サブタイトルなんですが、曲が決まらなくて空白になってます。また今後の修正で加えていくので気にしないでください…。
「私、変態なのかなあ」
いつもの昼休み、香澄は弁当箱を膝に置いてそう零した。
新たにりみをバンドメンバー(仮)として加えたため、現在はこの集会も四人と大所帯となっているが、そんな面々は、口々に香澄の言葉に反応する。
「じゃん」
「えっ」
「変ではある」
「ええっ!?」
「え、えーと……」
次々に変態疑惑への同意が入って、同調しなかったりみもどうフォローしていいものか迷っている様子であることが分かり、凪紗の方へ、縋るような目線が送られた。
それに気づいた凪紗は、ウインクをして香澄を安心させる。空気読みの達人は、フォローまで完璧なのである。
「香澄は感性が普通の人と違いすぎるだけで、別に変態じゃないと思うな」
「やっぱり変態なんだぁぁぁ!」
想定外にも、香澄は泣き叫んでしまった。折角のファインプレーが台無しである。
「ちょっと変だけど全然変じゃないよ!」
「いや、なんか良いこと言ったのに、みたいな顔してるけどフォローになってねえから。あと、りみも」
「えー、そうかな? なかなか正確な考察じゃない?」
「フォローする気はなかったってことか……」
魔法瓶の焙じ茶に口をつけながら、有咲はそう結論付けた。一方の香澄は、りみに泣きつきながら反撃に出た。
「有咲のほうが変だよ!」
「はぁ?」
「この前、盆栽に『トネガワかわいいね~、お水あげるね~』って」
「へえ……」
沙綾のにんまりした目つきに、有咲がぼっと紅潮する。どうやら香澄は見てはいけないものを見てしまったらしい。
「言ってねぇ!」
「言ってた!」
「そんな言い方はしてねぇ!」
凪紗は、あまりの慌てように、少し可哀想に思って有咲の肩に手を置いた。
「有咲、ネーミングセンスは人それぞれだよ。事実、利根川から名前を取った軍艦の名前もあるわけだし」
「え、そういう話?」
「え?」
思わず首を傾げる。てっきり有咲のセンスのユニークさの話をしているつもりだったのだが、どうやらすれ違いが起きているらしい。
「……凪紗ちゃんも、ちょっと変わってるよね……」
「え?」
「確かに!」
「ええ?」
やはり香澄にそう言われるのは心外である。同じ立場に立って、有咲の気持ちがよく理解できる。
「冷静すぎるんじゃねーの?
「そ、そうかな」
「時々びっくりしちゃうくらいだよ。やっぱり、頭いいからかな」
周りからは沙綾のいうように見えているのだろか。頭がいい、というのは言われ慣れているとしても、有咲から見ても同年代らしくないというのは捨て置けない。
「あっ、でもでも」
ふと、香澄が思いついたように言い出した。
「お兄さんの話するときはすっごい嬉しそう!」
「え゛」
「へえ……」
途端に、沙綾の表情が先程の有咲を見る目に変わっていく。いたずらっ子のそれだ。
「そういえばこの間のライブのときも、お兄さんに相談したって言ってたよね。……ええっと、バンドの話」
「うちの蔵に来た時も、『兄さんにアドバイス貰った』って言ってたよな」
「う゛っ」
「凪紗って、お兄さんのこと大好きなんだね!」
「ぐわーっ!」
香澄の豪速球は凪紗の正鵠を射抜いた。否、吹き飛ばした。あまりの恥ずかしさにどうしようもなくなって、胸を押さえながら後ろに倒れ込む。
「ふふっ……でも、兄妹で仲がいいのはいいことだよね。うちは下の子だけど、お兄さんは一つ上なんだっけ?」
「はい、そうです……」
「じゃあ、うちのお姉ちゃんと一緒だね。学校はどこに行ってるの?」
「志哲……」
「うわあ、進学校だぁ。兄妹そろって凄いねぇ」
「そうでもないです……」
「なんか尋問みたいになってるけど」
観念したのか、訊けば何でも答えるとばかりに質問を続けられる様子に、有咲は同情の目を向けるのだった。
♬
「「よし、完成っと」」
しばらく
自分は決してブラコンなどではないと訂正を試みたものの、生温かい目で「そうだね」と返されてしまった。
──絶対に許さん……
午後は家政の授業であり、好きな生地を使ってナップザックを製作していた。いち早く仕上げに入った凪紗の声が、沙綾と被る。
「わあ、沙綾ちゃんも凪紗ちゃんも上手だね」
「袋物はよく作るから、けっこう得意なんだ。っていうか、凪紗も凄いね」
「そう? 沙綾の方が手慣れてる感じするなぁ……で、香澄は?」
りみの尊敬の籠った視線は、今まで受け慣れてきた嫉妬や憎悪を感じさせるものとはまったく違う類のものであり、彼女の純真無垢な一面に癒されていた。
新鮮な気持ちで謙遜をして、話題を香澄へすり替える。
「うう、全然終わんないよ~!」
そう半泣きで嘆く香澄の手元には、ギターケースのサイズに合わせるように採寸された布地が置かれていた。
「な、なんだか香澄ちゃんのナップザック、おっきいね?」
「うん! なんたって、ギターケースを入れる袋だからね!」
高らかにそう宣言する香澄だが、どう考えても時間が足りないのは自明である。そもそも、授業で取り組むのは小物用のサイズであるのだから。
「ギターケースケースか……なんか香澄の感性らしいよね、やっぱり」
「でも凪紗ちゃん、あれ……」
「ん?」
りみの指し示す先を振り向くと、別の作業台で製作する班の中に、香澄と同じような大きさの生地にギターケースを置いているクラスメイトがいた。
「あれは……花園さん?」
「あ、あはは……香澄とおんなじことしてる」
花園たえ──沙綾と同じように中等部からの持ちあがりの内部生である。凪紗は授業での作業や休み時間に少し話をした程度だが、かなりの天然であることと、持ち前の長い黒髪が目を奪うほどに綺麗だということが印象に残っていた。
「ギター持ってるってことは、花園さんも弾くのかな?」
「香澄はなんか知ってる?」
「……」
「……香澄?」
ふと、そんな風に香澄に尋ねると、何かに驚いたような表情を彼女が浮かべていることに気が付くのだった。
♬
「香澄ちゃん、遅いね……」
結局、広大な布面積を存分に使って作ろうとしたギターケースケース製作は終わるはずもなく、香澄は居残りとなり、
香澄は、同じものを作ろうとしていた花園たえという少女にギターの師事を仰いでいると言う。
今日もその状況は変わらず、居残りの香澄を待つばかりの中、りみがそう呟いた。
「あいつ、今日も来ないつもりかよ」
有咲が不満げに口にする。その辺りの事情がよく伝わっていないのかも知れないので、ここは一度宥めておいたほうがいいだろう。
考えていることはりみも同じなようで、そんな有咲にフォローを入れるのだった。
「だ、大丈夫だよ。今日で課題終わらせるって言ってたし」
「どうだか。花園って子とお喋りして、手が止まってるんじゃねーの」
「そ、そんなことないよぉ」
ちらり、りみの救援要請がその視線に乗せられて届いた。個性派の例の面々の中で、気を使いがちなりみには普段から苦労を掛けているので、ここは全力でそれに応えよう。
「ギター教えてもらってるらしいけど、それなら我ら香澄のバンドメンバーにとっては好都合なんじゃない?」
「バンドメンバーなら練習に参加するべきだろ」
「香澄は初心者だしさ、花園さんがいい先生になるなら丁度いいかなって。まあ、香澄がいなくて淋しいのは分かるけどね?」
「なっ……! ち、ちげーよ! 私はただ、契約したから見過ごせねーってだけだ!」
「淋しいなら私とりみがいるじゃん? ねえ?」
「う、うん。有咲ちゃん、もしかして私じゃ嫌……?」
「そ、そうは言ってねーだろ! わ、私はみんなでやりたいっていうか……その」
「……可愛いなあ有咲は」
「はあ!? お、おい急に近づくな! 抱き着くなぁ~!」
どうやら有咲は初めて体験する
ただ、凪紗としてはそれに同調できる部分もある。有咲の言う契約も、言い換えれば約束──お昼ご飯や、蔵での練習のことも、その大切さについて、有咲よりもきっと友達の多い香澄とでは大きな差があるのだろう。
目の前のことに真っすぐで全力な香澄は、きっと裁縫も、たえとの練習も全力なのだ。
「──よし、分かった」
だから、そんな彼女に対しても真っすぐに向き合う必要がある。
そう考えた凪紗は、胸の中にもがき苦しむ有咲をかき抱きながら、一つの提案をしてみる。
「明日、香澄に話をしてみよう!」
「……は?」
有咲の間抜けな声が、蔵に響くのだった。
♬
「おたえがアンプ持ってきてくれてね、ちっちゃくてかわいいの! おたえは音あんまりよくないって言ってたけど、ちゃんと音出るし、おたえのギターかっこいいんだ!」
「そ、そうなんだぁ……」
「……」
翌日になってもたえの話題は尽きないようで、香澄は作業中の休憩時間に行ったギターの練習の話を続けていた。
「課題終わらせる気ないな」
「あるよー」
白々しく受け答えをする香澄。しっかりとストラップを肩掛けしてDコードを押さえているあたり、たえとの練習に夢中である。
思った通り、りみは心配そうにこちらを窺っており、有咲はむすっとした表情で卵焼きを口に運んでいる──これは急いで
「香澄」
「うん? なあに凪紗──」
「かくほーっ!」
呼びかけて、振り向いたその瞬間に大声で号令を掛け、作戦が発動する。
りみと有咲も同時に動く。凪紗はりみとともに香澄の背後に回り込み、有咲と向き合うようにその両腕をがっちりと固定した。
「え!? なに、なに!?」
「ごめんね、香澄ちゃん……でも、大切なことなのっ」
「えええ!?」
戸惑う香澄をよそに、舞台は整った。凪紗は「ほら、有咲」ともう一人の役者に呼びかける。
「……契約違反」
「へ?」
「一緒にお昼食べるって言ったのにどっか行く! うちで練習するって言ったのに来ない……!」
「! ご、ごめん……!」
きっと有咲は、思いを伝える経験が浅い。だから、言葉は短く、絞りだすような語調になってしまう。
今自分のなすべきことは、そんな彼女の手助けをすることだ──中庭に走ったかつてない緊張の中、凪紗はそう考え、口を挟むように声を上げた。
「香澄」
「な、凪紗」
「有咲も、香澄と同じようにバンドのことを大切に思ってるんだよ。だから、練習にはみんながいて欲しいんだ」
「ねっ?」と有咲に訊くと、小さくも珍しく素直に頷いた有咲。申し訳なさそうな表情の香澄を見る限り、気持ちは伝わっているようだ。
「香澄も、きっとバンドのことを忘れてたわけじゃないと思うんだ。この間は私がギターを弾いたし、それで練習しなきゃって思ったんでしょ?」
「う、うん……」
「なら、私も焦らせちゃったみたいでごめん。……許して、もらえるかな」
頭を下げて、伏し目がちにそう尋ねると、有咲は慌てていたものの、香澄は大粒の涙を堪えていたので面食らっ
てしまう。
「う、うう、ごめん……ごめぇぇん……!!」
「おっと……」
急に抱きついてこられるとバランスを崩してしまいそうになるのでやめて頂きたい。けれど、こと今回に関しては、それも見逃してやろう。
そんな風に考えて、凪紗は香澄を受け止めたまま、その背をぽんぽんと叩く。
「ほら、私は大丈夫だからさ、謝らなきゃいけないのは有咲でしょ」
「有咲……」
香澄の両肩を掴んで、くるりと有咲の方へ向ける。浮かべた涙を目にした有咲は終始気まずそうにしていたが、
「……今回だけだからな」
とツンデレを披露した。許しが得られたことをそれで理解した香澄の顔が途端に明るくなる。言うまでもなく、有咲に飛びつくのだった。
「有咲~~!!」
「うわあ!!」
「ごめん! ごめんねぇ~~!!」
「分かった! 分かったから離れろ!」
どうやら一件落着らしい。深まるりみからの尊敬の視線に苦笑していると、困ったような顔の紗綾が袖を引いているのに気付く。
「……ごめん、話が見えないんだけど」
「あ、そうか。紗綾は今のやりとり意味わかんないよね。実は……」
♬
「あっはは!」
休み時間の残りももう少ない。手早く細かな経緯を説明すると、沙綾は腹を抱えて笑い出した。
「い、市ヶ谷さん、可愛い……っ!」
「お、おい何喋ってんだよ! そ、そんなことないですからっ」
一応、沙綾は中等部時代の知己ということもあって
「まあまあ。有咲の気持ちは分かるよ。だっていっつも引っ付いてくる子が突然他の子のところに行っちゃったら、寂しくなっちゃうのが性だよね?」
「な、凪紗ちゃんもそうなの?」
「うん。だからりみも離れないでねっ」
おどけたふりをしてりみにハグをしてみる。実際、凪紗からしてみればバンドメンバーとしての必要性、そして何よりも
──意外と私、独占欲が強いのかな……
「ひゃああ!?」と慌てふためくりみに頬ずりをしながら、そんな風に顧みていると、香澄が小さく俯いて話し出した。
「みんな、改めてごめんね。……私、もっとギターがうまくなろうと思って、そればっかりで……だから、おたえのギターを聴いて、おたえに教えてもらえたらみんなに追いつけるかなって」
どうやら、凪紗の推測は当たっていたらしい。「どうよ」とばかりに有咲に目を向けると、少しばつが悪そうにしながら指に髪を巻きつけていた。
「……私だって、もう昔みたいには弾けねーんだし……だから、みんなで一緒に練習すればいいんじゃねーの」
「有咲……! うんっ! やろう! 今日から」
「お前、まだ家政科の課題終わってねーんだろ」
「うぐぅ……でもっ! もうちょっとだから! ……待っててくれる?」
「……今日だけな」
「やったあ!」
やはりチョロい。今、凪紗はここに確信した。二人に芽生えつつある友情を微笑ましく眺めているりみは別としても、沙綾は同意見でありそうだ。
もしまた同じようにすっぽかされても困る──今度は有咲が泣いてしまうかもしれない──ので、ここは共謀して対策を張ることにする。
「それじゃあ、凪紗たちの帰り際にうちに寄ってってよ。一緒に帰れるし」
「そうだね。一時間遅れるごとに香澄のパンが一個、また一個……って食べられちゃうってことにして」
「えっ!?」
「もちろんお題は香澄持ちで」
「うち、ツケはやってないんだけど……今日くらいは建て替えといてあげるよ」
「えええっ!? い、急いで帰らなきゃ! っていうか、信頼されてない!?」
「ふふ、香澄ちゃん、前科持ちだから」
「牛込さんの口から前科持ちって言葉が出てくるとは……」
「うわーん!! 早く終わらせなきゃー!!」
香澄の絶叫に周囲が苦笑していると、予鈴が鳴り響いた。
「お願いだから食べないでー!!」という懇願に縋りつかれながら、凪紗はひとまずの難局を乗り越えたことに大きな安堵を覚えるのだった。
基本はメインストーリーに沿いながら進行しているわけですが、一段落ついたらオリジナルストーリーも書いてみようと思います。既に一部は出来上がっているので、このペースのまま投稿できたらという感じ。