ヴィレッジ 1919   作:ペニーボイス

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※注意※
このエピは絶対に食事中に読まないでください。
あ、やっぱり食前もおやめください。


なお、作者の都合上(!?)オリ主の口調がセバス時代のそれになっております。
デュークのボイスで脳内再生は不可能ですので諦めてください(どうにかする努力をしよう)


笑ゥせばすてぃあん Aust.Ⅳ

 

 

 

 モロー…可哀想な奴。

 100年前、彼は婚約者を失った。

 その喪失感も冷めないうちに、マザー・ミランダの実験台にされ、今は異形の姿となって人里離れた貯水池にいる。

 

 彼の最も悲運なところは、カドゥへの適合率の低さであろう。

 その背中には大きく醜悪な瘤ができ、彼は人目を憚るようにそれをローブで覆った。

 知能も低下し、会話の節々からもそれを感じ取れることができる。

 

 それでも彼は私の事を共に戦争で戦った戦友と知覚してくれた。

 だからこそ、私も友情に相応しい態度でモローに会うようにしている。

 彼の外見などどうでも良い。

 多少対話は困難になったが、彼は依然としてかけがえのない友人なのだから…

 

 

 

 

 

 

 

 

「Heeey、セバスティアン、ワッサー!」

 

「…へ、Heeey モロ〜!ワッサー、ワッサー…」

 

 

 でもコレは違うくないか!?

 モローの知能が低下したのは知っていた。

 マザー・ミランダもそう言ってたし、彼女はモローを見放している。

 だけれども!

 それでもこんな西海岸のストリート感全開の挨拶かましてくるような奴じゃなかったぞモローは!!

 

 

 私はモローと抱き合って、互いの背中を叩き合う。

 ちょっとヌメヌメするのはアレだが、それでもかつての戦友が元気にやっていてくれる事に嬉しく思った。

 

 

「まってたぞ、セバスティアン。品物は持ってきてくれたか?」

 

「勿論だ、モロー。コレは…包丁か?」

 

「ああ。なあ…今から飯を作ろうと思うんだが、一緒にどうだ?」

 

「…そういうことなら、喜んで。」

 

 

 モローは人格が変わった後も、"デューク"ではなく"セバスティアン"として話せる唯一の会話相手だった。

 "セバスティアン"としての私は死んだと思っているドナや、昔から恩義のあるオルチーナ様やハイゼンベルクとは違い、彼とは気を抜いて話ができる。

 だから、そんな彼の好意を喜んで受け入れる事にした。

 

 "血〝ャパリ饅"なる黒カビの塊を用意してくれたドナには悪いが、例え不死身の身体を手に入れても味覚は感染前のままなのだ。

 その点、意外な事にモローの作る魚料理は逸品である。

 どのくらい美味いかというと、腹が立つほど美味い。

 まぁ、それも悲しいわけがあるのだが。

 

 人生の殆どを1人で過ごしてきたモローは、自分のために毎日食事を用意しなければならなかった。

 それも食材として使用を許されるのは、大抵の場合自身が釣り上げる魚のみだ。

 だからこそモローは毎日同じ食材でも飽きが来ないように料理の腕を磨いていったのだ。

 

 

「……へへっ、おまえ運がいいな。今日は良いネタが入ってんだ。」

 

「ほほぉ。何が釣れたんだ?」

 

かつを。

 

 

 かつお?

 かつおって、あの鰹?

 鰹ってこんな湖とかで釣れんの?

 アレおかしいな。

 鰹って確か海水魚じゃなかったっけ?

 こんな、見るからに淡水魚御用達みたいなみずとかで釣れる魚だったっけ?

 

 

「ま、細かいことは気にすんなよ。とりあえず、おまえが持ってきてくれた包丁でコイツを捌くぞ。」

 

「お、おう。」

 

 

 とはいえ私にできる事といえば見事な包丁さばきで鰹を解体していくモローを眺める程度。

 ああよかった、本当に鰹だ。

 サ●エさん一家の長男坊みたいな奴の解体ショーでも始めたらどうしようかと思った。

 一般的に想像は難しいかもしれないが、今のこの村では十分にあり得る事態である。

 

 

「ふぅ…思ったより手こずったが、ざっとこんなもんだな。」

 

「相変わらずすげえな、モロー。」

 

「おまえが新しい包丁を持ってきてくれたからな。これで料理の幅も広がる。」

 

「なあ、モロー。お前以前にも包丁を発注してたけど、そんなに消耗する物なのか?」

 

 

 モローが私に包丁を頼むのは一度や二度の事ではなかった。

 彼は何本も私に包丁を注文しているが、その度その度に刃渡りや太さ、長さの異なる物を注文している。

 何か拘りでもあるんだろうか。

 単純な疑問のつもりだったが、モローはフッと鼻先で笑う。

 

 

「バカだなぁ、お前。包丁にも色々な種類がある。用途によって使い分けないと…さてはおまえ料理したことないな?」

 

 

 うぅぅぅん、なんだろう。

 腹立つっ!

 いや、モローは悪くないし彼の言ってる事はド正論なんだが。

 なんというか、こう、決して触れられたくないところを満身のキメ顔でジャストミートされたようで腹立つ。

 しかも言ってる事は間違ってないし、キメ顔できるだけの事をやってのけた上でのキメ顔だから余計に腹立つ。

 先々月にスペインの友人達と商談したときに言われた事を、未だに根に持ってる。

「食う専門で料理はしなさそうだもんな、お前」

 レコードの調達手伝ってくれてありがとう、でも許さん。

 

 

 何はともあれモローは見事に鰹を捌き切った。

 そのまま食べても十分に美味しそうな切り身を一つ持つと、彼は片手でそれに大きな串を刺した。

 何をするのかと思えば、それを轟々と燃える囲炉裏の方へと持っていく。

 

 

 

「今日はステーキか何かにするのか?…それなら下味をつけた方が…」

 

「バカだなぁ、おまえ。それじゃあ、ただの焼き魚だろ?」

 

 

 腹立つっ!

 いやたしかにこれも彼の言う通りなんだけどさ。

 だったら渾身のキメ顔でバカとか言う前に鰹の切り身をどうするかぐらい教えてくれてもいいじゃん!

 忘れてるかもしれないけど我々は戦友なんだぜ、ブラザー!?

 もっと親愛の情ってやつを持とうぜ、ブラザー!!

 

 そうは言いつつもタダで飯作ってくれてる時点で、モローはかなり親愛の情を持ってくれているブラザーだろう。

 ああ、いけないいけない。

 どうしてこう、人という生き物は些細な事で腹を立ててしまうのか………あっ、もう人間じゃなかったな、我々は。

 

 それはともかく、ステーキのように焼くのでなければどうするのだろう?

 興味を持ってモローの方を見ると、彼は串をクルクルと回して鰹の表面だけを焼いているようだった。

 

 

「これはジャパンの伝統料理なんだ…TATAKIっていうらしい。」

 

「おおっ!」

 

「香ばしいだろう?…懐かしいな。コイツを教えてくれたのはフランチェスカなんだ。」

 

 

 そこまで言って口を噤んだ彼に、私は情けなくも声をかけてやる事ができない。

 フランチェスカにそんな特技があったとは驚きだが、もしマザー・ミランダの野望がなければ2人とも幸せな日々を過ごしていただろう。

 私はまだドナと会えるだけ幸せ者なのかもしれない。

 

 

「………まぁ、いいさ。今のおれには"ママ"がいる。他の誰にも渡したくはない。」

 

 

 マザー・ミランダは孤独に打ちひしがれていたモローの弱みにつけ込んだ。

 結果としてモローの忠誠心は、四貴族の誰よりも揺るぎないものになった。

 

 ………ここまで言っといて、こんなこと言うのもアレなんだが。

 

 心配はいらないと思うぞモロー。

 オルチーナ様は『トワイ●イト』に熱中している侍女(モロアイカ)達に手を焼いてるし、ハイゼンベルクは実験に夢中だし、ドナは若干血生臭くはなったけどマザー・ミランダなんて眼中にない。

 モロー、マザー・ミランダはお前のものだ。

 安心しろなんて言えないが、少なくともその心配は杞憂だ。

 

 

 

 ともかく、モローは切り身を丹念に焼き上げてまな板の上に置く。

 すると今度は先程とは違う包丁を使って、表面の焼けた切り身を丁寧にスライスし始める。

 茶色く焼けた表面の中に、赤々とした新鮮な魚肉が見えて、私の食欲を刺激した。

 

 

「うまそだな、モロー」

 

「まだまだ、だ。コレを皿に盛り付ける。バルサミコ酢を少々、ショーユとオリーブオイルを加え、アクセントの塩胡椒を振ったら、最後はWASABIを盛り付ける。」

 

 

 流れるようなモローの調理を見て、私の食欲はどんどん増していく。

 その調理にはどこか魅せられるものがあり、このジメジメヌメヌメとした小屋を三ツ星レストランに引けを取らぬビストロへと変えていた。

 最後にモローはTATAKIを2つの皿に分け、その内の一つを両手に持った。

 ………彼が信じられない暴挙に出たのはその時だった。

 

 

 

「おまえには"とっておき"を教えてやるよ。」

 

「"とっておき"…?」

 

おぶろしぇぇぇあッ

 

 べちゃっ。

 

「……ふぅ、さあ食ってみろ」

 

ふざけんなあああッ!!!

 

 

 最後の最後で台無しである。

 見事なTATAKIの上には悍ましい緑の"ソース"が乗っかった。

 なんてことしやがるんだお前っ!!

 TATAKIがGOMIになっちまったろうが!!

 

 

「つれないなぁ…結構イケるんだぞ、これ。」

 

「イケたとしても嫌だわ!てかお前ッ…!マジかお前ッ!」

 

「まぁ、そういうと思って皿を二つに分けたんだ。ほら、こっちにはかかってない。」

 

 

 私はモローからまだ無事な方の皿を受け取ると、本当に何も掛かっていないことを確認して一切れ口に放り込む。

 悔しいが、どうやらコレは認めなければならないだろう。

 

 美味すぎて腹立つっ!

 

 

 

 

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