感想欄でもう2話とか書いてましたがどうしてもネタが纏まらなかったのでこれで終章になります。
ご期待いただいてた方は誠に申し訳ございません!
ネタの「蛇足シリーズ」から直接ここに来ると著しい温度差の違いによりくも膜下出血に至る可能性が(ねえよ)
とりあえず「蛇足シリーズ」は無視して「解放」の後、ゲーム本編通りに進めた場合として読んでいただければ幸いです。
約束
あの特異菌は私に、耐久性の他は何ももたらさなかった。
その耐久性というのも条件付きで、私は自身の身体を維持するために食糧を取り続けなければならない。
何とも不便な身体だが、お陰で得をすることもあったし、それに…
身体の耐久性が代謝による物であるのならば、その機能にエネルギーを供給しなければ良いのだから。
「………やり遂げられましたか、ウィンターズ様…」
私はテーブルの上で手を組み、そっとそう漏す。
マザー・ミランダが倒されるところをこの目で見たわけではないが、しかし何となくそんな気がした。
彼を一目見た時に直感したのだ。
"彼なら大丈夫、やりきれる"と。
それは彼の特殊な能力を根拠にしての結論ではない。
あの男の目を見れば、それはすぐに分かるだろう。
覚悟を決め、自分の命さえ投げ出して、誰かを守ろうとする男の目だった。
もしかすると彼も自覚していたのかもしれない。
あの洞窟の前に彼を送り出した時、私は彼に精一杯の励ましを向けると共に、底なしの罪悪感を感じた。
私もマザー・ミランダと同じように、自分の目的のために彼を利用してしまった。
それもハイゼンベルクがやったように堂々とやるのではなく、報酬を受け取って、武器を与え、食事を与え、物資を与え、道標を示すという回りくどいやり方で。
彼は赦してくれるだろうか?
或いは…"彼女は?"
「………どう思いますか、アンジー?」
私は机を挟んだ席に座っているアンジーにそう問いかける。
彼女は頭を少し左に傾けたまま黙し、私の問いかけに応えることはない。
それもそのはずだ。
もうこの村にはアンジーを抱え上げて腹話術をする人間も、アンジーにカドゥを株分けした人間もいない。
ああ………ドナ、私のドナ。
待っていてくれ。
今から私もそこに行く。
テーブルの周りは、"四貴族"と呼ばれるようになっていたかつての親しい知人達の遺品が配置されている。
オルチーナ様、ドナとアンジー、モロー、そしてハイゼンベルク。
彼らは汚れ仕事に手を染めた私をどう見るだろうか。
何となく杞憂のような気もするが、私は未だに確信を持てずにいた。
誰もいなくなったドミトレスクの城で、私はただただ時を待つ。
テーブルを囲む遺品達の前には、あの父親が調達してくれた食材を用いた料理を並べている。
日本では"お供物"という文化があるらしい。
だから私もそれを真似てみることにしたのだ。
変わった習慣だが、私は彼らが生前に好んだ食べ物を並べるのに最善を尽くした。
もし至らないところがあるのなら、向こうでお伺いするとしよう。
しかし、自分で拵えておいてなんだが、こうして周りに料理を供え、自分の食器を空にしておくという事をしていると、これはこれは辛いものがある。
私はあの男がこの村に来てから、身体を維持するための最低限の食べ物しか口にしていない。
つまり今、私の耐久性は最低の状態にある。
恐らく、あと1、2歩間違えれば、私の身体は勝手に自壊する事だろう。
それも良いが、私にはまだ残された仕事がある。
ご婦人がお車からお降りになった後、ドアを閉めるのは運転手の仕事だ。
遠くの方から大きな音が、振動を伴ってやってくる。
あの大柄な男はやはりこの村全体を消し去る算段だったようだ。
彼を責めようとは思わない。
マザー・ミランダが連絡を取っていた連中が無人の廃墟としたこの村に足を踏み入れれば、否応なく悲劇が繰り返される。
私が最後にドアを閉めるのだ。
この"栄誉"だけは誰にも渡さない。
私は改めて目の前のアンジーを見つめる。
返事のない彼女に、私はただこう言った。
「お迎えだ、アンジー。…
すぐに光が城を包み込んで、私の意識は遠のいた。
…………………………………
朗らかな草原の中を、花束を持って歩いた。
束ねたのはもちろん"エーデルワイス"。
彼女もきっと喜んでくれるだろうと、そんな気がしている。
「…セバスティアン!セバスティアン!こっちに来なさい!」
不意に呼びかけられて、私はそちらの方を見た。
懐かしい男がいる。
離れてから何年もの歳月が流れているが、この私に人生を与えてくれた人物を、忘れるはずもない。
「…父さん?」
「ほら急げ、セバスティアン。レディを待たせる男を、父さんは尊敬しないぞ!…なんてな、冗談だ。」
父が私を先導してくれ、私は彼に着いていく。
あの父親を利用した私を、父はどう思うのであろうか。
見損なったか、或いは軽蔑したか。
「……お前はよくやった。父さんはお前が誇らしい。」
「いいや…力及ばず、だったよ。結局、村の誰一人として救えなかった。」
「何を言う!…あんな状態じゃ誰かを救おうとする方に無理がある。父さんが誇らしいのは、お前が
「逃げなかった?…父さん、残念だけど、ぼくはあれからずっと…あの村で起きる悲劇から身を遠ざけてしまった。」
「それでも、お前は村に残ったんだ。」
「………」
「お前は村を離れようとは思わなかった。そりゃあ商売の為に少しは離れたかもしれない。でもお前は"あんな事"になった後も、ちゃんと村の為に尽くしたじゃないか。オルチーナ様に、モローやハイゼンベルク。悲しみを噛み殺しながら、ドナにお茶を届けた。…父さんはそんなお前が本当に誇らしい。」
父はそのまま歩き続けていたが、突如として傍へと曲がる。
突然の挙動に顔を上げると、目の前からは大変大きな女性が両腕を広げて迫ってきていた。
当然のことと言わんばかりの抱擁を受けると、懐かしい香りと暖かさに包まれる。
「………オ、オルチーナ様っ」
「何も言わないで、セバスティアン。お願いだから、少しこのままにさせてもらえないかしら。」
長い抱擁の後、彼女はようやく私を離して額に接吻をしてくださった。
「…ありがとう、セバスティアン……本当に。私達はあなたに"救われた"。」
「いいえ、救ったのは"彼"です。私じゃない。」
「あなたの助けなしでは、"彼"も成し遂げられなかったでしょう。あなたはドミトレスクが誇れる運転手です。…………さて、セバスティアン。向こうであなたを待っている人がいるわ。」
オルチーナ様が傍に避けて、私の前に一本の道を指し示す。
その先には壇があり、壇の傍には白いウェディングドレスを着た花嫁がいる。
ハッとして自分の身体を見ると、陸軍の正装に身を包んでいることに驚いた。
オルチーナ様の影からゲオルゲ・ドミトレスクが現れて、私に制帽を被せながら語りかける。
「君のご婦人に、我が軍の将兵として相応しい態度を示したまえ…これは将軍の命令だぞ、アッペルフェルド伍長?」
「………は、はい!もちろんです!」
気づけば、私と花嫁の間にある道の間には多くの見知った人々がいる。
ハイゼンベルクがこちらに向かって手を振って、イシュトヴァンとその親父さんとカミさんが拍手をしていた。
ベイラにカサンドラにダニエラやドミトレスクの侍女達、ロシュやツェラーンもいたし、モスコヴィッシやハスキルの姿も見える。
モローとフランチェスカは肩を寄せ合って、こちらに微笑みながらこう言った。
「悪いが"お先"してるぞ、アッペルフェルド!」
昔懐かしい仲間たちや友人達、それに仲睦まじい新婚夫婦の中を通って壇の方へと歩んでいく。
"彼女"を待たせているからか、少しずつ足取りは早くなる。
そして壇に登って初めて、その奥にいる人物が黙して泣いているのに気がついた。
「………ごめんなさい、私…どうしてあんな事…」
マザー・ミランダは、もうかつて私が知っていた彼女だった。
その側にいる小さな女の子が、自身の罪悪感に涙する彼女の袖をひく。
「ママ!もう泣くのはやめて。せっかくの結婚式なんだから、ママはママにしかできない仕事があるでしょう。」
「マザー・ミランダ、きっとここにいる誰もがあなたの事を理解しています。もう誰も恨んではいませんし、あなたの行いは赦されるはずです。」
「…エヴァ……セバスティアン………ありがとう。……そうね。せっかくの結婚式なのに…。」
マザー・ミランダが気を取り直している間に、私は華麗なウェディングドレスに身を包んで、純白のベールに顔を包んでいる花嫁に向き合った。
ベールの向こうの彼女はどんな顔をしているだろう?
怒っている?泣いている?
花嫁を待たせて、バージンロードを1人で歩いてくる新郎なんて前代未聞だろう。
だが恐る恐るベールを挙げてみると、そのどちらでもないことがわかった。
「…やっと来たのね、セバスティアン。」
「ごめんよ。遅くなってしまった。」
「いいえ、そんな事ないわ。……どう?似合ってるかしら?」
はにかむ彼女に、私は魅せられる。
なんて綺麗な花嫁なんだろう。
「………なんて…綺麗なんだ…」
「…嬉しいわ、セバスティアン」
「でも、本当にいいのかい?」
「…何が?」
「私はここに来てまで、君を束縛するつもりはない。」
会場全体からため息がこだまする。
視界の端ではオルチーナ様が「ウソでしょ」と言わんばかりに天を仰いでいるし、そのオルチーナ様の横にいるハイゼンベルクが「あのバカッ!」と言っているのも聞こえた。
それでもドナは微笑んで、私の問いかけに応えてくれる。
「…きっと…皆んながここにいるのは、自分自身の意志によるものだと思う。だから私はここにいて、あなたもここにいる。迷うことなんて何もないわ。」
「そうか。……ありがとう、ドナ。」
「ンンッ…それでは、誓いの言葉を。」
マザー・ミランダが咳払いをしてそう言った。
私とドナはお互いに向き合い、彼女の言葉を待つ。
「新郎セバスティアン、あなたはドナを妻とし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、妻を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「誓います。」
ドナの目を見て、胸を張ってそう返した。
私の言葉を聞き入れたマザー・ミランダが、言葉を紡ぐ。
「新婦ドナ、あなたはセバスティアンを夫とし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、夫を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「誓います。」
ドナも私の目を真っ直ぐに見て、そう返してくれる。
かつては届かなかった約束の日。
かなりの年月が経ってしまったが、それでもドナは私を受け入れてくれた。
何と優しく、何と慈しみ深い…
「それでは、誓いのキスを」
私は人にキスなんてした事はない。
どうしたら良いか分からずまごついていると、ドナがそっと顔を近づけてくれる。
そしてそのまま、私の唇に柔らかなものが当たった。
「………あの日約束した通り…そうでしょ?」
「ああ、ドナ。愛してるよ。」
「おめでとうセバスティアン!」
「おめでとう、ドナ!」
「お幸せに!」
「うっしゃあああブーケの時間だゴラァ!ブーケはこの可愛いお人形ちゃんのモンなんだからね!」
喝采に包まれて、今度は私からドナを抱擁する。
彼女の温かみを感じながら、私はそっと目を閉じて涙した。
1919年に交わされた約束が、ようやっと、果たされたのである。
「何をご覧になっていらっしゃるのですか?」
「ん?………ああ。俺の娘だ。あんなに小さな赤ん坊が、こんなに大きくなるとはな。…俺のせいで苦労も多いだろうに、ちゃんと墓参りに来てくれる。良い娘に育ってくれたよ。」
「それはそれは」
「………お前、痩せたな?」
「はっはっは、分かります?」
「ああ、わかるとも。あの時は助かった。」
「いえいえ、私の方こそ助かりました。ところで、ご一緒してもよろしいですかな?」
「良いとも。そこの奥さんも良ければ一緒に。こうも1人だと、話し相手が欲しくてな。」
「そうですか…それでは、お言葉に甘えさせていただきましょう」
ど素人のにわかがカッコつけて洋楽なんか使おうとするから!
最後の訳文はかなり意訳(?)です、違ったらすいません
ちなみに『Caravan Palace』の『Plume』という曲から引用しました。
大凡3週間に渡り誠にありがとうございました。
正直ネタ枠はドン引かれるかなと思ってましたが、思ったよりドン引かれた上に好印象のご感想をいただけ大変嬉しく思いました。
ご感想・評価共に本当に励みになりました。
繰り返しになりますが、本当の本当にありがとうございました!