恋のダービー   作:sysy

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テイオー「ちょーと、待った! 『逃げけん制』を発動!」

 窓から日が差し始めてすぐのこと。誰かの来訪を知らせるチャイムの音でトレーナーは目を覚ました。もっとも、こんな時間に訪ねてくる人物など一人しか思い浮かばなかったが。

 

「おっはよー! 今日もいい天気だね、トレーナー!」

 

 予想通り、相手はテイオーだった。いつもよりテンションが高い気がするのは自分が寝起きだからだろうか。そんなことをぼんやり考えながらトレーナーはドアを閉めた。

 

「ええっ! なんで閉めるの! 中に入れてよ! トレ~ナ~!」

 

 このままでは近所迷惑もいい所。トレーナーは仕方なくテイオーを迎え入れた。

 

「言っておくが、今日は桐生院さんと温泉に行く予定だからあまり構ってやれないぞ」

「おん、せん? おんせんってあの温泉?」

「そう、温かい泉の温泉」

 

 テイオーは最初、トレーナーが何を言っているのか理解できなかった。

 温泉。トレーナーと桐生院さんが。

 

「おんせんーっ!?」

「さっきから近所迷惑なんだが」

 

 思い出される福引の記憶。1等のにんじんハンバーグを当てたものの、当てられなかった特賞の温泉旅行券。

 

「も、もしかしてだけど、あの時とは別で当てた温泉旅行券を、ボクを差し置いて桐生院さんと使おうっていうんじゃ……」

「違う違う。桐生院さんから誘われただけだ」

「それって……」

 

 福引が当たらなくとも自前で温泉旅行を用意する。これが大人のオンナの駆け引き! とテイオーは戦慄した。

 

「何を考えているか知らんが、日帰りだし、桐生院さんはあれで中身はテイオーと大差ない所があるから、なにも疚しいことはないぞ」

「えぇ~、ホントにぃ~?」

「ああ。そもそもミークと行く前の下見と言ってたしな」

「へぇ~。じゃあ、ボクがついていっても別にいいよねっ?」

「えっ」

 

 

 

 

 待ち合わせの時間。そこにはトレーナーと桐生院に加えてテイオーとミークの姿があった。

 

「結局、四人で行くことになるとは」

「無理を通して下さった旅館の方々の厚意に感謝しないといけませんね」

「わーい、わーい! 温泉! 温泉~!」

「……トレーナーと温泉。……楽しみ」

 

 あの後、テイオーは『トレーナー達だけで行ったらきっとミークも悲しむよ。下見しないで一緒に初体験した方が絶~対に喜ぶ』と桐生院を説得。旅館に連絡した所、問題ないとのことで四人での温泉旅行を決行。

 そして、旅館に着いたトレーナーに衝撃が走る。

 

「一泊二日の二人部屋二つ、だと!?」

「え? いけませんでしたか? テイオーさんからトレーナーと担当は異体同心、同じ部屋で泊まるものときいて、なるほどと思ったのですが。ミークも来るなら一泊ぐらいはしたかったのもあって丁度良いかと」

「テイオーッ!」

「あははっ! びっくりした? サプライズは大成功だね」

「肝が冷えたよ。いや、桐生院さんとミークならともかく、俺とテイオーが同室はまずい。今からでも一人部屋に・・・・・・」

「えーっ! ボクとトレーナーだよ! なんの問題もないでしょ!」

 

 断固として二人部屋にしようと徹底抗戦の構えを見せるテイオーを前にトレーナーは折れた。

 

「……まぁ、確かにテイオーなら大丈夫か」

「うんうん。ってあれ? それってどういう意味?」

 

 相手がスカーレットさんとかだったらやばかったかもしれない。などとトレーナーが思ったかどうかはさておき、荷物を預けた四人は観光に向かうのだった。

 

 

 

 

「はっ! 普通に観光を楽しんじゃった」

 

 はしゃぎまわった後に入る温泉は格別。そんな感じでゆるりと湯に浸かっていたテイオーは衝撃の事実に気付いた。このままでは温泉旅行の準備をする際に超特急でマヤノから仕入れた恋愛指南を活かすことなく旅行が終わってしまう。

 

「見て下さいミーク! 華の湯だそうです! 入ってみましょう!」

「……良い香り」

 

 なんとか軌道修正しなければとは思うものの、全力で温泉を楽しむ二人を見ているとこれはこれで構わないのではと思えてしまう。

 テイオーとしては桐生院さんを逃げ切らせないためのけん制のつもりだったのだが、少し掛かり気味だったかもしれない。

 今回の旅行でトレーナーが言っていた桐生院さんの中身は幼いという言葉の意味がよく分かった。自覚のない好意を見せる様はまるで昨日までの自分を見ているよう。などとたった一晩で恋愛マスターにでもなったかのような目線で考えるテイオー。彼女はのぼせるほど熟考した後、風呂から上がり、食事を終えた頃合いで一つの提案をした。

 

「ねえねえ! せっかくだし、皆で部屋に集まってなんかしない?」

 

 決して遊びたい欲求に屈したわけではない。ほとんどノープランなだけで作戦。紛うことなく作戦である。トレーナーと二人、同じ部屋で過ごすことを思うとなんだか急に気恥ずかしく感じてしまい、人数を増やして慣らしたかっただけなのだ。

 

「いいですね! こういった旅行の際は輪になって語り合うものと聞きました。後、枕投げがポピュラーとも」

「枕投げは止めましょう。語り合うなら怪談話とかですかね?」

「えぇー! なんでよりにもよって怖い話なの~」

「なるほど、怪談ですか。昔話でしたら教訓になりそうなものをいくつか暗記しています」

「……怖い話。……温泉饅頭が怖い?」

 

 ふと何かを思いついた様子のミークが呟いたのを聞いて桐生院は微笑み、トレーナーとテイオーは察した。

 

「ふふっ、ミーク。それは……」

「そういえば旅館の土産物屋は見てなかったなー」

「デザートが物足りなかったから何か買っていこうよー」

 

 二人の言葉で桐生院もミークの意図を察した。

 

「はっ! そうですね。お饅頭を食べながら順番に怪談を披露するというのはどうでしょう?」

「……やった」

「やりましょう。実は先輩直伝のとっておきがあるので是非ともトリは任せて下さい」

「お饅頭を食べるのはいいけど。ほんと~にやるの~。どうせなら……」

 

 その時、テイオーに電流走る。肝試しや怪談話にかこつけて距離を詰めるという恋愛テクニック。そんなことを以前、恋愛相談を受けたマヤノが教わっていたのを聞いたことがあった。怪談話で怖がるトレーナーをカッコよく支えれば、惚れ直すこと間違いなし。幸いにもマヤノとしたホラーゲームというストックもある。正直、思い出すのも嫌だったが恋のダービーを制すためにもこのチャンスを逃すわけにはいかない。

 

「ニシシッ! ボクもとっておきのこわ~い話を知ってるから、トレーナーも夜中にトイレにいけなくなっちゃうかもよ~」

「ほう、そうなったら手でも繋いでもらうとするさ」

 

 かくして饅頭片手に怪談祭が開催されることとなった。

 

 

 

 

 結果、そこには並んで敷かれた布団の間で手を繋ぐテイオーとトレーナーの姿が。

 

「トレーナー、ボクが寝るまで絶対の絶対に寝ないでね。約束だよ、約束。破ったら叩き起こすからね」

「ああ、うん。しかし、まさかここまで怖がるとは。桐生院さんもミークと一緒に寝ると言っていたし」

 

 怪談話は色んな意味で成功を収めたものの、少し大人になったはずのテイオーは退行して再び子供のようになってしまう羽目に。尚、ミークは余裕そうであったものの桐生院に合わせ、自ら手を繋ぎたいと申し出て部屋へと戻っていった。

 

「普段の強がりはどうしたテイオー。お前は無敵のテイオー様だろう?」

「うぅぇ。無理だよ。今、全然そんな余裕ないんだ」

「・・・・・・そうか。でも、もうちょっと力を緩めてくれないか? このままだと怪談みたいに気付いたら腕だけが・・・・・・」

「うわぁーん!」

「ぎぃぁー!」

 

 飛び起きたテイオーはトレーナーを抱き、締め付けた。

 

「ストップ! 悪かった! 俺が悪かったから! だから落ち着いてくれ! 危ない! 社会的にも危ないが、昔飼ってたウサギみたくなるから!」

 

 ウマ娘のパワーで万力の如く締め上げられたトレーナーの身体が軋みを上げる。全力でもがこうと抜け出すことも、引き離すことも出来ない。一体どうすればいいのか。トレーナーの脳裏をたづなさんの言葉が過る。

 

『パワーが足りませんでしたね』

 

 トレーナーは閃いた。ウマ娘にパワーで勝つことは不可能。ならば真に用いるべきはパワーではなく賢さだと。

 瞬間、トレーナーはあえて自分もテイオーを抱きしめた。すると、驚いたテイオーの力が緩み、続けて安心させるようにその背中と頭を撫でた。

 

「大丈夫だテイオー。あれは作り話だから。幽霊なんてこの世に・・・・・・まぁ、なんかいるみたいだ、がふっ!」

 

 テイオーのパワーが10上がった。トレーナーの体力が10減った。

 

「ま、待て! 幽霊も悪い幽霊だけじゃない。良い幽霊だっているだろうし。滅多に見ないことから、そもそもの数だって無茶苦茶少ないはずだ。もしかしたら良い幽霊が悪い幽霊を退治してくているのかもしれないし。そう、守護霊! テイオーにもスタンドみたいな守護霊が憑いていて。テイオーの守護霊なんだからきっとスタープラチナなんて目じゃないほど凄いスタンドなんだろうな。だから悪い幽霊が来たって大丈夫だ。安心して・・・・・・」

 

 俺、何言ってんだろうと思いながらトレーナーは口を回す。とりあえず、なんでもいいから何か話し続けるのが大事と考えてのことだが、話がループしてきた所でテイオーからの反応がなくなった。

 

「テイオー? 寝たのか? 寝るなら自分の布団に戻って・・・・・・動かねえし、動けねえ」

 

 テイオーはまだ起きていた。しかし、我に返って現状を把握したテイオーは逆に冷静さを失い、トレーナーの言葉もまるで届いていなかった。

 

「(ど、どうしよう。結果的に作戦通りになったけど。ここから一体どうすれば。大人のアプローチって何! 助けて! マヤノ!)」

『お、大人のアプローチ? な、投げキッスとか?』

「(それはもうライブでやったよ!)」

 

 ついでにいえばトレーナーに見てもらいながらのライブの練習でも散々やっていた。

 そうやって荒れ狂う内心を静めている内にトレーナーが寝息をかき始めたことにテイオーは気付く。

 

「(もう! ボクが寝るまで寝ないでねって約束したのに!)」

 

 約束通り叩き起こそうかと考えるテイオー。しかし、さすがにそれは大人のオンナがすることじゃないと思い留まった。

 

「(むぅ、次はこうはいかないぞー)」

 

 なんだか追い込みをためらった結果、ゴールに届かなかったような気分でテイオーは眠りについた。

 

 

 

 

 朝を迎えトレーナーが目にしたのはスキャンダル待った無しの状況だった。

 特に無駄に暴れたせいで二人とも服が乱れているのがとても不味い。今すぐどうにかしたいが、トレーナーの力では未だに抜け出すことができなかった。

 

「・・・・・・桐生院さんが相手だったら危なかったな」

 

 テイオーで良かった。テイオーありがとうとトレーナーは感謝の念を送る。

 

「ふーん、それってどういうこと? 教えてよ、トレーナー」

 

 さあ、なんて答えよう。トレーナーは知恵をふり絞った。

 




トレーナー「くっ! 『追い込みためらい』にチェーンして『ふり絞り』を発動!」

たづなさん「スキルを発動するためのチェーンブロックが足りませんでしたね」
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