヒルデブランドの能力は完全に妄想です。
このガレリア編は特に、妄想補完しまくってる部分が多いです。
次のお話は次の3つのうちどれがいいですか。
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