「太陽の子らよ。あなた達のうちで知る者もいるであろう、あらゆる病を癒す奇跡の娘がこの地に現れたと。このカリム大司教が告げる、それは紛れもない真実である!」
ベルカを称えるカリム大神殿前の広場。円形に取り囲む聖者の石像が広場に集まった人々を見下ろし、視線の先には、指導者であるカリムの大司教、銀の鎧兜を身につけた使徒モーン、そしてクァトが立っていた。
「そしてここに立つクァトこそ、我らの神があなた達を救うために遣わされた聖女である!」
巨大な錫杖を振るい、大司教がクァトを力強く指差すと、大きな拍手があがった。
「あなた達のなかには彼女の奇跡を疑うものがある。かつて悪神ベルカが我らを欺いたように、この娘は再び我らをたばかり、堕落させようと悪神が姿を変えたものであると。否!私がカリム大司教の名の下に認める。このクァトこそ真に聖女である。そして古き因習、悪神のまやかしを捨て、今こそ私たちは正しく楽園に向かうときである!」
再び拍手があがった。しかし先ほどより小さい。
「なおも疑う者よ。あなた達は幸いである。聖女クァトはあなた達のためにここに立つ。そしてあなた達を悪神から解き放つために、ここで奇跡を顕現するために、ここに立つ」
そう言って大司教がモーンの隣に立った。モーンの後ろには、在りし日に作られた彫像が立っている。兜を腕に抱えた、長髪の美男子。それは彼がカリムを離れる前、女神さえも溺れさせるといわれた、絶世の美貌を誇っていた頃のものである。
「我が使徒、そして我が息子モーンは、かつて破門され、カリムより追放された。なぜか?前・大司教は悪神にそそのかされ、堕落していたためである!」
「そうなの?」クァトがボソッと聞く。モーンは不動のまま「黙って待ってろ」と言う。
「使徒モーンは旅の果て、一人の娘に出会った。その娘は貧しき者、病に苦しみ死を待つだけの者の傍らにあり、自らが蝕まれることもいとわず、彼らの毒の膿を飲み、そして病を癒した。なぜか。神の下では苦しむ者こそ救われるべきである。その真実を教えるために、この聖女クァトを遣わしたからである」
大司教がモーンの兜に手をかける。
「使徒モーン、そして我が息子モーンは、旅のなかで悪神に醜い呪いをかけられた。正義の行いを妨げるためである。しかし神は正しき者に正しき道を照らす。使徒モーンは聖女クァトを連れ、ここカリムに帰ってきた。真なる強さは心に宿る、外見の醜き呪いごときでは正義の使命が放つ光を隠せなかったからである!」
大司教が兜を取った。あまりにも醜い顔に、あちこちから悲鳴があがる。かたやクァトはあまりの茶番に吹き出しそうになり、右手で顔を覆った。それをモーンへの哀れみととった人が、次々に写真を撮り、スケッチする。
「あなた達のなかには、この偽りの醜さにあざむかれ、悲鳴をあげたものがいる。それこそが悪神の呪いである。しかし見よ。このカリム大司教も、聖女クァトも微動だにしない。なぜか。悪神の呪いから解き放たれ、我が使徒の真の姿が見えているからである!」
大司教は顔をモーンに向けながら、目は広場の人々を見ている。
「なおも悪神のまやかしに囚われる人々よ。あなた達は幸いである。なぜなら、聖女クァトは、いま、この場でその呪いを癒すからである!」
悲鳴がやみ、大勢の人々は固唾を飲んで聖女の動きに注目する。
「太陽の子らよ!聖女の奇跡に刮目せよ!」
『…おい、早くしろ』モーンが口をわずかに動かし、クァトに急かす。
「あ、そうか」クァトが頭をかき、手を伸ばしてモーンの顔に触れる。「じ、慈悲の神よ、我らの」
『やめろ。変な呪文だとボロが出る。あとは俺がやる』
モーンは手の内に隠した小さな杖に念じる。しかしクァトはその態度にイラッとした。
「なんだよその言い方!いいよもう!モーンのバカ!わが鼻くそをくらえ!」
言って鼻をほじったクァトがその指をモーンにすりつけた。直後、モーンの顔が鮮やかに変わる。
「おお…」歓声があがった。
その姿、呪いの解かれた容貌は、背後の像そのままに、その場にいる誰もが見惚れるほどの美しさだった。
「太陽の子らよ!見よ!聖女クァトは、今この場、誰もが見ているこの場で、悪神との戦いに打ち勝ち、使徒モーンの真の姿をあなた達の目に取り戻させたのだ!これが奇跡といわずしてなんと言おうか!?」
歓声はどんどん大きくなる。モーンと大司教にひたすら文句を言うクァト。それは呪いを癒した後も悪神と戦う姿であった。モーンが兜をかぶりなおすと霧のような光が舞う。そして大きく槌をかかげ、厚い雲から差す一筋の光に照らした。