蒼きウマ娘 〜ウマ娘朝モンゴル帝国について〜   作:友爪

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神聖ローマ帝国の動向について

《ワールシュタットの戦い》以後、ドイツ地域を横切るモンゴル軍は、ベルリン村を出立した後も、行く手の村に突き当たっては挨拶(・・)をしていた。

 

 十字軍を打ち破った地獄の軍団の噂は、既に広く蔓延しており、それを迎える村民は戦々恐々であった。

 中世において、敵地に入った兵団が行う事は決まっていた──略奪である。

 荘園領主によって過酷な税金を課され、差し出すべき財産など持たない一般民衆が、最低限生き伸びるための食料まで奪われるという略奪は、地獄絵図さながらであった。

 

 しかも、モンゴル軍は全ての異教徒を憎悪している(中世ヨーロッパ世界らしい誤解、悪魔の姿は自らの映し鏡である)ので、何もかも奪われ尽くした後で真っ平らにされるという、もっぱらの噂であった。

 そんな彼らが取った行動は、必然、バチカンと同じであった。

 命乞いである。

 

 結果、モンゴル皇帝が「こんにちはー」と言いながら、とある村に挨拶に訪れると、村民総出で地面に平伏して、彼らの持ち得る一番の宝(・・・・)を差し出したのである。

 即ち、食料と、若い男女であった。

 

「どうか命ばかりは」

 

 と、貢物(・・)を前に押し出し、頭を地面に擦り付け慈悲を請う村民らを見て、モンゴル皇帝は目をぱちぱちさせた。

 そして、村民に言った。

 

「食料は必要な分だけ貰う。後から荷バ車の団が来るから、そちらに渡すが良い。人足は要らんが、しかし有難い事だ。ここまで来る時、走り辛い道があった。また通る(・・・・)から、それまでに整えておいてくれると助かる」

 

 すると、横から皇帝専属の指導人が出てきて、村長に小袋を渡した。不思議に思って袋を開けると、中には大粒の宝石が輝いている。

 驚いて声も無い村長に、チンギスは言った。

 

「しこたま貰ったのだが、どうにも重い(・・)のでな。あげる」

 

 村民たちは飛び上がって、モンゴル軍のため復路の整地に励んだ。本物の宝を手にした喜びと、それ以上に、見合う働きをしなければならないという焦燥があった。

 地獄の軍団の到来後、道中の村はむしろ活気づいたという。

 モンゴル軍は、赴く先々で余計な荷物(・・・・・)を配ったので、彼女らの通った後の道は、急速に拓かれる事となった。

 

 後に《欧州の大動脈》と呼ばれる一大貿易路の始まりであった。

 

 こうしてバチカンの至宝は、公共のため有効活用されたのである。

 

 

 ◆

 

 

 モンゴル軍のドイツ地域横断は、平穏なものであった──平穏過ぎた。

 度々訪れる村では、武力抵抗どころか、守備兵すら在駐していなかった。

 争いを好まないモンゴルウマ娘たちは、安穏な旅路を素直に喜んでいたが、トレーナーたちは訝しんだ。

 

 実は、ドイツ地域──神聖ローマ帝国は政治的大混乱に陥っていたのである。

 

 混乱は《死体の山(ワールシュタット)の戦い》において、神聖ローマ皇帝が敗死した事に発端する。

 本来であれば、可及的速やかに後任を選定し、国内を纏め、大異教軍に立ち向かわなければならない。

 しかし、その後任選定が難儀であった。

 

 実は、故神聖ローマ皇帝──欧州一のトレーナーは、ウマ娘育成に耽溺する余り、貴人の責務(・・・・・)を全く果たしておらず、実子が無かったのだ。

 

 ならばと、縁戚の者を立てようとしたのだが、正当性に疑問を持つ諸侯が異議を唱えた。あれやこれやと揉めているうちに、件の縁戚者が謎の死(・・・)を遂げてしまう。

 他に有力な縁戚が無く──王朝が断絶した。

 すると「血統的に我こそ次の皇帝」と主張する者が次々に名乗りを上げ、各々が勝手に皇帝を僭称する。

 後はお馴染み、僭称者同士が血みどろに争い合う内乱状態と化した。

 

 いや冷静に考えて、そんな事で揉めている場合ではない──と思われるが、それが中世ヨーロッパという社会であった。

 その間、外敵(・・)が悠々自適にドイツ地域を闊歩する事になったのだが、その進路以外のドイツ諸侯らは知らん振りを決め込む(進路上の諸侯は逃亡した)。

 

『自分の荘園以外が荒らされる分には全く構わない、むしろ下手な刺激をして矛先を向けられた方が凶』

 

 と、自分勝手も甚だしい、事なかれ主義(・・・・・・)にドイツ諸侯全員が走った結果、帝国全体としてモンゴル軍の戦禍を逃れるという、皮肉極まりない事態になった。

 

 皇帝座を巡る争いはモンゴル軍に脇目も振らず、なおも数十年続く。

 国土は荒廃し、民は疲れ果て、挙句にどうなったかというと──皇帝不在のまま落ち着いてしまった。

 何と、神聖ローマ帝国(・・)は『皇帝不在でも運営出来る』という笑撃の事実が発覚する。

 

 この期間を指して、歴史学では《大空位時代》と言う。

 

 後世のフランス人学者から「かの国は如何なる点において、神聖でもローマでも帝国でもない」と嘲笑される元ネタとなる。

 事実、ドイツ諸侯の寄合い世帯(・・・・・)的側面が大きかった神聖ローマ帝国であり、内部からは「皇帝不在で平穏無事であれば、それでも良いのでは?」という楽観すらあったという。

 

 しかし、ドイツ人皇帝不在の隙を突き、フランス貴族が皇帝位を付け狙い始めると、流石に拙いと思ったドイツ諸侯である。

 皇帝不在は拙いが、強大な皇帝だと諸侯権限を圧迫する恐れがある──と、これもまた打算的な考えの下、選出されたのは、弱小貴族の《ハプスブルク家》であった。

 

 ほぼ皇帝位を押し付けられたに等しい、当時零細貴族のハプスブルク家であったが、ご存知の通り、巧みな婚姻政略により欧州を席巻する大貴族へとのし上がる事となった。

 

 ハプスブルク家の台頭も、チンギス・ハーンの《遠駆け》無くしては有り得なかったと思えば、その影響は計り知れない。

 

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