この素晴らしい世界を頑張って生き抜く 作:ゆかゆか
ある朝。俺は一人でギルドの酒場に赴き……
「……どうすればこの状況から脱出できるだろう」
ただただ愚痴を吐いていた。
あれから俺とゆんゆんは同じ宿屋で寝泊まりすることになった。
当初は同じ部屋を取ろうとしていたゆんゆんをそれはそれは必死に説得し、なんとかゆんゆんの借りている隣の部屋に入ることで済ませることになった。
……その時にチラッと見た代金を見て絶句した。
そりゃ冒険者みんな普段は馬小屋生活するわ。
毎日宿屋泊なんてとてもじゃないがコスパに見合わない。
少なくとも男は。
ちなみに当然宿代はゆんゆん持ちである。死にたい。
まあ、それはいいんだ。まあよくはない……どころか最低の形だけど寝床が豪華になるのは悪いことではない。
問題は……
「アレが噂の……」
「ああ、なんでも十三歳の女の子と毎日同じベッドで寝てるとかなんとか……」
「マジかよ、うらや……けしからん」
「お前今羨ましいって……」
「言ってない」
「おいおいロリコンかよ」
こういう噂がすでに流れてることなんだよ!!!
まだヒモ生活開始して三日だぞ!?
いや確かに優秀な冒険者に寄生する最弱職なんて印象が悪いのは仕方ないよ! ってか俺もクズだと思うよ!
でもなんでその悪評がそっち方面に傾く!?
いくらゆんゆんのゆんゆんがゆんゆんしてるとはいえそこで自制できるくらいの良識はあるわ!
というかせめてダストとかみたいに真正面から言いに来てくれ!
そうすればこっちとしても説明できるのに……!
……いやまあ、これも俺が役立たずなのが悪いんだよな。
早く強くなろう。そして根も葉もない噂流してる奴らにはお礼参りしてやる。
……強くなるとはいっても、最弱職だとステータスの上がりも悪いんだよなあ。
この間から何回かクエストに行きその度にゆんゆんにレベル上げを手伝ってもらったため今のレベルは6になったのだが、正直ステータス画面を見てもあまり変わった感じがしない。
確かに強くはなっているのだが、これだけ上げてもやはりジャイアントトードを一撃で仕留められないのである。
ステータスの底上げが難しい以上、やっぱり冒険者の特徴であるスキルの自由さを生かすべき……なのだろうが……
「何か良いスキルないかなあ、戦闘でなくてもいいから少しでもパーティの役に立てるような……」
実際のところ、俺が多少戦闘系のスキルを取ったところでゆんゆんと並び立って戦えはしない……どころか足手纏いにしかならないのが現実だ。
それならば支援魔法とかはどうかとも思ったが、あれはあれで魔力がないと使いこなせないようで、俺には扱えない代物のようだ。
ああ、どこかに俺の幸運を活かせる上で直接戦闘力を必要としないような便利なスキルはないものか……
「だったら盗賊スキルはどうかな?」
「うわあ!?」
一人でテーブルで愚痴っているところに突然第三者に話しかけられ、俺はビックリしてしまった。
それも俺の悩みを的確に把握したような内容のことを言っているのでなおさらだ。
隣のテーブルに金髪の女性と一緒座っていた銀髪の女の子だ。
……? 妙だな。なんか既視感ととてつもない高揚感が……?
「ごめんごめん、驚かせちゃったかな? ……あたしはクリス。職業は盗賊だよ。
それでこっちの無愛想なのがクルセイダーのダクネス」
「無愛想言うな」
「……………………」
「実際そうじゃんかー。それでね……あれ? 聞いてる?」
「…………ああ、聞いてる」
「いや今絶対聞いてなかったでしょ。ボーっとしてたでしょ」
「す、すまん、何しろいきなりだったもんで……
俺はアカギユウキ。職業は冒険者だ」
「なるほど、ユウキくんね……ユウキくん?
…………あっ!」
「ど、どうした?」
クリスが急に何か納得したようにうんうん頷き出した。
一体なんなんだ……?
「? ……その様子だと、二人は知り合いなのか?」
金髪のクルセイダー……ダクネスがそう尋ねてくる。
……どこかで会ったか?
いや、俺がこっちに来てからまだ全然日が経ってないし……
「あ、えーと……そう! 噂! 噂で聞いたの!
黒髪でパーカーを着た冒険者の男が紅魔族のアークウィザードを手篭めにしたって!」
……?
今クリスが何か凄く違和感のあることを言っていた気がする。
いや、それ以前に、そもそも。
「誰がロリっ子を手篭めにしてる鬼畜冒険者野郎だこのやろおおおおお!」
「そ、そこまでは言ってないよ!?」
「何!? お前はそんなことを……羨ま、いや、けしからん!」
「……おい今羨ましいって」
「言ってない」
「言ったろ」
「言ってない」
なんだこのクルセイダー。
というかそんなに噂広まってるのかよ!? やべーなこの町の情報網!
……エリス様、俺、社会的に死にそうです。
……そういえばクリスとエリス様、何となく雰囲気似てるよなー。
髪の色とかもおんなじだしなあ。
まさかクリスがエリス様の言っていた「この世に降りている姿」だったりして。
……いや、それはないな。
だってエリス様こんなぺったんこじゃなかったし。うん。
「今何か凄く失礼なことを考えられてた気がするんだけど!?」
「気のせい気のせい」
「納得いかないんだけどー……まあいいか」
「い、良いのか? ……まあクリスが良いならそれで良いのだが……」
妙に潔く納得してくれたな。
こっちとしてはまあこれ以上誤魔化さなくて良いので楽だが、ダクネスが困惑してるぞ。
「それよりもスキル覚えたいんだよね? それも直接戦闘的なものでない」
「ああ」
「だったら盗賊スキルがオススメだよ!
盗賊スキルは良いよ〜便利だし、取るのにそんなにポイントかからないし」
「なるほどな……どういうのがあるんだ?」
「うん、敵から姿を隠す『隠蔽』とか、敵意のある相手を自動で認識できる『敵感知』なんかがあるね。
あとはダンジョンとかで役立つ罠発見や解除、暗視なんかもあるよ!」
「すげえな、でもそんなに便利なのになんで盗賊職って少ないんだ?
俺はあんまり顔が広いわけじゃないけど、盗賊を見るのはクリスが初めてだぜ」
「……盗賊は華々しい職ではないからな。だから数は少ないのだが、役立つスキルを持つということで重宝される」
「はえー、上級職のクルセイダーと盗賊が組んでるんだ、二人みたいなのは他のパーティからも引っ張りだこなんだろうな」
「……あー、うん、まあそれは……そう、かな?」
「急にどもらないでくれよクリス。
内心『このクルセイダー大丈夫かな?』って不安に思ってたのが確信に変わっちゃうじゃないか」
「ご、ごめん……ってあたしが悪いの!?」
「……ん、それよりもスキルを教えるのだろう? 話が逸れすぎだぞ」
「そうだったな、すまん」
……一見まともそうなことを言ってるダクネスだが、顔を若干赤くして興奮しているのが隠しきれていない。
まあそれでまた先程のようにやったやってないの言い争いになっても困るので、黙っておく。
「それで、何をご所望? 酒の一杯二杯は奢るぜ」
「えっ!? ……くれるなら貰うけど、良いの?」
「もちろん。スキルを教えるのに特にデメリットはないことは知ってるしそれでも吹っかけるような奴がいるのも知ってるが、基本的に善意で教えて貰ってるんだからな、デメリットないとはいえ」
「そういう風に言われるとなんか受け取りづらくなっちゃうんだけど……」
「まあそれは半分冗談で、一応俺なりの感謝の気持ちみたいなもんだから受け取ってくれ」
……財布の中身は悲しいことになっているけども。
報酬は基本的にゆんゆんに全部受け取って貰っているので、自分のこういう食事や装備を購入する代金はバイトで地道に稼いでいる。
そこをゆんゆんに頼ってしまったら自分はいよいよ帰れないところに踏み込んでしまうのではないかと考えたからだ。
……もう手遅れ? うるせえ。
「わかった。そういうことならありがたく貰っとくね。
……じゃあまず最初に隠蔽スキル、行ってみようか。
ダクネス、ちょっと後ろ向いててー」
「……? わかった」
ダクネスが後ろを向いたのを確認して、クリスは酒場にあった大樽の中に入っていった。
……これが隠蔽スキルなのか?
そう思ってカードを確認すると、ちゃんと盗賊スキルの欄に『隠蔽』の文字。
……マジか。
「習得できたかな? その様子だと行けたっぽいね。
じゃあ次は敵感知ね、……それっ!」
そう言うとクリスは後ろを向いているままのダクネスに向かって小石を投げ、即座に樽の中に身を隠す。
ダクネスが振り向き、樽の方面へ向かっていく。
「敵感知……うん、ダクネスの怒りをピリピリと感じるよ!
……ねえダクネス? これはあくまでスキルを教えるためだからね? わかっているよね? だからお手柔らかにあああああああああ!」
そしてクリスが入ったままのその樽を倒してゴロゴロと転がしていた。
その様子を見ながら再びカードを確認すると、『敵感知』スキルも習得可能になっていた。
こんなんで良いのか異世界。
「さ、さて、次はあたし一押しのスキル、窃盗スキルをやってみようか! これは対象の持ち物をランダムで一つ奪うスキルだね。
装備している武器でも、鞄の奥にしまい込んである財布でも、なんでも盗めるよ」
「なるほど、確かに使い勝手良さそうだ」
「でしょ? 成功率はステータスの幸運値に依存してるよ」
「幸運値か! そりゃ良いな」
「うん、幸運値の高いキミにはピッタリかなと思って」
「……あれ? 俺の幸運値が高いこと、クリスに言ってたっけ?
冒険者カードは見せてない……よな?」
「えっ、あ、うんと……ほら、噂に聞いてたんだよ噂で!」
噂便利すぎるだろ。
いやまあ確かにあの日はあの受付のせいで軽く話題になってしまった高幸運値の冒険者である俺だが……
まあいいか。なんで知ってるかは別にどうでもいいだろう。
知る機会は確かにそこそこありそうだし。
「じゃあキミに使ってみるね? いってみよう! 『スティール』!」
クリスが手を前に出し叫ぶ。
するとその手には何かが握られていた。それは……
「あっ、俺の財布!」
悲しくなるほどの金額しか入ってない俺の財布だ。
……一応あんなんでも全財産である。
「おっ、当た……り? ちょっと待って、軽すぎない?
本当に大丈夫……?」
「いや、今手持ちが少ないだけだから大丈夫だ。
ちょっと装備を買った後なんでな」
嘘はついていない。
現に俺は今朝店で最も安く売っていたショートソードを買った。
それで全財産が底を尽きかけている。ただそれだけである。
……「今の手持ち」が全財産で無いなんて言っていない。
「そ、そう? なら良いけど……
まあ、こんな感じで使うわけなんだけど……そうだなあ……うん!」
クリスがにんまりと笑う。
「ねえ、あたしと勝負しない? 早速今窃盗スキルを覚えてさ、あたしから何か一つ奪って良いよ。
それがあたしの財布だったり武器でも文句は言わない。
この財布よりは多分価値があると思うよ。
その代わり、何を引いてもキミの財布と交換。互いに文句言いっこなし。……どう?」
……いや、俺受け得じゃねえかこれ?
俺の財布の中身を過大評価してもらっては困る。
給料日が三日後とはいえそこまで耐えられるか怪しいくらいだぞ?
それになんかこっちに来てから始めて冒険者っぽいイベントに巻き込まれた気がするしな。
こういうことがしたくて俺はここに来ているのになぁ……
なんでバイトで生計立てて女の子とボードゲームして宿代出してもらってるんだろ俺。
……とりあえず今は勝負だ。
冒険者カードのスキル欄……お、今教えてもらっていたのは全部1ポイントで覚えられるのか、覚えとこ。
「よし、覚えたぞ。その勝負受けて立つぜ!」
「お、ノリがいいね! そういう人は好きだよ!
財布が当たり、そして大当たりはこのダガー! 魔法が掛けられた四十万エリスはくだらない一品だよ!
……そして外れはたくさん拾っておいたこの小石!」
「……なるほど、そういうことか。やられた! 騙したな!」
「騙したとは人聞きが悪いなあ、これは授業料みたいなもんだよ。
どんな便利なスキルにも対策法や抜け道はある。ってね。
さあ、スティールいってみよう!」
「ぐぬぬ……」
実際問題俺も「じゃあ窃盗スキルの対策に何をする?」と言われたら実行する案だろう。
何の不安もなく勝負を吹っかけてきたのはギャンブラーだなあと思ったものだが、そういうことだったのか。
くそ、悔しいがいい勉強にはなったな。
まあでも、俺を見て楽しそうなクリスの表情を見てると、不思議と許せる気に……
なるかあ! 確かに騙された俺が悪いけど、アレは俺の全財産で数日分の夕食代じゃい!
別に石確定ガチャではない! あの財布か何かを……!
「おっしゃ、やってやる! 俺の幸運値を舐めるなよ!」
……女神に貰っただけの物だけどね。
元来の俺はとことん運のない人間だったし。
「……『スティール』!」
右手を伸ばしそう叫ぶと、その右手にはしっかりと何かが握られていた。
一発成功するあたり、やはり幸運値は伊達じゃないようである。
……で、その掴まれていたものは。
「……何だこれ?」
台座に乗った謎の球体である。水晶玉のようにも見えるそれは鈍く光っていて、台座のところには日本語で『入』と書かれたスイッチと
『切』と書かれたスイッチが……日本語?
「あ、そ、それは……! ど、どうしてここに!?
ち、ちょっと待って! それは、それだけはちょっと待って!
財布でもダガーでもぱんつでも持ってっていいからそれは──」
クリスがとんでもなく狼藉している。
というかパンツってなんだ。俺は一体なんだと思われているんだ。
……しかしここに書かれた日本語、それにこれまでの口ぶりや仕草。やっぱり──
「すまんダクネス、少しクリスと二人で会話したいんだがいいか?」
「お、お前……そのアイテムをダシにクリスを路地裏に連れ込みあんなことやこんなことをする気だな!?
そうはさせんぞ、もしどうしてもそうしたいなら……私を連れて行くがいい!」
「違うわアホ! というかなんでお前を連れて行けって話になるんだ! やっぱりお前アレだろ、変態だろ!」
「……っ! いきなりの言葉責め、悪くない……!」
「……もういいや、クリス、ちょっと外出てくれるか」
「……わかったよ」
観念したようなクリスを連れて何か変なスイッチが入ってしまったらしいダクネスを放置して外に出る。
勘定はあそこの人に頼むとダクネスを指差して告げておいた。
……違うから、後で返すから。
今は早く話がしたかっただけだから。本当だから。
「……それで、何かな話って!
さっきなんでも渡すとは言ったけど流石に体で払えとか言われたら困るなー、なんて……」
「……単刀直入に聞く。
クリスは、日本人なのか?」
「……え?」
「いや、名前は俺たちとは違ってこの地域の人間らしいけどさ、パーカーのこと知ってたりもしたし、俺の名前を聞いた時にびっくりするとか変な名前と笑うとかもしなかったし、日本語の書かれたアイテムも持ってたからひょっとしてそうなのかなって」
そういうとクリスは目をパチクリさせる、そして心底安心したような表情で、
「いや、そういうわけじゃ無いよ。
ただ、知り合いにはその『ニホンジン』が結構多くいるから、その話を聞いたりする機会は多いんだよ」
「あ、そうだったのか! 悪い悪い、変なこと聞いた」
「う、うん……それで、その魔道具なんだけど……」
「これか? 一応俺としては賭けの報酬としてもらいたいんだけど……そんなに大切なものなのか?」
「……それは『神器』と言われるものでね、高い魔力を秘めてる危険なアイテムなんだ。
あたしはそれを集めてるの、悪用されないように」
「マジか」
「うん。……それで、悪いんだけどこのことはダクネスや他の冒険者には──」
「か、カッコいい……!」
「へっ?」
「世を偲ぶ盗賊の冒険者とは仮の姿!
実際は人知れず危険なアイテムを封印している義賊……!
カッコいい!」
「あ、うん、ありが、とう?
……それで、このことは」
「……クリス、いや、師匠!
俺にもそれを手伝わさせてくれ! いや、手伝わせてください!」
「え、ええええええ!?」
「あのね弟子君、神器集めってキミが思っているより簡単じゃないし、華々しくも無いんだよ?」
とかなんとか言ってはいるが、なんだかんだ俺の『師匠』呼びを受け入れてくれているし実際のところまんざらでも無いのではないかと俺は思う。
これは押し切れそうではないだろうか…〜?
「大丈夫ですよ、俺も一応冒険者の端くれですし」
「でも……」
「あー、ギルドに『実はクリスさんは人知れず危険なアイテムを封印している英雄らしいぞ』って噂流したくなってきたなー」
「そ、それはやめて!
……というか弟子君は噂の怖さを知ってるよね!?」
「だからこそですよ」
多分最終的に伝わる話では救世の英雄にでもなるんではなかろうか。
……別に立派なことなんだからいいと思うが、そこで他人を巻き込みたくないんだろうか?
「……はあ、わかったよ。でも、そんなにしょっちゅう活動はしてないからね?」
「大丈夫ですよ、むしろ好都合です。俺も冒険者としても活動したいですし」
「うん、わかったよ……じゃあこれからよろしくね、弟子君」
「はい。
……あ、そうだ。まだスキルポイント余ってるんだけど、何か良いスキルは──」
「人気の無いこんなところで二人きりで何をしているのだ!
私も混ぜ……!」
「『バインド』」
クリスが懐から出したロープがこちらに向かって飛び出してきたダクネスに巻き付いていく。
「ああっ!? 何故私にバインドをするクリス!?
た、確かにこの縄に縛られる感覚も悪くないが……!」
「どう? 弟子君、覚えられそう?」
「バッチリですぜ師匠!
……それでこれは何のスキルです? 変態喜ばせる用……?」
「ち、違うよ! これはロープとかで動きを封じるスキルだから! 決してそういうプレイをするためのものではないから!」
「冗談ですよ」
残った2ポイントで『バインド』を習得していると、もう空の太陽が真上に見えるような時刻になっている。
「じゃあ俺は今日は仕事があるんでこれで失礼します。
……盗賊スキルを教えてくれてありがとう、クリス」
「その敬語とタメ口の使い分けはなんなのさ……ま、いいか。
うん、それじゃあまたね、弟子君」
そして俺はそのまま作業現場へと向かって──
あっ、財布返してもらうの忘れてた……