名前の知らないウマ娘さん   作:小鳥遊 小佳夏

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だんだん壊れていく世界

次の日から、ボクの放課後のスケジュールは大体一つになった。レイのところに行って、ずっと話しかけ続けたり、手を握ったり、じーっと見たりすること。カイチョーやレイの主治医が言うには、こうやって刺激を与え続ければいつかはまた目を覚ますかもしれないんだって。まあ、もう手足を動かすことはできないみたいだけどね・・・。

だから、レイにはずっと会っていなかった間の話をたくさんした。でも、そうやって話してると、ずっとレイを一人にしちゃったって思いが沸き上がってきて、ぼろぼろ涙がこぼれてくる。泣きながら

「レイ、かえってきてよぉ」

って言ったり、

「また一緒にお話ししたいよぉ」

なんて言ってしまう。それをできなくさせたのはボクなのにね。

それでも、そんなことを言ってレイのベッドを涙で濡らしては、夜になって寮に帰る。かえって、まだお風呂には入れないから体を拭いて寝るんだけど、でもレイのとこに行くようになってから、あんまり寝付けなくなった。目を閉じるとレイの姿が頭に浮かんできちゃって、どうにもね。そうしてると目の下に隈ができちゃったみたいで、同室のマヤノが心配してくれるけど、心配してくれてありがとうとだけ伝えてる。だってこれ、自分がレイを放置した報いなんだから。仕方ないよ。

少ししてのある日、スピカの沖野トレーナーが声をかけてきた。ボクのことを心配してくれたみたい。まあでも大丈夫だよと言って追い返した。あまりトレーナーをこっちに踏み入らせるべきじゃない。あのトレーナー、親身になるがあまり、今回のに自分がテイオーを入れたからなんて罪悪感抱きそうだしね。こんな思いするのは、ボクだけでいい。そう、ボクが全部悪いんだから。だから、この気持ちはボクだけのもの。ほかの、だれにも、渡さない。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ボクの足が少しづつ治っていって、もう松葉杖もいらなくなってきたころ、ふとレイの部屋のクローゼットを開けてみた。そうすると当たり前だけど、レイの服があった。レイの制服、私服、下着、水着・・・え、何でメイド服? いやなんかコスプレも?? なんだろう、知らない間にレイが遠くに行っちゃった気がする・・・。いや、精神的に遠くに送っちゃったのはボクなんだけどさ。

まあそれはさておき、ふっとレイの服を見ていたボクは、なんとなく制服を手に取ってみた。制服に鼻をつけて匂いを嗅いでみると、昔から変わらないレイの柔軟剤の匂い。大きく深呼吸すると、当時のレイが自分の中に入ってくるような感覚がした。

「レイ・・れいぃ・・・」

そのまま何度も深呼吸をして、そのたびに自分の中にレイが入ってくる感じがする。

「そうだ、そうだね。ボクがレイになればいいんだよね。そうすれば、レイはまた走れるし、レイも戻ってくるよね」

多分、その時のボクの目からは光が失われていたんだと思う。着ているものを全部そこに脱いで、下着から制服まで全部レイのを身に着けた。

「んっ・・・。これでいいかしらね」

口調もレイに合わせる。髪も、レイは縛ってなかったからリボンをほどいて・・・うん、これでいい。体格が違うから制服がぶかぶかになるけど、でもこれでボクがレイだ。

「ふふっ、楽しくなりそうね、ここから」

そうしてボクは、そこから自分がレイなのか、テイオーなのかわからなくなってどんどん壊れていった。

 

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最近テイオーの様子がおかしい。クレナイの世話をテイオーに任せ、私は行く頻度を抑えた結果、少し落ち着いてしっかり寝れるようになってきた。正直テイオーに押し付けた形になってしまって申し訳ないが、私では起こせなかった彼女をテイオーなら、きっと起こせるんじゃないかと思う。全くの放りっぱなしではなく、週に二回は時間を作って二人の様子を見に行っているから、何か変なことが起きたらすぐに対処できる。そう思っていたのだが、また私は選択肢を間違えたらしい。

最近、テイオーの様子が確実におかしい。というのも、まず着ている制服が違う。トレセン学園の制服は、さまざまなサイズが用意されているから、基本サイズの合わない制服を着るなんてことは起こりえない。だが、テイオーはぶかぶかの制服を着ている。しかも胸も膨らんでいる。更にいつもは縛っている髪をほどいているし、所作もどことなくおしとやかになっている。

そしてこれが決定的な変なポイントなのだが、テイオーと呼んでも返事が来ない。最初の頃はまだ何回か呼べば振り向いたが、最近は全く来ない。代わりにクレナイと呼ぶと返事をするようになってしまった。それから、もししつこくテイオーと呼ぶと、

「なにかしら? 私はクレナイだけど」

なんて、クレナイらしい口調で返してくる始末だ。そして、彼女が好きだったものを食べ、トレーニングの勉強をし、最後は彼女が寝ている部屋に戻って休んでいるようだ。

多分、何かがあってテイオーがクレナイと自分を重ねて混ざってしまったのだと思うが・・・。

私はこうして、また一人のウマ娘を壊してしまった。クレナイに続きテイオーまで。

こんな私が生徒会長として、すべてのウマ娘が気持ちよく走れる場をなんて言ってもいいのだろうか。テイオーを見るたびにそんな思いが胸を駆け巡り、もう生きていていい心地がしない。

それから私は頻繁に体調を崩すようになり、医者の診断で精神的なストレス、それも極大なストレスと判断され、エアグルーヴ、ナリタブライアン、おハナさんの全員に療養を命じられた。

まあこれでいいのかもしれない。私が何かしなければ、これ以上悪化することもないだろうから。

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