ドミトレスク城での取引の後、続いてハイゼンベルクの工廠へと向かう。
彼の頼んだ品物がかなり大きく、それを取り出さねば他の村人や貴族への配送ができないからだ。
馬は抗議の声を挙げていたが、私は何もしてやることはできない。
なんだお前。
私の体重にケチをつけようってのか?
ケチをつけたくなるのは分かるが目を瞑ってくれ。
食わないと勝手に身体が崩れ去るんだよぉ。
改めて考えるとマザー・ミランダが恨めしい。
いや、まあ、当然なんだが。
その…なんというか…恨めしいの意味が若干異なる。
なんだって"不死身のデブ"なんていうありがたくない上に無駄にキャラクターが立つ外見を私に与えた?
適合者に与えるキャラとしては酷すぎないか?
結構不遇なポジションだと思うぞ?
少なくとも外見に関してはモローと並んでると思う。
あいつもあいつで嘔吐癖ついちゃったから大変だけどさ。
私も私で結構地味にメンタル削られるからね、この見た目。
先月スペインの友人達と飯に行った時「ハンプティダンプティみたいだな、お前」って言われたのを未だに根に持っている。
レコード調達を手伝ってくれてありがとう、でも許さん。
そんなこんなを考えていると、荷馬車はやがてハイゼンベルクの工廠に辿り着いた。
ゼェゼェと息を荒げる馬を労りながら、工廠の玄関口へと向かう。
いつもならハイゼンベルクは取引の日、ここで待っているはずだが、今日は何故かいない様子だった。
代わりにメモが貼ってあり、こう書いてある。
『よう、デューク。配達ご苦労さん。俺は今ちょっと実験で手が離せねえ。あの品を下ろすのには人手がいるだろうから、取り敢えず実験室まで来てくれよ。』
「実験室…ですか」
私はメモにある通り、工廠の中に足を踏み入れていく。
彼は特異菌に感染した後適合したものの、人格を捻じ曲げられて人間と機械を結合させるという悍ましい実験をするようになってしまった………
………けれども先のメモで分かるように、ぶっちゃけそれ以外はあまり変わってないと思う。
基本的には良い兄貴分そのままだ。
あの爽快な笑顔や、インテリジェンシーな言動は今もなお健在。
感染して若干老けた見た目になったが、外見のみでは本当に感染してるのか疑わしいほどである。
そんな事を考えながら、私はやっと彼の実験室に辿り着く。
彼は白衣に着替えて実験室にいて、ガラスの向こうにいる新しい"ソルダート"のテストを行なっているようだった。
彼は実験室のドアが開くと、ハイゼンベルクは例によってあの人好きのする笑顔で私を出迎える。
「おお!セバスティアン!」
「デュークです」
「あ、悪い。今はデュークだったな。すまねえが少し付き合ってくれ。これから実験に移行するんだ。」
多少新型"ソルダート"のお披露目に付き合ったところで私のスケジュールは変わらない。
私がにこやかな笑みで頷くと、ハイゼンベルクは一層楽しげな笑みを浮かべてこう言った。
「お前もコレを見たら腰を抜かすぞ!」
「それは楽しみですな」
「任せとけって……それじゃあ、いくぞ!"シュツルム"!!起動せよ!!」
実験室のガラス越しにいる異形の怪物に向けて、ハイゼンベルクが手元のマイクでそう宣言する。
スピーカーによって増幅されたハイゼンベルクの声に、シュツルムは呼応したかのように頭を挙げた。
とはいえ、それは頭と呼んでいいかどうか怪しいものである。
あろうことかシュツルムは、人間の身体にレシプロエンジンを乗せると言う、凄まじいまでの既視感を誇る見た目をしていた。
あれこれ大丈夫なんですかね…その…主に版権的なアレは。
大丈夫ですよね?
シュタールヘルム被ったドリル男とかいませんよね?
大丈夫ですよね??
ナチスとか関係ありませんよね??
大丈夫ですよね???
「第三次冷却終了!フライホイール回転停止!接続を解除、補助電源に異常なし!停止信号プラグ、排除完了!」
私の心配を他所に発進シーケンスっぽい何かを開始するハイゼンベルク。
彼のせいで私の不安は余計に加速する。
本当に大丈夫なんですか!?
発進シーケンスからすでに"そのまんま"じゃないですか!
長ったらしい発進シーケンスを終えた後、ハイゼンベルクは一拍置いてから、カッと目を見開いてこう叫んだ。
「……よし、行け!シュツルム零号機、発・進!」
シュツルムの頭部にあたるレシプロエンジンが、轟音と共に作動し始める。
プロペラは最初ゆっくりと回っていたが、徐々に速度を増して安定した動作を見せ始めた。
ハイゼンベルクは今度は実験室のモニターを睨み、独り言のように呟いている。
「振動、トルク共に異常なし。出力は安定…いいぞ!」
「ほほう、実験は上手く行ったようですな。」
「いいや、まだだ。俺のシュツルムはこんなもんじゃない………くそっ!」
いきなりモニターを叩きつけるハイゼンベルク。
突然の暴挙に私はドン引きする。
ちょ、あの、カールさん、とりあえず落ち着いてください。
そう思う私を他所に、ハイゼンベルクはガラス越しの怪物に向けて喚き始める。
「どうしたシュツルム!お前の本気はそんなモノか!俺が心血を注いで作り上げたお前の性能は、所詮そんなモノだっていうのか!?いいや認めねえッ!!お前はまだ真価を隠してやがるッ!!さあ見せてみろシュツルムッ!!お前の………本当の力をッ!!」
楽しんでらっしゃる。
全力で楽しんでらっしゃるよ、この人は。
ナイスミドルなハイゼンベルクの見た目のせいか、私には少年雑誌のホビー漫画とかでよく見る、良い歳こいて趣味に全力を注ぎ込んで主人公と張り合ってくるタイプのオジサンにしか見えない。
今最高にエキサイティングしているハイゼンベルクは、爆上がりするテンションに任せてあらん限りの怒声を解き放った。
「行っけえええええ!!俺のシュツルムゥゥゥウウウッ!!!!」
「ブォォォオオオンッ!!!」
ハイゼンベルクの雄叫びに応えるかのように、シュツルムのプロペラがより一層出力を増す。
だが…
バッツンッ!!
「ア〝ア〝ア〝ア〝ッ!!またやりやがったこのポンコツゥッ!!!!」
シュツルムもテンションを上げたためか、奴は両腕を使って某ホラー映画よろしくガッツポーズをしてしまう。
その両腕はあろうことか高速回転中のプロペラに接触、両腕は吹き飛んで、プロペラはバランスを失った駒のようになる。
シュツルムは「ブォォォン、ブォォォン」と泣き声なのか何なのかよく分からない音を立てながらその場にへたれ込んだ。
エンジンからプスプスと音を立てながら黒煙を登らせるシュツルムを見て、ハイゼンベルクは頭を抱えて悶えている。
その様子と発言からするに、この手の失敗はこれが初めてではないらしい。
「何度言わせんだシュツルム!プロペラの回転中は腕を上げるなとあれほど言っただろうが!!」
「ブォォォン、ブォォォン!」
「だからってダメなモンはダメだろうが!!お前、何回俺に修理させれば気が済むんだよ!」
「ブォォォン…ブォ………ブォォォォォンッ!ブォォォォォンッ!」
「…ああ、分かった分かった、直してやるから!もうまったく!」
シュツルムとハイゼンベルクがどうやって意思を疎通させているのかはよく分からないが、ハイゼンベルクも面倒見の良さと言う点ではあの時とはまるで変わっていない様子だった。
………まぁ、これを面倒見が良いと言えるのであれば、だが。
「はぁ………すまねえな、デューク。情けねえとこ見せちまった。」
「いえいえ、お気になさらず。実験は試行錯誤を重ねて初めて実になるモノですからな。」
「そう言ってもらえるとありがてえ。お前は相変わらず良いやつだ。………ところで、品物の配達だったな。"ソルダート"達と取りに行こう。」
「今度は何をなさるのです?」
「発注したのはジェットエンジンだ。これを"ソルダート"にくっつけてみる。」
アンタも懲りないなぁ、そうは思いつつも満面の笑みを取り繕った。
結局彼の終着点はどこなのだろうか?
そもそもなんでこういう発想になったんだ?
そう思いながら実験室を見渡すと、答えがそこにあった。
『武器●間』のブルーレイ・ボックス。
「ブォォォン!ブォォォン!」
「くそっ…ああ!分かった、分かった、シュツルム!今行ってやる!………すまねえデューク、あと数分待ってくれ。」
「ええ、構いませんよ。ところで、もしよろしければ私から提案があるのですが…」
「?………なんだ?」
「………その…作動不良の原因になるなら、
「!?………」
突如考え込むハイゼンベルク。
数分の思考の後、彼は例の笑みを浮かべてこう言った。
「そいつぁあ名案だ!流石だな、セバスティアン!」
「デュークです」