もう正直に言いますね。
オルチーナ様にダァダァしたくて書いた反省はしていない←鉤爪
ほぼほぼ妄想と勢いで書いてますし、本編と食い違いあったらすいません
1919年の暮れ
ルーマニア
トランシルヴァニア地方
馬車の揺れが酷くなったので、故郷に近づいた事が分かった。
私は揺れる馬車の中で目を覚まし、おおよそ4年ぶりの故郷を窓の外に認める。
故郷はあいも変わらず、この季節特有の寒波と吹雪によって白化粧を施していた。
ウンザリするような景色だが、同時に安堵も感じる。
1916年の春、私は他の9人の若者たちと共にこの村から出征した。
その前夜、故郷の人々は前代未聞の世界大戦に向かう我々のために、精一杯の酒や肉料理でもてなしてくれたものだ。
白い豚のロース肉なんて、今まで後にも先にもあの夜しかない。
でもそれが人生最後のロース肉になっちまった奴もいる。
出征した10人の若者のうち、生きて故郷に向かっているのは私を含めて2名だけだった。
1人は私の向かいに座っているが、久々の帰郷にも関わらずその顔色はよくない。
私は心配のあまり、猫背で座り込み顔を上げようともしない"戦友"に語りかける。
「そう心配するな、モロー。我々は生き残ったんだ。」
「………あわせる顔がない…」
「アレはお偉方が悪いんだ。皆分かってくれるさ。」
そうは言いつつも、私は内心毒づいた。
"よく言うぜ"
サルヴァトーレ・モロー。
弱々しい声音に、弱々しい面をしているが、この漁夫は案外ちゃっかりしている。
4年間共に戦ったが、こいつはいつもオーストリアの砲弾の滑空音を聞くや否や、
こいつがマスクを装着した時は大抵毒ガス弾が降ってきた。
こいつが歩哨に立った時は敵の狙撃兵は何もしなかったが、他の場合は大抵そうではなかった。
将校殿も言っていたが、こいつは実は見た目に反して相当にしぶとい男なのだ。
「……だって…アッペルフェルド……おれたちは負けたんだ…」
「いいや、勝ったんだ…少なくとも、最後には。」
この戦争に於ける我が祖国ルーマニアの"善戦っぷり"と言えば、語るに尽くせない。
60万の兵力を擁しておきながら、たった数万の中央同盟国軍に叩きのめされ、我らが故郷トランシルヴァニアからでさえ追い出された。
何故そんな事が起きたかと考えると、思い当たる節はいくらでもある。
我々は出征してすぐにライフル銃を渡され、そのまま前線に配置された。
これでは高度な訓練を受けたドイツ帝国軍に太刀打ちなどできはしないのも当然であろう。
確かに初期の攻勢こそ順調ではあったが、中央同盟国側が準備を整えて反撃をしてくると、我らはあっという間に総崩れとなった。
政府が降伏宣言をした時など生きた心地がしなかった。
こんな雪の積もる寒村でも、大切な我が故郷である。
2度と戻れないかと思うと胸が痛んだ。
結局中央同盟国側は徐々に追い込まれていき、ルーマニアは土壇場で降伏宣言を覆して"戦勝国"となったわけだが、今度はハンガリーで共産主義者共が台頭して"延長戦"が始まった。
この時は我らがトランシルヴァニアを取り返すための戦いとあって、軍隊の士気は極めて旺盛であった。
モローでさえやる気に満ち溢れ、活気すら感じられたのを覚えている…そして相変わらずしぶとかった。
"延長戦"を生き延びた我々は今、故郷への帰路についていた。
我々の不甲斐なさ故に一度は失った故郷だが、最後には我々の手に戻ったのである。
モローは心配していたが、私は少なくとも非難されるような事はないと見ていた。
村の住人達は口数の少ない田舎者ばかりだが、分別のない人間は殆どいない。
外部の人間は我々のことを無愛想だと言うが、実際のところは不器用なだけなのだ。
ここの住人が本当は暖かい連中ばかりだというのは、昔からよく知っている。
窓の外の景色を見るに、私の予想はあながち間違いでもなさそうだった。
厳しく振りつける雪にも関わらず、我々の馬車を出迎えるために待っている人々がいたからだ。
その内の1人は否が応でも目につく。
2m90cmの人物となれば、この吹雪の中でさえ一目瞭然であろう。
私はその身長2m90cmの人物をよく知っていたので、その身長に驚く事はない。
ただ、その人物が我々を出迎えに来ていることに関しては非常に驚いた。
「ほらな、モロー、見てみろ。我々は歓迎されている。」
「………わぁ!ほんとだぁ!」
モローは醜男だが、その純粋さにはどこか癒される時もある。
猫背の漁夫は先ほどまでと打って変わって、馬車の窓に張り付いて村の方をみていた。
私も私で、身長2m90cmの人物から目を離せない。
馬車は速度を落として、やがては停止した。
巨大な人物がこちらに向かってくるのが見えたので、私は急いで馬車を降り、その人物への挨拶を行うことにする。
「オルチーナ様!セバスティアン・アッペルフェルベフゥ!?」
報告が途中で歪な叫び声に変わったのは、吹雪のせいではない。
身長2m90cmの貴婦人が、あろうことか体重70kgの成人男性をまるで子供でも扱うかのように軽々と持ち上げて、その上この吹雪の寒さを忘れさせるほどの抱擁を行ってきたのだ。
あまりに強く抱き抱えられたせいで、貴婦人の豊満な"母性"が顔面に押し当てられて息もできやしない。
辛うじて確保されている視界には、他の出迎えの人々が唖然とした表情でこちらを見て、次いでモローに労いの言葉をかけているのが見えていた。
おそらくはこの熱々の抱擁にドン引きしての行動だと思われる。
「………お、お母様…」
「後にしてちょうだい、ベイラ」
「………えと、あの…セバスティアンが…死んじゃう…」
「あっ…私とした事が……」
2m90cmの貴婦人の長女、ベイラ・ドミトレスクの諫言のおかげで、私はようやく地上へと下ろされた。
きっと私の顔はあらゆる理由で真っ赤になっているはずだ…吹雪と、抱擁と、それに伴う"接触"によって。
鼻先に残る、マダムの優美な香水の匂いにクラクラとしながらも、私はなすべきことを成すために、もう一度姿勢を正して報告を行う。
「セバスティアン・アッペルフェルド、只今戻りました!」
「よく戻りました、セバスティアン。本当に…よく戻ってくれました。」
「おかえりセバスティアン!」
「お疲れ様!」
熱い抱擁を持って私を迎えてくれた貴婦人、オルチーナ・ドミトレスクと、その娘であるカサンドラとダニエラが、そう言いながら笑顔を向けてくれた。
私はセバスティアン・アッペルフェルド。
栄えあるドミトレスク家に仕える運転手である。
詳しい事は後に書くだろうが、私はドミトレスク家の方々には多大な御恩があった。
そんなドミトレスク家の現当主から熱烈な出迎えをしていただくという栄誉を受けた時、私はまだこの村が、出征した時とそのままのように思えていた。
しばらくして、それが間違いであると言うことに………私は気づくはずもなかったのだ。