この素晴らしい世界を頑張って生き抜く 作:ゆかゆか
「ようこそ死後の世界へ。私は、あなたに新たな道を案内する女神。
目が覚めたら、謎の部屋にいた。
目の前には椅子に座った女神。
そしてどうやら、俺は死んだらしい。
到底信じられるような話ではないはずだが、目の前の神々しさを放つ美少女があまりにも現実離れしていて、俺はもう自分が死んだということを自然に受け入れてしまえた。
そして思い出されるのは自分が死ぬ直前の記憶。
休日に俺は遊びに出掛けていて、横断歩道を渡ろうとしていたんだ。
そうしたら急に信号無視のトラックが突っ込んできて、俺は咄嗟に前を歩いていた男の人を突き飛ばして……
「あ、そうだ! 一つ聞きたいんですけど」
「何ですか?」
「あの、俺が突き飛ばした男の人って無事ですか?」
これは聞いておきたかった。
無駄死になんてごめんだ。
「はい。特に怪我もせずピンピンとしていますよ?
……まあ助けてもらったと思っている相手が死んじゃって精神的に不安定になってるらしいですけど」
……はい?
「というかそもそもあなたが慌てて突き飛ばしに行かなければトラックはあなた達の間を通ったんですけどね? 行動自体は立派だし流石にこれをバカにしようとは思わないけど、とことん持ってないわよねー」
……となると、なんだ。
俺はあの行動で自分が死んだだけでなく、突き飛ばした男の人に精神的ダメージを与え、しかも自業自得の面もあるとはいえトラックの運転手に人殺しの称号を与えたってのか!?
「最悪だあ……」
「いやほんとね、私結構色んな死者を見てきたけどこんなに間が悪い人滅多にいないわよ? 逆に面白いわね」
この女神もなんなんだ……!
確かに人間とは死生観とか色々違うのかもしれんが、一応死にたてホヤホヤの俺にそんなこと言う!? 嘘でも励ましてくれないか!
「……あー、無駄話はこの辺にしておいて、さて。あなたには複数の選択肢があります。
日本で赤ん坊として生まれるか。天国みたいなとこでお爺ちゃんみたいに暮らすか、どっちにする?」
いやいくつかって二つじゃねえか。というかどこだよ天国みたいな所って。突っ込みどころ多すぎるだろ。
「天国、とは?」
「えっと、天国ってのはね。あなた達が想像している様な素敵な所ではないの。死んだんだからもう食べ物は必要ないし、死んでるんだから、物は当然産まれないわ。当然娯楽なんてものもないし、死人達の魂しかない。ほーんとに退屈な所なの」
なにそれ、地獄じゃねえか。
え? それ転生しかなくね?
今更赤ちゃんからやり直すなんてのも嫌なんだが。
記憶をなくすのであれば、それはもう俺は本当の意味で死んでしまうという訳だし……
「うんうん、天国なんて退屈な所行きたくないですよね? かといって、今更記憶を失って赤ちゃんからやり直すって言われても、あなたにとっては今までの記憶が消える以上、それってあなたって言う存在が消えちゃう様なものですよね。そこで! ちょっといい話があるのよお兄さん!」
なんだろう。この女神が言うとすんごーく嫌な予感がするのだが。
「実はね? 今、ある世界でちょっとマズイ事になってるのよね。って言うのも、俗に言う魔王軍ってのがいて、その連中にまあ、その世界の人類みたいなのが随分数を減らされちゃってピンチなのよ」
「……それで?」
「その星で死んだ人達って、まあほら魔王軍に殺された訳でしょう? なもんで、もう一度あんな死に方するのはヤダって怖がっちゃって、そこで死んだ人達は殆どがその星での生まれ変わりを拒否しちゃうの。はっきり言って、このままじゃ赤ちゃんも生まれないしその星滅びちゃう! みたいな。で、それなら他の星で死んじゃった人達を、そこに送り込んでしまえって事になってね?」
なるほどな、異世界からの移民政策か。
「だから、俺みたいな若くして死んだ人間をその世界にそのまま転生させているんですか?」
「そうそう。でも、それで送ってすぐに死んじゃっても意味ないじゃない? だから、異世界に何か一つだけ好きなものを持って行っていいことになってるの。固有スキルだとか、超強力な装備とか、ものすごい才能とかね。
……どう? 悪い話じゃないでしょ? あなた達は人生を異世界でやり直せるし、向こうとしても人口を増やせるし魔王軍相手の戦力が増えるもの」
そう言われれば、悪くは聞こえない。
というかあれだ、これって俺がトラックに轢かれてるの含めて異世界転生モノの定番じゃん。なになに、これ俺つえーできるの?
「あれ、でも、向こうの世界の常識とか俺わかるんですか?
文字とか言葉も違うだろうし……」
「ああ、安心して。そこはバックアップするわ。流石に一般常識まるごとって訳にはいかないけど、最低限言葉は通じるし向こうの通貨とかも勝手に脳内で日本円換算してくれるように神々の謎パワーでなんとかしているから」
謎パワーて。
だが、それなら後はもう持っていく特典を決めるだけだな。
何が良いかな? 無限の魔力とかやっぱそそられるな。
いやでもなんか凄いアイテムも……それともこういうので定番のステータス鑑定系とか?
夢が広がりまくるぜ。
「ねえ、早くしてー? どうせ何選んでも一緒よ? 見たところ特に何か優れた点がある人間にも見えないし。なにかテキトーに選んじゃってよー。後ろの死者の案内も詰まってるんだしさー」
ムカっとした。さっきからなんだこの女神。死に様から何から本当に不幸に苛まれていないか俺は。
……不幸? ああ、そうだ。
特典きーめた。
「じゃあ、人並みの……いや、人並み外れた幸運をください」
「はいはーい。幸運ね……幸運? 随分とピーキーなとこ要求すんのねえ」
「前世の最期から見て俺って運悪そうなので」
「それもそうね。まあなんでもいいけど。
……幸運か、ならあの娘のとこに送ればいいかしらね。
エリスー! 聞こえてるー!? 今からそっちの世界への転生予定者送るからテキトーにやっといてー!」
目の前の女神が突然後ろを向き虚空に向かって呼びかける。
「あ、アクア先輩!? どういうことですか!? 日本からの転生者は先輩の管轄ですよね!?」
「その辺の説明は多分転生者の子がやってくれるわよ! じゃあ送るわねー!」
「い、いや先輩、ちょっと待っ──」
会話が聞こえてくる最中、俺の意識が一瞬暗転した。
「……ここ、は?」
「はぁ……アクア先輩はまた突然こんな……」
突然目の前に現れたのはこれまたとんでもない美少女。
というかさっきから断片的に聞こえてる話といい見た感じのオーラといい、絶対女神としてまともだこの人。
「……先輩がごめんなさい。私の名前はエリス。幸運を司る女神で、あなたの世界で言う『異世界』の死者の管轄を──」
「結婚してください」
「ふぇっ!?」
いやなんだこの人マジ女神。
おそらく自分もあの水色の女神……アクアと呼ばれてたっけ? に振り回されているだろうにも関わらず俺を気遣ってくれている。
そして何よりとても可愛い。本当に可愛い。あの女神も中身はともかく美少女ではあったが、目の前の女神……エリス様はその上を行くと思う。
これはもう結婚するしかないのでは?
「い、いきなり何を言うんですか!
……そ、その、そういうのはまず互いを知って」
「申し遅れました俺の名前は赤城祐樹享年17歳ですもう死んではいますが貴方のためなら粉骨砕身して働ける所存でございます結婚してください!」
「互いを知るのハードル低くありませんか!?
……も、もう。からかうのはやめてください……」
むう、流石に初手求婚はダメだったか。
断じてからかってはいない。と断言したかったが、流石にこれ以上話をこじれさせてもしょうがないので仕方なく頷く。
「それで、なんで俺はここに送られたのでしょうか?」
「それは私も知りたいですよ……」
見渡せば先程アクア……様と会話した場所にそっくりだ。
そういえばさっき幸運が云々の話をしていたんだっけ。……幸運? そういえばいまエリス様は幸運を司る女神だって言ってたな。
「ああそうだ。転生特典に幸運を要求したらここに飛ばされたんでした」
「幸運を? ああ……なるほど。それなら確かに幸運を司る私が適任ですがだからってこんないきなり……だいたい先輩はいつも……」
エリス様が若干闇を見せている。
そんなところも可愛いなと思いつつ、それでは話が進まないので声をかけてみることにする。
「あ、あの、エリス様?」
「ああ、すみません! ……こほん。
転生者赤城祐樹さん。あなたはこれから異世界で第二の生を歩むこととなります。その人生に幸多からんことを……『祝福を!』」
エリス様から光が放たれ俺の中に入り込んでくる。
なんだろうこれは。
「これは私の祝福の光です。いま祐樹さんには幸運を司る女神である私の加護を与えました。これで祐樹さんは人並み外れた幸運の持ち主になったはずです」
「ありがとうございます」
おお、そんなことができるんだ。さすが神様だぜ。
「それでは、すみません……まだ色々と説明したいこともあるのですが、『この世界』での死者の方の案内をする必要がありますので……」
「いえいえ、突然邪魔してしまってすみません。すぐにでも出発出来ます」
「重ね重ねすみません……」
エリス様は何も悪くないというのに何を謝っているのか。
悪いとしたらあの水色の女神の方だろう。
「あ、そうだ」
「どうしましたか?」
「結婚の話、俺実は割と本気で言っていたので少しでいいから考えてみてくれると嬉しいです」
それを聞いたエリス様は顔を茹で蛸のように真っ赤にして。
「……!
そ、それでは異世界転生、いってみ……じゃなかった、いってらっしゃいませ!!」
「あ、ちょ……」
それと同時に意識が暗転した。
おそらく俺はまた別のところへと飛ばされるのだろう。
最後何か言いかけてたのは気になるが……まあそれ以上に顔真っ赤にしてたエリス様がかわいらしかったので別にどうでもいいか。
「……エリス様、またいつか会いたいなあ、さっき言ってた話が本当なら向こうで死んだら会えるんだろうか? よしそれなら初手自殺まで──」
「物騒なこと考えないでください!
……その、私はたまに姿を変えて下界に降りてますので……もし本当にそう思ってくださっているのなら探してみてくださいね?」
いや今の聞こえてたんかい。
こっちはもう完璧に目の前にいないもんと思って口に出したのに。
今さらすごく恥ずかしくなってきたぞオイ。求婚しといてほんと今更だとは思うけども。
……しかし、下界に降りてるのか、エリス様。
そうだな、当面の目標はエリス様探すってことでいいか。
さてさて、俺の第二の生は一体どうなるんだろうな?