涙の神   作:jamcha

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13 - カリム1

「聖女様」

 

三人の漫才に割り込む声があった。

 

「…聖女様」

 

「呼ばれてるぞ」モーンがベルカに言う。

「え?」

 

ベルカが顔を向けると、クズ底の住人がツボを持ってひざまずいている。

 

「弟からのお見舞いです。聖女様にと」

「私聖女じゃないしお見舞いもいらないよ」

「もらってくれ」

 

悲しそうな表情をする兄の隣に、モーンが座ってベルカに頭を下げた。

 

「この男の弟は、俺の代わりに病で死んだ。それなのに、死の間際でもお前をいたわり、貴重な水を見舞ってくれと頼んだのだ。その優しさを、どうか受け取ってほしい」

「はい。弟と約束したんです。ぜひ聖女様にと。ゆびきりもしました。約束を破れば、海は割れ、大地は裂け、あらゆる災厄がこの世を覆い尽くすと」

「大げさすぎるだろ」

 

思わずベルカがツッコミを入れる。頭を下げてツボを差し出す兄。

 

ベルカは面倒くさそうに頭をかき、うーん、とうなった。

 

「やっぱもらえないよ」

「え」

 

ベルカは両手を組んで二人に向き合う。

 

「私はこの男には貸しはあるけどここの人には何もしてない。みんなここで生活するので精一杯なのに、そんな人から貴重な飲み水なんてもらえない」

「でも、弟の気持ちは」

「じゃあこうしよう。私が弟さんの約束を破って水を受け取らなかったせいで、世界はこんなに不幸になってしまいました。なんてことでしょう。災厄に覆われているのは私のせいです。まったく、罪深い女」

 

そこまで言ってからベルカは大きく息を吸った。「ま!そんなわけで!心優し〜い弟さんの願いを踏みにじり、世界を不幸にした悪女は水なんてもらわなくていいの!だからみんなで飲んで。ね」

 

笑いながらしっしっと手で追い払うベルカ。モーンも困り、兄に言う。「そういうことらしいが」

「そうですか…。そこまで言うなら」

 

「聖女様!」

 

話を聞いていた人々が感動し押し寄せる。「なんとお優しい!」「まさしく聖女だ」「ブタ鼻」「どうかここで暮らしてください!」「我らをお導きください!」「AKBにいそう」「住みやすいよう尽くしますから!」「聖女様!」「喋ろよブタ」「我らをお救いください!」

 

「なんかバカにしてる人いるよね!?」

 

「聖女様!」「どうか我らをお導きください!」「いびきもブタ」「毛皮のじゅうたんもご用意しますから!」「ああ、我らの女神よ」「笑顔が汚い」「よっ!ニクいね聖女!」「お優しい方」「顔が自然薯」「お願いします聖女様!」

 

「絶対いるよね!?なんかすっごい失礼な人いるよね!?」

 

* * *

 

モーンの手から光が消えると、男が腕を回す。「ああ、ありがとう騎士様。もうすっかり良くなりました」

「礼はあの女に言うことだ」

「ありがとうございます聖女様」

「だから私なにもしてないって」

 

クズ底で病に苦しむ人々は大方癒された。モーンがベルカから学び、奇跡に昇華させた治癒の祈りによって。

 

「おっさんも済んだみたいだな」

 

ヒヨっ子を連れ、疲れた表情のおっさんがガシャガシャと足音を鳴らしやってくる。親指を立て、新たな術が完成したことをアピールしている。

 

「我ながら素晴らしい作品に仕上がったぞ。超回復とでも名付けようか」

 

手渡された膨大な紙束にモーンが唖然となる。「こんなに長いのか」

「これでもかなり削ったんだ。瀕死の男でさえ癒す女神の御業だぞ?ま、サルヴァの伝承も少し混ぜたけどな!」

「こすか男ばい」

「おーおー、言うたな?」

「暗号会話するやつは私が許さん!」

 

隙あらばリンデルトの方言で語り始める三人に、ベルカは歯をむきだしにしてガルル、とうなった。

 

「すみません、聖女さん」ヒヨっ子が代わりに謝った。

 

「ところでこれ、俺がもらっていいのか」モーンが言う。

「ああ。原本は俺が持ってる。それにカリムに帰るんだろ?」

 

「…」モーンは無言のまま、頭をわずかに下げ、束を受け取った手をおろす。

「腐ったカリムを変えたくて隊長のところに来たんだろ?いろいろあったが、十分な土産ができたじゃないか」

「…いつから知っていた?」

「やんごとなき人にはやんごとなきニオイってもんがあるんだよ。俺たちリンデルトの田舎モンとは違う都会臭さってやつさ」

 

「モーンてカリムの人なの?カリムってベルカのカリム?」

「え?」おっさんが驚く。「あんた、てっきりカリムの聖女だと思ってたんだが、それに…」

「カリムってまだあったんだ」

 

「!」思わずモーンがベルカの胸ぐらをつかむ。

「おいやめろ!」おっさんがあわてて二人を引き離した。

 

「…すまん」

 

しばらくの静寂。

 

「…ねえ、私、ここに来たばっかで何も知らないんだ。ねえ、カリムのやんごとなき人ならカリムのこと色々知ってるんでしょ?私、行ってみたい」

 

胸元を直し、ペンダントを整えながらベルカが言う。モーンは何か迷いがあるのか、身体をわずかに揺らしていたが、意を決して言う。

 

「お前に会ったときから、ずっと考えていた。…頼む、俺をもう一度助けてほしい!俺とカリムに戻って、そして、腐敗したカリムを変えたいんだ!」

 

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