よろしくお願い致します。
「ふぁ~~~」
大きいあくびを出しながら道を歩く。今日から高校生、しっかりと気を引き締めなければいけないが、あいにく自分はそんな性格ではない。自由に行動するさ。
「………ん?」
通学路、道路を挟んで向こう側。ふと目を向けていたらなにやら騒がしそうだ。私は歩道橋を渡り、何が起きているかを確認することにした。
「……登校初日からカツアゲかよ……」
目の前ではガタイのいい男三人と、体が細い、見るからに三人よりも弱そうな男が土下座をしていた。
「すみません!!!これで勘弁して下さい!!!」
「…チッ、しらけた。行くぞ。」
金を巻き上げたのか、男たちは去っていった。周りの人たちは関わり合いになりたくないのか、目線を合わせずに足早に去っていった。男は土下座から立ち上がると近くのおばあちゃんに少し話をしてその場を去っていった。
「へぇ……あいつ、ロックじゃん。」
「はぁ……」
学校初日からやってしまった。朝から不良に絡まれたせいで、クラスメイトからは巻き込まれたくない、という念が伝わるように自分に誰も関わらなかった。自分の性分とはいえ、損な性格であることは自覚している。
「よぉ。小野、だよな?」
声をかけられ顔をあげる。目の前にいたのはつり目が特徴的なハスキーボイスの美人の女子だった。今までろくに女子に、それもこんなに美人に話しかけられたことはなかったため、上げた顔が途中で止まった。
「朝のやつ見たぜ。」
……この人もか。僕が土下座した姿をからかって………
「お前、ロックな奴だな!」
「…………は?」
「朝のやつ、おばあさんを助けたんだろ?」
「え……!なんで、それを………」
そう、朝の出来事、不良に絡まれていたのは僕ではなく、おばあちゃんだった。登校中前を歩いていたおばあちゃんが不良とぶつかってしまい、難癖をつけられているところを目撃してしまった。……僕は、昔から困っている人を放っておけなかった。不良達がおばあちゃんに手をあげる前に、僕はその間に割り込んだ。土下座で。
そう、土下座で。殴られるくらいなら僕の頭なんて安いもんだ。それにあの場は学校の通学路、見ている生徒はたくさんいた。その場で土下座している人を殴ることはない、と思っていて欲しい!!!その思いが伝わったか、不良はその場を去っていった。殴られずに済んだ僕は一安心し、おばあちゃんからも感謝の言葉を貰ったが、僕は失念していた。たくさんの人が不良を見ていた。ということは、たくさんの人が僕の土下座を見ていた、ということにもなる。その噂が一人歩きし、僕は不良に絡まれていた可愛そうないじめられっ子、という認識になっている。だから、おばあちゃんを助けたことなんて……
「だからあの場で見てたって言ったろ?あのあとおばあさんにありがとうって言われてたじゃねえか。お前が助けたんだろ?不良を前に、勇気あるじゃねぇか。」
「え、いや、その、体が勝手に、というか……」
更に言うならば、僕は今まで女性とろくに話したことがない。なのに、高校初日からこんな美人に話しかけられて、上手く話せるはずがなかった。僕の言葉は途切れ途切れで、歯切れの悪いものとなった。恥ずかしい。顔は相手の顔を見ることが出来ず、机を向くしかなかった。
「体が勝手に…?はっ、いいねえ、ますますロックだ!なあ、放課後時間あるか?」
「あ、はい……」
「ちょっと私に時間くれよ。お前に見て欲しいんだ。私のロック」
「ロック……?」
「あ、言ってなかったな。私は木村夏樹。クラスメイトだ。よろしくな。」
そう言って美人……木村夏樹は、僕に手を差し出す。展開が急すぎて追い付けない。が、握手を求められていることは分かった。僕は焦りながらもズボンで手汗を拭いて手を返す。
「おう!じゃあ放課後に音楽室な。」
じゃあな!と会話を切り上げ木村さんは席に着く。木村さんの席は自分の席からも近くその後ろ姿がしっかりと見えた。……女性と、放課後の約束をしてしまった………。僕はその後のレクリエーションや授業が全く身に入らなかった。
「ここでいいのかな……」
少し迷いながらも音楽室と書いてある教室を見やる。時間は放課後。生徒はまばらになり人はいない。
「失礼しま~す……」
小さい声で扉を開けると、中には
「よ、来てくれてありがとな。」
ギター、だろうか。楽器類に詳しくない自分では判別できないが、ギター(だと思う)を構えて木村さんが待っていた。
「木村さん、それは……?」
「あー……実は私、音楽やっててな。小野に聞いて欲しいと思ってさ。」
「僕に?何で……」
「お前のロックな心に感動してな。お前のこと気に入ったんだよ。だから、聞いて欲しいんだ、私の、ロック!!」
ギュイイイイイイイン!!!!!
瞬間、空気が切り替わる。木村さんが弦を掻き鳴らし鋭い音が音楽室に鳴り響く。僕は音楽のことは門外漢だきど、この曲が、この音が、魂に響いていることは分かった。程なくして曲は終わった。木村さんは疲れきったように息を整えていた。
「ふぅ、私の歌、どうだった?」
「すっっっっっっごいね!!!!木村さん歌も演奏も上手いんだね!!!!!!!!!」
「うえ?あ、お、おう……ありがとな。」
………やらかしたぁぁぁぁ!!!!!演奏にテンション上がりすぎて気持ち悪い反応になってしまったぁぁぁ………。木村さん引いてるじゃん……
顔を手で覆った隙間から木村さんの表情を見てみると、ドン引きした木村さん、ではなく、そこには恥ずかしながらも笑顔を浮かべている木村さんがいた。
「いやぁ、そんなに褒められると照れちまうな…。私の歌、そんなに褒められたことなかったから嬉しいよ。ありがとな。」
「あっ、いや、僕の方こそごめん……急に声大きくして……」
「いや、そんなに大きな声出せるんだなってビックリしただけだから。っと、もういい時間だな。今日はありがとな、小野。」
「いや、僕の方こそ、凄い演奏を聴けて楽しかったよ!ありがとう!」
「おう。また明日学校でな。」
その言葉を皮切りにギターを片付け帰る準備を終えた木村さんは音楽室を去っていった。
これは木村夏樹の第1のファンの話である。
すっっっっっっごいね!!!!木村さん歌も演奏も上手いんだね!!!!!!!!!
「へへっ……」
あんなにストレートに褒められたことはなかった。体がむず痒く、自然と足取りが軽くなる。
「小野か……いいやつだったな。」
評価、感想よろしくお願い致します。