ヴィレッジ 1919   作:ペニーボイス

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笑ゥせばすてぃあん Aust.Ⅴ

 

 

 

 リストの最後は、あの人物によって締められている。

 全ての元凶、マザー・ミランダ。

 

 正直に言えば、私は彼女を許す気にはどうしてもなれずにいる。

 勿論彼女が凶行に走った理由も知っているし、私も彼女の立場なら同じ事をしたかもしれないとは思うが、それでもやはり許すわけにはいかない。

 何かこう、理屈では片付かない"何か"が、私の中で楔と化しているような気分だった。

 

 

 そのマザー・ミランダ相手に物を運ぶのは、ドナ邸に立ち入る事以上に気の向かない仕事である。

 最近の事を考えると尚のこと気は進まない。

 去年の末あたりから、彼女にはおおよそ100年前とはまた違う変化が訪れたのだ。

 それ以来私は彼女と会うことさえ、気が進まない。

 

 

 しかしながら仕事は仕事である。

 この村の住人であるからには、それが例え全ての元凶であっても、デュークという行商人の配達サービスを提供される権利があった。

 故に私は荷馬車を洞窟は向かわせていた。

 

 

 かつてハイゼンベルクと共に4人の若者を引き連れてやってきた場所まで来ると、私は商品を手に取って歩き始める。

 だが足取りはもう慎重なそれではない。

 出来ることなら早く済ませて早く帰りたいのだ。

 あの時不案内だった洞窟の内部は、繰り返される取引のおかげで殆ど網羅できている。

 私は脇目も振らずに進み続け、そしてミランダの実験室のドアをノックした。

 

 

「………開いている」

 

 

 ああ、これだからミランダへの配達は嫌なんだ。

 これがオルチーナ様なら「あ〜あ↑セバスティアン!今日はどうしたの?届けた商品がリコール?…いいえ!あなたは気にしなくて良いのよ、作った奴は八つ裂きだけれど。そんなことより顔が疲れてるわ。ちゃんと休めてる?眠れてる?おっ●い揉む?」くらいの愛想を振りまいてくれるだろう。

 ところがこの黒幕ときたら愛想もクソもない。

 まあ、当たり前だが……もっと言うとオルチーナ様が愛想を振りまきすぎなのだが……とにかく、私は重たい気分で実験室のドアを開く。

 

 

 

 全ての黒幕がそこにいた。

 

 リクライニングチェアに深く腰掛けて、こちらに後ろ姿を晒す彼女は、じっと目の前のテレビに見入っている。

 ………その足元には大量の空き缶、ポテトチップスの食べカスと袋、タバコの吸い殻、外れた馬券、俗っぽくて仕方のない週刊誌が山積されていた。

 テレビの画面にはお団子頭のナイスミドルが写っていて、こちらに向けて語りかけている。

 

 

『感じているだろう…何かに向かって這い進んでいるような……』

 

はい、ファーザー

 

 

 マーザーしっかりしろ。

 別ゲーのラスボスの軍門に下ってる場合じゃないでしょう!

 

 

 去年の年末から、マザー・ミランダはこの調子である。

 何かの軸が折れてしまったのかは知らないが、彼女は突如として研究をやめ、溺れるように安酒を飲み、ポテチをたらふく食べながらタバコを吸って競馬に興じて夜通しゲームするという自堕落な生活を始めてしまったのだ。

 

 

「ああ、デューク。頼んでた商品は全てそこに置いて行くがいい。」

 

 

 プレー●テーション5のコントローラを握ったまま、マザー・ミランダがそう言った。

 私は言われた通りにはしつつもため息を漏らす。

 いったいなんだってこんな事になってしまったんだか。

 被害者の私が言うのもなんだが、研究始めた頃のアンタは輝いてたぞ。

 そりゃあ邪な方面への輝きだったが、それでも今に比べれば全然良い。

 今のアンタはまさにゴミクズだ。

 娘さんを生き返らせるんじゃなかったのか。

 

 

 商品…その商品というのもこれまた大量のスト●ング・ゼロである…を置けとは言われたが、部屋が散らかりすぎて置くスペースもない。

 仕方がないので私はその辺にあった箒で床を掃く。

 ところがミランダはそれに構わず、こちらにスト●ング・ゼロの空き缶を放り投げてきやがった。

 おまけに彼女はまた新しいスト●ング・ゼロを手に取ってプシュッと封を開けている。

 流石の私も、もう限界だった。

 

 

「マザー・ミランダ!いったいどうなさったのです!娘さんを蘇らせるという大志を諦めたのですか!?」

 

 

 彼女はコントローラを持つ手をピタリ止める。

 あちゃあ、こりゃあ琴線に引っかかるようなこと言っちゃったかな。

 マザー・ミランダ激おこプンプン丸で存在を消されてもおかしくはない。

 だが、私ももう十分"余生"を楽しんだ。

 このまま意味のない日々を送り続けるミランダを見るよりかは…

 

 ()()()()()()杞憂のようだ。

 彼女はゆっくりとリクライニングチェアを回転させてこちらに向き合う。

 その両目からは黒い涙が流れ落ちていた。

 

 

「………頑張ったもん!

 

「………は?」

 

「頑張ったんだもん!」

 

 

 黒幕がブリっ子すんなよ。

 今、私の目の前にいるのがこの村の全ての元凶とは到底思えない。

 良い歳したおば様が、安酒で両頬を赤く染めて、その上ブリっ子までしてる絵面なんてできれば見たくないのだが。

 

 

「わだじッ!頑張ったんだもんッ!エヴァのためにッ!…100年間もッ!…えぐっ、ひぐっ!なのに〝ッ、なのに〝ッ、この100年間!なんの成果もあげられませんでじだぁあッ!」

 

「………」

 

「考えでみでよッ!私凄くない〝ッ!?…菌根の記録があったとしてもっ…ひぐっ…ゼロベースからここまで研究進めたんだよ!誰にも褒められもせずッ、感謝もされずッ!」

 

 そりゃあな。

 

「でもマトモに出来上がったのがお色気BBAと厨二ミドルとコミュ障とマザコン、それにデブってどう言うことなのよぉおおおおッ!」

 

 腹立つなぁ、このマーザー。

 私はそう思いながらも戸惑いを隠せない。

 とりあえず"オルチーナ様をBBAと呼べるほど若くねえだろ、アンタは"という感想を抱かずにはいられなかった。

 

「弟子には見放されるしっ!えぐっ!他の村人は訳わかんない怪物になっちゃうし!」

 

 そりゃアンタのせいだよ!

 もっと言うとアンタが一番訳わかんねえよ!

 ド派手な光背にカラスみたいな仮面と羽根って、アンタいったい何からインスピレーション受けたんだよ!

 

「どうしてこうなってしまうのッ!ひぐっ!私はただ、娘を蘇らせたいだけなのに〝ぃ!

 私の娘ッ!私のえゔあぁあああッ〜!」

 

 

 め、めんどくせぇ〜!!

 

 

 マザー・ミランダが顔を両手で覆ってガチ泣きを始めてしまう。

 両手からは涙なのかインクなのか分からない液体がドバドバと流れ落ちていき、そのままタールのようにゆっくりと広がっていく。

 このままでは部屋中がタール塗れになりそうなので、私は彼女を泣き止ませる必要に迫られた。

 いくら長生きし過ぎたとはいえ、タールの海に溺れるという環境汚染の最たる一例みたいな死に方はしたくない。

 

 そもそもがそもそも"娘を生き返らせる"という目標自体が極めて特殊である事を理解してほしい。

 アンタがやってるのは自然の摂理に逆らう大それた実験なのである。

 その実験の為に、この村は今まで取り返しのつかないほどの代償を無理やり支払わされてきた。

 その犠牲の1人として、今の彼女の身勝手さはあまりに目に余るものがある。

 

 ある想いがほとばしり、それがつい口から飛び出て行く。

 私は…自分でも驚いたが…マザー・ミランダにブチキレたのだ。

 

 

「良い加減にしてください!このクッソBBAッ!!」

 

「…!?………バ、BBA!?」

 

「ええ、そうですクソBBA!オルチーナ様は"魅力的なお姉さん"ですが、今のあなたは拗れた哀れなクソBBAだッ!!」

 

「なっ…貴様っ…」

 

「そもそもこの村は100年間もの間、あなたのメチャクチャな実験に無理やり付き合わされた!多くの人が多くを失い、多くが消え去った!あなたの実験のために!!」

 

「………」

 

「だというのに、あなたはクソガキみたいに我儘な駄々を捏ねて、何のためにそんな真似をしてるのかすら忘れてしまっている!これでは我々も何のために実験台にされたのかも分からないというものですっ!簡単に娘が生き返るのなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!?

 

「!…………」

 

 

 ミランダを励ますつもりなんて1ミリもない。

 娘を失った彼女には同情する。

 でも、やり方があまりにも不味かった。

 私がそんな彼女に喚き散らしたのは、その狂った研究を"進めて欲しいから"ではない。

 失った代償が取り戻せないのなら、"せめてその犠牲を無駄にして欲しくない"からだ。

 

 

 一気に怒鳴り散らしたせいで、肥満のために著しく圧迫されている気道が悲鳴を上げている。

 私はゼェゼェと息を整えながら、硬直したマザー・ミランダの姿を見つめた。

 彼女が泣き止んだのは、私の言葉を理解したからであろうと期待するしかない。

 

 

 

 ………ところでオルチーナ様。

 こんな時にテレパシーかますのはやめていただいてもよろしいでしょうか?

 オルチーナ様のことを"魅惑的なお姉さん"と言ったあたりから…どうやってるのかは知らないが…彼女は脳内に直接語りかけてきている。

 

「セバスティアン……おっ●揉む?おっ●揉む?おっ●揉む?揉む?揉む?揉む?揉む?」

 

 脳内に直接語りかける類の言葉じゃないだろおおおおお!?

 せっかくのシリアスな空気が台無しである。

 いや、あの、決して揉みたくないというわけじゃ…あ、なんかドナにつねられてる気がすrいたいいたいたいいたい!

 

 

「すまぬ…」

 

 

 勝手に一人でコメディを繰り広げていたからか、マザー・ミランダがボソッとそう呟いたのを聞き逃すところだった。

 

 

「私とした事が…そうだ、エヴァを蘇らせねばならぬと言うのに…」

 

 

 マザー・ミランダはもう平静さを取り戻している。

 今度こそ彼女はこの村の黒幕としてのアイデンティティを取り戻していた。

 …喜ぶべきか、喜ばざるべきか……

 彼女の声は凛々しさのあふれるそれに戻っていて、黒幕として舞い戻った彼女は早速私に命じた。

 

 

「デューク、その品は持ち帰れ。貴様は行商人として良い働きを示した。褒めてやろう。」

 

「………そ、それは…ゼェゼェ…ありがたい限りですな。では私はこの辺で。」

 

 

 結構息を上げた後だから大量のストロン●・ゼロを持ち帰るのが地味にキツい。

 私は帰り道に自問自答せざるを得なかった。

「…アレ?私は何をしに来たんだっけ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 デュークが去った後、平静を取り戻したミランダは荒れ果てた研究室の片付けを始める。

 特異菌の力を使って空き缶をアルミとスチールに分けて、掃除機を操り、雑誌をまとめて縛っていく…力の無駄遣いとは言ってはいけない。

 彼女はあっという間に部屋を片付けると、長い間放置していた問題に再び向き合うことにした。

 

 

「………ふむ。とはいえ、あとは"器"を探すだけなのだが…」

 

 

 何もマザー・ミランダが身勝手な虚無状態に陥ったのは気まぐれではない。

 彼女の研究は何十年も前からあるステップで躓いているのだ。

 それは娘・エヴァを蘇らせるに当たって必要な器探しであり、あまりにも多くの挫折を味わったがために競馬に走ってしまったのである。

 

 

「………!?」

 

 

 考え込む彼女の顔面に、まとめて縛ろうとしていた一部の新聞が、勢い余って飛んでいき激突する。

 彼女は怒りを込めてそのスポーツ新聞を引き剥がしたが、偶然開いていたページに目を奪われた。

 それはゴシップ記事のコーナーで、一人の極めて一般的な男性と、荒れ果てた農家の写真が掲載されていた。

 マザー・ミランダは目を凝らしてその記事を読む。

 

 

「………『ダルウェイ近郊でバイオテロか?…昨日、ルイジアナ州ダルウェイにある農場、"ベイカー農場"からウィンターズ夫妻が救助された。"信頼できる筋"からの情報によると、一帯では新型のバイオテロが行われた形跡が見られる証拠が…』………これだ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




またちょっと更新開くと思います
すいません汗
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