なんか終わり方がアレかもしれませんが、個人的には納得いってます。
「──それでは、今日はよろしくね」
「「よろしくお願いします」」
ついに来た、ライブ本番……の前に、やることが一つ──それは三者面談だった。
本当は、というか
つまるところ、早めにヒアリングを行って問題が見つかればしっかりケアすることが目的だと、中井先生は教えてくれた。
隣の兄さんが頷く。
「早速本題に入らせてもらいます。まずは凪紗さんの学校での様子についてですが、何事にも真面目に取り組んでくれています。成績も申し分ないどころか学年でずば抜けているし、クラス内でも学級委員を務めてくれていて、リーダーとして引っ張る役割も果たしてくれているわ」
「そうですか……」
えっへん、ってなんだその目は。
成績のことはおいておくとしても、中学までのやさぐれモードの私を知っている兄さんは、クラスでの私の様子について、どこか胡散臭そうな視線を向けてくる。ポピパを結成する前の有咲と同じ感じ。
「そういえば、文化祭にも出ていたけれど、学外ではバンド活動をしているそうね。
お兄さんにはそのことを伝えてあるの?」
「はい。結成前から相談していました」
「そう。兄妹でしっかりコミュニケーションが取れていることはとても良いことだわ。
受験勉強のことも考えると、学びとの両立は他の活動をしている子にとって問題となりやすいけれど、その点凪紗さんたちなら大丈夫ね。
市ヶ谷さんともよく一緒にいるようだし」
有咲は外面をよくしようとするので、こういうところでも名前が出るくらい先生ウケはいい。
いやでも、あれじゃあ真の有咲のよさが伝わらない気がするけどなぁ。
ともかく、そんな言葉とともに微笑んだ中井先生は、「これからも両立のバランスを崩さないようにね」と、私への評価を締めくくった。
「……それでは、律夏くんを含め、ご家庭のお話をさせてもらいます」
少し、兄さんの表情が固くなった気がした。……たぶん、私も同じ。
「まずは、お母さまのご様子はどうですか?」
「おかげ様で、去年からはかなり快復しています。まだ調子の波が大きいみたいで、家に帰るのは難しいんですけど」
「そうなのね……それは何よりです。やっぱり一番は、お母さまが家庭にいることだと思うから」
その通りだと思う。
兄さんもいてくれるし、今では慣れた……ように感じているけど、ふとした瞬間に空しさっていうか──そういうマイナスの感情を抱えることだってある。
それに、理由はそれだけじゃない。
「そのことと、さっきのバンドのお話を含めて、なんだけどね。
凪紗さんがそれをする以上、家事やいろんなことを律夏くん一人でしなければならない、ということにならないかしら。
もちろん、凪紗さんにとって音楽活動が大切な経験になることも、遊びでやっているわけではないことも分かっているつもりよ。……だけど、それではあまりにも」
責めているわけではないのは見ていれば分かるけれど、何よりも、兄さんのことを思う先生の悲痛な表情が心に突き刺さる。
もちろん私だって、それを分かって決断した以上は、兄さんの負担ができる限り小さくなるように努めてきた──いや、そんなのは言い訳どころか、自分の気持ちへの誤魔化しにしかならないか。
何を言えばいいか迷っていると、兄さんが口を開いた。
「……お気遣いいただいて、ありがとうございます。
しかし、今後のことを考えたうえで、悔いのない判断をしたつもりなので。……進学や健康に関わる負担の話で言えば、全く問題はありません」
低く響き渡るような声が空気を揺らした。
私はそれを、心の芯からの言葉と感じていいのか、まだ分からなかったけれど。
「何より、
「その分、あなたの時間を削ることになったとしても?」
「削るものではなく、元々そのためにありますから」
「「……」」
先生だけではない。私もその言葉を聞いて、目をパチクリさせてしまった。
……かっこつけやがって。
でも、そう言い切ってしまうのはやっぱり頼もしくて、かっこいいと思ってしまったんだ。
♬
「ねえ」
「ん?」
ライブの日、それは夏休み前に先生が言っていた三者面談の日だった。
空っぽになってしまった校舎を後にして、SPACEへの道すがら、鳴き始めの蝉に負けそうな声で、私は兄さんの背中を呼び止める。
「私、もう止まれないし、止まらないよ。
ここまで背中を押してもらって──香澄たちの隣に立って、手をつないだら、もう戻れない」
「……ああ」
「本当に、いいのかな?」
言葉の後、私たちの間には沈黙が生まれた。その一瞬に、兄さんは何を考えていたのだろう。
それは分からなかったけれど、少しだけ眩しそうに目を細めてから、兄さんは言った。
「どうせなら、思いっきり飛び出してこい。いつかきっと、追いつくから」
それは、夏の日差しのせいだったのだろうか。
とにかく、私はこれまでと同じように、これからも兄さんを信じ続けるんだと決めた。
「うん。……きっと」
もう、SPACEはすぐそこだった。
少し時間は早いけれど、香澄たちはライブの準備をしているだろう。兄さんたちお客さんには悪いけど、待ってもらわないといけないかな。
「あれ、オーナー?」
陽炎の向こうで佇むオーナーを見つけ、声を掛ける。
彼女は振り返るというよりは、ゆっくりと視線だけをこちらに向けてきた。
「若葉かい。戸山たちなら、もう入ってるよ」
「はい、ありがとうございます。──あの、今日はよろしくお願いします」
「ああ、頼むよ。そっちは?」
「今日のライブに来るとお話していた、兄です」
「ああ……」
オーナーの視線が鋭くなる。見た目がライブハウスに悪影響と思われたらまずいので、ぽかんとしてる兄さんを「ほら、挨拶」と肘で突くと、たどたどしくも名乗りだした。
「わ、若葉律夏です。いつも、凪紗がお世話になっています」
「都築詩船という。──そうか、若葉、か……」
な、なんだろう。凄い睨まれてる気がするんだけど。
見た目はともかく悪いことはしないので、ここは通してほしいところだ──っていうか、鉄面皮の兄さんが珍しく固まっている。
オーナーは、言葉を失った私たちへさらに言葉を掛けた。
「妹の方は、早いところ準備してきな。まだ時間はあるから、兄貴を借りるよ」
「え? は、はい」
突然、他人に兄を借りられてく妹は広い世界を探しても私くらいじゃないかな。
っていうか、一番驚いてるのは兄さんだと思ってたけど、気が付けば元の無表情に戻ってるし。
「凪紗、何かあったら呼んでくれ。──ライブ、期待してる」
「うん。楽しみにしてて」
言いながら扉を開けば、冷房の効いた風が私を出迎える。
かたや炎天下、オーナーに向き合った兄さんは、どこか懐かしい思い出に浸るような表情だったことが印象に残っていた。
☆
「凪紗~! 待ってたよ!」
「うわっとと、香澄、抱きつくのはいいけど勢いを加減して」
お客さんが待つエントランスから出演者用の通路を抜けた先、控室の前で香澄に捕まった。
というか、準備してたんじゃないんだっけ?
それを訊くと、みんなは顔を強張らせながら視線を
「楽屋……だよねそこ。入らないの?」
「で、出る側で入るの、初めて……」
「震える」
言葉から、りみや、ちょっと意外なことにたえもたじろいでいる様子が伝わってくる。
その中で一人、「これぐらいで緊張しすぎ」と虚勢を張った有咲も、中の賑わいを覗くとすっかり及び腰になって、扉をそっ閉じしていた。
「百人くらいいた……」
「「ええ!?」」
「いやそんなには……」
「じゃあ沙綾行けよぉ!」
「ええ?」
ポピパ特有のわちゃわちゃが始まった。
「パン屋さんでいっぱい人と会ってるし」というりみの声には納得だが、「百人斬り」だの「道場破り」だのというのは意味がよく分からない。
「はいはい、いつもの漫才やってないで行くよ」
「な、凪紗は緊張しないの?」
「怖いもの知らずだね」
ふふ、よく言われる。あと兄さんには大胆不敵とか、図太いとか……それは余計だ。
けれど、別に大したことじゃない。今日のために積んできた練習のことを思えば──緊張せず冷静に演奏しさえすれば、ミスなんて起こりっこない。
合理的に考えて自信を持つのが私なのだ。
──あと、個人的な思いもあるしね。
「私たちなら大丈夫。いつだってできることをやるだけだよ」
「凪紗……」
一応、香澄と一緒にバンドを作ってきた副キャプテンの自負もおまけにしてみんなを励ますと、心なしか、下がった眉が元に戻ってきたような気がする。
よし、行こう。
手を掛けたドアノブを押すと、扉の向こうの景色が視界に入ってくる。
「……あら?」
聞いたことある声に、私はひっくり返りそうになった。
♬
「ライブ前の緊張、ですか」
「それもあるんですけど、なんか、フワフワしてるっていうか」
「……本番のイメージがつかない、ってこと?」
「そうそれ!」
両人差し指を私に向ける香澄。なんか昔の芸人がやってたかも、そのポーズ。
「語彙力なんとかしろよ……」と有咲が額に手をやった。
「私は全く見当がつかなかったのですが、皆さんは」
「いや、私たちもちょっと慣れてきたかな、くらいで」
「有咲ひどーい! 私、外国人じゃないもん」
「外国人ならまだいい方だよ……」
「エイリアン?」
珍しい有咲とたえのコンビネーションに、流石の氷川先輩も戸惑いの表情を浮かべているようだ。
「……それなら、この
「あー、確かに律夏さんもそういうイメージあります。教え上手っていうか」
「この間の勉強会も、すっごい分かりやすかったです!」
そうかな。なんか変なスイッチ入ってた気がするけど……。
訝しむ私の様子を勘違いしたのか、りみが「凪紗ちゃんも、すっごく分かりやすかったよ!」とフォローを入れてくれる。天使かな。
「勉強会では違う組み合わせでしたが、バンドの中心にいる戸山さんと、戸山さんの思いをより分かりやすく、言語化して伝えられる凪紗さんの組み合わせは、ある意味バンドらしいと言えるのではないでしょうか」
「バンドらしい……ですか?」
『バンドらしいとは何か』っていう問いを前にして、首を傾げる沙綾と同じように、みんなが頭上に疑問符を浮かべていることが分かる。
それでも、私たちが今まで経験したことが、そのヒントをくれているような気がしていて。
「補完関係、と言えばいいのでしょうか。個人の特長を、集団の強みに変えられるような」
「???」
まずい、香澄が目を回してる。
実際、氷川先輩には言葉遣いが難しいところがある──誰かさんの影響を受けてなきゃいいけど。
ともかく、伝わっていない様子に戸惑う先輩の助け舟となるべく、みんなの疑問を代弁してみようと思う。
「えっと、補完っていうのは、一人じゃ足りないところを、他の誰かの持ち味で補い合う……っていうことですよね」
「ええ。バンドで演奏する楽器にも、その表現で得意と不得意があるように」
ここまで言えば、察しのいいメンバーは分かってきたようで。
「あー、香澄の足りてない語彙力を、凪紗が補ってるってことですね……」
有咲の言葉に、先輩は容赦なく頷く。──たぶん
「ええー? 私、足りてないのかな?」
「ま、まあそれは置いといて……。曲作りのときはいつも香澄に助けられてきたし、それをみんなに共感してもらえるようにしてくれるのが、凪紗の大きな役割ってことだよね?」
露骨な話題転換。
しかし、香澄はずいぶん嬉しかったようで、「沙綾ぁ~!」と感動を滲ませながらいつものように抱きついている。
先輩は嘆息交じりにその光景を眺めていた。
「……皆さんは、仲違いや衝突には無縁なのでしょうか」
たぶん(ていうか絶対)、こんなやりとりが交わされることのないRoseliaとの温度差に、先輩は辟易としているんだろうな、と思う。
それでも、これまでのことを思えば──
「メンバー集めはなんというか、結構な修羅場だったっていうか……」
「……えっと、その」
唐突に気まずさに襲われる──主に沙綾を中心として。
そんな空気を察した先輩は、ちょっと意外そうにしていた。もしかしたら、私たちはRoseliaとは違うっていうイメージがあったのかもしれない。
「Roseliaの皆さんも、やっぱり音楽のことでぶつかったりすることがあるんですか?」
「そうですね。今思えば私も未熟だったもので、それぞれの感性の違いを個性と受け止めきれず、衝突することもあったのかもしれません。
……だからこそ、お互いを支え合うような皆さんのバンドと、その演奏に興味を持ちました」
「え……!?」
はっきり言ってしまえば、Roseliaは私たちとはレベルが違う。まさに格上だった。
そんなバンドのメンバーさんが興味を持って聴きに来てくれているってことは、私たちにとって大きな驚きで、同時にすごく嬉しかった。
「興味、っていうのは……?」
おそるおそる、有咲がそう問いかける。対峙する先輩は、少し考える仕草をして言った。
「皆さん、そしてバンド活動だけではなく、誰しも何かを始めるのには理由や背景があるのだと考えています。
問いかけられた『あなた』は私だった。
なぜ私なのだろう、という疑問が生じる前に、ここまでの会話で言語化能力を持て囃されていたことを思い出す。──というか、みんなからの期待が籠った視線がその裏付けになっている。
私がバンドを始めた理由──そして、それがポピパでなきゃダメな理由。
みんなと目を合わせて、そして今までを思い返して──少し恥ずかしい台詞の中に込めて、私なりの答えを出してみることにした。
「最初はただ、音楽をするためだけに集まったのかも知れないですけど……。
このメンバーで一緒にやりたいって思ったのは、香澄の感性に惹かれてっていうところが大きかったと思うんです。
だから、香澄の隣に立ちたいって思うし、香澄が見て、感じているものを知りたくて。そうやって集まったみんなだから、手放したくないって思う──どんなに自分が不甲斐なくても、諦めたくないって思うんです」
「「……」」
「……あれ?」
返事がない。
不思議に思って見回せば、考え込む先輩と、顔を真っ赤にする香澄、「わーお」といった表情の沙綾とりみ、あんぐりとしたたえと有咲がいた。
「い、いやー……なんか、すごいの聞いちゃったね」
「な、凪紗ちゃん、大胆……」
「おま、オブラートにするとかなんかねーのかよ!」
何か変なこと言ったかな。
香澄に至っては、トマトかゆでだこのような顔をそのままに「あ、あはは」だとか「えへっ」とか、ニマニマとしながら狼狽えている──なんか新鮮かも。
一方で、何らかの考察を終えたらしい先輩は、
「なるほど……よく理解できました」
と得心して満足そうだった。……反応が十人十色すぎてカオスだ。
そんな混乱も収まりきらないうちに、四方八方の雑談が急速に萎んでいく──部屋にいた出演者の視線が、入ってきたオーナーへと一斉に向かったのだ。
「あ、もう始まるかな」
「そのようですね。……では、私はこれで。
皆さんのステージ、楽しみにしています」
あ、先輩が行ってしまう──この変な雰囲気なんとかしてください。
「は、はい。ありがとうございました」
「頑張ります!」
ざわつきが完全に収まってオーナーの話が始まるまで、目配せが香澄の視線と重なり合うことはなかった。
♬
「──最後のライブだ」
そう言ったオーナーの表情を覗き見る。強い意志を秘めた瞳が物語るのは、一体なんだろうか。
「でも、いつも通り全力でやる。それがSPACEのライブだ」
この場所のライブが最初で最後になる私たちには、その言葉の重みを完全に理解することができない。
ゆり先輩たちの抱える思いと比べれば、ずっと軽い決意なのかもしれない。
それでも──
「私から言えるのは、一つだけだ。──思いっきり、”演って”きな!」
「「はいっ!」」
オーナーの言葉に、叫びにそれぞれの感情を込めていく。ステージの上で、力の限りそれを表現することなら、私たちにもできるんだ。
「がんばろーね」
ふと、隣に立っていた他のバンドの子が手の平をかざしてくる。私たちも、この《SPACE》の一員なんだってことを認めてくれたような気がした。
「うん!」
「がんばろーっ!」
後ろに立っていた香澄も、私たちの手に重ねるようにハイタッチ。……よかった、元に戻ってるみたい。
そして、ステージに向かっていくゆり先輩と、袖で待機する夏希を見送る。
二つのバンドの演奏が終わったら、私たちの出番がやってくる。
グリグリのステージは大盛り上がりで、最後のライブにふさわしい幕開けになった。
さすがゆり先輩。MC完璧だし、誰よりとびきり輝いて注目を独り占めしていた。
だから、私たちもそれに続いていきたい。
ステージからは、夏希たち新生《CHiSPA》が紡ぐメロディが流れてくる。その爽やかさを耳にしつつ、ふと、隣のりみの思いつめたような表情に気付く。
──そうだよね。ここにいる誰だって、本当は緊張しているんだ。
思いをぶつけ、壁にぶつかっても前に進んでこれたのは、このステージに立つんだっていう思いがあったから。
今日のライブだけは、絶対成功させたい──心から「やりきった」って言いたい。
見に来てくれているすべての人に、私たちの
気が付いたら、震えるりみの手を取っていて──それは、香澄へ、たえへ、沙綾へ、そして有咲へとつながっていった。
「……!」
咲祭のときと同じように、夏希たちは会場の熱狂をそのままにステージ袖へ戻ってきた。
「あっためといたから、次もよろしく!」
「うん!」
ぱしん、と手の平を鳴らし、みんなが去った後、香澄は私たちを振り返って手を差し出した。
「円陣やろ!」
「忘れてんのかと思った」
えへへ、とはにかむ香澄の手に、有咲の手が添えられる。
「がんばろうね!」
「もうやるしかない!」
そして、りみと沙綾の手が重なる。
「ポピパパピポパ~」
「え?」
なんだか不思議な掛け声(呪文?)に、みんなの注目を集めたたえは、「思いついちゃった」と満足げだ。
「今かよ!?」
「なんか面白いじゃん。やろうよ」
そう言って、一番上に手の平を置く。
私たちの円陣はちょっと不思議かもしれないけれど、思いは確かに一つになったみたいだった。
☆
ステージの上から見たペンライトの光は、夜空に瞬く星みたいだった。
光の中には沙綾や有咲の家族がいて、そして兄さんや氷川先輩にひかり先輩、恵さんの姿も見える。
みんなが、今は私たちの音を待ち望んでいるように感じられた。
「「Poppin’ Partyです!」」
息を合わせて声に出すと、オーディエンスはそれに応えてくれる。
そのまま自己紹介をして、ちょっと深く息を衝いた香澄が語りかけるように続ける。
「私たち、
ずっと叶えたかった、その夢が叶いました!」
盛り上がった歓声の中に、夏希やひかり先輩の声が聞こえる。
「おめでとーっ!」
「さすが私の妹ーっ!」
先輩の妹になった覚えはないけど……。
それでも、みんなが見てくれていて、ペンライトを振って応援してくれていることが、とても嬉しくて──
大口を叩いていた私でもたじろいでしまうくらいの熱量が、私たちに向けられていた。
ペンライトの虹色の光に囲まれていると、香澄や有咲と、はじめてライブに行ったときのことを思い出す。
ゆり先輩たちが立ったステージに、私たちがいる。
心を揺さぶったあの演奏が、私たちにできるだろうか。
「──じゃあ、副リーダーからも一言!」
「え?」
そんな風に思い出していると、沙綾の声がして、次に香澄のマイクが手渡される。
期待の表情を向けられてるけど、そんなの台本になかったよね?
「え、っと──」
余計な抵抗は諦めてステージの最前面に立つと、光の海が目の前に広がっている。
こうやって大勢の前で話すのは、たぶん入学式のとき以来。舞台は変わらないのかもしれないけれど、変わったものがあるとすれば、それは私。
ここにいるのも、変われたおかげだとするなら──思い切って、そのことを言葉にしてみようと考えた。
「……今、初めてSPACEに来たときのことを思い出していました。
ステージの演奏を、会場全体で楽しむこの空間にとても興奮して、輝いているように見えて──
だからこそ、それが眩しすぎる、遠すぎるようにも感じてしまったんです」
気付けば、誰の声も聞こえなかった。
「それでも、出会ったメンバーが着いてきてくれた──連れてきてくれた。
大変なことも確かにあったけれど、みんなで手を取り合ってここまでこれた。──そして」
ここまで、一息に吐き出した空気をもう一度吸い込む。
お腹に力を入れて、叫ぶように私は言った。
「兄が、一歩を踏み出す勇気をくれたんです」
ばっ、と生徒会の人や知っている人が兄さんの方を向くので、どよどよとするお客さんたちも、次第にそれが伝わっていく。
言っちゃった──そんな羞恥が顔を染めてしまう前に、私は言葉を重ねる。
「──っ、だから、このライブで感謝を伝えたいんです!
もちろん、今見に来てくれている皆さんにも!」
だけど、もう遅かったみたい。
にやにやというか、生暖かいみんなの目線が私たちを襲う。
「凪紗……やっぱり大胆だね」
「公開告白」
誰が公開告白だ。
どっと笑いが巻き起こって、私も照れ笑いが隠せなくって──それでも、ちょっと重苦しかった心が晴れたような気がしていた。
「……それじゃ、行こうか」
「うん」
ステージだけに聞こえる声に、誰からともなく
私たちの様子が伝わったのか、ざわつきはある意味張り詰めたような息遣いに変わり、鋭い注目を向けてきた。
みんなの視線を重ね、タイミングを合わせる。
押し殺した呼吸、熱を帯びた光、額に浮かぶ汗──止まっていたように思えた時間が、カウントとともに動き出す。
振り下ろしたピックで、私たちの音楽と輝きが弾けだした。
というわけで、長々とお待たせしておりました。
幕間を投稿しつつ、メインストーリーの3章を次話以降はじめていければと思いますので、気長にお待ち頂けれは…