恋のダービー   作:sysy

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目標:恋のダービーで一着

出走条件達成まであと・・・・・・


テイオー「恋はダービー?」

 テイオーは今日も上機嫌にステップを踏みながら歩いていた。三冠ウマ娘となり、マックイーンに勝ち、尊敬するシンボリルドルフに挑み、ついに追い越した。途中で何度か躓いたものの、結果的には全てが上手く行った。常に絶好調で順風満帆とはまさにこのこと。意味もなく「ワガハイはテイオーだー」と叫びたくなるほどに。

 そんなテイオーの元に見知った話し声が届き、ウマ耳がピクリと反応する。この声は己を担当するトレーナーと仲の良いベテラントレーナー二人のもの。しかし、側にトレーナーはいない様子。であれば特段気にすることでもないとテイオーはそのまま歩みを進める。

 

「まさかアイツに見合いの話が来るなんてな」

 

 ギシリと大地を踏みしめ、テイオーの足が止まる。

 

「俺たちが既婚者なのもあって、案外気にしてたのかもしれん」

「トレセンに来る前からレース莫迦というか、なんでもトレーニングに結び付ける脳トレ野郎だったからな。ファイナルズも終わって、一息ついた所でって可能性はあるか。アイツ、あれでいいとこの坊ちゃんだし」

「しかし、たづなさんに桐生院さんともいい感じだったのに見合いなんてするかね?」

「別にどっちともそういう感じじゃなかっただけだろう。いっちゃなんだが、好みじゃなかったんじゃないか? そりゃあ、担当の子に比べたらどっちも大人だが……」

 

「ねぇねぇ、ちょーと、ききたいことがあるんだけど? いいよね」

 

 

 

 

 トレーナーはトレーナー寮にある自室で写真とにらめっこしていた。そんな中、鳴り響くチャイム。特に警戒もせずドアを開けると、そこにいたのは自らが担当するウマ娘、トウカイテイオーだった。

 

「トレーナー! 聞いたよー! お見合いするんだって? そういう面白そうなことはボクにも教えてくれないとダメでしょ!」

「別に面白くもないぞ。ただ、親にせっつかれてるだけだしな。しかし、先輩とはいえプライバシーくらいは守ってほしいもんだ」

「ふーん。そうなんだ。じゃあ、悩むことでもないじゃん」

「ほんと、どこまで話したんだか。とりあえず、中に入るか? もしくはトレーナー室にでも……」

「わーい、お邪魔しまーす! トレーナー君は精一杯ワガハイをもてなしたまえー」

 

 秒で部屋に入り込んだテイオーは我が物顔で寛ぎ始めた。

 

「ははー。コーヒーはないから紅茶でいいか?」

「いいよー。あっ、ひょっとしてこれがお見合いの写真? へぇー、綺麗な人じゃん。何が駄目なの?」

「勝手に漁りおってからに。まあ、駄目ってことはない。お見合いせずとも、一応、昔からの知り合いではあるし。性格も良くて、俺にはもったいないくらいだ」

「あれ? 受けるの?」

「断ったら煩いだろうし、見合いするだけなら構わないだろ。その後は知らんが」

「ふーん。でもお見合いかぁー」

「テイオーにはまだ早いかな。精々、結婚式に呼ばれるとかそれぐらいだろ」

「あー! 何笑ってるのー! 最近、大人になったと評判のテイオー様だぞー!」

 

 トレーナーに鼻で笑われたテイオーは憤慨した。

 

「すまん。悪かったよ。確かにこの三年間は色々あって、テイオーも随分成長したもんな」

「む、分かればいいんだよ。分かれば」

 

 謝りつつ運ばれてきた紅茶で一息。

 

「しかし、仮に結婚することになった場合、結婚式にはテイオーも呼んだ方がいいのか?」

「呼んで、呼んで! もしそうなったら、このテイオー様が直々にスピーチを読み上げてもいいぞよ~」

「場は和みそうだからアリかな? その時はよろしく頼む」

「うん! 任せてよトレーナー! トレーナーのあんなことやこんなことまで話しちゃうから」

 

 ニシシとテイオーは意地の悪い笑みを浮かべて笑い、その後もトレーナーと楽しくお喋りをして過ごしたのだった。

 

 

 

 

 ふと気づけばテイオーは教会にいた。周りにはたくさんの参列者がおり、誰もが新郎と新婦の登場を待ちわびている様子。

 

『そっか。トレーナーの結婚式に呼ばれたんだっけ』

 

 少ししてトレーナーが現れ、次いで写真で見た女の人がウエディングドレスを纏ってヴァージンロードを歩いてくる。二人は愛を誓い、指輪を交換する。

 憧れでもある胸温まる光景。そのはずなのにテイオーは胸が締め付けられるような苦しさを覚え、二人が誓いのキスを交わす所で思わず目を背けてしまった。

 そして、場は披露宴へと移り、ゲストからのスピーチということでテイオーは皆の前に立たされた。

 

『ええっ! そういえばそんな約束もしたけど、内容なんて全然かんがえてないよぅ』

 

 しどろもどろになりながらも、何か話さねばと思い、記憶を掘り起こし、トレーナーとの出会いから語り始める。

 

『初めて会った時は風船をとるために、トレーナーを跳び越えちゃって……』

 

『次に会った時は選抜の時だったけど、あの時はあんまり話さなかったっけ』

 

『お試しトレーニングして、模擬戦でカイチョーに負けちゃってよく分かんなくなって落ち込んだ時もトレーナーに会って……』

 

『一緒にカイチョーを超えようって宣戦布告して、デビューして……』

 

『ダービーに勝った後に足を痛めてたことがばれちゃって、菊花賞には出れないってなった時はちょっと喧嘩して、酷いことも言っちゃったけど……』

 

『無敗の三冠ウマ娘になれた時はすごい嬉しかったなぁ。レースの後とライブでスリーピースした時はすごい盛り上がったし』

 

 マックイーンに勝ち、春シニア三冠を達成した時はキタちゃんもお祝いに駆けつけてくれた。

 カイチョーに『君にとってトレーナーとは?』と問いかけられたこともあった。悩みぬいた末に出した答えは自分だけではなくトレーナーの答えでもあったのだ。

 

 思い出は溢れ、語ることは尽きない。

 涙が零れ、いつまでも止まらない。

 

 

 

 

「うぇえ~ん! やだやだぁ! 結婚なんてしないでよトレーナー!」

「ぅうん? テイオーちゃん?」

 

 気づけばテイオーはベッドの上で横になっていた。同室のマヤノトップガンが心配そうに覗き込んでくる。

 

「テイオーちゃん泣いてるの? 嫌な夢でも見た?」

「夢? そっか、夢だったんだ」

 

 テイオーは安堵の溜息をつき、涙を拭う。しかし、胸を覆うモヤモヤは晴れないまま。このもどかしい気持ちと昨日のこと、そして夢の内容をテイオーが吐露するのをマヤノは神妙に頷きながら聞いていた。

 

「ボクどうしちゃったんだろ? いつもなら、ぱーっとお祝いして場を盛り上げて、皆を笑顔にして、ボクも嬉しくなるはずなのに」

「テイオーちゃん。それは恋だよ」

「恋? これが?」

 

 言われてみればそうとしか形容できないかもしれないとテイオーは思った。この気持ちが恋だというならば、確かに今までの自分は恋など知らないお子様だったというのも頷ける。とはいえ、恋を知ったからといって、どうすればいいのか。

 

「幼馴染みたいだし、最近は桐生院さん達とも仲良いし、トレーナーが幸せになろうとしてるなら応援しないとダメなんじゃ……」

「テイオーちゃん! いい!? 恋はダービーなんだよ!」

 

 マヤノは先日雑誌で読んだ記事を思い出しながら高らかに宣言した。

 

「恋はダービー?」

 

 その言葉は何故かテイオーの胸にストンと落ちた。理屈や頭ではなく、ウマソウルで継承したような心地だった。

 

「そっか。恋はダービーなんだ。それなら誰にも負けない三冠ウマ娘として負けるわけにはいかないもんね」

「うんうん。テイオーちゃんの勝負は最終コーナーから。今からでも追い越してゴールインすれば大丈夫だよ」

「ありがとう、マヤノ。ボク、頑張るよ。恋のダービーでもテイオー様は無敵だってことを証明してみせる」

「その意気だよ、テイオーちゃん!」

 

「よーし! いっくぞー!」

 

 その後、夜中に大声を出したことで二人はお叱りを受けるのだった。

 

 

 

 

 一方のトレーナーは寝苦しさから目を覚ましていた。

「昼間はカラッとしてたのに、夜はやたらジメジメしてるな。明日は桐生院さんと温泉に行く約束があるってのに。雨でも降らないといいが」

 

 トレーナーの明日はどっちだ!

 




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