涙の神   作:jamcha

14 / 18
14 - カリム2

ベルカとモーンがカリムへ向け去った後、おっさんとヒヨっ子はクズ底で書類の後片付けをしていた。サルヴァで得た知識と騎士団の最期をリンデルトに持ち帰るために。

 

「先輩。こっちは済みましたよ」

「ああ。俺の方ももうすぐ終わる。…ん?」

 

おっさんの目の前に液体が飛び散った。間もなく、目の前が真っ暗になってゆく。

 

「…」

 

首をかき切られた騎士は力なく倒れ、背後に立っていた騎士が真顔のまま濡れた剣を振った。

 

「先輩、すみません。正義感強い人に生きてられると困るんです。僕ら、大勝利したんで。『英雄ヨア率いる騎士団は大きな犠牲を払って悪しき竜を倒し、その叡智をリンデルトに持ち帰った』んですよ。モーンが生き残っちゃったのは予想外ですけど、ま、カリムのデタラメなんて信じる人もいないんで」

 

そう言って亡骸から鎧を剥ぎ取り、書類とともに袋に入れて背負った。

 

「じゃ、あの世でヨアによろしくお伝えください。ああそうそう、先輩の鎧はムダにはなりませんよ。新しく “生き残り” でも雇って着てもらいますんで。ははっ」

 

手を振って去ってゆく、騎士団のヒヨっ子・アウストリア。後に残されたのは誰とも知らぬ死体と雑多な紙片、クズ底で生み出された奇跡の原本だけだった。

 

* * *

 

「あー、いや、まさかな…」

 

馬車の中で頭を抱えるモーン。自分を救った女が、まさかカリムの繁栄と没落をもたらした女神・ベルカ本人だったとは。

 

「信じるか信じないかはあなた次第!」ビシッとモーンを指差すベルカ。

「あー、信じるか信じないかは別として、カリムではベルカの名は出すな。他の国で言うよりもまずい」

「どうして」

「その…ベルカとアルスター公のせいでカリムは衰退したからだ。あーえんがちょえんがちょ」

「???」

 

モーンはカリムの歴史を話しはじめた。

 

「ちょっと待って。その昔話、長い?」

 

それほどでもない。

 

「じゃあ続けて」

 

昔、ベルカがロードランにいた頃、罪の女神ベルカを掲げるカリムは、厳格な白教に反発する人々の拠り所として成長を遂げた。

 

「ちょっと待って。嘘は言わないでよね。地の文て嘘つくじゃん。グウィンが純粋な神としか子供ができないとかだってさ、年取って子供できなかっただけでしょ?地の文に嘘つかれたら何信じていいかわかんなくなるよ」

 

嘘じゃなくてキアランがそう思ってただけだろ。

 

「誰か外にいるのか?」モーンが心配して話しかける。

「ううん。何でもあるけど何でもないことにしといて」

「?」

 

白教に反する人々が集まるということは、邪な業に染まった人も集まるということだった。アルスター公自身それらを好み、隠すこともしなかった。生贄を使った儀式の横行、命を糧に生み出す宝具の数々。いつしかアルスター公は串刺し公と呼ばれ、カリムは孤立し始める。彼が亡くなると、カリスマを失ったカリムはやがて分裂し、忌まわしき歴史の象徴であるベルカもその名とともに忘れられるべきものとなった。

 

「長いよ。要するに私嫌われてるってことでしょ?」

「ああ。だから、カリムに入ったら名前を改めてほしい」

「私、ベルカって名前気に入ってるんだけどな。緩やかな平和の神って意味だよ」

「現実は真逆だ」

「じゃあ私の名前が呪わしいものだったら、逆に世界は平和になるかな」

「だといいな」

「うーん、じゃあクァト (Caitha)。私の本当の名前」

「クァト?」

「そう。呪い (curse) って意味。私のちぢれた髪って、ママとかお姉ちゃんとかと違うし、頭も悪いし、お姉ちゃんたちは息をするように炎が使えるのに、私は考えないと覚えられなかった。ずっとつらかった」

「ああ」

 

モーンは手甲を外し、クァトをなぐさめようとしたが、決心がつかず手のひらでグーパーを繰り返した。

 

「だから、ママたちが『はじまりの火』って、大きな炎作ろうとしたとき、くやしかった。私はバカだから見てるだけ。あんなのはじまりの火じゃないって思った。そんな仲間はずれするような火が、世界を支えるような火になるはずがないって。だって、良い火は、良い人と同じ。小さくても、いつでも誰にでも優しくて、穏やかで、あたたかい…」

「ほら、ハンカチ」

「ありがと」ブーッ!くしゃくしゃ「はい」

「…」

 

…べっとり。

 

「だから余計なもの入れて爆発させた。ママがチャーハン炒めるとき強火にしたいときに使ってた黒いソウル。炎が生き物みたいにムクムク動き出して面白かった。ドームいっぱいに、風船みたいな火の玉ができて、それが破裂した。それが私の見た最後の景色」

 

「面白い話だ。もっと聞かせてほしい」

 

ただ、話を聞く。それが、モーンが触れずになぐさめられる唯一の方法だった。

 

「昔話ばっかしてると嫌われるんだって。つまんないから。だからこれでおしまい」

「そんなことはない。お前の話は面白い。俺はずっとお前の話を聞いていたい」

「どういうこと?」

 

「あー、いや」モーンがあわてて手甲をはめる。「女神の騎士として、知るべきことは知らなきゃな」

「じゃあモーンのことも教えてよ」

「ああ。俺は串刺し公アルスターの末裔だ」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。