書き直したくないんだ!
いちいち消える原稿が腹立つんだああああああ!
「微妙な種、ネタ乙w」
この前書きだって2回書き直してるんだ!
「だったら、最近に買ったiPadの方にバックアップすればいいじゃん…」
それでも半分以上消えてるんだああ!
「おぉう…」
だからこの日休みだから一気に書いたどー!ジーク・ヨッピーと書かれなくてもな!下手な文ですみませんでした!先に言っとこうw
では、どうぞおおおおおおおおおおお!
スヤァ…Zzzzzz
「目標は芦ノ湖に到達しようとしています。 速度は変わらず。確実に第3新東京市に向かってい ます。 目標近影をメインスクリーンに表示」
「……まるで巨大なプリズムね」
眉根を寄せたリツコが呟いた。それがマヤの言葉と共に発令所の壁の一面を占めているスクリーンに映し出された正八面体に 近い形状の不可思議な物体を見ての第一声である。
「今までの使徒は生物に近いものでしたけど、今回のはどちらかというと何かの結晶体みたいに 見えますね、先輩」
「そうね……とすると攻撃方法にも変化があるかもしれないわ」
「はい。 バルーン、出しますか?」
「……ええ、そうして頂戴。 ミサト、いいかしら?」
「オッケー。 どうせ使徒はATフィールドを何とかしない限り倒せないんだし、近接戦に入る前にやることはやっときましょ。 少しでもシンちゃんの負担をやわらげないと…、 と言っても日向君?」
腕組みして何やら思案顔だったミサトは提案を受けて彼女の方を振り返ったが、すぐに視線を 彼女の傍で忙しく作業をしている腹心の部下に戻したて声を掛ける。
「はい。 準備出来てます」
「そういうことみたいだから安心して」
再びリツコたちを振り返り笑顔を見せた。 決して速いとは言えない第5使徒の姿を見つめながら、ミサトはすでに幾つかの作戦案を頭の中で構築し始めていたらしく、リツコの提案がなくとも攻撃方法を知るためのダミーは打ち出す準備を整えていたのだ。
「だそうよ」
「は、はい」
ミサトの返答を受けたリツコは肩を竦めながらマヤに微笑を向けた。 差し出たことを言ってしまったと思っているのか少し顔を赤らめて縮こまるマヤだったが、リツコが軽くその肩を叩くと気を取り直して本部各所に矢継ぎ早の命令を飛ばし始めた。
「エヴァ初号機はエントリープラグ挿入後待機。 初号機パイロットは至急格納庫に向かって下さい。 兵装担当部署は葛城一尉の指示ですぐにでも換装できるように準備を。 ……先輩、MAGIの割り振りをお願いします」
生来の童顔のせいでやや頼りない感じを受けることが多い伊吹マヤであったが、本来はリツコ が天才だと認めるほどの人材なのである。 技術部ではリツコのみが権限を持っているMAGIの扱い以外の、自分の職分内にある事項について瞬く間に処理し終えてしまう。
「……貴女が居てくれて助かってるわ」
「はい?」
スクリーンに集中していてリツコの呟きが聞こえていなかったマヤは、キョトンとした表情で 小首を傾げた。 リツコはその大学時代と変わらない後輩の仕草に優しげな微笑を浮かべた。
「いいのよ、気にしないで。 何でもないわ。 バルタザールは第3新東京市の維持と市民の戦闘からの隔離」
「はい!」
和らいでいた表情を引き締めたリツコの指示にマヤも緊張感を取り戻す。 使徒の来ない日などにはネルフ本部の施設内とは言え、食事に誘ってもくれるリツコであったが、技術部長としての顔が前面に出ているときには厳しい上司なのである。
「監視及び情報分析はメルキオールで……いえ、カスパーにして頂戴。 メルキオールには初号機のバックアップを担当させて」
「……はい」
「あら、どうかして?」
「い、いえ、何でもないんです! あ……あの、ただ分析能力なら先輩が最初に仰ったとおりメ ルキオールの方が高度なのではと思っただけで……」
返答に一瞬の間があったことに対してリツコはマヤの方に問うような視線を向けた。 マヤはまた自分が余計なことをしてしまったのを悔やんで疑問などないと否定しようとするが、 つい先ほどにも気付いたことがあれば必ず申し出るようにと言われていたのを思い出して、恐る恐る自分の考えを口にした。
「確かにそうかも知れないわね。 cでも、メルキオールは既知の事柄を分析する能力には優れているけど、未知の事態に対する予測能力ならカスパーの方がいいときがあるの。 これはまだ貴女には話していなかったわ。MAGIの特性の1つなんだけど、説明する機会を持つ暇がなかったの は私のミスね。 ごめんなさい」
「い、いえ、そんなことないです! 私がもっと先輩の力になれれば時間の空くこともあったと 思いますし!」
マヤが激しく首を横に振った。 自分のことを実際以上に高く評価しすぎている後輩にリツコは少し困ったような表情を見せる。
「あのMAGIシステムには基本設計をした人の構想が色濃く反映されているのよ。 3つの人格 は鬩ぎ合いながら1つの問題を解決していく。 もちろん3基のコンピューターにはそれぞれ意味がある……これは近いうちに話さないとね」
リツコはスクリーンの1つで初号機の準備が整ったのを目視してマヤとの会話を打ち切った。 使徒はもう目前なのである。
「バルーンの方はどう、ミサト!?」
「いま射出するわ! 初号機の出撃ルートの計算よろしく!」
「第5使徒の攻撃方法を確認してからよ!」
「わかってる! 日向君、急いで!」
きびきびした口調と動きでエヴァの射出までの準備を整えていくリツコの姿を、マヤは尊敬の 眼差しで追いかける。 そして彼女は我が目を疑うような光景を見た。 緊急時にはその原因となるものに全てを集中し尽くすリツコが、ほんの一瞬だけそびえ立つMAGIに目を向けたそのとき、いついかなる時にも落ち着いた姿勢を崩さない彼女の崇拝する対象は、下唇を噛み締めて、かすかに頬を戦慄かせていたのだ。 まるで激しすぎる感情の嵐――それは間違いなく哀しみだった――に襲われ、必死に涙を堪えようとする少女のようだったと全てを知った後にマヤは思い返すことになる。 見ている者の胸が締め付けられる、そんな哀しそうな表情だったと。
☆★☆★☆★
いっそ悠然として見えるほどのゆったりした速度で浮遊している使徒をスクリーン上に見つめ ていたミサトは、第3新東京市の最終防衛ラインに到達する寸前で作戦開始を決断した。 芦ノ湖に浮かべられた無人艇は8隻。 それぞれが第3新東京市と使徒を結ぶ一直線上で等間隔に距離をとっている。 甲板に設置された装置から初号機を象ったバルーン・ダミーを遠隔操作で射出できるようにさ れており、使徒に隣接するものから順次それを行っていくのである。
「それと日向君、列車砲台の準備はいい?」
「はい。 葛城さんの指示どおり、ほぼ全方位から攻撃できるようにしてあります。 死角なんてのがあるのかどうかはちょっと疑わしい形をしてますけどね」
「ありがと。 とりあえず砲撃の時間差は……そうね、初めは同時でいいわ。 もしもあの菱形のお化けが何かやってくるようだったら、その後は5秒間隔で各方位からランダムにぶっぱなしちゃって頂戴」
「了解しました!」
日向が作業を開始するのを確認したミサトは、内心の苛立ちを隠せない視線をスクリーンの方 に戻した。 彼女はそれなりの訓練も受けてきたし、この若さでネルフという巨大組織の中枢近くにいるのだから優秀な人間であることは確かだった。 だが、それはあくまでも対人戦闘のノウハウに長けているというだけなのである。 攻撃方法は一切不明で形状すらもそれぞれ違う。 しかも実際に戦場に赴くのはわずか14歳の子供たちであり、ミサトに出来ることはせめて少 しでも戦いやすくなるように条件を整備することだけなのだ。 こんな状況では溜息の1つも吐きたくなるが、彼女の立場はそんな甘えを許してくれない。 込み上げてくる不安と焦燥を無理矢理押し戻しながらリツコに話しかけようとする。 しかし、その言葉は最後まで言い終えることが出来なかった。
「リツコ、そろそろ初号機の準備を……」
ミサトが、初号気の準備を催促させようとすると、突如使徒は8面体の内4面が開かれた。 余りの光景に誰もが絶句していた。 そして、使徒の中から水晶のような物が6個現れた。6個の水晶は、陣形を取り使徒と同じ形にすると開いた使徒は行動を起こす。
「目標の中心で高エネルギー反応!! 使徒の中から現れた水晶体に連動させつつ……収束します!!」
カスパーによる分析情報を見つめていた青葉が絶叫した。
「何ですって!? まさか……加粒子砲!?」
ミサトとリツコが異口同音に驚愕の声を上げた瞬間、スクリーンを白い光が満たし、凄まじい爆発と共にダミー・ バルーンが蒸発した。 発令所内を重い沈黙が支配する。
「……何て化け物なのよ」
このミサトの呟きがバルーン蒸発の瞬間を目の当たりにした者たち全ての内心を代弁したもの だったのは疑いようがない。 あまりにも凄まじい攻撃を放った使徒はさすがに攻撃中は動きを止めていたが、やがて緩慢な侵攻を再開した。
「葛城一尉」
茫然とスクリーンを見つめていたミサトの背後、斜め上方から使徒の能力の一端を見せつけら れても、なお冷静さを失わない声が沈黙を破った。 その声にミサトの全身を縛り付けていた畏怖という鉛の鎖が断ち切れた。
「!? も、申し訳ありません! 日向君、すぐに残りのバルーンを射出して!」
「残り7つとも全部ですか!?」
「そうよ! 射出したらすぐに無人艇は散開。 攻撃範囲を計るのよ! 各砲台からの射撃は当初案どおりで頼むわね! あんなもので撃たれたらエヴァだってどうなるかわかんないわ。 同時に攻撃できる方向はたぶん1つだと思うけど念には念を入れたいの!」
「わかりました!」
日向は自分の上司がこのような状況下でこそ能力を十全に発揮できる人物だと言うことをよく 知っていたが、それでもこの矢継ぎ早の指示には感嘆の念を禁じ得なかった。 その間にもミサトは技術部長を振り向いてまた違う指示を飛ばしている。
「それとリツコ、エヴァの出撃は1時凍結にして! ただし、状況が変化すれば即座に凍結解除になるだろうからシンジ君は控え室で待機よ!」
「ええ、もうやってるわ」
「サンキュー!」
一通りの指示を終えたミサトはくるりと踵を返して、この組織で唯一の上司を振り仰いだ。 碇ゲンドウは腹心の部下である冬月コウゾウを横に従えて、いつもとまったく変わらない姿勢のまま指揮卓に座している。
「重ねてお詫び申し上げます。 先ほどは醜態をお見せしてしまいました」
「……構わん。 君は君に出来ることをやってくれ」
「はい」
敬礼したミサトが発した言葉が消え入るのとほぼ同時に、再びメインスクリーン全体が白い光 を放った。 直視していると目を灼かれかねないその凄まじい光量は間違いなく使徒の加粒子砲である。 やや神妙な表情になっていたミサトもすぐに冷静な指揮官の顔に戻ってその場から大声で確認 の声を発する。
「青葉君、今度はどれが狙われたの!?」
「ダミーです! あ、いや……し、使徒の内部に再度エネルギー反応を確認! だ、第2射が来ます!!全ての水晶体も連動!」
その報告にはミサトよりもリツコの方が目を剥いた。
「冗談じゃないわ! いくら何でも早過ぎる! 第1射からたったの11秒ですって!?」
信じたくない事実ではあったがスクリーンは発光して太い光の槍がダミーを貫く。 無論、人類とてやられているだけではなく、あらかじめ定めてある間隔をおいて苛烈な砲撃で返礼していたが、いずれも真紅の防壁によって効果を与えることが出来ないのだ。
「相転移空間が目視できるほどのATフィールドなんて……それに水晶体の数で防御している。 今まで襲来した使徒とは明らかに能力が違うようね……」
リツコが震える声で呟く間にも使徒は次々にダミーを蒸発させ、稼働砲台を白光の中で塵へと 変えた。 今回の使徒は、あれだけの高火力である加粒子砲持っているのにも関わらず一度使徒は開いていた4面を閉じ、使徒の周りで浮かぶ水晶体が全方位に設置したバルーンや砲台を次々と破壊していく。
「独12式自走臼砲3台とも、消滅! ダミー・バルーンの残りがあと1体です!」
時間が経つにつれて悲鳴に近くなっていくマヤの声が、状況の悪化を視覚だけでなく聴覚によ ってもミサトたちに知らしめる。 このままではジリ貧であることは誰の目にも明らかだった。 ネルフの切り札であり、人類全ての切り札のエヴァが使えない状況なのだから当然だ。 近接戦闘によって使徒を葬り去るのが特徴であるエヴァでは、攻撃可能範囲に射出した瞬間にあの強烈極まりない加粒子砲と水晶体の方位攻撃の洗礼を浴びせかけられ、悪くすればパイロットの命すら失われる可能性がある。 自然、スタッフの視線は作戦部長たる葛城ミサトの元へと集中した。
「……碇司令、よろしいでしょうか?」
決断を迫られる形になったミサトであったが、そのこと自体が迷いを振り切れずにいた彼女を 後押ししてくれると考えれば感謝したいくらいの心境だった。 いかに敗北が確実な状況下にあったとしても、これから彼女が具申しようとしている作戦案は大きすぎるリスクを秘めていたのである。
「言ってみたまえ」
「はい……私は……これ以上の時間稼ぎは無駄だと考えます。資材の無駄遣いは止めて、使徒を 第3新東京市まで導くことを提案します」
「!?」
声にこそなっていないが発令所内の空気が大きく揺れたように見えた。 しかし、その言葉に驚愕という常識的な反応を示したのは、碇ゲンドウ、赤木リツコ、冬月コウゾウを除いたオペレーターたちだけで、むしろ組織の中枢にいる者たちは納得したことを首肯で示す。
「それしかない、ということになるだろうな」
ゲンドウの重々しい口調にミサトも頷いて自らの考えを説明し始める。
「残念ながら私にはその方法以外には思いつきませんでした。 使徒が第3新東京市を破壊しようとしているのなら、最初からもっと違ったアプローチを仕掛けてくるはずです。 彼らが実際に何を目的としているのかまでは不明でも、目標がジオフロントにあることくらいは予測できます。 ですから、この施設自体を囮にして遠距離から狙い撃ちにするのが良策ではないでしょうか」
「許可しよう。 詳細は冬月と詰めてくれ。 技術的な問題は赤木博士に頼みたい」
冬月とリツコは有無もなく頷いた。 碇ゲンドウが許可するというのならば、その決定を覆すだけの問題点がない限りは彼らが是非を言うことはない。 駆け寄ってきたスタッフの1人から受け取った資料を見ながら冬月がまず口を開いた。
「使徒が現在の速度を維持し続けるなら本部施設の直上に到達するのは約40分後という計算が 出ている。 さすがに知能があるためにダミー・バルーンには見向きもしなくなってきているようだ。 無人機と言ってもタダではないから戦略自衛隊の師団長閣下から苦情も来ているしな、これ以上の足止めは無理だと考えてくれ」
「はい、わかっています」
「技術部からも言わせて貰うわ。 本部から地表までの間には特殊装甲が22枚あるけど、もしも使徒があの加粒子砲クラスの攻撃方法を使ってくるなら耐えられる回数はそう多くはないわ」
淡々と事実を述べていくリツコの言葉にミサトは何とも情けない表情でぼやく。
「……白旗を挙げたい気分よ」
「ただし、分析に拠れば加粒子砲を撃つ瞬間にはATフィールドを解除しなければいけないらし いのよ。 そして次に撃てるようになるまでは約11秒かかる……これで少しはやる気と希望を持てるんじゃなくて?」
リツコは澄まして言葉を続けた。
「へえ……」
それを聞いた瞬間、ミサトの口元に不敵な笑みが浮かぶ。 リツコから渡されたピースによって、彼女の頭の中にある作戦案というパズルが完成した証拠だろう。
「それじゃあ、お客様を出迎える準備にかかるとしますか。 ぶぶ漬でも召し上がって頂きたいタイプの来客だけど、出来れば玄関先に長居して欲しいもんだわね」
もう一度ゲンドウに敬礼したミサトは勢い良く踵を返すと、彼女自身の言うところの準備に取 りかかるため、律動的な歩調で部下たちの元へと戻っていった。
☆★☆★☆★
シンジはなかなか出撃命令が下らないまま緊張を持続させ続けることに疲れ始めていた。 すでに二度の実戦を経験し、そのどちらにも勝利してきたという実績はあったが、それでも自分がやられるかも知れないという恐怖には慣れることなど出来はしない。 不安で潰れそうな心臓を必死に落ち着かせようとしながら、この苦痛以外の何物でもない生殺しの状態に孤独な戦いを挑み続けるしかないのである。 これを乗り越えなければ人類を守るなど鼻先で笑い飛ばされても文句は言えないのだから。
(そう言えば……夢に出てきた人も言ってたっけ……)
シンジは陰々滅々としてしまいそうな気分を何とか奮い立たせようとして、幼き頃に見た夢をもう懐かしくなりかけていたがふと思い出していた。
『いいかね、…………? 人間というのは凄い生物なんだよ。 心の中に飼っている恐怖という怪物の存在だけでどんなことでも出来てしまうんだ。 隣人に対する恐怖で、そこを引っ越してしまったり、隣人そのものを殺してしまったり、もっと悪くすれば自分自身を殺してしまうことだってあるんだ』
『ふうん……』
『その怪物に抵抗できずに食われてしまった人間は、周りにも大きな迷惑を掛けることがある。 だからこそ、みんな色々な方法でそれを抑え込もうとするんだ』
『でも、怖いものは怖いよ、…………』
夢に現れる人物や自分の姿は余り見えないが、自分の姿は今とは違う幼い姿で相手に遠慮がちに言ったものだった。
『それは当然だ。 よく怖いもの知らずなどと言うが、それは逃げているとしか思えんよ。 本当の恐怖と向き合って、それでも乗り越えていける人は勇気があると思うだろう? お前はもう恐怖というものを知っている。 それを不幸なことだと言う者も居るだろうが、頑張って逆に考えられるようになってくれると嬉しい』
『……逆?』
『ああ、そうだ。 お前は今、一生懸命に恐怖を乗り越えようとしている。 しかも一度は負けそうになっていた状態から、今ではもう少しで乗り越えられるところまで来ているんだぞ? それだけのことが出来た自分を誇ってもいいくらいなんだ。 お前はそう簡単には他の恐怖に負けることなんてないさ……』
目を瞑って思い出そうとすれば夢の内容がすぐに甦ってきた。 シンジにとっては夢に現れる彼の言葉そのものが暗示のように心を落ち着かせてくれる妙薬であり、恐怖という暴風に晒されているときに支えてくれる頼り甲斐のある大樹だったのかも知れない。心の水面が平らになっていくのを感じたシンジはゆっくりと目を開いていく。
「俺も、あの人のようになれなかねぇ…」
ポツリと呟いたシンジはようやく緊張の抜けてきた体を椅子の背に寄り掛からせて深い溜息を 吐いた。 ちょうどそのとき、回線が発令所のマヤと繋がる。
『シンジ君、聞こえてるかしら?』
「え!? あ、はい!聞こえてますよ」
ともすればそれほど歳の離れていない姉とも思えてしまうマヤの童顔が急にサブスクリーンに 現れたために、シンジは驚きながら返事をした。 あと数秒、回線が繋がるのが早ければ独り言を聞かれていたかも知れないせいもあったが。 そんな彼の様子をマヤはやや別な意味合いに受け取ったらしく、口元に片手を当ててクスッと笑った。
『どうしたの、慌てちゃって? 出撃だって言われるのが怖かったかしら?』
「い、いえ、そんなことないですよ。 それよりも、どうしたんですか?」
『あっ、ごめんなさい。 ずっと待機してもらっていたのに悪いんだけど、出撃はだいぶ先のことになりそうだから、とりあえず控え室に戻っていて欲しいの』
顔の前で手を合わせたマヤが申し訳なさそうに眉をハの字にして片目を瞑る。 先日の事とお互いの歳が近いせいもあり、シンジと彼女はそれなりに親しい話し方を出来るようになっていた。
「わかりました。でも急に出撃が延びるなんてどうかしちゃったんですか? もう使徒はすぐ近 くまで来てるんですよね?」
『ええ、そうなんだけど……うん、それは控え室で説明するわ。 ずっとエントリープラグに居て も仕方がないし、待機の時間がどれくらいになるのかも未定だから』
「了解」
確かにこんな密閉空間に数時間に渡って放置されたらおかしくなってしまうだろうと常々思っ ていたシンジは、控え室での待機というのは歓迎したいくらいだった。 マヤが回線を切るのと同時にプラグ外に出る。 そして彼は少し離れたところにある零号機の格納位置に、純白の妖精がひっそりと佇んでいるのを見た。
「お……」
美しい容貌を明らかな苦悩で曇らせてエントリープラグの搭乗口を見つめているのはレイに他 ならない。
「どうしたんやろ、あんなに思い詰めた顔をして。起動実験も成功したって言うのにな……」
憂いに満ちたその横顔はシンジの頬を上気させるのに充分なものであったが、彼女の表情にあ る種の迷いを見て取った彼は、いつもレイの助けになろうと足を踏み出した。 しかし、シンジが声を掛けようとする直前、レイは遠目にもわかるくらいに体を緊張させて零 号機の内部に入り込む。
「え? what? what! what!? ……レイさんはまだ出撃する予定なんてないはずでしょ!?」
シンジの言うとおりである。 起動させることに成功したレイであったが、零号機を本当に彼女と連動させるための処置が終わっていない今、彼女を出撃させる予定は無いとミサトから連絡を受けていたのだ。 無論、控え室での待機は命じられているのだろうが、それさえも連動実験のための待機であるとはっきり明言されていたのである。
「何かあったのかな…行ってみるか」
先ほどレイが浮かべていた真剣な表情と、何かに思い悩んでいるような仕草がシンジの少し不安を煽る。 知らず足の運びも早くなっていき、ついには完全に駆け出していた。
「レイさーん。 どうかしたの?」
零号機の開け放たれた搭乗口まで辿り着くと、慌てて内部に上半身を突っ込んでレイに呼びかけた。 軽い言い方だがシンジなりに本気で心配していた。
「あ、あれ……?」
そこでシンジが見たのは、コックピット位置に着いてしっかりとコントロールレバーを握り締 めたレイの姿であり、目を瞑っている彼女はシンジの声にも気付かないほど集中してそれを操作 していたのである。 もちろん外部電源も接続されておらず、神経接続も行っていないのだからエヴァは沈黙したままだ。
「レ、レイさん…何をしてるの?」
「!?」
声を掛けていいものか少し悩んだ末にシンジが決断すると、初めて彼の存在に気付いたらしい レイは驚愕と共に目を見開いた。 滑らかな頬が羞恥でサッと赤く染まった。 見ようによってはイメージトレーニングとも受け取れたが、それはレイの真剣そのものの表情が感じさせた錯覚で、実際のところはエンジンがかかっていない車のハンドルを一生懸命に動かそうとしている子供のようだというのが正しい表現だろう。 彼女が頬を染めたのもむしろ当然の反応だったのかも知れない。 しかし、それは彼女という三人称が指すのが綾波レイでなければの話だ。
「あのさ、レイさんはパイロット控え室で待機になってると思ってたから、まだ格納庫に居るの を見かけて、それでどうしたのかなって思っただけなんだ。 べ、別に邪魔するつもりなんかじゃなくて。 ……ごめんね?」
レイの見慣れない反応に少し動転したシンジはとにかく彼女を恥ずかしがらせてしまったことを弁解しようとするが、身の置き所がないという様子のレイに結局は謝るしか出来なかった。 考えてみればレイの今の反応こそ普通の少女がするようなものなのだが、元からそのような知識と経験に乏しいシンジにはとっさに対処のしようもなかったのである。
「ごめんよ……」
「…………いい……」
お互いの顔をまともに見ることも出来ずに俯いた2人の姿は、相手を意識し始めたばかりの若 すぎる恋人たちの風情を漂わせていた。 もしもこの状況をミサトたち大人が見ていたなら、固まってしまっているシンジを歯痒く思いながらも微笑が浮かぶのを禁じ得なかったことだろう。 大人ならば誰にでも遠く過ぎ去ってしまった甘い季節の思い出というものがあるのだから。 今の2人はそれを思い出させる。
「えーっと……ねえ、控え室に一緒に行かない? この前も言ったけど、機会があればたくさんレイさんと話したいんだ。 今ならちょうどいいと思うんだけど」
「……」
「行こう?」
まだ自分の方を向いてくれないレイにもう一度優しく声をかけたシンジは、紳士的にも見えて親が子供に差し伸べるように見える自然な動作で彼女に片手を差し出した。 俯いたままではあったがシンジの方にちらちらと視線だけは向けていたレイは、伏せがちにしていた睫毛を戸惑いと驚きによって見開く。
「……行く」
レイの頬の赤みが増したように思えたのは、シンジの気のせいだっただろうか。 差し出されたシンジの手をおずおずと伸ばされた彼女の手が包み込み、華奢な指先がいつかのときのように慎重にそれを探り始めた。 感触を確かめるように、温もりを味わおうとするように、レイの指先はゆっくりとシンジの手の輪郭をなぞっていく。
(これ……この手だわ……この手が私に温もりをくれる……)
宗教を信じている者が神聖な物に触れるときの恭しさでシンジの手を扱う。
(ナ、ナナ、ナチュイイイイイイイイ!!)
そんな可愛い物を目に入れるといつもどおりのシンジだったが、このままではいつまで経っても控え室に行けないと判断して、彼女の好きなようにさせたまま歩き始めた。 レイはそれでも彼の手を決して離すまいとしている。 ちょうどシンジがレイの手を引いて導いているようにも見える微笑ましい光景だった。
「なんか良いね」
レイの掌の温かくて柔らかい感触に頬を和ませながら、シンジはふと懐かしい感じを覚えて口 を開いた。
「……え?」
「こうやって人と手を繋ぐのは。 自分以外の体温って安心しない? 俺は、本当に人間って面白い存在だと思う。 自分だけだと孤独と感じて、他の人がいると気持ちが高まるよね? 俺なんか臆病だし弱いし? レイさんと一緒にいると嬉しいもん。 ……はっ」
あどけない、と言ってもいいほどの赤い瞳に見つめられたシンジは、少し気分が高揚するのを 感じながら話し続けていたが、自分が何を言っているのを思い出し恥ずかしそうにしていた。
(……ぐあああああっ!! 何恥ずかしい事を言ってるんだ!俺はー!)
猛烈な後悔が襲いかかり、シンジは内心で羞恥心が込み上げ心底から自分を責める。
「あ、あの……ごめんね……変な事言って」
「……」
恐る恐るレイを見るが、彼女には特にこれといった変化は感じられず、やや虚ろな目でシンジ を見つめ返してくるだけだった。 しかし、その状態は何か彼の怖れていたものに思えた。 とにかくレイを正気に戻すのが先決だと考えたシンジは、必死に話しかけることでそれを成そうとするが、彼の言葉は途中で途切れさせられることになった。
「レイさんってば。 だ、大丈夫? 何処か悪いなら……」
「……ううん」
「え?」
相変わらず握った手だけは離さないレイは、少し感情を表に出しているのか言葉に力が入っていた。 普段の彼女からは見られないほど雰囲気を出して。
「シンジ君は私や周りの人を助けてくれる。 碇司令は私に優しくしてくれるけど温もりは無かったのに、だけどシンジ君は私に温もりをくれた。 嬉しかった、私には何も持っていなかったのに温もりをくれて…」
ハキハキと話す今の彼女は、普段無口と言われているのだがシンジもここまでレイがハッキリと話す彼女は初めて見るため唖然していた。 そんな唖然しているシンジを見て、不思議そうにレイは彼に尋ねる。
「…どうしたの?」
(はっ!)
レイの雰囲気は戻り、声をかけられたシンジは気がつき彼の中に嬉しさが混み上がる。 彼女は変わり始めていると、シンジは実感していた。最初は途切れ途切れに近い会話だったのが、一時的とは言え普通に感情を表に出して話したのだから。
「いや。 なんでも無いよ…」
(よっしゃー!!!)
少しでもとレイに感情の揺らぎを作ろうとしていたシンジは、ここにその片鱗が見え心の中で叫んでいた。 この先も少しずつ変えて見せようと考えていると、通路のスピーカーから知らないオペレーターの機械的な声が響く。
『パイロット両名は至急第6会議室まで来られたし。 繰り返す、パイロット両名は……』
放送を聞いた2人は一度顔を合わせ頷く。
「行こうか、レイさん?」
「えぇ」
手を繋いだまま、目的地に足を向け歩き始めた。
☆★☆★☆★
「目標を第3新東京市内の中心部まで誘い込んで、固定砲座と稼働砲座を総動員して十字砲火を 加える。 もちろんそれは囮で、初号機が二子山山頂から大出力のライフルで使徒のコアを狙撃するのが今回の作戦のメインになってるわ」
照明が落とされた第6会議室にミサトの声が響く。 意外に旧式な映写機から光が伸びて、壁に掛けられたシルクスクリーン上に都市近郊の地図を 浮かび上がらせていた。
「もちろん第5使徒はATフィールドを持っているけど、あの使徒には面白い習性があることに 気が付いたの。ある範囲内に入った敵意に向かって、使徒が危険だと感じる物に加粒子砲の一撃を加えるのよ。そして加粒子砲の再攻撃が可能になるまでに要するのが11秒間。 それ以外にも、水晶体での攻撃もあるけど個々には余り火力はないわ…。 でも、それでも中々の威力を持ったビームを持っている。 そして、あの使徒の水晶体は補佐に近い存在ね。 加粒子砲を打つには全部の水晶体を使い、A.T.フィールドを張るにも水晶体が動いているわ。 それを利用してやろうと言うのが今回の作戦……ヤシマ作戦ってわけ。あの強力なフィールドを撃ち抜くためには、生半可な攻撃力では無理だけど、ちょうど戦自研にいい物があったから借りることにしたわ」
ニンマリと笑ったミサトはとびきり意地悪く見えた。 同じ国連傘下の組織でありながら何かと特権の多いネルフである。 だが、殆どは前のシンジと国連軍との交渉がありネルフには負の感情は向けられないで済んでいた。
「ポジトロン・スナイパーライフル。 まさに今回の作戦には打ってつけの玩具よ。 ここに日本中から掻き集めた電力を流し込んで一点集中の狙撃。 今回は初号機が砲手で、零号機が初号機に向けられる攻撃からの防御よ」
シンジは、ミサトの作戦に耳を傾けるが内容を聞いているとレイが盾役と聞くと良い顔はしなかった。 そして、暗い会議室の中に何人かスタッフもいる中シンジは手を上げる。 すると全員がシンジに視線が集められるが、シンジは微動だにしなかった。 説明途中、手を上げたシンジを見てミサトは聞く。
「どうかした? シンジ君。 何かわからない事あったかしら?」
「一つ聞きたい事があって、使徒は挟み撃ちする形で威嚇攻撃しました?」
シンジの言葉に会議室にいるスタッフ達は疑問に思う。 何故、そんな事を聞くのだと。 ミサトは、シンジの言葉を聞き日向に問いかける。
「どう、日向君。その形でのデータはあるかしら?」
「え、えぇ。 同時に仕掛けた攻撃砲台は、水晶体は半分に分かれ同時に加粒子砲を撃たれ消滅してます…」
日向の言う結果を聞き、シンジは右手を顔の近くまで運び親指を額につけて考え込む。 そんな姿を見てミサトはシンジに質問する。
「どうしたの、シンジ君? 何かあったかしら」
シンジの中で、今回の使徒の攻撃方法について考えていた。
「日向さん、その時の加粒子砲って最大火力でした? 自分は実際最初から見てないので推測なんですが、一点集中型と複数型の火力違いませんか? そして、A.T.フィールドも数が違いありませんでしたか? 威嚇攻撃の威力によって」
日向はシンジの言葉で尽かさずデータを見る。 そして、シンジの予想が当たる。
「そ、そうだね…。 それぞれの威力は違いはある。 A.T.フィールドの方も数が多く使われていれば、強い物が張られている…」
「…やっぱり」
「何か分かった事でもあるの、シンジ君?」
シンジは、ミサトと顔を合わせて真剣な表情で言う。
「すみません、ミサトさん…。 その作戦、俺は反対です」
会議室にいるミサトとリツコ以外の人間は、驚きを隠せないでいた。 それもその筈、作戦部長とも言われるミサトが考えた作戦を14歳の少年が反対したのだから。 スタッフ達は、ミサトの考えた作戦が今回の使徒を倒すには絶対に必要だと思っていた。 だが、作戦を否定されたミサトは反応なく彼に理由を聞く。
「何故、反対なの…。理由をお願い」
ミサトの言葉に頷き、席を立ち日向の近くまで歩きシンジは日向に指示どおりにシルクスクリーンの映像を動かしてくれとお願いする。 そして、日向は頷くとシンジは理由を説明する。
「今回の使徒は、8面体の体を持ち自身の一部と思われる水晶体を6個の水晶体を操り攻撃にも防御にも使っています。 先ほど自分が聞いた、この使徒の要である水晶体と本体の周りを把握する能力を聞いてから葛城一尉の考えた作戦を反対させてもらいました。」
会議室にいる人間は、今話してるのが本当に14の少年なのかと思わせるほど言ってる事が外見にあっていないのだから。 その中、ミサトとリツコは静かにシンジの説明を聞いている。
「今回、使徒を倒す為に葛城一尉が用意してくれた兵器。 赤木博士、この兵器は必ずしもエヴァが必要ですか?」
「そんな事は無いわ、弾道予測をMAGIに計算させれば固定砲台でも構わないわ」
「ありがとうございます。 なので、ポジトロンスナイパーライフルは固定砲台で肝心のエヴァは…。 使徒との近接戦闘をするのが最適だと」
シンジの言葉で、ざわつく会議室。 あのような使徒相手にエヴァを近接戦闘をさせれば、一瞬でやられてしまうでは無いか。 そんな考えを持った人間は大半。 シンジの話は続く。
「皆さんは、自分が何を言っているのだと考えでしょうが今回の使徒の特徴でエヴァを同じ場所に設置するのは余り得策ではないと思います。 先に葛城一尉が考えた作戦だと、使徒はフリーになってしまい万が一狙われたら零号機が盾役にした所、完全に守れますか?守れない場合、初号機が無事でも精密機械であろうポジトロンがやられてしまえば自分達の負けです」
一息をつけてシンジは日向に指示を送りスクリーンの映像を半分使徒の映像と地図の映像を流してもらう。
「なので、ポジトロンは固定砲台でエヴァは近接戦闘を行います。 この使徒は、攻撃も防御も水晶体の数で威力が変わるのは全員はお分かりですよね? なので、初号機・碇シンジと零号機・綾波レイは使徒を挟み撃ちの形で戦闘を行います。 あの使徒は近くにエヴァがいれば、遠くにあるポジトロンスナイパーライフルに気づいてもエヴァを無視する事は出来ません。 そして、攻撃の際威力が強くなればラグがあり、変わりにラグを無くそうとすれば威力は落ちます。 度々すみません、赤木博士。 ポジトロンは最大何発撃てますか? 後、先程の作戦での盾役に何か持たせますよね? それを零号機に持たせます」
「2発よ。 …1発目が外れた場合、2発目は冷却含めて17秒ね。 使おうとしていた盾、急造仕様だけど元はSSTO(スペースシャトル)の底部で超電磁コーティングされている機種だし、使徒の最大火力を15秒で個々での水晶体のビームなら数発は耐えるわ」
リツコの話を聞いて頷くシンジ。 その後、彼はミサトの方に向く。
「何かしら?」
「1発目を撃ち、もし倒せない場合はエヴァを使徒の近くに射出して使徒を翻弄。 その間にも葛城一尉が自分と綾波レイの指示をお願いします。 ポジトロンが撃てる様になれば自分達は、その射線状から退避しなくてはなりませんので。 他の人は何故1発目からエヴァを出さないのか不思議でいるでしょう。 すみません、これについては1発目で使徒を倒せれば、自分達が出なくて済むかもしれないからです。 2体の使徒を倒したと言えど使徒相手は怖いので…」
ミサトはシンジの言われた役目に頷いた。 会議室にスタッフ達は理解する。 シンジは勝率を上げるだけでは無く、やはり2体の使徒を倒したが怖い為にこの作戦にしたいのだと。 誰も彼を臆病者とは言えない、大人は考えて子供を戦場に送り出すだけなのだから。 今の話も、ただ否定するだけでは無く改善していて自分とレイの安全を考えた作戦なのだ。 こうしてシンジの上げた作戦は採用される。そして、作戦開始時間は0時となった。
☆★☆★☆★
格納庫に向かう通路はチルドレン以外にはほとんど使用する者もおらず、そこを歩くシンジは 自分の足音がやけに大きく響いているように思えた。 そして彼の足音よりもやや間隔が短い足音がそれに続く。シンジは緊張のせいか少し早くなりがちな歩調を意識して緩めると、彼の後に着いてくる少女を振り返った。
「……レイさん、本当に大丈夫?」
すでに何度目かもわからない問いかけ。 もちろん彼はレイがどのような反応をして、何と言って答えるのかも承知していたのだが、そ れでも問わずにはいられなかったのである。
「……ええ、体には問題ないわ」
わずか100mほどの通路を歩く間にシンジの問いかけは数回近くにもなっていたが、そのたびに彼女は同じ答えを返している。 素っ気ないが彼女は嫌な顔をするでもなく、どちらかと言えば穏やかさを内包した口調だった。 レイは自分を見つめているシンジの目に視線を合わせると、これだけはいつも変わらない生真面目な表情のまま何度か口を開け閉めする。 しかし、それも数瞬のことで彼女の喉から愛らしい声が滑り出た。
「使徒はもう本部の直上に到達しているのね」
「あ……お、おう、そうみたいだね。ミサトさんたちが慌ててきたし……」
それはシンジがこの街にやってきて初めてあった時の聞いたレイの声の中ではもっとも親密な感じを与えるものであったため、思わず彼女の顔をまじまじと見つめてしまったほど彼は戸惑ってしまった。 レイはいつも真っ直ぐに見つめてくる、と彼は思う。 彼女の心と同様に澄み切った瞳を大きく見開いて、まるで世界の全てを焼き付けようとでもし ているような視線を向けてくるのだ。自分の内面までも彼女の瞳にさらけ出される感覚に人々は戸惑い怯える。
(だからレイさんは孤立しちゃうんだな……)
その純粋さゆえにレイが誰にも受け入れてもらえないなど彼には耐えられなかった。 今までの彼女であればそんなことを気に留めなかっただろうが、シンジとの出会いをきっかけにして彼女は明らかに変わり始めているのだから。 その証拠につい最近までの彼女しか知らぬ者には信じられないことだが、レイはまだ自発的に始めた会話を打ち切っていない。
「特殊装甲板が全て破られる直前まで準備に時間がかかるらしいわ。 それまでは休むようにと指示が出ているから……」
「うん、そうみたいだね。 今回の使徒は、要が水晶体の為かエネルギーで作ったグラインドブレードで掘って本部に攻めようとしてるね」
「少し眠るにしても時間が余るほどだわ……」
もちろん彼女が話していることは、一緒に先程ミサトの指示を聞いていたシンジも知っている内容ばかりだった。 しかし、レイがこれほどまでに饒舌になっていること自体が貴重であり、しかも彼女なりの極めて遠回しな方法ではあったが、或る好ましい申し出をしていることに気が付いたシンジは憂いがちだった表情をようやく綻ばせることが出来た。
「少し眠って……起きたら展望室に来てくれないかな?」
「……行くわ」
「うん、そこで待ってるから。あそこなら直通エレベーターで格納庫まで降りられるし、急な呼 び出しがあっても平気だと思うから。今日は満月だから、どうせならレイさんと一緒に見たいな」
「ええ……」
ごく自然な口調でシンジは誘い、レイも静かに頷いた。 彼女はうまく言葉で表現することが出来なかったのだが、作戦開始までの時間をシンジと会話することで過ごしたいと暗に申し出ていたのである。 それを察したシンジが世慣れない少女のために助け船を出した――言葉にすれば、たったこれだけのことに過ぎない。 しかし、それは貴重な一歩を踏み出したということでもあった。
「それじゃあ、そろそろ行こうか」
「……」
レイは自分に差し出されたシンジの手を暫し無言で見つめたあと、そっと手を伸ばして握り締 める。 感触を確かめるように数回握り直したレイは、ようやく自分の思いどおりに落ち着くことが出来たのか安堵の息を吐き出した。
「レイさんは手を繋ぐのって好き?」
「……気持ちいいから……」
「そうだよね。お互いがちゃんと握り合ってないと繋いでるって感じもしないし、片方が嫌だっ たらいつでも離せちゃうんだもんね」
そう言われるとレイはしっかりとシンジの手を握っている自分の手を見つめて少し顔を俯けた。
「あ……う……」
別に後ろめたいことなど何もないと言うのに、まるで叱られた子供のような仕草をするレイが 愛らしくも可笑しく、シンジは込み上げてくる笑いを抑えることが出来なかった。
「ぷっ……く……あははは! いいんだよ、レイさん! 自分のしたいようにすればいいんだよ。レイさんはもっと自分勝手でもいいんだからね……あはははっ!!」
シンジはこのときは本当に腹の底から笑っていた。 もしも今、彼らが歩いている通路を偶然にも通りかかった者が居たとしたなら、このネルフ本部においては久しく聞かれていなかった明るい響きを耳にして驚きに目を見開いたことだろう。 この基地には以前から子供が居たというのに、だがシンジが来てから変わり始めている。
「そんなに……笑わ……ないで……」
「あ……ご、ごめんよ。 でも、そんなに悲しそうな顔をしなくてもいいんだってば。 俺はレイさんと一緒に居られて楽しいから笑ってるんだよ。 こうやって話をしていて、楽しい気分になったからなんだ」
「私と一緒に居て……楽しい……?」
彼女は明らかな戸惑いを瞳に浮かべていた。 シンジが突然笑い出したことで、自分の行動がおかしかったのかと思うといたたまれないほど悲しく、彼がそのことにすぐに気が付いて慰めてくれて、しかもこんな自分と一緒に居ることが楽しいと言われた。その言葉を聞いただけで胸が軽くなり、頬が熱くなるのを感じる。
(どうしてしまったの……シンジ君の表情が変わるだけで私も……)
シンジが笑っているのを見れると嬉しかった。 悲しんでいたり、苦しんでいたりすると胸が痛んだ。 彼が傍にいるといつの間にか話しかけてもらえることを期待している自分が存在するのを自覚したレイは、それからと言うもの彼の一挙一動が気になり、視界の片隅に捉えていないときには、ついその姿を探し求めるようにまでなっていたのである。
(今までは眺めるだけで満足だった。 でも……今は私もエヴァを動かすことが出来る……シンジ君の傍にもっと近付けるような存在になれた……)
最近、シンジがよく話しかけてくれるようになったと彼女は思う。 しかし、レイはそれを自分もエヴァのパイロットであるという事実に結びつけているところがあり、未だシンジの決意や本当の想いには心を飛ばすことは出来ていなかった。 だからこそ、先日の起動実験が成功したことを喜んでいたし、これでシンジはもっと話しかけ てくれるようになるはずだとも考えていたのだ。
(今回もそう……眠った後に会話をしようと言われた……)
哀しいほどに純粋な少女であった。 その心の内を語ることの少ないレイであったが、もしも彼女が感じている寂しさを素直に口に 出すことが出来ていたなら、それを聞いた誰もが彼女を守ってやりたいと思ったことだろう。 しかし、現実にはレイを理解しようとした者などおらず、シンジが第3新東京市にやってくるその日まで、彼女の理解者は碇ゲンドウただ1人であるに過ぎなかった。
(嬉しい……これが私の心……シンジ君の傍に居たい……もっと近付きたい……)
レイの心が歓喜の声をあげている。 そして、そんな彼女の心を知ってか知らずかシンジは少し恥ずかしそうに言った。
「もちろん楽しいよ。 だってさ……俺はね……レイさんのことが好きなんだから……」
「あ……」
彼女がその言葉を正しいかたちで受け止め切れたのかはまだわからない。 しかし1つだけ確実なことがあるとすれば、このあとレイが眠りにつくためには相当な時間を要するということだろう。 ジオフロントから唯一地上にまで到達している施設。 その展望室からシンジと眺める月を思い浮かべ、そしてたった今、彼が囁いた言葉を胸に抱き締めてベッドに向かうのだから……。
★☆★☆★☆
暗い通路を1つの人影が走り抜けていく。 いかにも急いでいるという事がわかる乱れた呼吸だったが、その薄明かりにも体格の華奢な様子がわかる人影は決して止まろうとはしなかった。
時折、わずかながらに走る速度が弛むのは、通路の壁などに設置されている電光掲示板の時計 を確認するときだけで、そこに表示された時刻を見るたびに再び速度を上げていく。 表示された数字は『21:03』となっている。 焦る思いを胸に抱え込みながら必死にエレベーターホールを目指すのは、身体のラインがくっきりと浮き出る薄いスーツを身に着けている少女である。 もちろん肩からジャケットのようなものを引っかけてはいるが、一見すると裸の上にそれだけを着ているとも思えてしまうほど、その少女の肌とスーツの白は似通っていた。
「はあ、はあ、はあ……着いた……早く……行かなければいけない……」
同年代の少女たちと比べるとやや低いが耳に快い声が、彼女の内心の焦りと共に静寂に包まれ た空間に反響する。 よろよろとエレベーターに近付き、正三角形のボタンを掌で叩いた。
「……」
何ブロックか上で停止していたエレベーターが呼び出しに従って彼女の居る最下層まで降りて くるが、幾つかあるうちの1つが最上層で停止しているのを見た少女は超高速のエレベーターで すらも遅すぎるように感じる。 彼女はそこを目指しているのだ。
「シンジ君……」
祈るように胸の前で両手を組んだレイは、そっと睫毛を伏せて少年の名を呟いた。 本来ならばもっと早く仮眠を終わらせて展望室に出ようとしていた彼女だったが、めくるめく幸福感と胸の鼓動を抑えるには、それ相応の時間を必要としてしまったのだ。 待っていると言ってくれたシンジが、一体いつからいつまで待っていてくれるのかなど、悲しいかなレイには想像もできなかった。
「まだ居てくれる……居て欲しい……」
エレベーターが到着したことを告げる澄んだチャイムの音に目を開けたレイは、普段の彼女か らでは考えられない慌て方で中に飛び込む。 後はもうじっと待つだけだ。 しかし、レイにしてみればまだ一生懸命にエレベーターホールを目指して走っていたときの方が気分が楽だと言えた。 つらくても自分が急げば到着までの時間を短縮できた先ほどまでとは違い、今は何をやっても遅くなることはあるが早く着くことだけは有り得ないのである。 だから彼女に出来ることは、エレベーターが一刻も早く自分を最上層まで運んでくれますようにと静かに祈ることだけだった。 数秒後、レイは閉じていた瞳をゆっくりと開いた。
「……」
それと同時にドアが音もなく横にスライドし、まだ開かれたばかりの赤い瞳が月光に照らされ た影を捉える。 展望室に設置されたベンチの1つに座り、シンジはじっと空を眺めていた。
「シンジ君……」
シンジが見つめているのは天に浮かぶ孤高の姫君たる満月であろうが、その視線は同時に月光 を受けて青く輝く第5使徒の姿をも捉えているように見えた。 人類に――いや、それよりも先にネルフ本部の親しい人々に確実な死を運んでくる使徒であったが、月を背にしてビル群の中に浮かぶその光景は幻想的な美しさを醸し出しているせいだ。 しかし、レイにはその遠い光景よりも、冴え冴えとした月光に照らされた少年に目を奪われた。 その場にいるだけで彼女を優しい雰囲気で包み込んでしまう不思議な少女のような少年に、である。 シンジは透明感のある青さに包まれながらゆっくりと立ち上がり、胸を高鳴らせた少女に微笑みと共に話しかける。
「……レイさん、来てくれたんだね」
「え、ええ……」
「良かった、作戦までに間に合ってくれて。 こっちのベンチに来るといいよ。 とっても綺麗に月 が見えるからさ」
言いながら手を差し伸べてくるシンジを見つめたまま、レイは少し頼りない足取りで電灯の点 いていない展望室を彼に向かって横切っていく。 シンジは相変わらずその様子を愛おしげに見守っており、自分の指先にレイの手が触れると、 それを柔らかく握ってベンチへと誘った。
「ほら、ここに座って」
「あ……」
塵など無いというのに軽くベンチの上を手で払うと、少しぼんやりとして見えるレイの両肩に 手を置いて、少しだけ下に向かって力を込めて彼女を座らせる。 別に抵抗するわけでもなく腰を下ろしたレイは、暫しの間まだ経ったままのシンジの顔を見上げていたが、やがて空いている自分の隣に視線を移して少し考え込んだ後に、先ほどシンジがしたように有りもしない塵を払った。 そしてもう一度シンジをあの生真面目な表情で見上げて口を開く。
「……座って」
「あ、うん、ありがとう」
ちょっとした彼女の仕草にもシンジは優しい微笑で応える。 それがレイの心を波打たせるのだ。
(不思議な気分……だけど、気持ちいい……)
少年の横顔に視線を走らせながらレイはそんなことを思う。 シンジは彼女の隣に腰掛けたが別に何かを話しかけようとせずに無言のまま月を見上げていた。 話しかけてきてくれないことが少しだけ残念にも感じられたレイだが、彼女もまた同じように 空を見上げた。 それが自然だと思ったからであるし、彼と同じ物を見てみたくなったのだろう。 もちろん、そんな彼女の様子をシンジは肌で感じ取っていた。
「レイさんはよく空を見ているけど、夜の月とかも見たりするの?」
シンジは快い気分に包まれながら話しかける。
「そうね……あるかもしれないわ」
「人と一緒に見るのは初めて?」
「ずっと前に……まだ今よりも小さかった頃に碇司令と見たわ。花火というもの見せてくれた後、 だったと思う……」
「そっか、お父さんと見たんだ。楽しかった?」
「たぶん……」
レイはどこか遠くを見つめる視線になって呟く。 自分の心に沸き上がってきている感情を完全には理解し切れていないのだろうが、彼女のその表情を見れば今の気分など容易に想像することができる。
「……今度さ、花火見に行こうよ」
「え……」
「今回の作戦が終わって、他にも色んなことが片づいたら見に行こう? 綺麗な浴衣とか着たら きっと似合うと思うよ」
「似合う? 浴衣……?」
レイは彼の言っている言葉の意味がわからないのか、何とも頼りないイントネーションで繰り 返した。 知識としてそのような衣服があることはもちろん知っているのだろうが、それを自分が身に着けて何かをするなどということは彼女の意識には無かったのだろう。
「そう、浴衣だよ。濃い藍色のなんていいと思うな。月明かりの下で見たら、きっと紫陽花みた いに綺麗だと思うんだけど」
「……」
「ど、どうしたの? い、嫌な喩えだった!?」
シンジは自分でも少し気障な言い方をしてしまったとは思っていたが、レイが突然口を噤んで、 しかもわずかに眉根を寄せたことに驚いた。 自分の知らない彼女の心の傷に触れてしまったのかと焦る。
「……別に……嫌じゃない」
「そ、そうなんだ、良かったぁ……」
「……けど……」
「え? な、なに?」
ぼそぼそと聞き取れないほど小さな声でレイは早口に理由を言うが、当然のことながらシンジ は何を言ったのか判別できずに聞き返す。 心なしかレイの頬は赤らんだように見えたが、それはシンジの言葉を嬉しく思ったためではなく、もっと別な理由によってそうなっているだけだった。
「……あんまり難しい比喩を使わないで……私、そんな風に物を見たことがあまりないから、よ くわからない……」
消え入るような声でそれだけを言ってレイは俯いた。 シンジの視線から身を隠してしまいたいとでも言いたいように、彼女は自分のことを深く恥じ入っていたのである。
(レイさん……)
その姿を見たシンジの表情がこの日初めて曇る。 純粋すぎるということがどれだけ美しく哀しいものなのかということを目の当たりにさせられた彼の目にはうっすらと涙さえ浮かんでいた。 レイのためになら何でもしてやりたいという想いが浮かべさせた涙だった。 しかし、それすらも少女はそうと受け取ることが出来ない。
「あ……嫌……悲しい顔をしないで……私が悪いのね? 何でもするから……話しかけるのを止 めないで……」
哀れなほどに狼狽したレイは、ようやくその存在を感じ取ることが出来るようになった細く途 切れやすい絆の糸の端を離すまいと、自分に提供できるたった1つのものを差しだそうとする。 何でもあげるから、とは彼女は決して言わない。 自分が何も持っていないと思いこんでいるからだった。 レイの持ち物の中で本当に彼女が自分だけの物だと言い切れるのは、その純粋すぎる心を内包 する美しい身体以外には思い浮かばなかった。 だからレイはそれを差し出し、奉仕することを申し出たのだろう。 彼女が大切にしている壊れた眼鏡は碇ゲンドウのものだ。 そしてもう1つ、レイ自身が開け方を忘れてしまった箱根細工の綺麗な小箱は、間違いなく彼女だけの物だったが、それを失くしてしまうことだけは彼女の心が許そうとしなかったのである。 ……哀しい少女だった。
「レイさん!」
「ぅあ……」
シンジは隣に座る少女を抱き寄せた。 もちろんレイはその力のベクトルに逆らおうとなどはせず、訳も分からないままに彼の望むままにしようとでも言うのか、自分からシンジの腕の中に身を擦り寄せることさえしてみせる。 意識してはいなかったが、そこには少女の芳純な媚態があった。
「どうしてそういうこと言うのさ……」
「あ……」
シンジの声が涙で揺れていることにレイの心がますます混乱する。
「俺は怒ってなんていないし、レイさんのことはどんなときだって好きだよ?」
「好……き……?」
「そうだよ。それにね、女の子はそんな簡単に『何でもする』なんて言葉は言っちゃいけないん だ。俺はいつだってレイさんの傍に居たいって思ってるんだから……話をしたいって思ってるんだからね」
「……」
「それにその言葉は俺の台詞なんだしさ。 『レイさんの傍に居させてくれるなら何でもする』って。 『何も惜しい物なんてない』ってね」
レイの顔が見る間に赤く染まっていく。 耳元で囁かれる言葉の中に自分の想いと同様の何かを感じ取ったせいだろう。 このとき彼女はシンジがしているように自分も彼の背中に腕を廻して良いものかと迷っていたが、やがて意を決したように、脇に垂らしていた両手を上げてシンジの背中に添えた。
「少しずつ色んなことを覚えていけばいいんだよ。 そんなに難しいことじゃないんだ。 これからは何かを見たときに少しだけ時間を使ってあげよう? そうすれば気付かなかった色々なものが見えてくるよ、きっと」
レイの行動を嬉しく思いながらも彼女を驚かせないように平静な口調のまま言葉を続ける。 案の定、拒まれなかったことに安堵したレイはシンジの背に廻した両手の力を少しだけ強めて きた。
「……やってみる……シンジ君がそう言うなら……やってみる……」
「うん、レイさんはいつも何も持ってないみたいにしているけど、本当は何だって持ってるはずなんだ。見守ってくれる人だって、大切な物だって、全部持ってるんだからね」
「ええ……そうね。 そうかもしれないわ……きっと、そう……」
その言葉を聞いたとき、レイの両手が狂おしい力でシンジを抱きしめた。 シンジが言う全てはいま自分の手の中に存在しているのだと主張しているかのようだった。
「……ねえ、レイさん?」
もはや絶対に離さないと言わんばかりに彼にしがみついている少女にシンジは優しく囁きかけ ながら、しかし彼女の肩に手を掛けて身を離させた。 レイの表情が見る者の胸を引き裂く悲痛なものに変わる。 そこにあるのは失うべからざるものと分かたれた恐怖と、その存在から拒絶されることへの怯えだった。
「お願いがあるんだけど……聞いてくれる?」
1つになろうとするような抱擁は解かれたがシンジは変わらない優しさでレイを見つめている。 それを見て明らかにレイの全身から緊張が抜け落ちた。
「……願い?」
「そう、俺からのお願いだよ。言ってもいいかな?」
「……ええ」
先ほどとは違う緊張にレイの体が強張る。 いつもどおりの生真面目な表情で彼の言葉を待つレイにシンジは優しく微笑みかけた。
「笑って」
ただ一言に込められた幾千もの想いがレイの心に澄んだ鐘の音を鳴り響かせる。
「これが俺からのお願いだ。今すぐにじゃないんだ。嬉しかったり、楽しかったりしたときに 笑って欲しいんだ」
「あ……」
少女の中で反響するのは、ずっと眠り続けていた彼女の心を目覚めさせる黎明の響きに他なら ない。 レイはまだシンジの体に添えたままだった両手をゆっくりと上に滑らせていくと、その柔らかい掌で彼の両頬を包み込む。
「……レイさん?」
「……」
思わず問いかけたシンジにも応えることなく、彼女の小造りで美しい顔がわずかに傾けられて シンジに近付いた。
「レイさ……」
「……ん……」
それは極めて自然な成り行きによって始められた口付けに見えた。 月明かりの中で2つの唇が合わせられ、時間というものが意味を無くした世界に彼らを誘っていった。 展望室に満ちた青く神秘的な光は、月光を透過させた使徒によるものであったとしても、もはやそんなことは彼らには関係ない。 お互いの温もりを感じ取ることだけに全てを捧げ尽くしていたのだから。 しかし、無限に続くかのような時間にも終わりは来る。
「……」
「……」
まださらに深く温もりを確かめあう術を知らない彼女には、お互いの心に楔のように想いを残 して離れるしかなかったのである。 しかし、無言で瞳を見つめ合う2人のうち未だ幼すぎる心を成長した肉体に留めおく少女に変化が訪れ、蕾が咲きこぼれるように桜色の唇が和らいだ。 シンジの目が驚きに見開かれ、次いで愛おしさに細められる。
「うん……そうだよ、レイさん。 そうやって笑っている方がずっといいよ。 すごく綺麗で、すごく優しそうに笑うんだね……。 後、男の俺が言うことじゃあないけど。 …今のがファーストキスになるね」
そう言った彼は、性別が分からなくさせるほど男性と女性が混じった魅力を出していた。先ほどシンジが驚いたのはレイが微笑んだことに対してではない。 汚れを知らない微笑というものを初めて目の当たりにし、そのあまりの美しさに驚いたに過ぎなかったのである。
★☆★☆★☆
重苦しい沈黙が発令所内を包まれていた。スクリーンに映し出された青く輝く使徒の脅威はすでに第17特殊装甲にまで到達し、本部を守る隔壁は残りわずか5枚に過ぎない。 急ピッチで進められている作戦準備の経過報告を聞きながら、ミサトは焦る心を抑えて親指の爪を噛んでいた。
「……変わらないわね、その癖」
「何よ、リツコ」
「その苛々しているときに親指の爪を囓る癖よ。何回も加持君に窘められておいて、まだ治って ないなんて相当な頑固さね」
言いながらリツコは肩を竦めて見せた。
「あのねえ。あの馬鹿の話はしないでくれる? あいつとはもう別れてから何年も経つの。今更 どこで何をしているのかわかんない男の思い出に浸りたくもないわ。 それに今はシンちゃんがいるもの!」
「あら。思い出したくないのは未練の証拠よ? ドイツ支部にいるってことくらい貴女だって当 然知っていることだと思うけど」
「……性格悪ぅ~」
過去知りのうえに性格まで知り尽くされている友人にミサトは思いっきり渋面を作って見せた。
「私の緊張を解そうってのはありがたいけど、もう少し話題を選んでくれると助かるんですけど ね、赤木博士? これじゃ晒し者じゃないのよ」
周囲を見回したミサトは大きく深い溜息を吐く。 特にリツコの愛弟子であるマヤと、どこか複雑な表情を上司に向けている日向の視線を痛いほど感じたせいであろう。
「緊張が解れて良かったわね」
「はいはい……ったく……」
感謝半分、憎たらしさは上限オーバーという感じの視線をリツコに向けた後、ミサトは再び真 顔に戻ってスクリーンの1つを見つめた。 片隅に表示された時刻は『22:55』となっている。
「……そろそろ時間のようね。マヤちゃん、パイロット両名の呼び出しをよろしく」
少しずれかけていたベレー帽の位置を直したミサトは、一瞬だけ親指を見つめて顔を顰めると、 次の瞬間からは葛城一尉として行動を始めた。
二万字越え!
書いたわー!
後は後編や!
「俺的には、最初の1発目で倒して欲しいな…」
喧しい!楽すんな、最初の方でラミーの砲撃食らってないんだから!
ヒャハーーーー!!してやったぜ!俺は原作を噛み殺したでー!とあるウニみたいに!
さあ、後編を早めに出して欲しいなら感想に「ジーク・ヨッピー!」と書くがいい!数が多いほど私の力は!
ドクシャアアアアアアア
ギャアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァ……………
「ふうっ…、お騒がせしました。疲れの余りに壊れたヨッピーを母星にまで、物理wで帰しました。まぁ、先程の事は気にせず次回をお楽しみください。では、失礼しました」
サラダバーーーーーーー!