転生先は、新世紀エヴァンゲリオン   作:㐂眼翔

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シンジよ、ハーメルンに載せなければいけないのだよ。読者達の気持ちを変えてもらなわくてはな。

「ヨッピー!」

もうハーメルンに、投稿するしかない。

「それはエゴだよ!ヨッピー。」

五月蝿い!前作から仕事の休憩中に睡眠時間を削ってまで作り上げたんだ。

「この分からず屋!」






はい、リクエストがあった『逆襲のヨッピー』でした。w

では、本編どうぞ。(^ー^)ノシ



秘めた可能性

 

 

 

 

 

 

 

 

シンジは自分の首に絡められた細い腕の温かさと、胸に押し付けられた柔らかな肢体の感触に体の自由ばかりでなく思考能力さえも奪い取られていた。いったい何故、突然にレイがこのような行動に出たのかもわからない。ただ1つだけハッキリしていることは、裸も同然の格好の彼女をこんなところで抱き締めている場合ではないということだけであり、シンジはこのままで居たいという半ば本能的な欲求を無理矢理抑えつけた。

 

緩く巻かれたバスタオルの胸元から覗く控えめな起伏に引き寄せられそうになる目線を背けるが、このままではどこまで我慢していられるか極めて心許なかったためである。

 

「レ…レイさん、とにかく部屋に戻ろう?ね?」  

 

なるべく下を見ないようにしながらレイの背中を軽く叩いて注意を引こうとする。いかにこのマンションがネルフの完全な管理下にあって一般人の入居や侵入が皆無であるとしても、人の目と言うのはどこにあるのかわからないのだ。

 

「あっ、でも離れないでね。は、離れると……み、見えちゃうからさ。このまま行くよ?」

 

「……」  

 

シンジは彼なりに気を使って言葉を選んだつもりだったが、レイは返事もしなければ頷きもしようとしない。ただ何かを訴えかけるような瞳を一心に彼に向けてくるだけだった。

 

「い、行くよ?レイさん…。」  

 

もう一度シンジは同じ事を言った。このままではレイが風邪を引いてしまうかも知れないという配慮もあったが、何よりも彼女のこんな姿を他の誰にも見せたくないというのが本音だったのかもしれない。

 

「……部屋……。」

 

「え?」

 

「私の部屋……、そこ……。」

 

「あ…ああ、おう。それじゃ行こう」  

 

レイは絡めていた両腕のうち片方を外すと、目線はシンジの顔から逸らさないまま背後にあるドアの1つを指差した。開いているドアがそれ1つだというだけでなく、シンジはつい先ほど彼女の部屋に呼びかけていたのだからどの部屋に住んでいるのか知っている。しかし、あまりにも当然のことを真剣な口調で言うレイを笑おうとは思わなかった。どんな心境の変化があったのかは不明でも、レイは確実に彼のことを受け入れようとしているのである。それに対してシンジは心の中は、テンパっていた。裸の美少女に抱きつかれ、甘い匂いに柔らかい体を押し付けらているのだから。そんな心境のシンジは、喉から声を絞り出しながら優しい笑顔でレイに言う。

 

「でも駄目だよ、レイさん。こんな格好で外に出たりしちゃ。レイさんは…その…き、綺麗なんだから。」

 

「……綺麗?」

 

「そ、そうだよ!レイさんはとっても綺麗で可愛いんだからさ! みんなが注目するくらいにさ。」

 

「……?」  

 

きょとんとした表情で小首を傾げる。その仕草は14歳になろうとしている少女のものと言うよりは、親に何で?と言う表現に近い。レイはそのシンジの表情を不思議そうに見上げて、やはり幼子の口調で問い掛けた。

 

「……何故?」

 

「え? 綺麗だって言ったことかな?」

 

「違う……、今の表情が……。」  

 

レイは少し柳眉を顰めて言葉を詰まらせると、文字の書かれた積み木で文章を組み立てるように辿々しく言葉を紡いだ。

 

「今の表情が……、私には出来ない……。だから、温かかったから……。」

 

「レイさん……。」  

 

もしも彼女の言葉だけを事情を知らぬ者に聞かせたなら、良くて子供の声と解し、悪ければ障害を持っているとまで思うかも知れない。しかし、シンジには彼女が言いたいことがはっきりと伝わってきた。

 

「たぶんね……、俺だけじゃなくて、お父さんも、ミサトさんも、リツコさんも、その他たくさんの人たちが、今の俺と同じような表情でレイさんのことを見ていると思うよ? でも、今まではそれが見えなかったのかもしれないね……。」

 

「……。」  

 

彼が言うことを理解しようと再び眉根を寄せるレイだったが、数秒の沈黙の後に口に出してのは一言だけだった。

 

「……わからないわ。」

 

「うん……、別に深く考えなくてもいいんだ。そういうものじゃないし、急ぐ必要だってないんだからさ。ほら、もうこんなに身体が冷え切ってる。早く部屋に行かないとね!」

 

「ええ……。」  

 

やや戸惑いの色を浮かべたレイは背中を押されるままに部屋に向かって歩き出す。裸足の彼女が歩くときにするぺたぺたという音を聞きながら、シンジは逸る心を抑えつけるのに必死だった。

 

(レイさんはまだ何も変われてないな。でも、それでいいんだ……。焦らず少しずつでも、ゆっくりに…。)  

 

心の中で言葉を噛み締め、シンジはレイと始めて出会い話した時に少しずつ変えようとする考えを再確認する。自分自身がとてつもなく傲慢で許し難い怪物に変わろうとしていることに、心の底から恐怖を覚えたのだ。それは、あまりにも頼りない華奢な肩を見てしまったから。シンジはレイに色々と学習させて人の触れ合いや、レイが持っている素直さを維持して普通に笑える女の子になって欲しいと思っていた。だが、レイの心はシンジを欲する心が強くなっている事はシンジは知らない。

 

(もちろん、俺だけじゃ無く他の人にも利用させてもらうけどな…。俺は、唯単にレイさんが笑顔を持って欲しいだけなんだ。俺以外の人でも…笑えるように。それがエゴだとは知っている。別に俺はレイさんの親や神様になる気は無い。ただ俺が優しく背中を押して、そうなったら良いなぁ…。)

 

そんなシンジの想いは叶うのだろうか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人の住んでいる気配が室内のほんの一部分からしか感じられない――レイの部屋に足を踏み入 れたシンジが最初に抱いたのはそんな感想だった。同年代の少女の部屋に入ったことがないシンジには、比較する対象がなかったためにどうとも言い様がなかったが、それでもこの部屋からはどこかくすんだ印象を受ける。まるで長い間使用されずにいたような感じがあったのだ。

 

「ここが……、レイさんの部屋……。」  

 

本来であれば不躾に他人の部屋を見回すなどしないシンジも、このときばかりは自分を抑えることが出来なかった。レイはいま脱衣場で服を着ている最中であり、室内には彼しかいないせいもあっただろう。シンジが少し緊張していたのは間違いない。開けっ放しのドアを先にくぐったレイの踵を追って――シンジにはそれよりも上の部分に目を向け続ける度胸がなかった――部屋に入ろうとしたとき、急に振り返った彼女の瞳にかすかな怯えが走ったのは気になったが、それ以外には異性を自室に迎え入れるということへの抵抗は無さそうだったレイとは大違いである。

 

「ここがレイさんの部屋……か。」  

 

もう一度同じ言葉を呟くが、先ほどのように胸の高鳴りを示す響きは感じられず、哀しい響きを伴ったそれだった。居室に入る途中にあった流し台には埃が積もり、水が流れた跡が溝のようになっていた。家具類はごく普通の物ばかりだったが使用した形跡は極めて乏しい様子だった。生活に必要な最低限度の物は全て整えられていたが、どれもこれもレイが省みもしていないことが明白にわかる。  だからシンジは哀しかったのだ。

 

「……あれ?」  

 

零れ落ちそうになる涙を震える下唇を噛み締めることで耐えていたシンジは、そこだけは生活感があるベッドに目を向けたとき、ベッド脇の小棚に部屋の雰囲気にはそぐわない物が2つだけ置かれていることに気が付いた。どうやら衣装棚らしいそれはいくつか引き出しが開いたままになっており、シンジは真っ赤になってその中身から目を引き離したがやはり気になって仕方がない。

 

「何だ……?」  

 

怪訝そうな呟きを洩らしながらシンジはそれらに手を触れた。1つは熱を加えられたのか、形が崩れてしまっているレンズが割れた眼鏡。

 

「これってお父さんの眼鏡かな?」  

 

手に取った眼鏡はフレームがひしゃげているためにレンズがひび割れて原型を留めていなかったが、赤い色付きレンズからはそれがゲンドウの持ち物であることを類推できた。何故レイがこんな物を持っているのかはわからなかったが、シンジは自分がまだこの街に来ていない頃に起こった何かに関係しているのだろうと納得する。

 

「レイさんらしいや、お父さんの壊れた眼鏡を持ってるって…。そう言えばレイさんって、お父さんには普通に話せるんだよな…。」  

 

思えば出会ってからレイとの数少ない会話の中には、彼女のゲンドウへの信頼が感じ取れる言動が端々に見られた。そして、最近シンジがネルフ本部の施設を歩き回ってる時にレイとゲンドウが笑顔で話し合っていたのを見かけていた。

 

「こっちのは……?」  

 

手に取っていた眼鏡を元の位置に丁寧に戻すと、シンジは次に子供用の弁当箱大の小綺麗な装飾が施された箱に目を向けた。箱根細工というのだろうか。セカンドインパクト後の荒れた時代のせいでもう作り手がいなくなってしまったという伝統工芸の1つだと言うことくらいはシンジの知識にもあった。複雑な課程を踏まないと開けることが出来ない不思議な細工箱である。

 

「綺麗だな……。でも、レイさんがこう言うの持ってるの珍しく思えるな。」  

 

素直な感想と思い出を懐かしむ言葉が口を突いて出た。シンジはその箱を慎重に持ち上げると、もっとよく見ようと開け放たれた窓の方を向いて顔の前まで運ぼうとする。しかし、それは唐突に室内に響き渡った音によって中断させられる。

 

「レイさん?えっ!?ちょっと!?」  

 

シンジは物音がした方を振り返ったが、すぐにそれに倍する速度で顔を背けた。脱衣場のドアを開けて彼の方に躊躇なく歩み寄ってくるのは、未だ布きれ一枚身に着けていな いレイであり、先ほどまではバスタオルを身体に巻き付けていたというのに、今はそれを首から 下げただけの全裸だったのである。

 

「ど、どうして服を着てくれないのよ!?レイさん!?」

 

シンジが叫んだのも無理はなかったがレイにも事情があった。服を着るようにと言われて脱衣場に入った彼女だったが、考えてみれば所持している数少ない衣服の全ては、今まさにシンジが立っている横にある衣装棚の中だったのだ。結局わずかな逡巡の後に取りに行くことを決めた彼女は、薄く開いたドアの向こうで小箱を持ち上げようとするシンジを見たのだ。

 

「返して。」

 

「えっ?」

 

「それを返して。」

 

「こ、これ? この箱?」  

 

全く自分の裸体を隠そうともせずにシンジの手から小箱を奪い返そうとするレイは、部屋に入る前の彼女よりもさらに感情を露わにした表情だった。妖精が自分の命を封じ込めた宝箱を奪われて泣きながら取り返そうとしている。シンジは彼女の表情にそんな印象を覚えた。

 

「か、返すよ?勝手に触ったりしてごめんね…?」

 

「……。」

 

「だから…は、早く服を……あ。」  

 

彼が箱を持っていた力を緩めると、レイは誰にも奪られるものかとばかりに胸の中にそれを掻き抱いてその場にしゃがみ込む。

 

「レイさん…、…ごめん。」  

 

まるで幼い子供が大切にしている物を知らずに取り上げてしまったような後味の悪さが残る。確かにレイはこの綺麗な箱を大切そうに置いてはいたが、それでもここまで過敏に反応するとは思いも寄らなかったのである。

 

「ごめんね……?」

 

「……。」  

 

シンジはもう一度繰り返して言ったが、白い背中をかすかに震わせているレイは、自分の子供を身を挺して守る母親の如くに動こうとしなかった。何事にも動じる素振りを見せなかったレイはもうどこかに消えてしまっていたのかもしれない。そのことはシンジに希望と不安を等量に与える

 

「その箱根細工だっけ?すごく大事な物なんだね……。」

 

申し訳なさそうに呟いてベッドの上に丸まっていた毛布を裸の背中に掛けてやった。優しい口調で話しかけられたレイは怯えていた小動物が思わぬ優しさを与えられたときに見せ る上目遣いに相手を窺う仕草でシンジを見上げる。

 

「今日は、……帰らせてもらうよ。本当にごめんね、レイさん…。」  

 

せっかく迎え入れてもらえたというのに話もせずに去るのはつらかったが、何1つ収穫らしいことが無かったというわけではないとシンジは自分に言い聞かせた。レイ自身が理解しているのかどうかは不明でも、とにかく彼女は幼い頃に大切にしていた物を本能的に守ろうとしているのだ。それはシンジにとって希望という遠い山頂への鎹になるかもしれないのである。それがレイを変えられる物なのかは分からないでいるが。

 

「あ、本部に入るためのIDカードなんだけど、さっき郵便受けの中に入れておいたからね。それじゃあ……、またね……。」  

 

相変わらず無言で見上げてくるだけのレイに寂しげな笑顔を向けた後、シンジは踵を返して玄関に戻ろうとした。だが、そんな彼の脚に何かが引っかかったような抵抗があった。シンジは訝しげに足下を見て、すぐにその原因を知ることになる。彼のズボンの裾を意外な強さでしっかりと掴む白く華奢な指が目に入ってきたためだった。

 

「……。」  

 

暫しレイは見上げている視線でシンジの目を見つめ続けていたが、やがて彼の視線の先を追いかけて、それが自分の手に注がれていることを悟ると後ろめたそうに手を離した。まるで粗相をしてしまった動物のような印象がある。自分が採った行動が相手にどのように受け取られたのかを窺う様子は、まさしく野生に生きていた動物が急に人間の庇護の元に連れてこられた状態とも言って良かった。

 

「……レイさん。」  

 

警戒心の強い動物や子供と接するときに気を付けなければならないことがある。決して見下ろした状態で相対し続けてはいけないのだ。彼らの世界においては見下ろすという行為それ自体が相手に対して敵意を持っている証明にも繋がる。だからシンジはレイを驚かせないように注意しながら、ゆっくりと膝を折り曲げて彼女の目線に自分の目の高さを合わせてから言った。

 

「……ここに、居ればいいの?」  

 

戸惑いをありありと浮かべた少女は磨かれた鏡のようなシンジの黒瞳に映る自分の表情に動揺 しながらも、彼女の心が強く命じている言葉を途切れ途切れながら口に出した。

 

「……居て……、欲しいわ……。」  

 

このときレイは気付いていなかった。一度は手離したシンジのズボンの裾を無意識のうちに今度はしっかりと両手で握り締める自分がいることに…。

 

 

 

 

 

 

 

ベッド脇にある窓からやや斜めに射し込んでいる南西に傾きかけたオレンジ色の陽光が、レイ の肢体を完成された美術品を照らす、計算され尽くして配置された照明であるかのようにシンジ には思われた。感嘆の溜息が洩れてしまいそうだった。陰影を与えられた能の人形は無機物にも関わらず生命を宿すが、封じ込められていた感情を表に出しているレイがその身で体現するものは、仮初めの生命を得ただけの人形などとは比べ物にならない。

 

しかし、それでもレイは本来持っているはずの魅力を半分も発揮できていないのだ。彼女の明るい笑顔を浮かべることが出来たとき、自分はいったいどうなってしまうのだろうとまでシンジは思う。きっと心臓など止まってしまうだろうとさえ思う。妖精として生まれ、宝石を編んだ繭に眠り、そして氷の棺の中で永い眠りについた少女。

 

その彼女が目覚めて最初に浮かべる笑顔を想像したシンジは、自分でも抑えきれないほどに胸が高鳴っていくのを感じる。見たいという純粋な願いが心に湧き起こった。そして他の誰にも見せずに独り占めにしたいと思った。醜い独占欲だとは自分でも思っていたが、目の前の少女が浮かべる笑顔を見るためなら命すら惜しくないと彼は考えていたのだ。

 

(本当にすごく綺麗だ……。そして、少し壊してみたい気持ちもあるな…。)  

 

完璧に整ったレイの顔を見つめていたシンジは、この年頃の少女とは思えないほど完成された美しさに話しかけようにもどうしても声が出てこない。こういうときは会話の相手に口火を切って貰おうとするのが普通なのだろうが、それをレイに期待するのはまだ酷というものだろう。結局はシンジが何とか勇気を振り絞るしかないのだ。用意して貰ったパイプ椅子に座って、ちょうど真正面――レイはベッドに腰掛けている――の レイを見れば、彼女もまたやや落ち着かない様子でシンジの顔を見つめており、出会ったばかりの頃には期待することも出来なかった表情を浮かべていた。戸惑いともどかしさが綯い交ぜになった表情というのが一番近い。

 

(綺麗だけど……でも、何だか可愛いな……)  

 

幼い頃の内気さが自然な感じで表面に浮き上がってきているとシンジは突然感じた。何をするにも、会話を始めるにも、いつもシンジが口火を切ってやらなければいけなかったこ とが思い出された。

 

(なんだ…、唯レイさんは人との繋がりや触れ合いが少ないから話さないだけで。俺が先導するようにすれば、自然とレイさんも話をかけれるようになるな…。)  

 

そう考えると不思議と心が落ち着きを取り戻し、心臓の鼓動もレイと2人っきりだということに対する緊張の分を除けば整ってきた。

 

「ねえ、レイさん?」

 

「!?」  

 

シンジがなるべく自然な口調で話しかけると、レイはそれでも身体をビクリと強張らせて大きな目をさらに見開いた。そんな仕草も考えてみれば見慣れたものだと彼は思った。今はもう部屋着と思われるゆったりとした白いシャツと、窓に揺れるカーテンの色よりもやや 濃い萌葱色の膝丈まであるスカートを穿いているレイの美しさに圧倒されすぎていたのかも知れない。

 

「あんまりゆっくり話す機会が持てなかったけど、これからは少しでもいいからこうやって静かに話せる時間が有ると思うんだ。まあ、学校で殆ど昼食時だけど。あ、もちろん、レイさんが構わなければだけど。」

 

「……話す?」

 

「そう。訊きたいこととかもあったし、もっとレイさんのこと知りたいって思ってたしね…?ただ話をするだけでも随分色んなことがわかるかもしれないし。……駄目かな?」

 

「話す……シンジ君と、話す……。」

 

「お、おう。」  

 

このときシンジは一度は収まりかけた動悸が急激に激しくなるのを感じた。透き通った可憐な声で自分の名前を呼ばれるだけで、これほどの高揚感を得られる自分が少し恥ずかしかったせいもあったが。

 

「話すわ。今の気分……嫌じゃない。とても気持ちがいい。不思議だわ……シンジ君と話をしていると、いつも身体がおかしくなったのに今は平気……。」

 

「……。」  

 

少し遠くを見る視線でレイが歌いあげるように言うが、シンジは言葉を挟もうとはせずに無言で頷いただけだった。余計なことを言って彼女の心を乱したくなかったのだ。

 

「訊きたいことって……?」

 

「あ、ああ。そんなに大したことじゃないんだけど……あ、いや、俺にとっては大したことどころか凄く嬉しかったことだったんだけどね……。レイさんは前回の戦闘で気を失った後俺が病院に運ばれて、俺の病室に来てくれたんでしょ?」

 

「……行ったわ。」  

 

思い掛けない質問だったのだろう、レイは少し間を置いてから頷く。

 

「その時の俺らってそんな話もしたことも無かったし、殆ど俺だけが喋ってる感じだったから。……どうして来てくれたのかなって思ったから……。」

 

「……。」

 

「来てくれたのは凄く嬉しかったよ?……でも……、何でかなぁと。」

 

「わからないわ。」

 

「え?」  

 

レイは真剣な表情ではっきりと言った。特にその理由を考えようとして苦悩している様子もなく、事実を事実として受け止めての発言 のようである。彼女は自分の採った理解しがたい行動に関して彼女なりの結論を出していたのかもしれない。

 

「胸が苦しかった……、それを直す方法を考えたわ。落ち着かなかった。だから、シンジ君の病室に行 ったわ。」

 

「そ、そうなんだ。」

 

(えぇい!何でこんなにナチュイイんだ!?)

 

「訊きたいことは……それだけ? もう話は終わり……?」  

 

シンジが嬉しさを今1つ実感しきれずに、しかし納得して頷くと、レイはかすかに眉を寄せて問い掛ける。

 

「あ……。」  

 

我知らず声が洩れた。あまりにも簡単に得られた回答は期待以上ものであったが、淡々と語られたために喜びを爆発させること暇が出来なかったのだ。今のレイの表情を見たことで、彼の心は思いも寄らなかったほどの嬉しさに満たされることになった。

 

(レイさんが……、不満そうにしてる……。話が終わりだと思って拗ねてるの……?よし!少し押してみよう。)  

 

レイ自身は全く意識してのことではないのだろうが、かすかに眉根に皺が寄せられ、艶やかな唇が尖らされていたのである。明らかに会話の終了を歓迎していない表情だった。

 

「もちろんまだ終わりなんかじゃないよ。 だって俺は訊きたいことがあるって言ったけどレイさんの事をもっと知りたいて言ったじゃないか。どうやって過ごしてたのかとか、食べ物はどんな物が1番好きなのかとか……、知りたいことはいくらでもあるんだから。」  

 

シンジは自分が思っていることを並べ立てる。彼女が自分との会話を歓迎しているのだとすれば、シンジにはそれを拒む意志など存在するはずがないのだ。

 

「そう……、それならいいわ……。」  

 

彼の言葉を聞いてもレイの表情は不満な様子が取り払われただけで大きな変化は見られなかっ たが、次に彼女が採った行動はシンジの予想にはないことだった。レイは二度三度と口を開け閉めして躊躇した後、突然不思議なことを言いだしたのである。

 

「……何故、シンジ君は私や他の人に優しいの?」

 

「え?」

 

「シンジ君は、笑ってる顔が多い……。」  

 

またレイが柳眉を顰める。その表情を彼女にされるたびにシンジは、ずっと年下の少女にした覚えのない約束を破ったと文句を言われているような気分にさせられた。少女の機嫌をそれ以上損ねないためには一刻も早く彼女が主張しているところの約束とやらを思い出さねばならないのだ。そして幸運にも彼はすぐにレイが言っていることを理解することが出来た。

 

「う~ん、そうだねぇ。俺が優しいか~。」

 

「そう。」  

 

レイの口調が幾分素っ気ないように聞こえたのはシンジ自身の思い込みのせいだろうか。

 

「確かに俺は、人前では気を使うタイプだね。でも、それには意味があるんだけど…。他の人からしたら、そんな事?って言われる事だけどそれでもいい?」

 

「それでもいい。知りたいわ。」  

 

レイの瞳にはシンジがたじろいでしまうほど真剣な光がある。少しやりにくさと気恥ずかしさを感じながらも、シンジはその瞳の輝きに誘われるように話し始めた。

 

「えっと……、俺って幼い頃から色々な夢を見てきたんだ。その夢を見てきた数は、覚えてないけど俺なりに多いし記憶に残るものばかりでね。」

 

「……。」  

 

レイは相変わらず真剣な表情でシンジの話を聞いている。相槌を打ってくれないのは少し話しにくかったが、それでも彼は自分の誰にも言えなかった事を話すことの心地よさに言葉を続けた。

 

「……それで、その色々な夢に出てくる俺が面白くてね?使徒のいない世界で、遊んでたり、悲しんでたり、泣いてたり、笑あったり、嬉しがったりしてね。でも、どれも違う姿の俺だったんだ…。」

 

「え……?」

 

「だけど、不思議と違和感が無かったんだ…。その夢の中でやっていた事が出来るし。夢の中で、出てきた人達も色んな出会いもあって別れ方もあった。それで知ったんだ。」  

 

シンジは戸惑うレイの瞳を真っ正面から自分の瞳に捉えて言った。

 

「出会いには可能性があるって。その人が善人か悪人かは、その時は分からなくても得る物あるんじゃないかってね。」

 

「あ……う……。」  

 

いつもならば見つめられている者が目を逸らしたくなるほど真っ直ぐな視線を向けるのはレイの方だったが、今は完全に立場が逆転して動揺を隠せずに目線の向け先を探すのは彼女だった。厳しい視線に晒されているわけでもなく、どちらかと言えば優しく包み込まれるような感じを受けているレイだったが、この種の温かさを与えてくれる碇ゲンドウや赤木リツコなどと対するときとは違い、体の機能に奇妙な変調を覚えたのがその理由だった。

 

(何……? また体が……心臓がおかしい……。)  

 

耳の奥で聞こえる心臓の鼓動が彼女の戸惑いをさらに助長していく。もしもそれが体調不良によるものに近ければレイがこれほど動揺することもなかったのだろう。しかし、レイが感じているのは記憶のどこを探っても存在しない高揚感だったのである。

 

「どうしたの、レイさん?」

 

「何でも……ないわ……。」

 

「でも、顔が真っ赤になってるし……。」

 

「赤く……?顔……?」

 

「うん。ほら……。」  

 

シンジは少し心配そうな表情で、明らかに赤みが差していることがわかるレイの頬に手を伸ばそうとする。しかし、彼の指先が白磁の頬に触れる直前でレイが身を退いた。

 

「あっ。ご、ごめんね……。いきなり触られるの嫌だったよね?」

 

「いい……。」  

 

自分が何をしようとしたのかを悟ったシンジは、それこそレイと同じかそれ以上に顔を真っ赤に染めて謝ったが、レイは引っ込められた彼の手を見つめたまま上の空で呟くだけだった。レイは後悔していたのだ。なぜ自分は身を退いてしまったのかということを、である。

 

(私……、どうして……? 触れて欲しかった……、私は確かに今そう思ってる……。)  

 

彼女は先日屋上でシンジの手が与えてくれた温かさを思い出し、下唇を震わせて自分の行動を悔いていた。シンジの手は彼女の心を間違いなく温めてくれるはずだった。ゲンドウやリツコが彼女の髪に触れるときに感じられるものと同じ温かさ。それを与えて貰えることは自分にとって最も大切なことだといつも思っていたレイは、あろう ことかその機会を拒絶してしまったのだ。

 

(もう触れて貰えない……。)  

 

レイはシンジの顔を見ることが出来なかった。拒絶されたことへの怒りと、彼女への興味が薄れていく様子を見たくなかったのだ。このときレイは初めて気が付いた。すでにこの碇シンジという少年のもたらす温かさは、彼女にとって欠くべからざる大切な温もりになってしまっていたということに。

 

(私……拒絶してしまった……。)  

 

先ほどシンジの話にあったようにレイは夢の事で色々な可能性あるんじゃないかと言う話に、彼女の心を内側から温めてくれていた何かにぽっかりと空虚な穴が空いてしまっているのを茫然と見つめていた。

 

(心が……凍る……。)  

 

自分の内側にある温もりのおかげでレイは他人との接点の少ない生き方を続けることが出来ていたが、今は目の前にシンジが居るにも関わらず、内側からの寒さにその身を震わせ始める。しかし、涙を流す術を持たない彼女はどうすることも出来ずにじっとしているしかなかった。

 

「レイさん……。」

 

「!?」  

 

冷たい恐怖の槍がレイの心を刺し貫く。第壱中学校に通うようになって以来、数え切れないほどの少年たちが彼女の元を訪れて自分の 想いを伝え、当然の如くにレイはそれを拒絶した。そう言った申し出でなくても、レイは友達という関係すらも煩わしく拒絶してきたのだ。自分が拒絶すればやがては他人の方も拒絶する。 彼女にとってそれはあまりにも分かり切った結末にすぎなかった。しかし今、拒絶すべきでない者をそうしてしまったレイは、これから自分に向かって振り下ろされる言葉の刃に恐怖していた。

 

(私は拒絶してしまった……。だから拒絶される……。)  

 

彼女の名前を呼んだ後には訣別の言葉が発せられる――レイはそう思ったのだ。

 

「レイさん、大丈夫? すごい汗だよ? 今日の訓練は休むってリツコさんに言おうか?」

 

「え……。」  

 

シンジの手だけを凝視していたレイは、氷の刃の代わりに彼女の頭上に降り注いだ温かい慰撫するような声に恐る恐る目線を上げる。 無論、そこには拒絶される以前と全く変わらない優しげな少年の顔があった。

 

「具合が悪いんなら休まないとね。リツコさんには俺が電話しておくから寝てなよ。食事とかは出来そうな感じかな?」  

 

シンジは震えているレイの両肩に手を置くと、そっと力を込めて彼女をベッドの上に横たわらせようとした。その行動にかすかな躊躇いが感じられるのは仕方がないことだろう。しかし、今度は抗おうとはせずに彼に身を任せたレイは、優しく髪を撫でてくれているシンジ の手に自分の手を重ねてゆっくりと首を横に振る。

 

「どうしたの、レイさん?やって欲しい事があるなら、俺で良ければ。」  

 

シンジがこれまで見たことがないほど安らいだ表情のレイを見て嬉しそうに問い掛けると、彼女は目を閉じながら夢うつつな様子で頼りなげな呟きを洩らした。

 

「…触れてて…欲しい。」

 

「ん? なに?」  

 

彼の慰撫を心地よく感じ、眠りに落ちそうになっているらしいレイにそっと囁きかける。

 

「シンジ君の感触…、体温が心地良い…。私を……温めてくれる。……だから、触れてて欲し…い。だから…お願い、シ…ンジ……く…………。」  

 

その言葉は最後まで発せられることなく途切れる。シンジの慰撫に恐怖の檻から解き放たれたことで、レイはある時を境にして味わうことが出来なくなっていた深い眠りに落ちていった。安らぎに満たされたレイの表情は、夢の向こう側で自分を待つ誰かの夢でも見ているためなのだろうか?もちろんレイが目を覚ますまでシンジは彼女の髪を撫でてやるのを止めることはなかった。優しい笑顔で彼の目から流れる涙が止まることがないのと同じように。

 

「お休みなさい。良い夢を…、レイさん。」

 

シンジは、そう呟きながらレイの少し変化に喜びを持った……。

 

 




マジで頑張ったわ〜、ヨッピー。

早くラミー出さないといつまでも、アスカが出せないからね…。

『本当よ、いつになったら私の出番がくるのよ!』

あ、あ、アスカさん⁉︎まだ貴女は出る所じゃないよ!

これ以上話すと本人来るで!じゃあ!

ε=ε=ε=ε=ε=ε=┌(; ̄◇ ̄)┘
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